稼ぎの少ないオカルト事務所所長、VTuberになる 作:酉柄レイム
俺には一人、変わった友人がいる。
肩書は『オフィス失楽園』というオカルト専門の探偵事務所の所長。普段まったく仕事がなく、ただ少ない人脈が恵まれすぎていて、生活するだけならなんとかやっていける程度の稼ぎはある。
見た目は筋肉がなく、痩せこけているほどではないけど細い。右目は昔厨二病だった名残で年がら年中眼帯をつけていて、本人曰く本当に幽霊が見える、らしい。これは共通の友人が本当だって証言しているから、まぁ、信じられないけど信じてもいいと思う。
「ん?」
そんな稼ぎの少ないオカルト事務所所長から、通話アプリdicecodeで通話がかかってきたことだった。
「ウィ」
『よかった! 出てくれた!』
感じたのは、余裕のなさ、焦り、恐怖。スマホとかじゃなくてPCからかけられてきているから、外で危ない目に遭っているっていうわけじゃなさそうだ。だとしたらヤニまみれの事務所にゴキブリでも出たかと、どうせくだらないことでかけてきたんだろうなと決めつける。
「どしたん?」
『俺は幽霊が見えるよな!?』
「らしいな」
『どうだ! 見えると言っているぞ!』
……? 誰かいるのか? にしては、こいつ以外の声が聞こえない。今のセリフを聞いた感じ、幽霊と話しているわけじゃなくて、『幽霊が見えることを誰かに証明しようとしている』ように聞こえる。
『ナニィ!? 勝手に言っているんじゃないぞ! 俺には大親友がいて、今その大親友がはっきりと俺が幽霊を視認できると言ったんだ!』
「はっきりとは言ってねぇよ」
更に違和感。口調、抑揚、声のトーン。それらが厨二病だった時のこいつに戻っている。今更そんなロールプレイをする相手なんていないはずだ。外ならまだしも家の中だし。
……。
おもむろに検索エンジンを立ち上げて、心当たりのある文字列を検索ボックスに打ち込んで、Enterキーを叩く。文字列は『ミッドナイト・サイコナイト』。こいつが厨二病だった時に名乗っていた、クソ痛い名前。
ヒットしたのは、『project:eden』というVTuberグループの公式サイト、そのタレント紹介ページ。
赤地に白いチェック模様のマフラー、首のあたりまで伸びた黒い髪、右目を覆い隠す眼帯、高そうな黒のスーツ。名前は『ミッドナイト・サイコナイト』。ページ下部にある動画サイト『WeTube』のリンクを踏めば、配信中だった。
配信タイトルは『【爆誕】我が名はミッドナイト・サイコナイト 深夜の狂騎士』。配信画面に映っているのはさっき見たキャラクターで、めちゃくちゃ聞き覚えのある声がそのキャラクターから発せられる。
『だから見えるって言っているだろう! 現に俺の隣にもいる!』
dicecodeから、配信から、同じ言葉が聞こえてくる。
確定。こいつ稼ぎが少ねぇからってVTuberになりやがった。しかも黒歴史まんまで。
『名前は個人情報だから言えないが、中学二年生の褐色ポニーテール女子だ!』
【悲報】新人、終わってる
痛い妄想の具現化じゃん
絶対友だちいないだろ
こいつの……ミッドナイト・サイコナイト--本名佐藤たけし--の言っていることは、嘘じゃない。佐藤に憑りついている幽霊、
実際に満しか知らないことを佐藤が知っていたり、一人で会話する演技をしているにしては会話できすぎていたりするから、本当にいるんじゃないかとは思っている。
ただそれが他の誰かに伝わるはずもなく、コメント欄ではロリコンだなんだと言われたい放題。そりゃそうなる。
『クソ、なんで信じてくれないんだ……!!』
冷静に考えたらわかるだろ。初配信で幽霊が見えるって言いだして、自分の隣に幽霊がいるって言いだして、その幽霊が褐色ポニテ中二女子って言いだして。コメント欄が正常だろ。俺も佐藤のこと知らずにこの配信見たら、キャラ付けだとしか思わねぇし。
『あっ、そうだ。放置してすまんな。せっかく出てくれたのに貸してくれた力を無駄にしてしまいそうだ』
「いいけど。それよりさ」
『なんだ?』
「お前、配信してる?」
『うぇっ、びゃっ!!???』
とてつもなく情けない悲鳴とともに通話が切れた。配信上の佐藤は死ぬほど動揺していて、『マズいみんな、俺が配信しているのが友人にバレたかもしれない!! どうしよう!?』と黙っときゃいいのに慌ててコメント欄に相談していた。
マズい!! マズいマズいマズい!! 帝斗に俺が配信していることがバレたかもしれん!! 確かにあいつは頭が回るが、こんなにも早くバレるとは思わなかった!!
「マズいみんな、俺が配信しているのが友人にバレたかもしれない!! 助けてくれ!!」
焦りに焦って、視聴者に助けを求める。三人寄れば文殊の知恵。大手事務所に所属した恩恵か、同接は3万人を超えている。きっと有益な助言をしてくれるに違いない!
草
流石にネタだろ
【朗報】芸人枠の新人獲得
友人も嘘だろうから、配信始まってからここまで全部虚言
むしろ全部本当なんじゃないかって思い始めた
「嘘じゃない!!!」
クソ、誰も助言してくれない!! 思えば昔からそうだった。幽霊が見えると言っても誰も信じてくれず、それを証明するためにオカルト事務所を立ち上げれば、「まともな職に就きなさい」と訳の分からないことばかり!!
《さ、佐藤さん落ち着いて!! これ以上喋ったら余計なこと言いかねないから、話題変えよ!》
しかし、そんな俺にも味方がいる。赤羽満、今俺の隣に浮いている、半透明の褐色ポニテ中二女子。昔、道路を歩いていたらいつの間にか俺に憑りついていて、それからずっと一緒にいる相棒と呼べる存在。
頼もしい相棒の言葉に頷き、話題を変えようと思考を巡らせる。しかし帝斗と満と透華--大学時代の友人で、中学時代の満の友人—以外と会話なんてしていない俺に、話題を提供する脳があるわけなかった。
「これ以上喋ったら余計なこと言うだろうから話題を変えろと言われた。何かないか? 話題」
初配信でコメントに話題提供頼むってマ?
同期の印象聞きたいです
「女の子」
ただの性別で草
こいつ、もしかしてコミュ障でもある?
《佐藤さん、その口を開けば生き様が漏れる癖、なんとかした方がいいよ》
「仕方ないだろう!! 俺は女の子とまともに喋ったことがないんだ!!」
《……一応、私も女の子なんだけど》
「いや、女の子は女の子だが、お前は相棒だろう」
《んー、へへ、それもそっか!》
「あぁ、そうだ」
でもなんか、妄想っていう割には会話テンポがスムーズというか……
普段からやってるんだろ
普段から痛いんだろ
普段から厨二ロリコンなんだろ
はぁ、人間というのは嘆かわしい生き物だ。自分が『知らない』ものは『異常』だと判断し、徹底的に認めない。そういうやつらが集まって、進歩など何一つないと言うのに。ちなみに俺はそういう人間でないのにも関わらず、稼ぎが一向に増えない。何故だ?
いや、理由ははっきりしている。それは、俺に知名度がないこと。俺は幽霊が見えるし、幽霊と会話もできる。オカルトに関するスキルは随一だ。俺に知名度が伴えば、オカルト関連の依頼がドバドバ来て、ウハウハになるはず!
「フフフ、フハハハハ!! 我が名はミッドナイト・サイコナイト! 深夜の狂騎士だ! せいぜいよろしくしてやろう!」
面白そうな生物ではある
いいおもちゃにはなりそう
せめて人間として興味持ってあげて
これは、ほとんど稼ぎのないオカルト事務所所長の俺が、億万長者へと成り上がる物語の序章だ!!
《……そういえば佐藤さん。ミッドナイト・サイコナイトって普段から昔のクセで名乗ってるけど、身バレとか大丈夫?》
スマホを見る。透華から、『面白そーなことしてるっスね』というRINEが届いていた。
「後輩にも配信してることがバレたかもしれん。助けて」
初配信で、未定も含めて二人に配信バレするやついる?
幽霊見えるよりは現実的じゃね?
今日そっち行きますからね、か。
さーって、帝斗に助けでも求めるか!
project:edenを語るスレ part437
542:このライバーがすごい! ID:dWU834sor
初配信まとめ
探偵
オレンジのふわふわロング、釣り目で蒼眼。
口調はキツめでありつつ、言葉の節々に感じられる優しさがgoodでcute
アザミ・フレンジー
科学者
白髪無造作ロング、ジト目で碧眼。
ダウナー系で少し天然。声は入っていなかったが、コメントを見て微笑んでいたお顔がcute
ミッドナイト・サイコナイト
厨二ロリコン
首まで伸びた黒髪、眼帯、マフラー、厨二病。
早速身内二人に身バレし、早くもリスナーのおもちゃにされる
543:このライバーがすごい! ID:Z7cSZ6nU0
>>542
>ミッドナイト・サイコナイト
なお、配信中盤を越えたあたりから『チュニコン(厨二ロリコンの略)』のあだ名が定着する
545:このライバーがすごい! ID:/oOamrP+L
初配信リレーの最後でよかった
546:このライバーがすごい! ID:xIUIMe4Iz
あれの後は色んな意味で可哀そうだもんな
547:このライバーがすごい! ID:i1YDWBJQt
今回は豊作そうでなにより
549:このライバーがすごい! ID:59W3foduv
チュニコンが何かやらかさないかだけが心配
550:このライバーがすごい! ID:m414cnOoQ
>>549
もう存分にやらかしてる件
552:このライバーがすごい! ID:3n8am48zi
アザミちゃんが晒したdicecodeの同期グループチャット、チュニコン「はい」しか言ってなくて草
553:このライバーがすごい! ID:ZZBipX/TK
優姫ちゃんに怒られるチュニコン、早くも解釈一致
555:このライバーがすごい! ID:7M0dw47O0
優姫ちゃん「初配信で何やってんのあんた」
チュニコン「はい」
優姫ちゃん「自分自身のプライバシーどころか、ご友人のプライバシーも守れないって何?」
チュニコン「はい」
優姫ちゃん「ちゃんと謝っときなさいよ」
チュニコン「はい」
557:このライバーがすごい! ID:KRJQte/lM
>>555
情けなくて草
558:このライバーがすごい! ID:ZV3/2ZSPt
>>555
なお、この後優姫ちゃんの「でも面白かった」というデレが炸裂
559:このライバーがすごい! ID:8O8tWiFiA
アザミちゃんは晒すだけ晒して発言なし
560:このライバーがすごい! ID:WRmtQ0OtT
仲良しでほっこりする