稼ぎの少ないオカルト事務所所長、VTuberになる   作:酉柄レイム

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第212話 昔馴染み

 イベリスオシャレホテルでの休暇を終え、いつも通り閑古鳥が鳴いている事務所で何もしない時間を過ごす。透華は俺が気絶するという名誉童貞極まりない醜態を晒したのにも関わらず、「隣で寝れただけで十分」と聖母の微笑み。透華の優しさに甘えるべからずと何度も胸に刻んでいるのに、なぜ俺はこうもダメなのか。

 

「うーん……多分透華のこと考えてる」

「そうなの?」

 

 満はあの日以来、必要に迫られた時以外は俺との思考リンクを切ることにしたようで、今も切っているらしい。だからか、俺の表情を見て何を考えているかを想像する遊びにハマっている。そのせいで、いや、そのおかげで透華が嬉しそうにこちらをちらちら見ているのが大変かわいらしい。でもできれば俺が考えていることを言い当てて口に出すのはやめてくれ。俺にプライバシーは存在しないのか?

 なぜ思考リンクを切ることにしたのかというと、休暇中に俺と離れ離れになった時、思ったよりも寂しくて不安だったから、慣れておこうということらしい。あまりにもかわいい。別に一生一緒だからいいだろうと言ったものの、「そのつもりだけど、なんかそのせいで西園寺さんに変なこと言っちゃったし」と言っていた。まだ聞けていないが、このことはたっぷりと追及させてもらう。

 

「佐藤。次のコラボについての話していいか?」

「ん? あぁ」

 

 そんな不届きもの(暫定)である帝斗は、俺のために働いてくれているようだ。なんで俺はこんなにも俺のために働いてくれている人を責めようとしていたんだ? 責めていいわけがない。むしろ帝斗の数年間を俺というしょうもない人間に使わせたことを謝罪するべきだろう。本当にすまない。

 

 俺が心の中で帝斗に謝罪していると、「コラボ?」と興味を示した。存外嫉妬深いから、相手が誰なのか気になるのだろう。そしてマズい。多分ゆーとぴあとのコラボのことだ。なぜ透華がいるところでその話題を出したんだ! いや、透華がいる時だからこそか? 配信する都合上、透華に知られないようにというのは不可能だ。ならば事前に伝えておいた方が安心するというもの。信頼というものは積み重ねの上にできるものだ。それを作りに行っているのが俺ではなく帝斗だというのがまた情けないところだが……。

 

「おう。前に言っただろ? 佐藤の知り合いかもしれねぇっていう」

「あー、ゆーとぴあの子たちですね」

 

 しかも事前に共有していたらしい。俺には『ゆーとぴあ』という単語でしか連絡しなかったのに。

 

「それで、向こうから実際に会いたいって連絡があってな。向こうからしたら十中八九佐藤だって確信してるみたいだし、実際に本名当てられたし。やっぱわかりやすいんだな、お前」

「俺が身バレしていないのは、知り合いがいなさすぎたからだからな……」

「知ってる人が見たらまんま佐藤さんだもんね」

「……でも、会う必要なくないですか」

 

 満と目が合い、頷き合う。透華がかわいい。

 

 実際、会う必要がないと言えばない。通話で確かめ合うだけでいいし、向こうの事務所的に実際に会う方が問題だ。まだ新人だとはいえ、『箱の風土に従え!!』とうるさい視聴者もいるだろう。日本には郷に入っては郷に従えという言葉もあるくらいだ。そういう視聴者の言いたいこともわかるし、ゆーとぴあという箱に入ったからには従うべきだと思う。

 とはいえ、相手が都城なのであれば会わなかったら配信で『ニコさんにフラれてしもて……』と被害者面し、視聴者を味方につけて俺を殺しに来るのは目に見えている。叶えられる範囲のわがまましか言わないが、そのわがままに従わなかった時の反動がえげつないんだ。

 

 だから、俺としては会った方がいいと思っているし、珍しい昔の知り合い、しかも同業ともなれば正直に言うと会いたい。透華も言ってみただけで、会わないでほしいと本当に言いたいわけではないだろうが、安心させてやるのも夫の務めだろう。

 

「透華、安心しろ。俺が愛しているのは透華だけで、他の女性には目移りなどしない。そもそも、向こうは俺を蚊ほども意識していないだろうしな。なんか昔の情けない知り合いっぽいから久しぶりに会っとくか、程度のものだろう」

「……多分その程度じゃないと思う、けど……ごめんね。めんどくさいこと言って。私も好き」

「西園寺さん。ちょっと散歩しに行こっか」

「今からコラボの話するっつってるだろ。ラブラブのTPO守ってくれ」

 

 透華と二人で帝斗に頭を下げると、「まぁ、仲いいのは俺も嬉しいよ」と笑ってくれた。俺は蚊ほども意識されていないだろうが、帝斗が意識されるかもしれない。こんないい男、俺が女性なら放っておかないぞ。

 

「さて、相手はゆーとぴあの新人である(くろがね)エリさんと白蓮(びゃくれん)ふみさんとのコラボだ」

 

 言いながら、帝斗がPCに映し出された立ち絵を見せてくれる。

 

 鐵さんは肩につかないくらいのボブで、髪色は黒に近いアッシュ。切れ長の鋭い目で、瞳の色は鉄錆のような暗い赤。口の端には縦に走る傷がついている。服装は赤のスカジャンに黒いタンクトップ、下はダメージデニムを履いている。アクセサリはチェーンネックレス、シルバーリング、ピアスとどこからどう見ても堅気じゃない。しかも腰につけられている三角に畳まれている棒は三節棍だろう。恐らく鐵さんが宍道だ。

 白蓮さんは肩の下あたりまでのストレートロングで、髪色は白に近い銀。目は垂れ目気味で瞳の色は薄い紫。服装はモノトーン調のモダン風の着物。ちらりと見える足元はブーツを履いている。服装的に白蓮さんが都城か。

 

「姐さん、エリちゃんと呼び合っていて、二人の仲はかなりよさそうだ。性格的な話をすると鐵さんは粗暴、白蓮さんはおしとやかだけど自我が強いタイプ、に見える。佐藤との相性は悪くなさそうだ。二人とも自己主張強いタイプっぽいしな」

「変わっていなければ強いだろうな」

「そういえば、何気に佐藤さんの昔の知り合いと会うの初めてかも」

「私も。そもそも西園寺さんしか紹介してもらったことないし」

「まぁ、知り合いが少ないからな……」

 

 中学なんてもうゼロと言っていいほどだ。当時の同級生も卒業アルバムを見て「あー、佐藤? いたっけ」と言うくらいゼロだ。恐らく、俺の昔の知り合いは小学生当時のオカルトクラブが最後だろう。その次が帝斗だ。終わってるな、俺の交友関係。俺の両親はよく俺をすくすく育ててくれたものだ。立派な親すぎる。

 

「で、実際に会うってことでいいか?」

「あぁ、構わん。かなり久しぶりだから楽しみだ」

「佐藤さんは変わらなさ過ぎてびっくりされるだろうね」

「俺の小学生の頃を知らないだろう? 流石に小学生の頃と比べたら変わっている」

「本質は変わってないと思うけどなぁ……。あなたは昔からずっとあなたな気がする」

「褒め言葉として受け取っておこう」

「うん。もちろん」

 

 よかった。本当に褒め言葉だったらしい。もしかしたら俺を遠回しに昔からずっとコミュ障だと言っているのかと思った。よく考えなくとも透華がそんなことを言うはずがないからな。ちなみに、満と帝斗なら言う。

 まぁ、満と透華の言うことはあながち間違いではないのだろう。向こうがミッドナイト・サイコナイトを見て俺だと断定したのだから、少なくとも小学生の頃と変わらない部分があるからこそ……そういえばあの頃からミッドナイト・サイコナイトと名乗っていた気がするな。変わらない部分あったわ。確定で一つ。

 

「じゃあここの事務所の住所送っとくわ」

「何? どこかのお店か『project:eden』かゆーとぴあの事務所じゃないのか?」

「仕事の話ってよりは、昔馴染みに会うだけって感じらしいからな。もちろんコラボの話もあるだろうけど」

「佐藤さんが婚約してるって知ったらびっくりするんじゃない?」

「なんか私、緊張してきた……」

「ちなみに婚約してるってのは把握済みらしいぜ」

 

 言いながら、帝斗から配信のURLが送られてくる。開いてみれば、ユースさんと二人のコラボ配信だった。

 

「ユースさんとのコラボで佐藤の話題が出てな。コメントにタイムスタンプあるから後で見とけ」

「いや、すべて見る」

「昔の知り合い相手でも配信全部見るんだ……」

「当たり前だろう。昔馴染みでも仕事相手であることに変わりはないからな」

 

 今までそうしてきたんだ。昔馴染みだからといって相手の配信をすべて見ないというのは失礼にあたる。それに、俺が知っている二人はあくまで小学生の頃の話。更に二人は今はVTuberで、現実と違うキャラを作っている可能性がある。であれば俺もそれを把握して守らねばならない。『project:eden』なら現実と違うキャラを作っているということはほとんどないが、基本的にVTuberというのはキャラを作り出して憑依するものだからな。

 ……ただ、都城はともかく宍道は作っていないだろうな。そういうことができるタイプじゃない。というのも小学生の頃のイメージに基づいたものであり、今は違うかもしれん。それを把握するためにもやはり配信はすべて見なければな。新人だからまだ配信が少なくて助かる。

 

「収録とかの日以外はどうせ予定ねぇから、向こうの都合に合わせる形でいいよな」

「あぁ、任せる」

「ねぇ、あとで一緒に配信見ようよ。あなたの知り合いだっていうなら、私も知りたいし」

「っていうのは建前で、佐藤さんと一緒の時間が欲しいんだよね」

「満、今度イベリスさんのところに連れて行ってオシャレしてもらうから」

「ご、ごめん! それだけは許して!」

「イベリスのオシャレを罰ゲームみたいに扱うな。別に悪いことではないだろう」

「どうせ女の子っぽい恰好とかさせられるもん!」

「別に悪いことじゃねぇな」

「……西園寺さんが言うなら」

「おい待てムカついたからって佐藤と透華の矛先を俺に向けようとするな!」

 

 俺と透華が帝斗に話を聞かせてもらおうと立ち上がると、「ワリィ、佐藤と違って急用入る人生だから、ちょっと出てくるわ」と言って事務所を出ていった。貴様!!!!!!

 

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