稼ぎの少ないオカルト事務所所長、VTuberになる   作:酉柄レイム

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第215話 緊急会議

 鐵……もう本名でいいか。宍道と白蓮とのコラボを終え、むすっとした透華が俺の側から離れなくなり、帝斗と満が気を遣って事務所から出て行って、どうすればいいかわからなくなって戸惑い続けて一日が終わり、翌日。

 

「夏祭り行きたい!」

 

 俺が意気地なしどころの騒ぎじゃない対応を取ったのにも関わらず、満足してくれている透華を見てどうにかせねばといつも通りのことを考えていると、突然満が願望を口に出しながら飛び回り始めた。確かに、夏といえば夏祭り、祭りといえば夏。祭囃子に引き寄せられた幽霊がいるかもしれんし、そうなれば依頼にもつながるかもしれん。そうでなくても、時間は有り余っている俺がダメだと断る理由もない。

 

「から、行ってきてもいい?」

 

 と思ったら、どうやら一緒にではなく、誰かと一緒に行くようだ。「いいぞ」と開きかけていた口の形を変えて、「誰と行くんだ?」と聞いてみる。聞かれるのは鬱陶しいだろうが、未成年だからな。聞かないわけにはいかない。

 

「前にねー、星菜ちゃんが誘ってくれたの! お姉ちゃんが連れて行ってくるから一緒にどう? って」

(あかり)さんと(あきら)さんがいるなら問題ないとは思うが……」

「珍しいな。佐藤も一緒にって誘われなかったのか」

「そういえば……なんでだろ?」

 

 確かに。星菜さんはありがたいことに俺に懐いてくれている。今までだったら、満だけを誘うことはせず、俺も一緒に誘ってくれていた。も、もしかして嫌われたのか? 何か変なことをしてしまったか? 別にいつも変なことはしているとは思うが、それはデビューしてからどころか学生時代からずっとだし……。成長につれて俺が嫌になったとかか?

 い、いや、まぁ、子どもだけで楽しみたい時もあるだろう。もしかしたら俺が炎上するからという気遣いもあるかもしれん。星菜さんは俺を燃やそうとしてくるが、実はそこのバランス感覚がないわけじゃないからな。きっとゆーとぴあとの絡みが増えてきた俺に気を遣ったんだろう。そう思わなければ心を保てない。

 

「まぁ、いいぞ。いつ行くんだ?」

「やった! 今度の日曜日!」

「わかった。迷惑はかけないようにな。満なら心配いらないだろうが」

「わかってるよー。飛ばないようにすれば問題ないはず……」

「満、大丈夫? イベリスさんからボディーガード借りた方がいいんじゃない?」

「大丈夫! 治安いいところらしいし、保護者さんも地域の人も見守ってくれてるんだって」

 

 『project:eden』に所属する身としては、そんなに治安のいいところがあるのが信じられんな……。『project:eden』も治安が悪いのかと言われればそうでもないが。VTuber界という相対的に見れば悪くて、絶対的に見ればいい、とは思う。特にライバーの精神の健康という意味では一番いい。好き勝手過ぎるしな。

 しかし、次の日曜か。満がいないなら、満がいないレア配信をするのもいい……待てよ。そういえば帝斗から「星菜ちゃんと純花ちゃんにお前との出会いの話をした」と言われたな……。そして、透華は女性陣に俺との馴れ初め、そして大学時代の交流の話をしたと。

 

 つまり、星菜さんが俺を誘わなかったのは、『満ちゃんは私が一緒に遊んでおくので、透華さんとの時間作ってあげてくださいね!』というパスなんじゃないか!?

 

 そうと決まれば、透華を夏祭りに誘うか? 誘うなら早い方がいい。浴衣を持っていることは知っているが、その準備をするのに時間があるに越したことはない。女性に余裕を与えてこそ男というもの。星菜さんから与えられたチャンスをものにしなければ!

 

 

 

 

 

「というわけで、集まってもらった」

「すぐに誘いなさいよ」

「お前の戯言を聞かされた上に満に会えない私たちの気持ちを考えろ」

 

 というわけで、『project:eden』の事務所会議室を借りて月宮さんとアザミに相談したら、開幕でボコボコにされた。こ、こういうときは頼れる同期にと思って……。

 

「満がいないのは、満の家に透華と一緒に浴衣を取りに行ったんだ。せっかくだから、ご両親も満の浴衣姿を見たいだろうと思ってな」

「そうなの? 透華に写真送ってって言っとこ」

「私にも送れ」

「満を大事に想ってくれているのは嬉しいが、俺のことも想ってくれないか?」

「別に想ってるわよ。アザミ、そわそわすんのやめなさい」

「すまん。不倫かと思って」

 

 月宮さんがアザミに軽くチョップして、アザミが軽く目を瞑る。かわいい。あとさらっと想ってると言ってくれる月宮さんが相変わらずカッコいい。うれしい。

 

 透華を夏祭りに、と思った時点で誘えたらそれでよかった。だが、あの場で透華を誘うと満が寂しがる可能性がある。口ではいってらっしゃいというが、内心は絶対に寂しがるかわいいやつなんだ。できれば満にはマイナスな感情を抱いてほしくない。

 

「だから、どうすれば満に気づかれず透華を夏祭りに誘えると思う?」

「RINE」

「ダメだ。文字に残す形だと、それを満に見られる可能性がある」

「二人で買い物とかに行って、その時に誘うとかは?」

「恥ずかしい話だが、買い物はいつも行ってもらっている。俺から買い物に行こうという提案をした時点で怪しまれるだろう」

「本当に恥ずかしい話ね」

 

 月宮さんがため息を吐いた。完全に面倒だと思っている顔をしている。でも面倒だと思いつつもちゃんと相談に乗ってくれるんだ。本当にいい人だな、月宮さんは。アザミは興味なさそうに「RINE」と言ってからだんまりだというのに。もうちょっと親身になってくれてもいいんじゃないか?

 まぁ、アザミが自分の興味がないことは一切興味を示さないというのは今に始まったことではない。こうして集まってくれただけ感謝するべきだろう。

 

「というかそもそも、満ちゃんに知られてもいいんじゃない? 寂しがっちゃうでしょうけど、それ以上に嬉しいって思ってくれそうだし」

「嬉しい……か」

「すさまじい童貞のニコが、自分から透華を誘ったとなれば嬉しい以外の言葉が見つからんだろう。だからお前はすさまじいんだ」

「俺がすさまじい童貞であることは関係ないだろう!」

「関係あると思うわよ」

 

 怒りのあまり立ち上がって、確かに関係あるかと思って座り直す。童貞じゃなかったらもっとスマートだろうしな……。すべては俺が童貞であることが悪い。あのとき気絶していなければ、もっと度胸が身についていたんだろうか。

 

 満にマイナスな感情を抱いてほしくないと言ったが、月宮さんの言う通り嬉しがってはくれるだろう。別に満を仲間外れにしたわけではないし、満とも別の日に一緒に行けばいいしな。ということは、俺は考えなくてもいいことを考えて、わざわざ月宮さんとアザミを呼び出したということか?

 

「わかった、素直に誘ってみる」

「そうしなさい。透華はいい子だから待ってくれるけど、だからって甘え過ぎちゃだめよ」

「あぁ、ありがとう」

「どういたしまして。じゃあ次は、コラボのことかと思ってうきうきしながらここにきて、そうじゃなかったから拗ねてるアザミに構ってあげましょっか」

「拗ねてない。……期待したのは事実だが」

 

 俺がもしアザミの肉親であったなら、今すぐ抱きしめて撫でていたことだろう。月宮さんが実際にそうしているしな。アザミが愛しすぎてマズい。いつもはからかおうとしてあざとく振舞っているが、今のはリアルだった。目を逸らしてぼそっと呟いたんだぞ? かわいすぎる。俺がただの視聴者だったらアザミに金をつぎ込みすぎて破産していたことだろう。

 

「なるほど、期待してくれていたから俺の相談に塩対応だったのか。完全に興味がなかったからじゃなかったんだな」

「いや、それは普通に興味がなかった。優しい優姫に感謝しろ」

「本当にありがとう」

「別にいいわよ。ニコと透華にはうまくいってほしいし、そもそもあんたがいつも優しいから、少しでもお返ししないとね」

 

 月宮さんがカッコよすぎる。もし俺が月宮さんの父親だったら、ご近所中に自慢して回っていたことだろう。お礼をさらっと受け取って、更には俺を上げるなんて並外れている。どう育ったらこんな立派になるんだ? 俺に子どもができたら月宮さんのご両親に聞いてみるか。

 こんなにかわいいアザミとカッコいい月宮さんの同期が俺か……。やはりこの二人だからこそ俺もこんなに成功しているんだろうな。改めて二人が同期でよかった。

 

「で、コラボどうする? いつもみたいに話すだけでもいいけど」

「実はあまり一緒にゲームをしたことがないから、ゲームでもいいな」

「複数人でできるおもしろそうなやつがあったか……?」

「そういえば、物部さんがゲーム作ったって言ってたわね。テスターを探してる、みたいな」

「うちの事務所はクリエイティブ過ぎないか?」

 

 全体のdicecodeでそういうのが来ていた記憶があるな……。

 探してみれば、すぐに見つかった。『project:duel』。オープンワールドのカードゲーム。街や森などのフィールドに散らばったカードを集めて作成したデッキで、出会った人と戦うアクション要素を交えたカードゲームらしい。カードにはテーマ性もあって、更には演出も凝っている。エンターテイメントが好きな物部さんが作ったのであれば、かなり楽しいゲームだろう。

 

「とはいえ、カードゲームとなればルールの理解が必要だからな……。視聴者に正しく楽しんでもらえるか」

「ニコはこういうの得意だろう。なんなら私たちが楽しければそれでいい」

「そういうわけにはいかないでしょうけど、私も向いてると思うわよ。運要素が絡む上に頭も使いそうだし、いいんじゃない?」

 

 そういえば、『EOE』でもカードゲームっぽいことをしていたな。あの時も帝斗が腹を抱えて笑っていたし、本当に向いているのかもしれん。向いているとは言っても俺が強いというわけではなく、肝心なところで運による大ポカをやらかして全員から笑われるから向いているというだけな気もするが、視聴者に楽しんでもらえるならそれでいい。

 それに、こういう複数参加できるゲームが流行れば、箱内、更には箱外までを巻き込んで盛り上げられるかもしれんしな。

 

「よし、それなら物部さんに連絡するか」

「決まりね。この後どうする?」

「一緒にご飯だろう」

「ほんとかわいいわねあんた」

 

 アザミがかわいすぎて月宮さんにあすなろ抱きされた。そういえばあすなろ抱きって伝わるか?

 

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