稼ぎの少ないオカルト事務所所長、VTuberになる 作:酉柄レイム
「あ、西園寺さん!」
佐藤が遠泳しようとするのを何とか防ぎきって、なんとかしようにもぎくしゃくしたまま風呂に行って、「サウナを一番堪えられた者が真のエンターテイナーだ!!」とリニスさんに煽られてそのまま閉じこもりやがったバカを放置して風呂を出ると、ちょうど星菜ちゃんがいた。向こうも風呂上がりらしく、ホテル備え付けの浴衣を着ている。星菜ちゃんのファンが見たら死ぬだろうな。
そして星菜ちゃんの後ろから、純花さんがひょっこり顔を出した。柔らかく微笑みながら小さく振られた手に同じように返して、「妹だけで楽しんでるみてぇな感じか?」と聞くと頷きで返ってきた。
「満ちゃんは?」
「透華さんと一緒です!」
「そちらも、ニコさんはまだお風呂に?」
「はい。なんかサウナで競い始めたんで出てきました。せっかくなんで俺以外とハメ外すのもいいかと思いまして」
「えー。西園寺さんもいた方がニコさん嬉しいと思いますよ?」
「かもな」
まぁ、透華とのことがあって、できれば俺の助言なしでなんとかしてほしいってのもある。言いにくいけど、そういう性の関係の話は俺が間に入るわけにもいかねぇし、そういうことがある度に相談されると透華もいい気しねぇだろうし。最初に手を差し伸べると「助けてくれるよな……?」みたいな顔して近づいてくるから厳しくしねぇと。小動物かよあいつ。
つっても、飯は全員出てこねぇと食わねぇしどうすっか。そう悩んでいると、星菜ちゃんと純花さんから何か聞きたげな視線をぶつけられる。な、なんだ?
「西園寺さん。聞いちゃっていいかわかんないですけど」
「おう」
「ニコさんと西園寺さんの馴れ初め、教えてください!」
「付き合ってるみたいな言い方やめてくんね? 教えること自体はいいけど」
「やった! ふふ、さっきみんなに聞いたら誰も知らないって言ってたので、私たちが一番乗りです!」
「めっちゃ喜んでくれるな。そんなに面白い話でもねぇぞ?」
「ニコさんが関わっていて、面白くない……?」
純花さんにまでそういう評価されてんのかよあいつ。流石だな。
この場じゃなんだしってことで、畳が敷かれてる休憩スペースに移動する。「畳だー!」って言ってごろごろ転がり始める星菜ちゃんを微笑ましく思いながら、一応男の前なのに無防備すぎると思って後で明さんたちに言っておこうと心の中でメモをした。ニコの親友だからって信頼してくれてるんだろうけど、それはそれでこれはこれだからな。
純花さんは星菜ちゃんみたいにはしゃがず、お淑やかに座った。妹だけどお姉さんみたいだな。星菜ちゃんが無邪気すぎるってのもあるけど。
「んじゃ、話すか。てかなんでいきなり?」
「さっき星菜さんとお話したんです。西園寺さんと仲良しさんになるためにはどうすればいいかな、と」
「なるほど。じゃあ透華にも似たようなこと聞いたんですか?」
「透華さんには後でみんなで聞こうかと。本来の意味の馴れ初めなので」
「アー。あんまいじめてやんないでくれよ? あいつ、すげー初心だから」
「うふふ。可愛らしい方ですよね、透華さん」
「ね! ニコさんのこと聞くともにょもにょしてて可愛かったです!」
「お、転がり終えたか」
いつの間にか星菜ちゃんが近くで座っていた。あんだけ転がり回ってたのに汚れた感じが一切ないのは、流石イベリスさんのホテルって感じだな。ここで生まれ育ったら全病原菌への耐性が身に付かないくらい汚れがない。
楽しみを隠せない二人に苦笑して、佐藤との出会いを思い出す。もう十数年も前のことだってのにはっきり覚えてる。
「最初に会ったのは、俺が自殺しようとしてた時だな」
「え」
「ええええぇぇえええええ!!???」
だから言ったろ、面白い話じゃねぇって。
自殺しようとした理由は、俺も今じゃ短絡的だと思ってんだけど、野球選手としての道が断たれたからだった。結構有名っつーか、プロ入り間違いなし! みてぇな感じで、まだガキだった俺はその未来しか見えてなくて。そんなやつが事故って選手生命断たれたもんだから、じゃあもう面白くねぇし死ぬか、って。短絡的っつったけど、今の俺からしてみりゃ佐藤がいなくなるのと同じくらい衝撃的な出来事だった。
んで、漫画とかアニメとかでよくある学校の屋上からってのは普通に迷惑かかるし、電車に轢かれるとかも迷惑かかるし、じゃあ海にでも沈むかって思って、夜に家抜け出してチャリ漕いだんだ。ちょうど、今と同じ夏だったな。
死ぬつもりだったからスマホも置いて、持っていったのはチャリの鍵とチャリだけ。マジでバカだなって思ったのは、チャリで海までって相当遠いし、スマホもナシで勘だけで行くってどういうことだよって。多分そんときの俺は自分で自分にツッコんで笑ってた。そんくらいの余裕、っつーのかな。そういうのはあったんだ。もうどうでもいいって思ってたから。
そんでしばらくチャリを漕ぎ続けてたら、俺と同じくらいの歳の、ひょろひょろしたやつがチャリ漕いでて。マジで偏見だしよくねぇけど、見た目的にこいつも一緒かなって思って、なんとなく声かけたんだ。海までっすか? って。そしたら、疲れすぎて息切れしすぎて何言ってるかわかんねぇの。クソ笑ったわ。
とりあえず水飲んだ方がいいぞって近くに自販機見つけて、そういや死ぬつもりだったから財布持ってきてなかったわって思って、そいつに金持ってるか聞こうと思って見たら、どっかで見たことあんなーって。向こうもそう思ったらしくて、名前聞いたら同じ学校で同じクラス。そう、そいつが佐藤だった。あと佐藤はめちゃくちゃ安心してた。そんときはよくわかんなかったけど、少なくとも初対面じゃないってわかったからだろうな。
で、佐藤が自販機で水買って。息切れしながら水飲んだもんだから地上で溺れ始めて。俺より先にそんなバカみてぇな理由で死なれてたまるかって思って急いで助けた。そんときに初めて声聞いたな、ありがとうって。それまでは掠れてるか息切れしてるかのどっちかだったから。
せっかく喋れるようになったし、なんで海に行こうとしてるんだ? って聞いてみた。それ聞いたら俺も聞かれるなって思ったけど、別に聞かれてもこいつからなら逃げきれるだろうしって思ってさ。そしたら、「人生で一度もうまく行ったためしがない。だから、なんかむしゃくしゃして、海に行こうと思った。何かが変わるんじゃないかと思って」って。こいつは死のうとしてるわけじゃねぇんだなって思った。だから、早めに離れるべきかって。俺が死のうとしてるって話したら、影響されて死ぬって言いかねねぇと思ったし、眼帯してたし、いかにもって見た目だったから。
だから、適当に会話切り上げて別れようとしたら呼び止められて、「でも、今もうどこにいるかわからない。助けてくれ」って言われてさ。俺に影響されて自殺するかもって思って離れようとしたのに、離れたら死ぬかもしれねぇなんて反則じゃね? って思いながら、スマホは? って聞いたら、無我夢中で飛び出してきたから忘れたって言われて。じゃあなんで財布持ってるんだよって聞いたら、最近コインマジックの練習をしてるからって言われて。いつやろうと思ったんだよコインマジックの練習。
かなり悩んだけど、一緒に行くことにした。海の近くまで行って、適当に撒いて、そんで死のうって思って。
海に着くまでの間、色んな話をした。幽霊が見えるだとか、佐藤の考えたクソいてぇ設定の話だとか、どうすれば友だちができるかだとか、大人ってなんなんだろうな、とか。あー、こいつこじらせてんなぁって思いながら、でもやっぱ面白くて。全部が全部、根っこから本気で言ってる言葉なんだろうなってわかったから。そんなやつって普通いねぇんだよ。誰でも取り繕うもんだし、そうやって自分にとって生きやすい世界を作るもんだから。でも、佐藤にはそれがなかったから、新鮮で面白かった。
そんな話をしながら、海が近い時の、潮の香りがしたときだった。そろそろ撒くかって思ってペダル漕ぐ足に力込めた時だった。佐藤に言われたんだよ、両親には言ったのかって。
おかしいなって思ったんだ。だってそうだろ? 普通こういう時って死ぬのはよくないとか、自殺止めるじゃん。ただ、佐藤が言ってきたのは、両親には言ったのかって。まるで死ぬのは肯定してるみてぇな言い方で。混乱したまま黙ってたら、そのまま喋り始めてさ。
「お前が死ぬと決めたなら、お前の選択だからな。死なない方がいいとは思うが、ちゃんと納得してそうしようとしているなら無理には止めはせん。幽霊というものが存在していることは俺も知っているし、輪廻転生もあると信じている。ただ、お前はいいやつだ。今から死にに行こうとしているのに、こんな俺のことを助けてくれた。友人がひとりもいない俺の話を笑って聞いてくれた。そんなお前の両親は、素晴らしい方々なのだろう。だったら一言でも言っておくべきだ。ありがとうと。この世に生きた証を、認めてもらうべきだ。お前の命はお前のものだが、お前を大事に想ってくれている人がいることをちゃんと知るべきだ。それでも死ぬって言うなら、また一緒に海に行こう。その……楽しかったからな。俺も、お前に死なれるのは嫌だ。海に着くまでの時間で、お前に死にたくないと思わせてみせる」
マジで、佐藤の顔見れなくてさ。あー、こいつは俺が死のうって思った経緯とか知らねぇのに、死のうとしたっていう決断自体は肯定してくれて、その上で止めてくれてんだなって。あと、厳しいなって思った。親のこと言われたら、そりゃあ、さ。もう全部どうでもいいって思ってたのに、やっぱり踏みとどまっちまった。
そんで、気づいたら喋り始めててさ。
「俺、もう全部どうでもよくなったんだ。野球選手になろうと思ってて、事故って無理になって、じゃあ死のうって」
「あぁ」
「周りとかもさ。俺にめちゃくちゃ期待してくれてたもんだから、心配はしてくれてたんだろうけど、落胆の色が見えたんだよ。そんときにさ、あー、こいつらは俺のプロ野球選手っていう将来のステータスを通して俺を見てたんだなって思っちまって」
「あぁ」
「……でも、そうだよなぁ。父さんと母さんは、そうじゃなかったんだよなぁ。どうでもいいって自分に言い聞かせて、聞こえないフリしてたけど」
「あぁ」
「残念だったねとか、そういうんじゃなくて、生きててよかったって、言ってくれたんだよなぁ」
「……それに気づけるうちは、死ななくていいと思うぞ」
帰るか、って言われて、自然と頷いてた。
「そしたらあいつ、帰り道わかんねぇっつって泣きついてきてさ。クソ笑ったわ。そんでそっから一緒にいるようになって、今まで親友やってるって感じで……」
黒歴史だから話すのが恥ずかしいな、って思いながら、でも懐かしくて夢中で話してて気づかなかった。
「うっ……ぐす」
「……」
めちゃくちゃ泣かせちまってる……。やっちまった。もっとラフに話すべきだったか? てか話すべきじゃなかったか。クソッ、佐藤がいいやつだってより知ってもらいたいがばかりに詳細に話しちまった……!!
「アー、悪い二人とも。大丈夫か?」
「うー……いい話……」
「……申し訳、ございません。そのような過去があるとは思わず、不躾でした」
「いやいや、こっちこそごめんな? もっと軽い感じで話せばよかった。えーっと、ハンカチ……」
「あれれー? なんか私たちの可愛い妹が泣いてるねぇ、
「西園寺さんのことだから悪い感じで泣かせたわけじゃないでしょ。まぁ、色男の可能性もなくはないけど……」
私らってよりは……と小さく呟いた明さんの視線の先には、茉莉さんがいた。一瞬般若かと思った。
「納得させられるもんなら、させてみてください」
「違うんです、兄さん。これは私たちが悪くて……」
「純花さん、その言い訳はなんか俺が最低な男に映りません? えーっと、その、俺と佐藤がどういう経緯で今に至るかって話をしてて」
同じ話をしたら、泣きながら謝られた。