稼ぎの少ないオカルト事務所所長、VTuberになる   作:酉柄レイム

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第203話 クールな男

「大変大変大変大変!!!」

「どうしたの? 満ちゃん」

「安倍聖麗はここにはいないが……」

 

 佐藤さんが何やら覚悟を決めているのを察知して、大変だ!! と思って透華と西園寺さんから離れて、誰に相談しようかなと周りを見てたら、ロビーにあるソファに座っている月宮さんとアザミさんがいた。佐藤さんの同期だからなんか気まずい気もするけど、『project:eden』の中なら最適解……!! ごめんニコさん、透華。でもこれは死活問題みたいなところがあるから。

 

「月宮さんアザミさん。驚かないで聞いてほしいんだけど」

「えぇ」

「どうした?」

 

 ニコさんが、透華を今夜抱こうとしてるの。二人の耳元でぽそりと呟くと、月宮さんは私の心中を察したように「あー」と苦笑して、アザミさんは「ニコが童貞ではなくなる……?」って困惑していた。童貞を一大コンテンツみたいに扱うの本当にどうにかした方がいいと思う。

 佐藤さんと透華がその、そういうことをするのは別に悪いことじゃない。悪いことじゃないけど、死ぬほど気まずい。私死んでるのに。普段ずっと一緒にいる二人だから、どういう顔をして会ったらいいのかがわかんない!

 

「まぁ、気持ちはわかるけど……知らないフリしてあげるのが一番いいんじゃない?」

「だって……!! ニコさんのことだからどうせわかりやすくなるもん。透華と会ったら『俺が男としての責任を果たさねば』みたいなこと絶対考えるもん……」

「気持ちが通じ合うというのも考え物だな」

 

 流石にオンオフはできるようになってるから、しばらくずっとオフにしておこうかな……。でもそういう時に限って変なことに巻き込まれて、知らないうちにどっか行っちゃったりしそうだし。ってなると、もうずっとストレスを抱えて生きていくしかないのかな……。いや、死んでいくしかないのかな……。

 

「にしても、あのニコがねぇ」

「優姫、大丈夫か? 座るか?」

「座ってるわよ。別にショック受けてないからね? まぁ、うーん……。男として見たことないから、そういう方面でのショックというか、戸惑いみたいなのはあるけど。満ちゃんも似たような感じよね?」

「そう! それもある! だって佐藤さんは家族で言うならお兄ちゃんみたいなものだし、透華は親友だし。いつどこでそういうことしたかを確実に知れる方法があるって最悪でしょ」

 

 本当に相棒すぎて困る。以心伝心っていいことばかりじゃないとは思ってたけど、まさかこんなに悪いことがあるなんて……。これで佐藤さんが完璧だったらなぁ。私にうまく隠してくれるのに。完璧だったら佐藤さんじゃないから、今のままでいいけど。

 それにしても、大丈夫かなぁ……。二人とも奥手だし初めてだろうし、自責が強いから、もしうまくいかなかったりしたら変にぎくしゃくしそう。そうなってもまさか私がなんとかするわけにもいかないし、もう今から色々心配だ。

 

「ところでニコはどこに?」

「グレイヴィーさんとミハイルさんとバーにいる。そこで背中押してもらってたみたい」

「まぁ、悪い話じゃないから気にしすぎるのも、な。どうしても受け止めきれないとなったら私たちがなんでも聞こう。いくらでも頼ってくれ」

「アザミさんすき……」

「何勝ち誇った顔してんのよ」

「月宮さんもすき!」

「気を遣わなくていいわよ。でもありがとね。私も好きよ」

 

 もうなんかどうでもよくなってきたな……。優しくて綺麗で可愛いお姉ちゃんがいるからなんとかなる気がしてきた。でも最近佐藤さんからおじさんっぽいって言われたから気をつけなきゃ……。成長するようになったって言っても、おじさん方面に成長したいわけじゃないし。

 

 少し落ち着いたら、そういえば透華は大丈夫かな、って思った。佐藤さんはグレイヴィーさんとミハイルさんと一緒にいるから精神的にも大丈夫だろうけど、なんか佐藤さんが透華を抱くって宣言して、それをタイミング悪く聞いちゃったみたいだし……。今頃ぐるぐる考えて、あわあわしちゃってるのが目に浮かぶ。

 ちら、と月宮さんとアザミさんを見てみる。多分、透華が今聞いてほしいのは、どうすれば佐藤さんが喜んでくれるかどうか、とか。そういう相談に私が乗れるわけがないから、事情を知ってる二人に乗ってほしいな……って思いつつ、そういえばそういう経験あるのかな、と首を傾げる。アザミさんは最近シゲキさんと怪しいけど、シゲキさんはそういうことしなさそうだし。

 

「ね、多分透華が今あわあわしちゃってるからお話聞きに行こうって思ってるんだけど」

「そうね。話だけでも聞いてあげましょっか」

「しかし、私たちもニコのことをバカにできないくらい処女だからな。力になれるかどうか」

「誰かと話して気持ち和らげるだけでも大分違うでしょ。あとあんま軽々しくそういうこと言わないの」

「……やっぱりシゲキさんとはそういうのないんだ」

「し、シゲキとそういうことがあるわけがないだろう。共同で研究開発を行っているだけであって、男女の付き合いと向こうが口にしたのにも関わらず、そのようなことは一切ない。というか私から願い下げだな。シゲキとそういうことをするなど考えられるわけがないだろう。シゲキは私の頭脳を欲しているだけであり、私もシゲキの頭脳を利用しているだけだ。そこに性と結びつくような雰囲気はない。滅多なことを言うな」

 

 やめとこうと思ったものの、やっぱり気になって聞いちゃったら思ってる倍以上答えが返ってきた。アザミさん、佐藤さんのことをバカにできないくらいわかりやすいと思う。恋愛初心者すぎでしょ。あまりにもかわいい。

 月宮さんがアザミさんを優しく抱いて「はいはい、落ち着いて」とぽんぽんすると、アザミさんは「別に、落ち着いてる……」ともにょもにょ言いながら俯いた。シゲキさん、罪な男……。シゲキさんに対して罪って言う言葉がややこしすぎる。慣用表現的な意味で言った。

 

「それじゃ、透華のところ行きましょっか。どこにいるかわかる?」

「うん! こっちだよ」

「そもそもシゲキが私のことをそういう風に意識しているなら既にそうなっている。あいつはそういう男であって」

「いつまで言ってんのよ」

 

 

 

 

 

 グレイヴィーさんとミハイルと別れ、とりあえず透華を探そうとホテルを歩く。ホテルの廊下を彩る装飾はどれも豪華絢爛で、あぁ、イベリスが設計したんだなというのが丸わかりだった。どこもかしこも自動化されているのは、やはり『project:eden』の技術力と言うべきか。

 透華は俺たちの部屋の前にはいなかった。満もなぜか話しかけても返事がない。透華の行方がわからなくなった俺は、とりあえずロビーに向かった。ロビーなら誰かが通るだろうし、透華を見た人がいるかもしれんしな。

 

 エレベーターでロビーまで下りる。ロビーはかなり広く、天井も高い。天井からぶら下がっているシャンデリアはなぜかメリーゴーランドのようになっており、クセでイベリスの姿を探してしまうのは仕方がないことだと思う。

 また、ロビーにはラウンジがあって、カフェのようになっている。実際にルイスが当たり前のようにソファに座ってコーヒーを飲んでいる。ルイスの向かい側にはシェリーさんとサラさんがいて、あそこだけめちゃくちゃ大人っぽい雰囲気に包まれていた。

 

「おや、ニコか。こんにちは」

 

 何か重要な話をしていたら申し訳ないと思って離れようとすると、シェリーさんが声をかけてくれた。これで離れるのは失礼過ぎる。頭を下げて近づくと、テーブルに既に俺の分のコーヒーが置かれていた。

 

「なぜ……?」

「クールな気配がしていたからな。くると思って用意しておいた」

「流石だな……。ありがたくいただこう」

 

 少々気が動転しているところもある。今の俺にとっては、コーヒーはちょうどいい精神安定剤になるだろう。恥ずかしながらコーヒーの違いはあまりわからないが、そんな俺でも香りでかなりいいものであることはわかる。

 

 ちょっと調子に乗って「うーん、ブレークファスト」と呟くと、「多分、言いたいことと違うと思う」とサラさんにツッコまれた。俺も間違えたと思ったからいいじゃないですか!

 

「そういえば、さっき優姫とすれ違った。アザミと満もいたよ。今日は一緒じゃないんだね」

「おや、そうなんですか。入れ違いだったか……」

「もしかして探してた?」

「少し。妻を探していまして、満と妻が一緒にいたはずなんですが、別行動しているとは」

「そっか。あ、そういえば後で挨拶しに行ってもいい? 優姫に勝った人のこと見てみたいから」

「月宮さんに勝ったというわけではないということを強く主張しておきます。ただの挨拶であればぜひ」

 

 なぜサラさんは月宮さんが俺のことが好きだと思い込んでいるんだ……? 結構前の配信で、「優姫とニコっていいよね」と言っていたし。一部の視聴者にそういうのが人気であるということは知っているが、まさかアザミ以外にそういういじりをする人がいるとは思わなかった。

 ……まぁ、サラさんは月宮さんが大好きだから、そういう人にそう思ってもらえるのはプラスではある、のか? 月宮さんにとってマイナスであることは間違いないが。

 

 いつかちゃんと月宮さんに謝らなければな……と考えていると、シェリーさんが音もなくカップを置いて、視線を俺に向けた。めちゃくちゃ様になってるのに、この人味がわかってないんだよな……。

 

「人探しならルイスさんに頼んでみたらどうだ? 居場所ならすぐにわかると思うが」

「ん? あぁ、ニコが望むならクールにそうしよう。もっとも、今は行かない方がいいだろうな」

「それはなぜだ?」

「クールに教えられない。クールに時間はあるんだ。いずれロビーにくるから、それまでクールな時間を過ごすといい」

「……ルイスがそう言うなら、そうなんだろうな。わかった」

 

 時々言っていることがはちゃめちゃだが、言っていることに間違いはほとんどない。ルイスはそういう男だ。あらゆる情報から誰がどこにいて、どういう状況になっているかを推理するのは造作もないことなんだろう。化け物だな、こいつ。

 

「ところで、三人はなぜここに?」

「私とサラはリックとエルとロイを待っていてね。ルイスさんは15時からの配信の準備らしい」

「15時……? あぁ、そういえば15時からラウンジの音声は配信されるんだったか」

「あぁ。せっかく『project:eden』が集まるのなら、何かしらの供給はクールにするべきだろうと思ってな。さっきまで音声チェックをやっていた」

 

 『project:eden』がイベリスのホテルに集まるということは、視聴者に伝わっている。その間どのライバーも配信がなし、というのは寂しいという人もいる。ただライバーはほとんど休暇のつもりできている。だったら、そのありもしない配信ノルマを『ラウンジの音声を垂れ流しにする』という方法でクリアしよう、という考えらしい。別にラウンジにくるのは義務でもないし、個人で配信する人は配信してもいい。完全にファン向けのコンテンツで、切り抜き師の腕の見せ所というやつだな。

 

「というわけだ。積極的じゃなくてクールに構わないが、クールにラウンジを利用してもらえると助かる」

「もちろんだ。身内もいるから、そっちを優先することになるとは思うが……」

「その程度でいい。本来、休暇のつもりで集まってもらっているからな」

 

 ……なんか、アレだな。ルイスとは波長が合う。居心地がいいというか落ち着くというか。俺までクールになったような気がする。思えばシェリーさんもサラさんもクールだし、ということは俺もクールなんだろう。大人の男だしな。透華のことについても、クールな俺ならクールに対応できるはずだ。

 

「あ、あの人が透華?」

 

 動揺のあまりコーヒーを噴き出した。

 

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