稼ぎの少ないオカルト事務所所長、VTuberになる   作:酉柄レイム

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第206話 推理

「月宮さん。さっきシゲキがアザミを連れて行ったのを見たが、つまりそういうことか?」

「えぇ、つまりそういうことよ」

「やるときはやるんだね」

 

 帝斗と透華がみんなと話していて、その交通整理を満がやっているのを見ながら、月宮さんとマリーと並んでご飯を食べる。

 今日の夕飯は立食パーティだ。休暇と交流を兼ねて、好きなときに好きな人と喋れるようにこのスタイルにしたらしく、そのおかげで帝斗と透華を連れていかれて俺は面白いくらいに孤立して、そこにすかさず月宮さんとマリーがきてくれた。本当にいい人たちだ。

 

 しかし、流石帝斗と透華だな。ずっと引っ張りだこじゃないか。さっきルイスから「二人が人気なのは、同時にお前の人気の証明でもある」とクールなことを言われたが、確かにそれはありつつもそれがなくてもあの二人は人気だと思う。欠点がないしな。

 

「ところでニコちー。さっきとんでもない噂聞いたんだけど」

「なんだ?」

「透華を抱くって」

 

 水を飲もうとして口に含んだ瞬間にそれを言われて思いきり噴き出してしまった。それをわかり切っていたかのように月宮さんが拭いてくれて、マリーが水を交換してくれる。ジジイ過ぎないか? 俺。

 というか、どこで聞いたんだ……? 好き勝手言いふらすような人はいない……まぁ一部言いふらしそうなやつはいるが、そういうやつらはそのことを知らないはず。

 

 いや、犯人捜しはやめよう。見つけたところで意味はない。

 

「ど、どこでそれを?」

「え、マジなんだ」

「え」

「部屋が透華との二人部屋っていうのは知ってたから、ニコちーなら変に暴走してそういうことになってるかなーって思って言ってみた。そっか、マジなんだ」

 

 月宮さんが俺を見てくる。私どうしたらいい? だと? 俺が教えてほしい。ありがたくも俺のことを好きでいてくれて、未だその想いを抱いている女性に対して、口を滑らせて透華を抱くと言ってしまった俺の方が窮地だろう。月宮さんが気まずいのはわかるが、ここにいてくれないと困る。俺が情けなくて死ぬ。

 そんな俺たちの様子を見てか、マリーは「別に、気にしてないよ」と小さく笑った。

 

「や、気にしてないっていうのは嘘だけど。そりゃあ透華はニコちーのお嫁さんだし、そういうのは仕方ないじゃんね。私からカマかけてそうだったから落ち込むってのもワケわかんないじゃん?」

「じゃあなんで確認したのよ」

「さっきシゲキさんがアザミんに『俺に時間寄越せ。そういうモンなんだろ?』って言って、アザミんが顔赤くして俯いてて可愛かったから、ニコちーたちはどうなのかなって」

「詳しく教えて」

「そこに椅子がある。座って話そう」

 

 腰を据えて話を聞く必要がある。俺たちにはその権利がある。椅子を引いてマリーを先に座らせて、俺と月宮さんは互いに頷き合ってから椅子に座った。

 まさかシゲキがそんな行動に出るとはな……。交際関係にある男女はそういうものだから、という前提があるのだろうとは思うが、それが何を意味するか理解できないシゲキではない。それでもアザミを誘ったということは、つまりそういうことだろう。

 

「く、詳しく教えてって言われても、そんだけだよ」

「まだシゲキさんがどんな様子だったかを聞いてないわ。人の心理っていうのはその人が意識していなくても表情や仕草に現れるものなの。できるだけ正確に教えて」

「周りに人はいたか? マリーの他に目撃者は?」

「どこで探偵のスキル発揮してんの」

 

 呆れつつ、マリーは下唇に指をあてて「んー」と考え込む。かわいい。

 マリーが考えている間、月宮さんと一緒に周囲を確認することにした。何かシゲキとアザミの痕跡があれば、あの二人が出て行った理由の詳細がわかるかもしれない。依頼のないオカルト探偵事務所所長の俺だが、依頼がないとは言っても頭が回らないというわけじゃないからな。少ない情報からでも真実を導き出してみせる。

 

「……!! ルイスとイベリスがいない……?」

「少なくとも、あの二人の興味を惹くような出来事であるっていうのは確かね。でも、あの二人なら」

「アザミとシゲキがそういう雰囲気になったのなら、すぐに戻ってくる」

「どっちかって言うと、冷やかしで見に行ってるっていうよりはシゲキさんがやらかさないか心配で見に行ってるって感じよね」

「あぁ。だから問題ないと判断したら戻ってくる。そして、戻ってくるということはアザミとシゲキを二人きりにしても問題ないかつ、邪魔をしてはいけない状況ということだ」

「噂をすれば、ね」

 

 月宮さんの視線の先を見れば、ルイスとイベリスがいた。二人はなぜか涙ぐんでいる。何か言っているな……。口の動きから、「クールすぎたな……」「オシャレ過ぎたわね……」といったところか。いつも通り過ぎて何があったかさっぱりわからんが、とにかくいいことだったということはわかった。

 これで、恐らくという枕詞はつくが、通常の男女の関係として問題ない、とルイスとイベリスが烙印を押したということになる。普段のシゲキの様子からすればそんなまさかと思いたいが、一度学べば興味が尽きない限り追究し続けるやつだからな。そう考えれば不思議じゃない。

 

 ……よく考えたら、シゲキって結構スマートじゃないか? 羞恥心という感情が欠落しているからかもしれんが、俺よりもよっぽどスマートだ。少々どころかかなり理不尽なところはあるが、俺様系と言っても差し支えないし、もしかしたら俺はシゲキから学ぶ必要があるかもしれん。

 

「真理。どう? 思い出した?」

「その必要がないくらい二人で仲良く推理してたじゃん。相性良さそうでいいね」

「いいに決まってるでしょ。それで?」

「シゲキさんがあんなのだから、人目気にせず誘ってたから色んな人が知ってると思う。そこに聖麗と愛人さんが埋まってるのも、多分覗きに行こうとしたからだろうし」

「あぁ、違和感がないから触れなかったが、そういうことか」

 

 地面から生えている聖麗と愛人、その近くに座っているシェリーさんとエルロイさん。ヴァールハイトの武力はやはりすさまじいな。間違っても敵対しないようにしよう。

 

「シゲキさんはいつも通りだったよ。有無を言わさず、みたいな感じで。それにアザミんがドキッてしてたみたいな。意外と乙女なところあんだね」

「そういうのに慣れてないっていうのが大きいでしょうけど」

「ただ、月宮さんは同じようなことをされてもドキッとはしないだろう?」

「それ、私が乙女じゃないって言ってる?」

「どうなんだ、マリー」

「失言したからって私にぶん投げないでよ」

 

 俺の失言は、「ま、乙女って歳でもないしニコの言う通りだから、気にしてないわよ」と月宮さんが心の広さを見せつけることで許してもらえた。

 本当に悪い意味で言ったつもりはなかった。カッコいい素敵な女性だから、引っ張られるよりも引っ張る、もしくは隣に並ぶといった方が月宮さんは合うと思って……。女性人気高いし……。

 

 にしても、まさかこの俺がアザミのそのような姿を見逃すとは……。というかシゲキのことが好きだとかなんだとかアザミに言うとごちゃごちゃ言う割には、どう考えても好きだっていうことが丸わかりな態度だよな。そこが可愛いところでもあるんだが。

 

「まぁ、このくらいにしておくか。あまり詮索するようなことでもないしな」

「そうね。どうせアザミから何か相談されるでしょうし、その時に詳しく聞きましょ」

「じゃあ優姫の相手について考えよっか。どうすれば優姫に彼氏ができるんだろ」

「一応帝斗がフリーだが……」

「流石に同期の身内はねぇ。それに、イレイナさんと戦うつもりもないし」

 

 ちなみに、帝斗がイレイナさんに狙われている、いや、命を狙われているという意味ではなく好意を寄せているという意味で狙われているというのはもう全員知っている。というより、イレイナが「いい男だろ? 私の心を掴んで離さねぇんだ!」と笑いながら帝斗を紹介し、イオスが「イレ姉を掴んで離せない人なんていねぇでしょ。そんな怪力なのに」と言ってまた天井に突き刺さっていた。イオスが天井に突き刺さっているのは余計な情報だった。

 それでいうと、帝斗はどうなんだろうな。人の好意を無下にするやつではないし、俺が知らないだけで結構進んでいるのかもしれない。今度それとなく聞いてみるか。

 

「そもそも、優姫って彼氏ほしいの?」

「別に。そういうのわかんないし」

「優姫ってカッコよくて綺麗で完璧って感じなのに、恋愛が全然わかんないのめちゃ可愛いよね」

「わかる」

「うっさいわね! ていうかニコも透華と会ってなきゃ全然独り身だと思う……いや、そんなことはないわね」

「なんで私見て気まずそうに意見変えたの?」

 

 まぁ、透華がいなかったらマリーからの猛攻を受けていただろうな……。別に透華がいても猛攻を受けていたような気もするが。

 そう考えると俺はかなり恵まれている。俺のような人間が素敵な女性に、しかも二人から好意を寄せてもらえるなど奇跡以外の何物でもない。奇跡は起きるものではなく起こすものだと言うが、俺に関しては間違いなく起こるもので起こったものだな。

 

「透華と言えば。この後女の子だけで集まって、透華にニコとの馴れ初め聞こうっていう話になってるんだけど、ニコは聞かれてもいいの?」

「ん? あぁ、まぁ……うーん、恥ずかしい気もするが、透華がいいならいい」

「透華との馴れ初めなら、満も関わってくるんだよね。地味に知らないかも」

「そうだな。満と先に出会って、そこから透華とだから……」

 

 思えば、高校から数えて初めて女性とまともに喋ったのが透華が初めてだった気がする。あの時の俺は今にも増して童貞だったからな。まともに喋ったとは言ったが、それは俺視点の話であり、透華から見て俺がまともに喋っていたかどうかはわからない。

 まさかそんな俺の様子も話されるのかと思い勝手に恥ずかしくなっていると、マリーが「あ、そうだ」と呟いた。

 

「なんだ?」

「ニコちーと満がどうやって出会って、どうやって透華と会いに行ったかって透華は詳しく知らないんだよね」

「概要くらいは知っているが、そうだな。詳しくは知らん」

「じゃあ満と透華との馴れ初め的なの教えてよ。あとで透華の話と照らし合わせるから」

「あ、私も気になる」

「……隠すことでもないしな。話すか」

 

 そう、あれは確か……。

 

「大学に入って友人がひとりもできなかった頃の話だな」

「四年間から絞り切れないんだけど」

「大学一回生の頃の話だ……!!」

「四年間ずっと友だちできなかったってことね……」

 

 粒立てるな!!

 




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