稼ぎの少ないオカルト事務所所長、VTuberになる   作:酉柄レイム

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第197話 取り憑く

「わざわざきてもらって悪いな」

「いえいえ、ちょうと近くにいましたので」

 

 聖麗に連絡して数十分後。聖麗が事務所にきてくれた。正直、またあの長すぎる階段を上らなければならないのかと思っていたから助かる。初めて行った時は死にかけたからな。そろそろ本気で運動するべきか……。同じようなことを何度も思っているような気がする。それでもまだ運動を始めていないということは、もう始めることはないのだろう。

 聖麗は帝斗が出した茶を受け取って一口飲み、「オッホ……」と一息つく。一息のつきかたまで醜悪だな、こいつ。

 

「さて、魂を分離させるのは明さんでいいんですよね?」

「はい。なんかよくわかんないけど……」

「実際、魂を分離させるといったことは過去に例があるのか?」

「えぇ。憑りつくこととほぼ同義ですからね。憑りつくというのは、生者の魂に自身の魂を紐づけ、現世に留まるというもの。言ってしまえば同じ存在なんですよ」

「……!!」

「満、安心しろ。いくら聖麗でもいきなり分離はしない」

 

 なるほど、いつも一心同体だとは思っているが、本当に一心同体だとは。とはいえ、取り憑いている幽霊を剥がすのと、取り憑いていない魂を分離させるのは少し異なるような気もする。難易度的には後者の方が高そうだ。憑りついているのであれば実体は捉えやすいからな。

 ……俺も今度練習してみるか? いや、練習した結果事故って満を俺から分離させてしまったら終わりだ。あまり身に付けない方がいい力なのかも……待てよ、もし悪い霊能力者がいて俺と満を分離させようとしてきたらどうする? 結びつきを強くする力もあったりするのか?

 

 あとで聖麗に教えてもらうか。オカルト探偵事務所所長らしく、オカルト能力を鍛える時がきたのかもしれん。

 

「魂の分離自体はいいのですが……分離させた後はどうしますか?」

「どうって……うーん。自分の半身みたいなものって聞いたら、そのまま成仏の方がいいんでしょうけど……」

 

 明さんはちら、と満を見て悩まし気に腕を組んだ。

 

「満ちゃん見てると、成仏が必ずしもいいことだとは思えないんですよね。そもそも成仏したらどうなるのかもわかんないし、(あきら)は取り憑いて現世に残りたいって思ってるかもしれないし……」

「明さんを羨む、もしくは妬んで悪霊化する可能性もありますからねぇ。霊が生者に対してマイナス感情を抱くのはおかしな話ではない。そういう意味で言えば、満さんはかなり稀有な例ですね」

「褒めてもらえた!」

「ふふ。よかったね」

 

 ばんざいして喜びを表現する満を、透華がにこにこしながら撫でている。そりゃそうだ。満は生きている俺よりも生き生きしていると度々言われるからな。この場合俺の生命力が著しく乏しいのか、満が生き生きしすぎているのかのどちらかだが、恐らくどちらもだ。俺の生命力のなさが浮き彫りになるから満には少し手加減をしてもらいたいが、それだと満ではなくなってしまうから勘弁してやっている。

 

 悪霊化する可能性は、あるだろう。あっちの世界では邪神の手によって悪霊化したと言っていたし、明さんの双子であれば人格者であることは間違いない。とはいえ、俺よりも多く霊関係に触れてきた聖麗が『ある』というのなら『ある』のだろう。それに、あっちの世界の記憶が(あきら)さんのせいで芽生え始めているのなら、何かしらの悪影響があってもおかしくはない。

 だからと言って、『生まれてくるはずだった半身を成仏させる』という決断をすぐにできるはずがない。早めに対処した方がいいと思ったが、聖麗を呼ぶのは早かったか……?

 

「……ちょっと、考えさせてください」

「もちろんですとも。これからの人生に関わることですからね、ゆっくりお悩みいただければ」

 

 聖麗はいつもの軽薄な笑みはどこへやら。慈愛すら感じさせる微笑みを明さんに向けると、お茶を飲んで「オッホ……」と一息。お茶を取り上げた方がいいかもしれん。お茶のせいで聖麗の邪悪が顔を覗かせてしまう。

 

「意思を聞く、というのも一つの手だとは思うが……。聖麗、取り憑かせる前に(あきら)さんと話すのは可能なのか?」

「えぇ、可能ですよ。そもそも現世に魂があるということは、理由は何であれ現世から離れたくないということですから。であれば、うっかり成仏しないように現世に留まらせることもまた可能です。元々魂が混ざり合っていたのであれば結びつきも強いでしょうし、霊能力がない明さんでも対話は可能かと」

「ということらしい。ある程度明さんの中で結論を持つことも大事だが、どうしても決めきれない時は(あきら)さんと話してみるのもいいんじゃないか?」

「ありがと。真剣に考えてくれて、優しいんだね」

「肩あっためておかないとな」

 

 明さんが俺をからかい、透華がぴくりと反応したことによって帝斗がキャッチボールのアップを始めた。キャッチボールしようぜ、というだけではなくバリエーションを見せ始めてくるとは、流石帝斗だな。

 が、明さんが口に手をやって首を傾げているということは、恐らく自分の意思で言ったことではないのだろう。(あきら)さんの意思が混ざった結果生まれた言葉、ということか? だとしたら(あきら)さんは積極的に俺を燃やしにくる可能性がある。姉妹揃って俺を燃やしにくるとはどういう冗談だ? 近い将来消し炭になるかもしれん。

 

「うーん……ていうか、星菜はどう思うだろ。いきなりお姉ちゃんが二人になって混乱しないかな」

「お姉ちゃんが二人になったー! って喜びそう!」

「俺もそう思う」

「ふっ、確かにそうかもね」

 

 星菜さんはいいところを見つけるのがうまいからな。あれほど心が綺麗な人は見たことがない。綺麗さで言えば満も透華も帝斗もそうだが、こう、どんな人でも明るい方向へ引っ張ってくれる力があるというか、そういう光のような強い魅力がある。きっと満の言うように、明さんに(あきら)さんが取り憑いたとしても喜ぶだろうな。

 ……いや、そうか、そうじゃないか。

 

「明さん。あなたの双子なら、星菜さんがいる限り現世を離れることはないんじゃないか?」

「……よく考えたらそっか。いや、でも、うーん……私がいるからって遠慮しそうな気もする……」

「んー。なんか難しくてよくわかんないけど、明さんはどうしたいの?」

 

 悩む明さんの前にふよふよと移動して、満が明さんを見上げる。

 

「なんか難しいこといっぱい考えてるけど、そんな考えるようなことかなー。私はニコさんとずっと一緒にいたいからずっと一緒にいるし、それだけだと思う。それになんかねー、(あきら)さんの魂? も明さんのとほとんど見分けつかないし、っていうことは明さんとほとんど一緒っていうことだから。そんな悩まなくていいと思うよ。さっさと話してどうしたいか決めれば解決! ね?」

 

 満はなんでもないようにそう言って、「もちろん透華と西園寺さんともずっと一緒がいい!」と明るく笑った。俺たちは満の可愛さに撃ち抜かれて膝をつきそうになるが、大人の意地でなんとか耐える。星菜さんを光だと言ったが、間違いなく満も光だ。確かに、難しく考えすぎだったのかもしれんな。生まれてくるはずだった(あきら)さんと一緒にいたいかいたくないか、ただそれだけの単純な話だ。悪影響だとかなんだとか考えていた自分が嫌になる。

 

 そんなものは、オカルト探偵事務所所長たる俺が取っ払ってしまえばいいんだ。

 

「満の言う通りだな……。明さん、聖麗の言うように、悪霊化する可能性はある。どんな悪影響があるかもわからない。ただ、もし明さんが(あきら)さんと共に人生を生きる選択をするのなら、俺が一生をかけて不安を払う。何しろ俺は、オカルトの才能だけはあるからな。それに、幽霊に取り憑かれた先輩でもある。正直言えば、共通点ができるようで嬉しいしな」

「……っ!!!!」

「あ、透華が『私以外の女の子にそういうこと言ってほしくないけど、そういうところが好きになったし……!!』って葛藤してる顔してる!」

「しっ、してない!!」

「オッホ!!」

 

 今のは、満なりのカバーだろう。いつもありがとう満。お前のおかげで俺はなんとか生きていけている。満がいなければ今頃透華に愛想を尽かされて……いないかもしれん。透華はかなりの人格者だからな。帝斗と同じく、こんな俺の側にいてくれている時点でそれは証明されている。

 明さんは透華にほっぺをむにむにされている満を見てくすりと笑った。さっきまでは悩んで暗い顔をしていたが、今はいつも通りのように見える。まぁそれもそうか。満は可愛すぎるからな。

 

「ニコさん、ほんとにいい人だね。透華さんが羨ましい」

「え……」

「冗談ですって。人の男取ったりしませんよ」

 

 な、なぜそのような冗談を……なんだ帝斗。別に今のって透華が羨ましいっていうことにしては否定してないよな、だと? 黙れ!!!!

 よく考えていたら今のはアイコンタクトだったから黙っていた。いやしかし、目は口程に物を言うとも言うくらいだ。つまりアイコンタクトだとしても喋っていると同義。だから黙れ!!!! というのは正しい。なんだ帝斗。お前はいいやつで顔も声もよくて面白いんだから、見る人が見れば好意持たれてもおかしくないし気をつけろ、だと? ……まずい、注意されたことよりも嬉しさが勝つ。でへへ。

 

「またニコさんが西園寺さんとアイコンタクトしてる……」

「ねぇ明。どう思う? 最近……というか前からだけど、あの二人仲良すぎて危機感覚えてるの」

「男色ってわけじゃないんでしょ?」

「じゃないけど、こう、入り込む隙がないというか……」

「男同士でしか成り立たないこともありますけど、男女でしか成り立たないこともありますよ。西園寺さんはニコさんの親友で、透華さんは奥さんなんだから、比べなくてもいいんじゃないですか?」

「ワタシとは比べても構いませんよ?」

「おい!! 透華に話しかけるな!!」

「ンンッ!!」

 

 史上最悪の化け物だ……。満、こっちにこい。そして聖麗を視界に入れるな。俺に注意されて興奮している化け物は認識するべきじゃない。

 ……俺もオカルト能力を磨いたらあぁなるのか? 聖麗の先祖もあんな感じだったと言うし……。もしそうなったら帝斗に殴ってもらおう。

 

「よし、じゃあ話してみよっかな。聖麗さん、お願いします」

「はい、承りました。それでは……ニコさん、なぜ近づいてきているんです?」

「ん? どうやってやるのかと思ってな。明さんの不安を払うと言ったのは俺だ。オカルト能力も伸ばしていかなければな」

「……真理さんの気持ち、ちょっとわかったかも」

「なんで婚約してからライバルが増えていってるんだろ……」

「と、透華、落ち着いて! ほら、ちょうちょ!」

 

 満が透華を宥めるために手でちょうちょを作った。苦肉の策過ぎる。

 

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