稼ぎの少ないオカルト事務所所長、VTuberになる   作:酉柄レイム

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第200話 project:versus 予選 (2)

 『囁きノックダウン』。透華に悪いと思って辞退するも、まさかの透華からの許可は得ているとのことで、逃げ道が防がれた。いや、逃げ道と言っても明さんの囁きを聞きたくないというわけでもなく、聞きたくないというわけでもないということは聞きたいというわけでもなくて、ただ単純に俺が醜態を晒す可能性が高いから逃げたかったというだけの話だ。というか満とシェリーさんとフレイルさんと松風純花さんに見られているのが気まずすぎる。

 

「クソッ!!!!!! なんで僕が明さんのお相手をできないんだ!!!!!!!」

「私も正直ニコさんが相手で助かったかな。流石に愛人さん相手は気まずいし」

《弱っちそうだしね》

 

 それだけじゃない。今、明さんには(あきら)さんがついている。つまり……両耳からの囁きボイスになるということだ!!!!!! 囁きボイスというだけでとんでもないことなのに、両耳からとなると威力は二倍、いや、(あきら)さんは明さんと少し性格が違うから、単純な二倍の威力ではなく、何倍にも何十倍にもなる。

 これが種目ランダムの怖さ。恐らく俺か愛人ではなくシェリーさんだったら、いい勝負になっていただろう。しかし今回戦うのは俺。結果など火を見るよりも明らかだ。

 

 ただ、俺は負けるわけにはいかない。ここで負けるということは、透華に対する裏切りに等しい。心に決めた女性がいるのに他の女性に靡くなど、決してあってはならんことだ。

 

「さぁ準備はいいか二人とも! ルールは簡単、ターン制でお互いに囁き合うだけだ! 当たり前だがボディタッチはナシだぜ! 全年齢OKな振る舞いをしてくれよ。じゃあまずは意気込みから聞かせてくれ!」

「……ま、言うなら今かな」

 

 明さんが俺に目配せしてくる。一瞬何かと迷ったが、次いで(あきら)さんを一瞥したことで合点がいった。

 ここで、視聴者に説明するということだろう。俺に目配せしたのは、実体化してくれということか。

 

「ハァッ!!!」

 

 気合いを入れて(あきら)さんを実体化させる。もちろん視聴者には見えていないが、演者には見えている。反応は様々だった。元々知っている、というより見えていた愛人は「じっ、実体化させて直接両耳囁きを楽しむつもり!?」と俺をド変態に仕立て上げ、シェリーさんは「あぁ、何か気配がすると思ったらそういうことか」と納得し、松風純花さんは「まぁ」と口元を手で押さえて上品に驚き、フレイルさんは「おわっ、なんだ!?」と純粋に驚いている。不測の事態に対する反応でまともかそうじゃないかがわかるのは便利だな。

 

「おっと、なんだ!? 明の隣にもう一人の明が現れたー!! 一体どういうことだ!?」

「実はね、元々双子だったっぽくて。ニコさんに頼んだら憑依させてくれた」

「そういうことでーす。(あきら)って言います。みなさんよろしく」

 

姉御が二人!?

姉御二人に囁きボイスを!?

(あきら)の姉御はちょっと軽い感じがするな

一言目で性格捉えるのキモすぎる

 

 そして、視聴者もどうやらまともからは外れているらしい。こういうのをすぐに受け入れられるのは、『project:eden』のいいところか。そう考えると、一期生には感謝するべきだろう。一期生がとんでもないから、滅多なことでは驚かない。

 

「お、いいコメントあるね。そう、私と(あきら)の二人で、ニコさんの両耳に囁いちゃおうって思って」

「ふふ。脳溶かしちゃうかもしれないけどごめんねー?」

「くっ……!! まだ負けないぞ!!」

「ニコさん。まだ始まってないよ」

 

もう負けそうで草

軟弱すぎる

恥ずかしくないのか?

不倫確定!! ビッグボーナス!! よーく狙って?(両耳受胎)

孕む側かよ

 

「うるさいぞお前ら!! あの包容力の塊である二人に両耳から囁かれて、無事でいられる自信があるやつだけ俺に石を投げろ!!」

 

 コメントが止まった。そこで止まったらもう俺の負けは確定したようなものじゃないか!!

 ……待てよ、明さんと(あきら)さんが二人で参加するのがありなら、俺も満と一緒に囁けばいいんじゃないか? 正直、俺は自分が囁きに行こうと思ってもぐちゃぐちゃになる自信がある。女性に囁きにいくなど今までの人生で一度も経験したことがない……こともないが、今はそれは置いておいて。攻撃の時も満の力を借りることができ、更に防御の時も俺と満に分散できる。ふっ、勝ったな。

 

「物部さん。向こうが二人でくるというのなら、こちらも二人で行かせてもらいます! 俺と満は一心同体! 俺たち二人で、明さんと(あきら)さんを打倒してみせよう!」

「え、いいの!? やった、頑張る! 覚悟してね!」

「まぁそれはナシとは言えねぇな! OKだ! 特別ルールで二人がノックダウンされたら負けだ! 一人でも残ってたら逆転勝利のチャンスがあるって方が盛り上がるからな! んじゃあ改めて、ニコ&満 VS 明&(あきら)! バトルスタート!」

 

満ちゃん参戦!?

これはわからなくなった

姉御、年下に弱いからなぁ

ニコは全人類に弱いぞ

 

 今は視聴者を相手にする時間じゃない。やかましいコメントは意識的に無視して、二人を正面に見据える。その表情にあるのは余裕の微笑み。頭上の電光掲示板には『Attack:ニコ&満 defense:明&(あきら)』と表示されている。先攻が俺たち、か。

 

「ふっ、満。お前は俺に何も期待していないだろうが、俺にはこの頭脳がある。今から作戦を伝える」

「うん! ……あの、私には囁かなくていいからね? キモいから」

「まだやっていないことに対してキモがらないでくれるか?」

 

 俺と満は囁かなくとも、脳で会話できる。作戦を伝えお互い頷き合い、(あきら)さん目指して歩き出す。

 そう、何もそれぞれに一人ずつ囁く必要はない。二人で一人に囁いて集中攻撃すればいいんだ! そして真っ先に潰しておくべきは、まだ性格が掴み切れていない(あきら)さんだ! 喋れるようになって日が浅い彼女なら、俺のような貧弱極まりない攻撃力でも打倒できる可能性がある! 何より、年下に弱いということは共通しているはずだ。満がいれば俺の力など不要に等しい。

 

「あれ、私に二人で囁いてくれるの? いいよ、おいで」

 

 俺たちに囁きやすいように中腰になって、髪を耳にかける。その瞬間、俺と満は膝をついた。

 

「ぐっ……!! なんだ、この包容力は!?」

「危なかった……!! もう少しでお姉ちゃんって呼びながら甘えちゃうところだった!」

「おーっと! (あきら)の中腰+耳に髪かけで早くもニコと満が膝をついたー!! 弱すぎだぜお前ら! せめて熱いエンターテイメントの一つぐれぇ繰り広げてからダウンしろよ!」

「なんか私と同じ姿でそういうことやられると複雑だな……」

 

中腰で耳に髪かけ!?

ま、まさか、(あきら)の姉御は包容力があってかつ蠱惑的なのか!?

満ちゃん、そういや可愛がってくれる人に弱かったよな……

つまり包容力にも弱いってこと

負け、ですか……

 

「いや、俺たちはまだ負けていない……!」

「私じゃなかったら死んでたよ……もう死んでるけど」

「その死人ジョークが出るならまだ大丈夫だな。行くぞ、満!」

「うん!」

 

 強い意思を持って立ち上がり、俺と満で(あきら)さんを挟む。にこにこと余裕そうに微笑む(あきら)さんに勝てる気はまったくしないが、だからといって諦める理由にはならん。男がやると決めたなら、最後までやり通すしかない!

 

「ね、まだ?」

「ぐあああああああ!!!!」

「ニコさーん!!!! 物部さん! 今の反則ですよね!? ディフェンスなのに攻撃されました!!」

「まぁこれでやられたとしても囁きじゃねぇからノーカウント。でも面白いから反則にはしねぇ!!」

「ねぇ(あきら)。ニコさんいじるの楽しいのはわかるけど、ほどほどにしてあげなよ」

「ごめんごめん。ニコさんがかわいいからつい」

「これ以上ニコさんをいじめないで!」

「もちろん、満ちゃんもかわいいよ。おいで」

「うわあああああああああ!!!」

「み、満ー!!!!!!」

 

あまりにも弱すぎる

いや、(あきら)の姉御が強すぎるんだ

「まだ?」とか「おいで」とか、どういうつもりだ?

攻撃ってニコと満ちゃん側だよな?

攻撃は最大の防御のいい例

 

 床に倒れ、乱れた呼吸を整える。これが透華に申し訳ないと思っていた男の姿か? 今頃帝斗はキャッチボールの準備を終えている頃だろう。帰ったら透華に即謝罪だな。夫である俺が女性にこうも弱かったら、透華は不安だろう。

 そうだ、透華を不安にさせてどうする。俺がここでしっかりして透華を安心させなければならない。いくら(あきら)さんの包容力がものすごくて、ちょっぴりえっちだからといって靡いてはならん!!

 

「行くぞ、満!!」

「うん!」

 

 今度こそと覚悟を決め、そっと(あきら)さんの耳に顔を寄せる。ふわりと甘い香りが鼻腔を擽るが、これでやられてしまったら流石にダメだろうと自制心を奮い立たせた。我が名はミッドナイト・サイコナイト、深夜の狂騎士! 俺が剣を抜いたなら、斬り伏せられぬものなど何もない!

 

「……」

 

 が、剣の抜き方がわからない!! そういえば囁くって何を囁けばいいんだ!? 女性に対する褒め言葉をこのような状態で言うのは透華への裏切りだ!! そもそも俺は女性に対する言葉をまったく知らない!! クソ、なぜこうなることを予想できなかった!? あらかじめ囁く言葉を考えておけばよかった!! 満も同じ状況に陥っているのは流石相棒と言ったところか。その部分だけ誇らしいが、逆を言えばその部分以外はすべて誇らしくない!!

 

「どうしたニコ、満!! 耳に顔寄せて硬直してるが、焦らしプレイか!? 高度なテクニックで盛り上げてくれるじゃねぇか!!」

「どうしたの? 囁かないなら、こっちから行くけど」

「い、いや、ちょっと待て」

「もうちょっとで出てくるから。言葉が」

「ふ。くすぐったい」

「満、撤退だ!!」

「了解! これ以上はこっちの身が危ない!」

 

どこが攻撃だったんだ?

常に姉御たちの攻撃じゃねぇか

普通にムカつくからニコを炎上させよう

残念ながら他箱ファンに燃やされても燃やされてないと思ってたから無駄だぞ

 

 くすくす笑ってくすぐったがる(あきら)さんに身の危険を感じ、急いで距離を取る。な、なんて危険な存在なんだ……!! もしかしたら、俺はとんでもない人を実体化させてしまったのかもしれない。

 このまま二人の攻撃を受けたらマズい。どうにかして平静を取り戻さなければ……!! 愛人とシェリーさんに助けを、いや、これは俺と満、そして明さんと(あきら)さんの戦い。他の人の手を借りるのはナンセンスだ!

 

「じゃ、いこっか明」

「おっけー。ニコさんでいいんだよね?」

「うん。ぱぱっとやっちゃお」

 

俺もぱぱっとやられちゃいたい

ニコ、耐えろ!!

ニコが耐えれば耐えるほど囁きボイスが聞ける

絶えるだろ、息が

 

 二人がゆっくりと俺に向かって歩いてくる。満が両腕を広げてとおせんぼするが、二人から撫でられて「えへへー」とふにゃふにゃになりノックダウン。囁きではないからやられた判定にはならないだろうが、あの分なら囁かれたら一撃だろう。

 だから、俺が耐える必要がある。俺は誇り高き日本男児。さぁ、なんでもこい!

 

 さっきと同じ香りがまた訪れる。誇り高き日本男児である俺は目を瞑った。

 

「ね、ニコさん。ちゃんとお礼言えてなかったから、今言うね。本当にありがとう」

「ニコさんのおかげで、毎日楽しいよ。本当なら、一緒に笑い合うなんてこと絶対できなかったし」

「命をくれてありがとう。ニコさんって、いっつもあぁいうことしてるんだろうね」

「当たり前みたいに人を助けて、人を誑かして虜にしちゃう」

「私たちがそうなったみたいに」

「だからね、これは仕返し」

「奥さんにはあとで一緒に謝ろ」

「じゃあ、ちゃんと聞いててね」

「すき」

「すーき」

「」

「に、ニコさーん!!」

 

ニコ、お前、息が……

俺の耳が姉御たちに惚れてどっか行った

ニコが倒れたぞ!!

マジでノックダウンしてて草

 

 

 

 

 

ニッコリ探偵団 視聴者支部 part40

 

751:このライバーがすごい! ID:pKoSHrhTW

満ちゃん、棄権

 

752:このライバーがすごい! ID:uhu3zP5fI

満ちゃん「このままじゃ成仏すると思った」

 

753:このライバーがすごい! ID:t6u32TpvB

ニコは仮眠室に運ばれたか……

 

754:このライバーがすごい! ID:nkW+YQ22j

正直とんでもなかった

 

755:このライバーがすごい! ID:EnEpclGF2

ニコの安否が心配

 

756:このライバーがすごい! ID:CwescoJWz

愛人が羨ましすぎて暴れ狂ってる

 

757:このライバーがすごい! ID:uWxatYLCD

自動的に愛人vsフレイルか

 

758:このライバーがすごい! ID:Dvmpw0iub

ニコチーム二敗だからもう決着ついてね?

 

759:このライバーがすごい! ID:4KmZKmESc

>>758

勝ち点も本選の切符に影響するから、三戦はちゃんとやる

 

760:このライバーがすごい! ID:uXPQqU2N9

今の愛人は嫉妬に狂ってるから強いぞ

 

761:このライバーがすごい! ID:3EAnWvurn

ところで姉御が二人になったけど、どう表記すればいいんだ?

 

762:このライバーがすごい! ID:gQZEggTew

呼ぶ分には問題ないけど、同じ漢字なのか?

 

763:このライバーがすごい! ID:tQ0PiQhv3

あき姉とあか姉でいいだろ

 

764:このライバーがすごい! ID:fnLf96+nI

星菜ちゃんが前に配信で「最近特に楽しくて嬉しいの!」って言ってたの、そういうことだったのか

 

765:このライバーがすごい! ID:F9znSN6gU

お姉ちゃん増えたからだったんだな

 

766:このライバーがすごい! ID:pn0Goe59c

頼むリック、あき姉とあか姉のボイス台本を書いてくれ

 

767:このライバーがすごい! ID:DMTJJfAlH

4者続出するだろ

 

768:このライバーがすごい! ID:zliSJaCWz

俺はそれでもいい

 

769:このライバーがすごい! ID:hPmjyOKg6

ニコだけずるい!

 

770:このライバーがすごい! ID:VRnAVSK/X

さて、対戦種目はなんだ?

 

771:このライバーがすごい! ID:qbv5OcwXZ

種目『気配斬り』

 

772:このライバーがすごい! ID:ycUT01Sja

これまたオーソドックスな

 

773:このライバーがすごい! ID:664wnpn5Q

プロエジェでやったことあったっけ?

 

774:このライバーがすごい! ID:TpWu9iDVR

>>773

ヴァールハイトでやったことあるぞ

 

775:このライバーがすごい! ID:eLi7tDISI

>>773

ヴァールハイトでやって焦土と化した

 

776:このライバーがすごい! ID:ZnYsztaAL

流石に愛人の勝ちか?

 

777:このライバーがすごい! ID:g5INirZB/

フレイルも運動能力高いからわからんぞ

 

778:このライバーがすごい! ID:e5SbgwaJ5

愛人が気配斬りに興味を持てば愛人の勝ち

 

779:このライバーがすごい! ID:CUSJtteSr

改めて思うとクソチートなのに、なんでチート感薄いんだろうな

 

780:このライバーがすごい! ID:aHBU8udiS

本人の性格がアレだから

 

781:このライバーがすごい! ID:NIV+lCubV

脅威なのに脅威と思わせないのが一番厄介だよな……

 




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