稼ぎの少ないオカルト事務所所長、VTuberになる 作:酉柄レイム
俺の目の前には、金髪で目つきが鋭く、スカジャンにダメージジーンズを履いた女性と、黒髪ロングの和装でおしとやかな女性が座っている。帝斗は俺の後ろにSPみたく立っていて、透華は少し離れたところで満と一緒にいて、ちらちらと俺たちの様子を伺っている。
「自己紹介は必要ないか?」
「どうせ佐藤ならどっちがどっちのVかって気づいてんだろうしな」
「そやなぁ。お久しぶりです、だけでええんとちゃいます?」
「そうだな。久しぶり、二人とも」
都城と宍道。小学生の頃に俺が勝手に作っていたオカルト倶楽部に入ってくれていた二人で、会うのは小学生以来。久しぶりに会っても変わっていない……は言い過ぎだが、二人だとわかる程度には面影がある。事務所にきたとき、都城は丁寧に礼をして、宍道は気安く片手をあげたことから、中身も恐らく変わっていない。
「まさかこんな形で再会するなんてな」
「あぁ。そっちは今何をしているんだ?」
「秘密です。うっかりこぼされたらかなわんし」
「しっかりしてるな……。俺はまぁ、見ての通りだ」
「えぇ。えらい立派な事務所やもんなぁ」
「て、照れる」
「相変わらず嫌味の言いがいあらへんな」
い、嫌味? 今のは嫌味だったのか? あっ! 『お前仕事ないくせに不釣り合いな事務所構えてて滑稽だな』ということか!? クソッ、俺の照れを返せ! 別に欲しくはなかっただろうが。
というか、相変わらずということはやはり俺のことをちゃんと覚えてくれているらしい。確か小学生の時もこうやって嫌味を言われていた気がするし。昔からこんな扱いを受けていたのか、俺……。今の視聴者からのいじりもなるべくしてなったようなものだな。
「二人はなぜVTuberに? やりそうなイメージがなかったからびっくりしたぞ」
「姐さんがネットの勉強したいっつって、勉強するなら発信する側に回るのが一番早ェっつって」
「一人でやるのもなんやし、エリちゃんもついてきてもろたんです」
「それでゆーとぴあに……うちの事務所の方が向いていると思うが」
「私もそうしようと思ったんやけど、エリちゃんがあかん言うて」
「あんな野蛮なとこに姐さん入れられるわけねぇでしょ」
宍道の言葉に深く頷く。まぁ、二人なら大丈夫だとは思うが、『project:eden』が野蛮であることに変わりはない。二人に戦闘力があると言っても、『project:eden』では一般人の域を出ないだろうしな。
しかし、ネットの勉強か……。現代では若者のテレビ離れが進み、インターネットの時代に突入している。その流れを汲んで勉強をしようということだろう。それでただ単にSNSをやるとかではなく発信する側に回ろうという発想に至るのが、やはり都城だな。見かけによらずアグレッシブだ。
「それでゆーとぴあに? その……言いにくいが、あそこはアイドル活動が主だぞ?」
「ンで私見ながら言ってんだよ」
「ふふふ。エリちゃんちょっと元気が過ぎるもんなぁ」
「あざっす!」
「乱暴やもんなぁって言うたんやで。エリちゃん」
「え!?」
「すまん、都城。俺たちが嫌味の言いがいがなくて」
「ムカつくわぁ」
嫌味でもなんでもなく、はっきりとムカつくって言ったか? 今。
宍道は都城が言った通り、乱暴だ。すぐに暴力を振るうというわけではなく、口が悪い、都城に失礼を働かれたらすぐに喧嘩を売る……と、チンピラ気質なところがある。ゆーとぴあの視聴者層にマッチするかどうかが心配だ。
ただ、今までゆーとぴあにいない属性ではある。宍道のようなキャラがクセになるという視聴者もいるだろう。普通に視聴者に対して「キモい」とか言いそうだしな。俺は言われているが。
「っていうことは、私はアイドルに向いてるて思うてくれてはるんですか?」
「ん? あぁ。都城はなんでもそつなくこなすだろう。心配はしていない」
「ありがとうございます。エリちゃん、心配してくれてるらしいで。よかったなぁ」
「ウゼェ。テメェの懐の心配しろよ。奥さんいんだろ? いつまで依頼がねぇって嘆いてるつもりだよ。能力がねぇことを挑戦しねぇ理由にしてねぇだろうな」
「照れ隠しにしては言い過ぎだし、照れ隠しにしてはいいことを言ってるぞ」
なぜ俺は照れ隠しの暴言に紛れて名言っぽいことを言われているんだ。確かにと思ってしまったじゃないか。
二年目は探偵事務所の方を充実させようと思っていたのにこの体たらく。それは配信が忙しいからと言い訳を並べて、事務所の方を疎かにしてしまったことに原因がある。そもそも、俺には実績がないのになぜ依頼がくると思っているんだ? 自分から依頼を掴み、そこで実績を上げることによって依頼は舞い込んでくる。意識を変えよう。俺は今日から生まれ変わる!
「どうせ今日から生まれ変わる! とか思ってんだろ。どうせ明日のお前も今日のお前だぞ」
「言い過ぎだぞ! あと帝斗! さっきから俺がけちょんけちょんに言われるたび笑ってるの気づいてるからな!」
「悪い。お前昔からわかりやすかったんだな」
「えぇ、そらもう。目は口程に物を言ういうんは、ボスのためにあるようなもんでしたから」
「ボス!? お前そんな呼び方させてたのかよ!」
「なぜ俺が呼ばせていたと確定させているんだ!」
「呼ばせてただろうが」
「呼ばせていたが……! 宍道は呼んでいなかっただろう!」
「どこの世界にお前みたいなろうそくくらい白くて細いボスがいんだよ」
帝斗と透華と満が笑った。おい!! 親友だぞ、夫だぞ、相棒だぞ!! そんな存在が悪く言われていてなぜ笑うんだ!! 俺だからか。あと、関係性があるからこその暴言だと理解してくれているからだろう。別に宍道は誰に対しても……都城以外に対してもこうだと思うが。流石に俺以外が相手だとマイルドだとは思いつつ、そこも心配だ。同じ事務所の先輩から反感を買わないだろうか。ユースさんにさりげなく気にしてもらうよう言っておくか?
「ところで」
「ん? なんだ」
「そろそろ挨拶させてもろてええですか? 西園寺さんと奥さんと満ちゃんに」
「事務所にきてくれたときに挨拶はしただろう? ……あぁ、普通に話したいということか」
「はい。私らだけで話すのも悪いですし」
「ということだ。こっちにきてくれるか?」
透華と満に手招きすると、満がぴゅーんと飛んできて、俺の隣に座る。透華はぺこりと頭を下げてから、帝斗の隣に並んだ。なんか帝斗と透華が後ろで立って並んでいて、俺と満が座っていると帝斗と透華が俺たちの保護者みたいだな……。普段から保護者みたいなことはしてくれてはいるから、まったく違和感はない。
「積もる話もあったと思いますが、いいんですか?」
「はい。それはまた別の機会でもええです。せっかくみなさんいはるんやから、ご一緒させてもろたほうが楽しいやろなぁって思いまして」
「賛成! です! 昔の佐藤さんの話とか聞きたいなって思ってました!」
「私らは佐藤の奥さんに話聞きてぇんだけどな。どこがいいのかって」
「どっちを選択しても俺が恥ずかしい目に遭いそうだな……」
俺の昔の話か、透華が思う俺のいいのところか……。どちらかと言えば後者は恥ずかしくはありつつも嬉しいから後者の方がいいような気もするが、透華も透華で恥ずかしがり屋だから、初対面の二人が相手だと言いにくい可能性もある。ここは俺が助け舟を出して、俺の昔の話を二人からしてもらうことにしよう。
「主人との付き合いがあったなら、ご存知かと思います」
と思ったら、透華が嬉しいことを言ってくれた。都城は失笑して宍道はうげぇ、と嫌な顔をした。それが聞きたかったやつの態度か? あまりにも失礼過ぎる。あと満も頷くな。
「いい人だけど、恋愛対象として見れるかっていうとちょっと」
「せやんなぁ」
「まったくだ」
満の言葉に都城と宍道が同意する。仲がいいのはいいことだが、俺への攻撃で一致団結しないでほしい。でもいい人だということは二人も否定しなかったから嬉しい。なんだこれは。攻撃されながら喜ばせてくれているだと? サウナみたいなものか? どう考えても体をいじめている行為なのに気持ちがいいみたいな。
「それで、佐藤さんの小学生の頃ってどんなのだったんですか?」
「痛々しかったな。顧問もいねぇオカルト倶楽部を一人で立ち上げて、そのくせ募集もなにもしねぇで孤立してた」
「あの頃は人見知りはなかったんちゃうかなぁ。痛々しいのが前に出とったわ」
「人見知りじゃなかったんだ……!」
「うん。なんやおもろそうやなぁ思って会いに行ったら、『我が名はミッドナイト・サイコナイト! 深夜の狂騎士だ』言うて自己紹介してくれてなぁ。アホや思ったわ」
「人見知りじゃねぇけどコミュ障ではあるな」
「喋れている時点で昔の俺の方がマシだな」
恐らく、小学生の頃は班行動とか集団行動する機会が必ずあったから、人見知りではなかったんだろう。それに加えて、まだ厨二病全開だった時だ。人見知りという概念がなく、カッコいいと思ったことに全力だったからこそ大丈夫だったんだろうな。別の角度から見れば大丈夫ではないが。
というかアホだと思っていたのか……。そういえば「アホや」と言われた気がする。あと宍道は三節棍を構えていた。対応を間違えたら俺の命はあの時終わっていたかもしれん。
「オカルト倶楽部って何してたんですか?」
「ほんまにオカルトやってたで。行方不明の女の子探してって、幽霊さんに頼まれたりとか」
「その女の子は既に死んでて、でも気づいたら授業受けてたり誰かと一緒に帰ったりしてて、で、そいつと友だちになって話聞いて」
「依頼人である父親のもとへ連れて行って解決、だったな」
詳細を言えばちょっと胸糞悪い話だったな。わざわざ言うべきことでもないし、俺たちの中でしまっておけばいい話だからわざわざ言わんが……満が思考リンクを切ってくれていてよかった。
今思えば、オカルト探偵事務所の所長をやっている今よりもあの時の方が依頼をこなしていた。さっきの話もそうだし、ある時刻の三階の窓にいきなりびっしり目玉が現れたとか、男子トイレの個室がある日突然一つ増えたとか。そもそもあの学校がおかしかったのかもしれん。ということはつまり、今俺の仕事がないのは、俺の周りにオカルト事件が起きていないのが悪いということじゃないか?
今日から生まれ変わると思っていたことの思考か? 反省しろ!
「今思うと、あんときが一番退屈じゃなかったかもな。佐藤みてぇなやつ佐藤以外で会ったことねぇし」
「この事務所が繁盛してはったら、またお世話になりたかったんやけどなぁ」
「今は雇う金もないからな……」
「依頼受けて、報酬を分配するって形でいいなら、常駐じゃなくてもいいんじゃねぇか?」
「俺は助かるが、流石に都合がよすぎるだろう」
「私は別にいいぞ」
「私もええですよ」
「なにっ!? 助かる!!」
「その前に営業雇った方がいいんじゃない?」
現実的な提案をしないでくれるか? 満。