稼ぎの少ないオカルト事務所所長、VTuberになる 作:酉柄レイム
ひ、非常にまずい。何がまずいかと言うと、大学に入ってもう既に初めての春休みだというのに俺の予定は帝斗と遊ぶこと以外まったくなく、つまりそれは友だちがひとりもできなかったことの証明になる。恥を忍んで両親に相談してみても、「俺もそうだったけどなんとかなったぞ」と父さんが自身の経験でもって封殺してくる始末。
友だちができないことは悪いことかと言われれば、そうではない、とは思う。友だちができずとも他に熱中できることがあって、友だちと遊ぶ時間をその熱中している何かに注ぎ込めるといったメリットも存在すると言えば存在する。
しかし、俺に限っては悪いことだと言わざるを得ない。なぜなら、帝斗と両親以外の人と喋らなさ過ぎて、度を超えたコミュ障になってしまっているからだ!!
もちろん、俺も友だちを作ろうと努力はした。サークルに入ろうと見学に行ったが陽の気にあてられて体調を崩し、それならば講義で班を組んだ時に友だちになろうと意気込んだが、「佐藤くんは何かある?」と聞かれた瞬間に「あっ、ないです」と答えるだけのゴミに成り下がり。
おかげで、中学高校では厨二病と辛うじていじってもらえた眼帯も、本当に目の病気で眼帯をしていると思われている。そのせいでめちゃくちゃ気を遣われて罪悪感がすごい。
というわけで、俺は未だに帝斗以外の友だちはおらず、その帝斗も今日からしばらく付き合いがあるとのことで予定が埋まっている。俺は、一人だ……!!
そんな一人ぼっちの俺は、両親を心配させまいと「友だちと遊んでくる」と言って家を出て、あてもなく散歩していた。なんかリストラされたけど嘘ついて仕事行く夫みたいだな。こういうことを考えられるくらいに余裕があるのは、他でもない帝斗のおかげだろう。本当に誰よりも幸せになってほしい。
地球温暖化が進んでいるとはいえ冬が暖かくなるかと言えばそんなはずもなく、俺の心と同様にめちゃくちゃ寒い。俺には筋肉がないから人よりも寒さを感じやすい……いや、肉もないから冷える肌もない、ということにならないか? そう思えば平気な気もしてきたな……。
「……ん?」
心頭滅却すれば火もまた涼し戦法を試そうとして、やはり寒さに震え始めた俺の目に、少女が映った。
年のころは恐らく中学生程度。遠目からだとよくわからないが、恐らく肌は日に焼けていて、黄色いラインが入った青のジャージを着ている。膝を抱え込んで座っていることから、何かあったのだろうと推察できるが……。大学生の男が女子中学生(推定)に話しかけるのはご時世的にマズいか? しかし……。
「どうしたんだ?」
話しかけられるのは俺しかいないから、話しかけてみた。俺しかいないというのは、この少女は幽霊であり、俺以外の人には見えないからだ。
俺が声をかけると、自身の膝に顔を埋めていた少女がゆっくりと顔を上げ、俺を見て目をぱちくりと瞬かせる。なるほど、見える人間に会ったのは初めてか。
《……?》
「君に話しかけてるんだ。幽霊だろう?」
《……》
「……? もしかして俺の声が聞こえていないのか? いや、それなら反応した説明がつかない……」
ど、どうしよう。友だちがひとりもできなかったからわからないが、もしかしてめちゃくちゃ気持ち悪い話しかけ方をしてしまったのか? 流石に子ども相手に人見知りはしないが、人見知りしないからと言ってコミュニケーションが問題ないかと言われればそうではない。最悪だ。俺は無意識に少女を怖がらせてしまっていたのか……!! 周りに普通に人がいるからめちゃくちゃ変な目で見られてるし。同じ大学の人がいたら終わりだな。そうなったらもう勉強しまくろう。猛勉強だ! ははは。
激うまジョークで自身の心を落ち着かせ、少女の様子を伺う。少女はまだ不思議そうに俺を見ていて、かと思えば次第に震え始めた。え、怒らせた!?
《……うわーん!!》
「なっ、えっ!? な、なぜ泣く!! そんなに致命的な喋りかけ方をしてしまったのか!?」
震え始めた少女は、糸が切れたかのように泣き始めた。慌てて慰めようとしたが、俺に年下の女の子を泣き止ませる技術などあるはずもない。それどころか、周囲の人に「なんでこんなところで泣き止ませる練習してるんだろ……」と勘違いされる始末。見世物じゃないぞ! 信号青になってるだろうが! さっさと渡れ!
結局、少女は数分泣き止まなかった。
《……ぐすっ》
「ようやく泣き止んだか」
現在交差点、その歩道。座り込んでいる少女の隣に座って泣き止むのを待って数分。徐々に俺を変な目で見る通行人の視線にも慣れてきた。通報されていないのは奇跡……いや、まだ警察が到着していないだけで通報されている可能性はあるか。幽霊が見えない人からしたら完全におかしい人だもんな、俺。通行人と目が合ったら全力で逸らされるし。
「それで、どうしたんだ?」
《……うれしかったの》
「?」
《たぶん、四年くらい。誰も私に気づいてくれないし、ここから動けないし。だから、うれしかったの》
四年……か。それは、辛いどころの騒ぎじゃない。精神が成熟した大人であろうと、同じ場所で四年間も、それも誰にも気づかれず誰とも話せず孤独に過ごし続けるというのは無理な話だ。それを、こんな少女が、一人で。
……寂しかったよなぁ。中学生なんて、思春期に突入していようとも本来ならまだ親に甘えたい年頃だ。友だちと遊び回りたい年頃だ。そんな子が、そんな子が……。
《……泣いてる、んですか?》
「違う、目から涙が出ているだけだ……!!」
《……それ、泣いてると思いますけど……》
少し落ち着いたからか、敬語になった少女が俺の顔を心配そうにのぞき込む。めちゃくちゃいい子だ。四年間も一人だったなら精神がおかしくなっていてもいいだろうに、俺を心配してくれる心がある。
……幽霊は、経験的にこの世に対する未練が強く残っている者が現世に縛り付けられ、幽霊という概念として魂が現世に残った状態を指す。更に、少女が言っていることが本当だとするのなら、少女は地縛霊に該当する。地縛霊とはその場所自体に強い未練が残っているか、死を受け入れることができず、死因となった場所に留まり続けてしまう幽霊のこと。もしくは、その場所自体がその幽霊と相性がいいために離れられないか、何かしら結界的なものが働いて出ることができないか。
「……話を聞かせてくれ。名前は?」
《……えっと、赤羽、満です》
「俺は佐藤たけしだ。よろしく。失礼なことを聞くようですまないが、亡くなったという自覚は?」
《……あります。えっと、何、しようとしてるんですか》
変なものを見るような目で俺を見る赤羽。ま、マズい! いきなり名前を聞いたから不審者だと思われたか!? だが、円滑なコミュニケーションをとるためにはまず自己紹介が必要だと本にも書いてあったぞ……!? とはいっても俺は大学生で赤羽は恐らく中学生。現代の教育を考えれば不審に思うのも無理はない。クソ、どうする……!?
《……というか、あんまり喋んない、方がいいと思います。変な、目で見られちゃうし》
「変な目で見られることは、寂しがっている君を放置する理由にはならん。と言っても気にするというなら……そうだ、空を見上げておこう。そうすれば変な目で見られているとはわからん上に、下を向くより気分がいい!」
言って、空を見上げる。まっ、眩しい!! なんでこんな時に限って快晴なんだ!! 俺が眼帯をしていなかったら両目がしばらく使い物にならなくなっていたぞ!!
……よし、目は閉じよう。ここで前を向いてしまったらカッコ悪いからな。
「よし、まずは赤羽がこの地に留まってしまっている原因を突き止めるか。ここから離れることができるようになれば、こんなやつと一緒にいるのは嫌だろうがひとまず俺と一緒にいられるだろう。話し相手くらいにはなれる。そしてこれでも俺はオカルト関係に滅法強い。必ず力になると約束しよう」
《……ほんと?》
「本当だ。それに安心しろ! 今は春休みというやつで、毎日ここにこられる! 何せ、遊んでくれる友だちはいないからな……。あ、いや、一人親友がいるんだが、そいつは別の予定があるというだけで、とにかく俺に任せろ!」
どん、と胸を叩いてむせる。クソッ、なぜ俺はこんなに貧弱なんだ! 上を向いているから余計に辛い! 折れてないよな? 骨。漫画やアニメではよく折れる骨だが、自分で胸を叩いて折れるなんて聞いたことがない。そうなったら骨粗鬆症の疑いを持つべきだ。
……赤羽をこの地から解放できたら、一旦検査してみるか? 健康でいるに越したことはないしな。鏡で見て自分でも不健康だと思うから、一度データとして健康を証明しておいた方が安心できる。
《……なんで、そんな優しくしてくれるんですか》
「理由か……。俺に赤羽を助けられる力があって、手を差し伸べられる距離にいたから、だな」
《でも、今日、会ったばっかだし》
「あとは、一人は寂しいというのを身に染みてわかっているからな。一人にしたくないと思った。一番の理由はそれだな」
もっとも、赤羽は俺の一人ぼっちとは比にならない。俺は努力すればどうにかなるが、赤羽は努力のしようもない。同列に扱うのは赤羽に失礼か。
とん、と肩に何かが触れた。恐らく赤羽の頭だろう。服がぎゅっと握られた感触と、くぐもった泣き声が聞こえてくる。上を向いて目を閉じていてよかった。慰め方がわからんから、見えていないとそこまで狼狽えなくて済む。
話すのは辛いだろうが、聞くべきは死因と交友関係がまず先か。そもそもとして、子どもというのは強い具体的な未練がなくとも、まだ未来があったからという理由で幽霊となることも多い。わからないことが多いが、だからこそちゃんと話してしっかり確認していくべきだな。
「お兄さん、ちょっといいかな?」
なんか明らかに警察っぽい人に声をかけられた気がするが、気のせいだろうか。まだ目を閉じているから、確定したわけではない。
恐る恐る目を開けると、警察だった。赤羽はめちゃくちゃ申し訳なさそうにしていた。