稼ぎの少ないオカルト事務所所長、VTuberになる 作:酉柄レイム
「さて、次にっ、かかってきた!?」
逆凸のルールなんか守るわけがない
一部の人間だけだけどな
もしかして朝凪さんが『ニコちーとやりたいことを強制できると聞いて』みたいな感じでかけてきたのか!? と思い相手を確認すると、『
茂樹シゲキ。『project:eden』の一期生で、ピンクの髪に稲妻のように金のメッシュが入っている。ピンクの丸いサングラスに、ピアス、リング、ネックレス、これでもかとアクセサリーを付けた、まさに名は体を表すを体現している男。
なぜ茂樹さんが、と思わなくもないが、先輩からのコールを無視するわけにはいかない。応答ボタンにカーソルを合わせ、そのままクリックした。
『よォ!!!!! シゲキ的なことしてるじゃねぇか!!!!』
「うるさっ!!!!」
マズい、シゲキだ!
シゲキ的にされる!
耳がキーンってなってる
応答した瞬間、大音量の挨拶が鼓膜を貫いた。なるほど、噂に違わぬシゲキだ……!! 流石は『project:eden』一の問題児。茂樹さんに興味を持たれたら終わりだと言われるだけある。まさか、一言目で「あ、この人まともじゃないんだな」とわからせられるとは。
『随分シゲキ的な新人が入ったと思ってたが、挨拶すんのがシゲキ的に遅れちまったなァ!!』
「あ、そうですね。俺は」
『アァ!!? 互いのこと知ってんなら自己紹介なんざシゲキ的に無意味だろうが!! それよりよォ、聞いたぜ? オメェと一緒にやりてぇことを叶えてくれるらしいなァ?』
「いや、違いますよ!? 俺と一緒にやりたいことは何か、と聞くだけです!」
『シゲキ的に却下だ!!!!!!』
「なんの権限があって!?」
ニコだぞ? 当たり前だろ
変人適正はめちゃくちゃ高いだろうしな
相手がまともであればあるほどコミュ障になる
まさかこの人、『俺と一緒にやりたいこと』っていうお題が出たのを見て飛んできやがったのか……!? 何をさせられるんだ、俺は!! こんなどこからどう見ても聞いても激ヤバな人が俺と一緒にやりたいことなんて、どうせろくでもないことに決まっている!! 「骨ブッこ抜いてジェンガしてぇんだよ!!」って言われても驚かないぞ。
『ちょっと研究に使いたくてよォ、幽霊の一匹二匹、捕まえに行かねぇか!!』
「捕まえられるわけがないでしょう!? 虫じゃないんですから!」
『なんだ、シゲキ的にツマラネェ。じゃあな』
「えっ、あっ、マジで行きやがった……!!」
一応三人目か
カウントしていいのか……?
むしろ労力的にはもう五人目ってことにしていいと思う
「あまり気が乗らないが、三人目にカウントする。興味を持つ持たないで左右されるのは、少しアザミさんに似ているな」
アザミさんの方がよっぽど良識があるが。茂樹さんはアザミさんから良識と常識を抜いて、派手さとシゲキを足したような人だ。シゲキってなんだ?
茂樹さんも科学者っぽいし、そういう専門家になるにはちょっとイカレているところがないとダメなのかもしれない。だとすると、『project:eden』の人間のほとんどは科学者の才能があるかもしれない。
「よし、気を取り直して四人目……またかかってきた!」
『今日もオシャレしてるわね! イベリスよ! みんなこんばんは!』
比較的まともな人でよかった
一期生にまともな人がいるわけないだろ
なんだ? 一期生で俺の逆凸に突撃リレーでもしてるのか? それとも一期生はこういう逆凸とかのイベントが好きだから突撃しにきたのか? よくわからないが、確実に後者な気がする。
『ニコちゃん! 私が考えたとびきりのオシャレをしてくれるってホント!?』
「い、いえ、俺と一緒にやりたいことを……まぁオシャレは特に断る理由もありませんが」
『あらほんと!? じゃあ今度飛び切りのオシャレを用意してお邪魔するわね! それじゃあ!』
「自分勝手すぎないか……?」
思ってたのと違う
でもニコだから思ってたのでもある
ニコは変な目に遭うのが似合ってる
要件は伝え終わったのか、イベリスさんとの通話が切れた。茂樹さんも要件を言って、俺が無理だと言ったらすぐに切ったし、自分本位すぎる。あと俺が咄嗟に考えた『次の人への質問』システムが崩壊した。なんで次の人への質問を用意してもらう前に消えていくんだ……!!
「次はまともな人に……すまん、かかってきた」
『よう、ニコ。相変わらずクールな配信をしているな』
一期生最後の一人
一日で一期生をコンプリートか
なんか面白そうだったら三人とも群がるから、珍しい話ではない
光に集まる虫みたいだな
また逆凸する前にかかってきたと思ったら、一期生のルイスさんからだった。つい先日会って、まともな人じゃないことは知っている。
一期生はルイスさん、イベリスさん、茂樹さんだろう? なんで一期生がそんな有様なのに、『project:eden』が大手事務所に育ったんだ? 謎過ぎる。
『ニコ。実は、お前と一緒にやりたいことがあって通話をかけた』
「何!? ただ自分の欲を満たすためだけに、要件だけを伝えてあとはさっさと自分の時間に帰るわけじゃないんですか!?」
『誰のことを言っているのかはわかるが、そう言ってやるな。あれもあいつらなりの激励だ』
「激励?」
『緊張している相手にはちょうどいいスパイスだっただろう?』
言われて、気づく。そういえば、腰を抜かして歯がガタガタ鳴るくらい緊張していたのに、今はそれがない。もしかして、あの二人のおかげで消えている……? 確かに、気を遣う暇もなく嵐のように過ぎ去っていかれたから、その時の感覚がベースとして残っている気がする。
『伊達に一期生をやっていないということだな。ふっ、クールなやつらだ』
「ちなみに、”絶対好き勝手やっていっただけだぞ”っていうコメントがあるんですけど」
『その側面もあるだろうな。だから厳密に言えば、あいつらの好き勝手な行動が実はニコのためになっていて、俺がそれに”激励”という名前をつけただけだな』
この人、常識を捨てたおかしい人だと思っていたが、もしかしていい人でクールな人なのか? 茂樹さんとイベリスさんの行動が、もう俺の緊張を解すためにやったことだと疑えなくなってるぞ。イベリスさんはまだあり得るとして、茂樹さんは絶対にそんなことないのに。
『さて、お前と一緒にやりたいことなんだが』
「はい、なんでしょう」
『実はオカルト関連の依頼が回ってきてな。それならニコの力が必要だろうと思い、力を借りたい。詳細は後日送る』
「リアルな依頼の話ですか!?」
詳細言わなかっただけ偉い
これ、依頼主が視聴者だったらバレるだろ
こんなに特徴的な二人いないしな
ルイスさん、普段からクールクールって言ってるしな……俺はあまりにも一般的すぎるからバレることはないだろうが。
配信とかで一緒にやりたいことじゃなくて想定外だったが、依頼の話となれば受けないわけにはいかない。まさかルイスさんと知り合うことでこんな恩恵があるとは。あの月宮さんが所属する探偵事務所だし、結構大きいところなのかもしれない。
「それはぜひ受けたいです。任せてください!」
『ニコならそう言ってくれると思っていた。それじゃあ』
「やっぱり言いたいことだけ言って切るんじゃないか!!」
でもよく考えればシゲキ以外の二人は施してくれたから
善意だからオッケーとしよう
「む……確かにな。イベリスさんはオシャレしてくれるそうだし、ルイスさんは依頼を回してくれる。失礼な態度を取ってしまった。聞いているかわかりませんが、すみませんでした」
……ところでオシャレしてくれるってなんだ? 俺は何をしてもらえるんだ? 普通に考えれば服とかアクセサリーとかそういうのでオシャレというのだろうが、イベリスさんに限ってはオシャレの意味が広すぎて想像がつかない。世界一よくわからない予定が入ってしまった。
「さて、もう逆凸の逆凸をしてくることはないだろう……」
迷いが見られる
多分……
俺にはわかる 炎上を恐れている
通話をかけてきた相手を見て少し悩むが、どうせこちらからかける予定だったんだと思い、応答ボタンをクリックする。
『ニコさん、きちゃった!』
「こんばんは、一ノ瀬さん」
ニコ(本当にきちゃった)
ニコなら大丈夫、炎上しない
それは星菜ちゃんのムーブによる
抗え、ニコ
他人事だと思いやがってこいつら……!! 悪意なく燃料を投下してくるのがどれほどやり辛いかわからないんだ! 一ノ瀬さんからかけてくる時点で邪推する輩がいるかもしれんというのに……!
『こんばんは、ニコさん! ニコさんのリスナーのみなさんもこんばんは! 一ノ瀬星菜です!』
「お姉さんはいらっしゃらないんですか?」
『……今ニコさんとお話してるのは私なんですけど。なんでお姉ちゃんのこと気にするんですか?』
それは悪手じゃろ、ニコ
星菜ちゃんからの「私に集中して」+「お姉ちゃんが好きなんですか」コンボ
ニコはすぐにフォローしてくれる姉御と一緒にいてほしかっただけなのに
クソ、マズい! なぜこうも急激に焦げ臭くなるんだ! まるで自分以外の女の子の話題を出されたから不機嫌になったみたいだし、俺がお姉さんのことを好きなんじゃないかと勘違いしている感じになっていないか!? こういうのが視聴者の間で出回って、「調子に乗るな」とか「近づくな」とか「誰だかよくわからないけど、マジで男との絡みとか求めてないから自己主張してくんな」とか言われるんだ!!
「失礼しました。前に三人でさせていただいたコラボが楽しかったもので、言葉が自然と出てしまい……」
『ちなみに、お姉ちゃんは今日用事があっていません!』
これであとは全員初対面の人じゃないといけなくなったか
マリーはなんとか話題が出せそう
それで頭を下げるスタンプだけDMで送られてきていたのか……。特に説明されなかったのは、配信中にそれが判明した方が面白いから、と気を遣ってくれたんだろう。事前に謝りつつ配信のことも気にかけてくれるとは、どこまで気配り上手なんだ?
『あと、10万人突破おめでとうございます!』
「ありがとうございます。俺の10万人突破は一ノ瀬さんのおかげでもありますから」
『ニコさんの実力ですよ! まぁ、結構配信でニコさんのお話してますけど……』
初めてできた後輩が嬉しいんだろう
初めてできた後輩だしな
そりゃ初めてできた後輩なんだから
俺の視聴者が発火を防ごうと一致団結している……!! なんて頼もしいやつらなんだ!
でも、実際そういうことだろう。一ノ瀬さんにとって俺は初めての後輩なんだ。まだ学生さんだから、テンションが上がって構いたくなってこうなっているだけだろう。……それなら月宮さんとアザミさんに構いに行かないのはなぜかと聞かれれば、あははと笑うしかない。
『そういえばニコさん、見ましたよ? 同期のお二人に敬語遣うのやめたんですね』
「は、はい、そ、そうですが」
声震えてるぞ、ニコ
次はどうやって火を消すか……
『なら、私に対しても敬語やめてみません? 私の方が年下ですし』
「いいですか一ノ瀬さん。アイドルを志すあなたが、軽率に男と距離を縮めてはいけません」
『……男?』
「もしや俺を男として認識していない……?」
ニコが男なわけないだろ
軽めの説教をした結果、反撃をくらう
いや、まぁ、一ノ瀬さんからそう言ってくれるならむしろいい。俺を男として認識していなくて距離を縮めようとしているのなら、ある程度は燃え広がらなくて済むだろう。
かといってここで距離を縮めてしまうと炎上の恐れがある。これは俺だけが炎上するんじゃなくて、一ノ瀬さんもだ。「そんな積極的に男と関わりにいく軽い女だとは思わなかった」みたいな、勝手に幻想を抱いて勝手に幻滅する輩が出てこないとも限らない。
「ま、まぁ、俺を男として認識していないかどうかはともかく、そういうことです。一ノ瀬さんを応援してくれている方々は、あまり男と仲良くしてほしくないと思いますよ」
『……じゃあ、ニコさんと一緒にやりたいこと。私はニコさんと仲良くしたい』
「満!!!!! 満ー!!!!!!!!!」
「《うるさいうるさい!! そんな慌ててどうしたのって、焦げ臭っ!!》」
本当に燃えてはないだろうが!! まだ。