稼ぎの少ないオカルト事務所所長、VTuberになる   作:酉柄レイム

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第204話 目隠し

「あれ、ニコさんじゃん。なんで目隠ししてるの?」

「周りに女王様はいらっしゃらないようですが……」

「この声は……愛人と聖麗か」

 

 プライベートビーチ。潮の香りと波の音。遠くでみんなが遊ぶ声。対して俺は、日焼け避けのパラソルの下で目隠しをして精神統一をしていた。

 なぜ俺がそんなことをしているのか。それは、『透華以外の女性を見てみっともない真似を晒してしまう可能性があるのであれば、そもそも見なければいい』という結論に至ったからだ!! 俺が透華の側にいなくとも、イレイナさんが守ってくれるからな。何があっても大丈夫だろう。シゲキが戦車に乗り込んで襲撃でもしてこない限りは。その可能性がゼロじゃないのが不思議なところだな……。

 

「お前たちにも愛する人ができればわかる」

「僕彼女いるけど……」

「えぇ!!!???」

「おや、知らなかったんですか? 厨二病で健気で素直で大変可愛らしい方ですよ」

「おい、今僕の彼女に色目使ったか?」

「そんなまさか。幽霊なら一考の余地ありですが」

「できれば二度と満には近づかないでもらえるか」

 

 まさか愛人に彼女がいるとは……。とても彼女がいる男の動きだとは思えない。シェリーさんに踏まれて喜んでいなかったか? 彼女さんは愛人の活動のことを知っているのだろうか。知っているのなら、随分器が大きいというか……いや、愛人のことだからめちゃくちゃ怒られてるけどやっている可能性もあるな。

 まさか、と思ってしまったことは反省しよう。俺にとって愛人は舐め腐っていて何をするのかわからない時限爆弾みたいなものだが、彼女さんにとっての愛人さんはいい男なのだろうしな。透華が俺に好意を抱いてくれているように、その人にしか見えないいいところというのは存在する。

 

「でも、もったいないよねぇ。せっかくみんなかわいいのに」

「やめろ! 俺に女性の水着姿についての情報を入れてくるな!」

「うーん、シェリーさんはやはりボインですねぇ」

「お前、シェリーさんだけは本当にやめておけ。不貞を働いたら殺されるぞ」

「えぇ。今、ミハイルさんに銃口を突きつけられているところですから。あとここって日本ですよね?」

「プライベートビーチだからな。細かいことは気にすんな」

 

 プライベートビーチは別に治外法権でもなんでもないとは思うが、聖麗の暴走が止まるのならまぁいいか……。本物の銃っていうわけでもないだろうしな。俺は目隠しをしているから見えないが。

 ミハイルは「見るなとは言わねぇけど、変なことしたら殺すからな」と聖麗に釘を刺して、俺の隣に座る。別の事務所に所属していると言ってもやはりヴァールハイト。ボスであるシェリーさんへの忠誠心はあるらしい。

 

「ミハイルは向こうに行かなくていいのか? フレイルさんもいるが」

「ボスに『見るなとは言わないが、変な真似をしたら殺す』って言われて、自信なかったから逃げてきた」

「失礼。先ほどワタシに言ったセリフは憂さ晴らしと捉えていいですか?」

「黙れ」

「ミハイルさんもよくここに乗り込んできたよねぇ。思い通りになるわけないのに」

「成功ってのは掴みにいったやつにしか訪れねぇんだよ」

「へー。僕、やりたいって思ったことは大体全部できるからその気持ちわかんないや」

「死ねよお前」

「コミュニケーション苦手かよ。言葉強すぎだろ」

 

 あぁ、落ち着く……。見えてはいないが見える距離に危険物(透華以外の水着姿の女性)がいるというのに、俺の周りには俺の友人の中でも性格が終わり気味のやつらばかり。気がまぎれるどころの騒ぎじゃない。愛人と聖麗が近くに来た時は性的な話題ばかり投げかけられると思っていたがそうではなかったし、ミハイルがきてくれたのも大きいな。

 ただ、帝斗がみんなとの挨拶を兼ねて交流を深めている関係上、俺の近くに帝斗がいないからその代わりをしてくれているようで大変申し訳ない。もはや俺は介護される運命にあるのだろうか。スペック的には似てるしな、帝斗とミハイル。

 

「んで、お前こそ行かなくていいのかよ」

「バカかお前は! 俺が目隠しを外し、透華以外の女性の水着姿を見て醜態を晒したらどうするんだ!」

「んなことより透華ちゃんはニコと遊びたいんじゃねぇの?」

「……それは」

「ねぇ聖麗さん。さっきボインって言ってたけど、どっちかって言うとボインボインじゃない?」

「一理ありますねぇ」

「今真面目な話してっから向こう行っててくれ」

 

 いけず! ワタシとは遊びだったんですね!? とやかましいことを言いながら二人は去って行った。今更だけど一緒にしちゃいけないだろあの二人。

 

 あの二人のことは置いておこう。ミハイルの言った通り、俺は醜態を晒さないことばかりに集中していて、大切なことを忘れていた。元々旅行に行こうという流れでここにきたというのに、俺が透華と一緒にいなくてどうするんだ? それこそ醜態なんじゃないのか?

 ……ただ。

 

「ただ、今透華と顔を合わせてまともでいられる自信がない……!!」

「まだ引きずってたのかよ」

 

 透華を抱く、というのを透華に聞かれて、さっきラウンジで会って、お互いうまく言葉が出てこないまま、「ビーチに行くわよ!!」と豪華絢爛な装飾が施されたハイレグを着たイベリスがカットインしてきてなんやかんやで今に至る。

 つまり、ものすごく気まずい。あと嫌なものを思い出して気分が悪い。というかあの変態は今透華の近くにいるのか? 満の近くにもいないでほしい。教育に悪すぎる。

 

「クソッ、俺はどうすればいいんだ……!!」

「……うじうじ悩むのもニコらしいっちゃニコらしいって言われんだろうけどよ、透華ちゃんの『海で遊んだ』って思い出の中に、今のところお前はいねぇんだぞ?」

「!!!」

「あの時楽しかったねとか、水着褒めてくれたーとか、そういう思い出の共有すっぽかしてまで避けるもんなのか? お前の醜態ってやつは」

「……ありがとう、ミハイル。決心がついた」

 

 立ち上がり、目隠しに手をかける。「あ、ちょっと待て」という気を遣ってくれているミハイルの声を無視して、目隠しを取っ払った。今行くぞ、透華!!

 

 そして、数分ぶりに晴れた俺の視界に、豪華絢爛な装飾が施されたハイレグを着たイベリスがなまめかしいポージングをとっている光景が襲撃してきた。

 

「う、うわああああああああ!!!!!」

「ワリィ、ニコ。あの人ここにきてずっとあの状態だったから、目の前にアレがいるって伝えるの忘れてた」

「お前はなんてとんでもない失敗を……!! 目が痛む!!」

「どうやら、苦しんでいるようね」

「当たり前だろう!!」

「私がオシャレすぎるがあまり」

「ちが……いや、今回はそうだ!!」

 

 これでも透華がどんな水着を着ているのかとドキドキしていたのに!! なぜ俺が最初に見た水着姿がイベリスのものなんだ!! あと忘れてたって言ってたけどミハイルは絶対確信犯だろう!! あと聖麗と愛人もだ!! 絶対「今目隠し取らせたら面白い」って思って俺に話しかけにきただろう!! 聞こえてるんだぞ、遠くで爆笑してるの!!

 

「それより、あなたもやっとオシャレする気になったのね。オシャレなことはオシャレしてあげるから、存分にオシャレなさい」

「心配してくれていたのか。ありがとう」

「じゃあ俺も」

「ミハイルは風紀を乱すからここにいなさい!」

「テメェが乱してんだろうが!!」

 

 とんでもない罰ゲームを受けているミハイルに謝罪しながら、海へ向かう。視界の先ではみんなが遊んでいて、この距離でもめちゃくちゃ緊張する。思えば、誰かの水着姿を見ることなどニッコリ探偵団で行ったプール以来じゃないか? あの時もあの時で……いや、案外大丈夫だった気がする。そりゃあ最初はドギマギしたが、遊び始めたら気にならなくなったな。じゃあ今回もそこまで気にする必要はなかったか!!

 あとは、透華と会った時になんと話すかだ。喋る言葉を間違えれば、男としての失敗作の骨格標本として博物館に展示されかねない。そうなってしまえば先祖末代までの恥だ。というかそれで済めば御の字だ。

 

 覚悟を決めて、一歩一歩砂浜に足跡をつける。最初に俺に気づいてくれたのは帝斗だった。透華の肩を指先で叩き俺を指す。透華はイレイナさんの背中に隠れた。

 

「俺に、挽回のチャンスはないというのか……!?」

「バカ言ってねぇで早くこっちこい」

 

 頭が真っ白になって膝をついた俺の隣に、いつの間にか帝斗がいた。バカお前、安易に水に濡れるんじゃない!! お前に惚れてしまう女性が出てしまったらどうするんだ!!

 

「……帝斗、透華の様子は?」

「普通って言いてぇところだけど、明らかに佐藤を意識してる」

「そ、そうか」

「ちゃんとかわいいって言ってやれよ。満ちゃんブチギレてたぜ。今あっちで星菜ちゃんと遊んでるから多分もう忘れてるけど」

「楽しそうだ……。よかったなぁ、満……」

「時間稼ごうとすんな。もう連れてくからな」

「あっ、待って!! 心の準備を!!」

 

 帝斗に手首を掴まれて、海に連れていかれる。本当に待ってくれ!! 心の準備というのもそうだが、このままでは俺が帝斗のヒロインみたいになってしまう!! あとそこで埋まっているイオスについては触れない方がいいのか? 多分またイレイナさんに失言をかましたのだろうとは思うが。

 海に入ると、帝斗が手を離した。ここからは自分で行け、ということだろう。水の中は体が重くなるものだが、そういう物理的なものとは別の理由で体が重く感じる。

 

 透華が、イレイナさんに背中を押されて俺の前に出てきた。

 

「は? かわいいな」

「え」

「……!? いやすまん、脊髄反射というかなんというか、そういういやらしい意味で言ったわけでは、あぁもうアレだ。遠泳してくる!!」

「おい待て佐藤!! 一人で行くな!! 流されて無人島に遭難しかねねぇんだから!!」

「うおおおおおおおおおお!!!!!!」

「なにっ、遠泳だと!? エンターテイナーとして聞き捨てならん!!」

「ややこしいのが増えやがった!!」

 

 うおおおおおおおおおおおお!!!!! 消え去れ、俺の性欲!!!!!!

 




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