稼ぎの少ないオカルト事務所所長、VTuberになる   作:酉柄レイム

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第211話 嘘みたいな童貞

 夜。あらかた騒ぎ終えて、それぞれが与えられた部屋に戻ってあとは寝るだけの時間。

 

「うーーーーーーーーーーーん」

 

 にも関わらず、満ちゃんは部屋中を唸りながら飛び回っている。理由なんて聞くまでもない。佐藤と透華の、まぁ……アレのことだろう。そういうのが思考に流れ込んでくるのが嫌だからって思考リンク切ったのに、結局気になってるんだったら本末転倒だな。

 

「満ちゃん。気になんのはわかるけど、気にしすぎもよくねぇぞ」

「わかってるけど……佐藤さんが大失敗して、透華が傷ついちゃわないかなって」

 

 満ちゃんの言う傷つくと俺の考える傷つくだと差が出ちまうから、そういうこと言うのやめてくんねぇかな。普通に気まずいんだよ。年下の女の子とそういう話すんの。満ちゃんにとってはただの心配だろうけど、俺にとっては親友と女友だちの情事だからな? 心配っちゃ心配だけどできれば知りたくねぇんだよ。

 しっかし、佐藤がなぁ……。まだ先の話だろうけど、子どもとかできんだろうなぁ。可愛がる自信しかない。佐藤と透華の子どもって可愛いに決まってるしな。てか厳密に言えば透華も佐藤だから、佐藤って呼ぶのはやめた方がいいか? いや、子どもが生まれたとしても俺が佐藤って呼ぶのは佐藤だけだから別にいい気も……。

 

「……どうした? 満ちゃん」

「んー? なんか考えてる顔してたから、何考えてるのかなーって」

 

 ベッドに寝転がりながらごちゃごちゃ考えてたら、いつの間にか満ちゃんが目の前にいた。「近い」って言いながらおでこを突くと、不満気な顔をして隣に寝転がる。

 ……あー、佐藤とリンク切った状態が続いてるから、寂しがってんのか。せっかくの旅行なのに一緒じゃないってそりゃ寂しいよな。だからって一応異性である俺と同じベッドに寝転がるのはどうかと思いつつ、まぁ俺と満ちゃんだしいいかと適当に納得した。寝るときに別のベッドで寝ればいいだけだしな。あとは、佐藤と透華にこのことがバレなきゃ大丈夫だ。バレたら多分締め上げられる。

 

「何考えてるのって、まぁ将来のこととかな。佐藤と透華に子どもできたらとか」

「私、二人の子どもにお姉ちゃんって呼んでもらうって決めてるの!」

「呼ぶんじゃね? 満ちゃんいい子だし、絶対好かれるだろうしな」

「でしょ? えへへー」

 

 俺とか佐藤の前だと完全に妹って感じだけど、面倒見よさそうだしな。男の子だったら初恋を奪いそうですらある。贔屓目抜きにしても可愛いからな、満ちゃん。

 

「満ちゃんもいつか好きなやつとかできんのか?」

「うーん、どうだろ。学校行ってないし、そもそも出会いというものがですね……」

 

 腕を組んで、うーんと悩む満ちゃんにそりゃそうかと頷いた。満ちゃんが知り合える範囲は佐藤の周辺だけだし、そうなると難しいか。佐藤がいきなり教師やるとか言い出したらわかんねぇけどそれはないだろうし。いきなり依頼がきて、それ繋がりで知り合うとかはありえるか。

 

「西園寺さんは? イレイナさんとか」

「ちゃんと考えてる。ただ、イレイナさんと一緒になるとガチの戦場に連れて行かされそうなんだよな……」

「応援したいけど、西園寺さんと会えなくなるのは嫌かも……」

「ありがとな。俺も佐藤と満ちゃんと透華と会えなくなるっていうのは嫌だから、そこをどう折り合いつけるかってくらいか」

 

 イレイナさんはめちゃくちゃいい人だ。ちょっとどころかかなり猪突猛進なところはありつつも言えばわかってくれるし、そもそも美人でカッコいい。喧嘩になったら物理的に負けるってところが難点だけど、喧嘩しなきゃいい話だしな。

 ただまぁ、イレイナさん自身とその周りの環境がバイオレンスすぎる。詳しくは知らねぇけど、ヴァールハイトの人たちはガッツリ戦場経験者らしいし、今は日本にいてもいつ世界を飛び回るようになるかわからねぇって言ってたから、イレイナさんと一緒になるってことはその覚悟をしなきゃいけねぇってことだろう。こっちにいてくれって引き止めれば聞いてくれそうな気はする。でも、イレイナさんほどの戦力をヴァールハイトが手放すかって言われれば手放さない。

 

 せっかく佐藤の世話を容認してくれる人なのになぁ……。つっても、もう透華に任せればいいような気もするから、その制限もなくなったようなもんか。

 

「あーあ。私がもっと早く成長できてたら、西園寺さんの彼女に立候補してたのに」

「実際は一個下だもんな」

「うん。それに、そうしたら四人ずっと一緒にいられるし! 別にそうじゃなくても一緒にいるつもりだけど」

「満ちゃんがあの二人に気を遣って離れるってなったら、めちゃくちゃ止めてくるだろうな……」

「言っとくけど、西園寺さんもだからね」

 

 非難の色を感じて満ちゃんを見ると、ちゃんと非難の目を俺に向けていた。それに対して笑いながら「ありがとな」と返すと、「まぁいいでしょう」となぜか敬語で返される。それから、俺の手をにぎにぎして遊び始めた。

 

「暇潰しすぎだろ」

「だって、西園寺さんが意識してくれないから」

「意識って?」

「わかんない?」

「佐藤がいねぇからって俺からかって遊ぶのやめろよ。佐藤と透華に知られたら冗談抜きで殺される」

「もー。西園寺さんモラリストすぎてつまんない」

「どーも。ほら、さっさと寝るぞ。どうせ起きてても気になって眠れなくなるんだから」

 

 こういう遊びしてくるタイプだったか……? 考えたくはねぇけど、宿主である佐藤に引っ張られてそういう感じになってるとかそういうことか? 

 やめとこう。気まずいどころの騒ぎじゃねぇ。

 

 満ちゃんは不満気な表情を隠さないまま、「はーい」と言って浮き上がり、隣のベッドに移る。それと同時に、俺のスマホに着信が届いた。誰かと思って画面を見ると、透華から。

 

「透華から?」

「どうしたんだろ。間違ってかけちゃったとか?」

「だとしたら出るのめちゃくちゃ気まずいな……」

「流石に私も耐えられないかも……」

 

 二人で最悪を想像して顔を青くして、とりあえず出ないことにした。いつもなら出てるけど状況が状況過ぎる。もし最悪を引き当てたら明日まともに顔を見れる自信がねぇ。

 応答せずに放置していると、着信が切れる。少しして、留守番電話のアイコンが出てきた。留守番電話を残してるってことは間違い電話じゃなかったってことか? いや、でも、もしかしたらとんでもない音声が留守番電話に残ってる可能性がある。聞かずに消すべきか?

 

「いや、RINE送ればいいか」

「あ、そうじゃん。流石西園寺さん。佐藤さんなら数分間ごちゃごちゃするのに」

「それがあいつのいいところだろ」

 

 スマホを手に取ってRINEを開き、透華に『電話きたけど、どうした?』と送る。すぐに既読がついて、届いてたメッセージに思わず噴き出した。

 

「どうしたの?」

「これ……」

「……うそじゃん」

 

 透華から届いたのは、『あの、キャパオーバーしたっぽくて、気絶しちゃいました』というメッセージ。マジかあいつ。童貞の歴史があったら間違いなく名を刻むくらい童貞じゃねぇか。

 つっても、透華からしたら笑い事じゃねぇよな。それなりに覚悟してたのに、相手が気絶するって。佐藤も目を覚ました時に自己嫌悪で動かなくなるくらいには気にしそうだ。裏を返せば、キャパオーバーして気絶するくらい真剣に考えてくれてるってこと……ダメだ、どうフォローしたとしても情けなさが勝つ。

 

「えー……まぁ、安心したといえば安心したような……」

「らしいっちゃらしいな。流石に透華がかわいそうだけど……」

 

 『明日ブチギレていいぞ』と送ると、『今日は隣で寝ることにします』と返ってきた。佐藤なら死ぬほど驚くだろうから、いい仕返しだと思う。婚約者が隣で寝てて死ぬほど驚くって意味わかんねぇけど、それが佐藤だからな。『死なない程度にしてやれよ』と返してスマホを置くと、満ちゃんが何やら考え込んでいた。なんだ? 佐藤の童貞がひどすぎて対策でも考えてんのか?

 

「ねぇ西園寺さん」

「なんだ?」

「佐藤さんが童貞すぎるのって、私のせいかな」

「そんなこと……あー、そういうことか?」

 

 別に佐藤は満ちゃんがいなくても童貞だったとは思う。でも、年下の満ちゃんがずっと側にいるから、そういう性的なコンテンツを避けてきたっていうのはある。そういうのは一切持ってないし一切見ない。だから一般的な童貞よりも童貞になったっていうのはありそうだな。

 

「ど、どうしよう。私のせいで二人の間に子どもができないかも」

「流石にいつかは慣れるだろ。佐藤だって、気絶しといてそのままでいいって思うタイプでもねぇし……俺の責任でもあるな。面白れぇからってあいつの童貞を放置しすぎた」

「童貞の面倒まで見る必要ないと思う。介護しすぎ」

 

 いや、でもなぁ……。佐藤のポテンシャルを考えたらバカにできねぇと思うんだよ。どうにかしないとって思って考えすぎて変な方向に行って、負のスパイラルに陥ることなんて全然ありえる。んで、佐藤も透華も相手のペースに合わせる方だから進展はゆっくりになるだろうし……。

 ん? いや、ちょっと待てよ。

 

「なぁ、エミって子どもいる……ってより、できてるんだよな」

「あ、そっか。じゃあ佐藤さんにエミさんに相談しよって言っとくね」

「いや、俺から言う。満ちゃんからそれ言われる佐藤が気の毒すぎて見てらんねぇよ。面白れぇけど」

 

 まぁ、子どもどうこうの前にまずは夫婦の営みができるようになんなきゃな。そもそも子どもができていいくらいの稼ぎは……二馬力ならどうにかなるだろうけど、佐藤の職種が職種だから安全とは言いにくい。探偵事務所の方が有名にならねぇとな。そっちのマネジメントもするか? 俺にはオカルトの才能がないから、そっちの仕事を取ってくるのは難しいと思ってやめたけど、もう一回勉強し直すか……。

 

 ……それか、朝凪さんと安倍さんを雇う、とか。いや、流石に朝凪さんの気持ち的にダメか。他にオカルト的な力があって、仕事取ってきてくれそうな人がいれば……。

 

「西園寺さんがまた介護しそうな顔してる」

「どんな顔だよ」

「真剣な顔してる時は大体佐藤さんのこと考えてる時だから」

「……キモくね? 俺」

「そう? かわいいと思うけど」

 

 かわいいってのも微妙だな……。

 

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