稼ぎの少ないオカルト事務所所長、VTuberになる 作:酉柄レイム
「じゃあ頑張れよ!」
「は、はい!」
手を振って笑顔で去って行く警察に頭を下げる。隣にいる赤羽も俺を真似して頭を下げていた。
警察に声をかけられた俺は、一か八か『女子中学生の幽霊がいてこの場から離れられないらしく、なんとかしたいと思って話していた』と正直に話した。赤羽はやっと人と話せたというのに、その存在を誤魔化されたら傷つくと思ったから。どちらにせよ、どう言い訳をしても周りから見れば俺がおかしな人間であることは変わりない。
そうすれば、親身になって話を聞いてくれた。この交差点で交通事故があったこと、亡くなったのは女子中学生であること。もちろん詳細までは教えてくれなかったが、その話を聞いている時に赤羽が頷いていたところを見るに、間違いないのだろう
「いい人だ……。普通、俺のような人間など排斥しようとするだろうに」
《……佐藤さんは仲間外れにされるような人じゃないもん》
「はは、ありがとうな。だが社会とはそういうものだと知っている。広く一般的に定義された普通と違う者は、集団から弾かれてしまうものだ。もちろん、そうじゃない人もいるがな」
帝斗がいい例だ。俺のような人間にも変わらず接してくれる。まぁ俺の場合、弾かれているわけではなく自分から入りに行っていない……もとい、入れていないだけな気もするな。気もするというか確実にそうだ。
そこまで話してから、そういえばと思い出す。声に出して喋るとまた通報がくるかもしれないから、スマホで文字を打って会話をすればいいんじゃないかとアドバイスを受けたところだった。俺は『今からスマホで文字を打つ。いいな?』とスマホのメモ帳に打って満に見せると、頷きが返ってくる。ちょっと寂しそうな表情をしたから思わず普通に喋ろうかなと思ったが、次は普通に注意されて連行される可能性もある。ここは我慢だ。
『さて、事故に遭って……というのはわかった。言うのは辛いと思うが、その日は何か大事な用事があったのか?』
《……透華と会う日でした》
『とうか? 文脈から察するに人名か』
《はい。えっと、親友です! 私の!》
赤羽が胸を張って誇らしげに笑う。きっと、この子は心が強いのだろう。境遇を考えればもっと沈んでいてもおかしくないのに、こうして明るく振舞える。もしくは、とうかという人が心底大好きかのどちらかだな。俺にとっての帝斗みたいなものか。
となると、とりあえずとうかさんに会うことは確定だろう。会ってどうやって何を話すかは……俺が赤羽のことが見えるんです! と言っても信じてくれないだろうなぁ……。名前からして女性だろうし、新手のセンスのないナンパだと思われるのが関の山か。なんとかして接点を持ちたいが……。
ん? そういえば、とうかさんと会う日、と言っていたな。
『とうかさんと会う日ということは、同じ中学じゃなかったのか?』
《はい。小学生の頃まではずっと一緒で、中学から離れちゃったんです。透華は賢かったから。でも私が会いたい会いたい! って駄々こねたら、週一で会おうって言ってくれて、事故に遭っちゃった日がその日だったんです》
『なるほどな。ちなみに、とうかさんはここにはくるのか?』
《時々。だから、もう大丈夫だよって伝えたいんですけど……》
「それだ!!」
この世に縛り付けられている原因をドンピシャで発見して、思わず声に出してしまった。周りから奇異の視線を集めるが、それを意識するとぐちゃぐちゃになってしまうのでまるで集めていないみたいな顔を保つ。あ、いや、あの、お金は置かなくていいです! そういうのじゃないので!
……今のは大道芸に対する報酬ではなく、施しの意味だろうな。気を付けよう。人の善意を無下にしてしまうのは、例え相手の勘違いであってもよくない。というか俺、施しを与えようと思われるほどギリギリな見た目なのか……。
《……ごめんなさい。私とお話してくれてるから、変な目で……》
『だから気にするな。さっきのは完全に俺のせいだし、気に病む必要はない。話を戻すぞ。恐らく、赤羽がこの世に縛り付けられているのは、とうかさんと会えなかったことが原因だ。そして赤羽がもう大丈夫と伝えたいと思っていること、とうかさんが時々ここにくることから推測するに、とうかさん自身もそのことを気に病んでいるのだろう』
《え、すごい! なんでわかるんですか?》
『こう見えて、頭の出来はいい方だからな』
《ほえー。カッコいい!》
めちゃくちゃいい子だな、この子。この子が隣にいたら一生自己肯定感が上がり続けそうだ。自己肯定感が著しく低い俺にとっていい相棒かもしれない。
が、我欲のために赤羽を側に置くなどもってのほかだ。それに、帝斗も俺の自己肯定感を上げてくれるしな。支えてもらってばかりで本当に申し訳ない。俺は何も返せていないというのに……。
さて、ある程度やるべきことはわかった。やるべきことは、とうかさんと出会い、赤羽の気持ちを伝えること。とうかさんと出会うこと自体は、ここにいればいつかは出会えるだろう。問題はどう伝えるかで、さっき危惧したように下手な伝え方をすればナンパだと思われかねない。そして俺は女性経験がなく、そもそも初対面の相手なら同性であろうとも狼狽える始末。そんな俺が初対面の女性に話しかけるなど、東大入試よりも困難だと言っていい。
つまり、自身の努力次第でなんとかなるということだ。
『赤羽。まずはとうかさんがどんな人かを教えてくれ』
《えーっと、かわいい! 頭いい! 運動もできて、声が綺麗で優しくて乙女!》
『俺とは住む世界が違うな……』
《? 佐藤さんは見た目も声もカッコよくて、スタイルいいと思いますけど……》
『赤羽、君はいい子だな。好きだ』
《え? えへへ、ありがとうございます!》
急激に心が満たされていく。もう周りから変な目で見られてもいいから直接話したい。正気か? こんなにいい子なのに周りの目を気にして文字で会話するなど、失礼どころの騒ぎじゃないだろう。
いや、ダメだ。俺が変な目で見られると、赤羽が気にしてしまう。赤羽のためを思って取った行動が原因で赤羽を傷つけてしまっては元も子もない。俺は何度同じことを考えるんだ。
しかし、かわいくて文武両道で声が綺麗で優しい女性、か……。まともに話せる気がしないな。赤羽は俺のことを褒めてくれたが、話しているだけで人間としての格差を思い知って打ちひしがれそうだ。そんな場合じゃないというのは重々承知しつつも、俺は繊細で心が狭いんだ。
とはいっても、話さないという選択肢はない。
『わかった。俺が代わりにとうかさんに赤羽の気持ちを伝えよう。信じてもらえるかはわからないが、信じてもらえるまで伝えるしか……そうだ! 赤羽ととうかさんしか知らないことを教えてくれれば、それが赤羽と俺が会話できる証明になる!』
《あ、そっか! でも、私と透華しか知らないこと……なんか教えるのやだ……》
『ん、それもそうか。親友との思い出は、親友とのみ共有することにも意味があるからな。ましてや俺は異性だ。言いにくいこともあるだろう』
《……本当に優しいですね》
『俺としては当然だとは思うが、優しいと言ってくれるのは嬉しいな。ありがとう』
名案だと思ったが、言われてみればそうだな。俺も、帝斗との出会いは帝斗が言うならまだしも俺が言うようなことでもないし、それ以外だと帝斗が誰かに話していて、それをまた聞きした、と言われても違和感がないようなことばかりだ。恐らく、赤羽が話せるレベルのことはそういうまた聞きしてもおかしくないようなことなのだろう。
……まてよ、幽霊、そして話したい相手がいるとなれば。
『ならイタコはどうだ?』
《イタコ?》
『あぁ。俺が赤羽の気持ちを代わりに伝えると言っただろう? それだけじゃなく、俺が赤羽の代わりにとうかさんと話す。普通の会話だ。とうかさんの言葉に対して赤羽の言葉で返せば、親友なら本当にここに赤羽がいると気づいてくれるんじゃないか?』
《……でも、気づいてもらえなかったら……四年も経ってるし、忘れちゃってるかも》
『大丈夫だ。赤羽のようないい子が親友だと胸を張れる人なのであれば、そんな薄情な人ではないだろう。きっと赤羽のことをちゃんと覚えている。だからこそ、時々ここにきてくれるんだろうしな』
《……佐藤さん、モテるでしょ》
『お世辞でも嬉しい。モテたことは一切ないな』
バレンタインも母さん以外からもらったことないし……。いじめられたりはしなかったが、敬遠されていたことは間違いないしな。小学校の頃に勝手にやっていたオカルトクラブの部員にも、期待していた俺に対して「は? んなキモいことやるわけねぇだろ」ってメンチ切られたし。元気にしてるかな、あいつ。
『よし、それじゃあとうかさんが現れるまで待機だ! その間、俺の相談に付き合ってくれ。赤羽は友だちが多そうだしな。実は、俺は友だちが少なくてだな……』
《モテないっていうの絶対嘘だ》
だからモテないって言っているだろうが!!!!!!!
《こなかった……》
『こなかったな』
時刻は20時。まだ来る可能性もあるかもしれないが、赤羽が言うには大体夕方くらいにくることが多いらしい。とはいえ、赤羽が中学二年生で四年前に亡くなったのなら、とうかさんは恐らく受験生。それもこの時期となると、国公立受験だったら勉強のラストスパートの時期だろう。前よりも頻度は落ちているのかもしれない。
『仕方ない。今日は帰るが、明日の朝またここにくる』
《え……》
「嘘に決まってるだろう! さぁ、星の話でもするか!」
《あ、や、ご、ごめんなさい! えっと、寂しいけど、佐藤さんにずっとここにいてもらうわけにはいかないし、大丈夫ですから! 今までずっと一人だったんだし、全然!》
「バカなことを言うな! 今までずっと一人だったからこそ耐えられないだろう! 無神経なことを言ってしまったな。ごめんな? もう大丈夫だ、俺がずっと一緒にいるからな!」
《だから大丈夫だって! わからずや! 頭でっかち! すっごく嬉しいけど、私が気にしちゃうの! ごめんなさいってなるの! だから帰って! ……でも、明日も絶対にきてくれなきゃやだ》
「どっちがわからずやだ! 年下にそんなかわいいことを言われて置いていける男がいるか! 俺は梃子でも動かんぞ!」
《かわいくないし! この……!!》
赤羽が何かを言おうとして、止まる。俺を睨んでいた目は、俺じゃないどこかに向けられていた。口をパクパクさせて、どう見ても不自然。とりあえず何があったのかと赤羽の視線の先を見れば、そこには黒い綺麗な髪を肩まで伸ばした、落ち着いた雰囲気の綺麗な女性がいた。そして俺に不審な目を向けている。
……ま、まさか。
《透華だ……》
……て、帝斗!! ここから挽回する方法を教えてくれ!!!!