稼ぎの少ないオカルト事務所所長、VTuberになる   作:酉柄レイム

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第20話 FAKE LAND(1)

 『project:SP』の詳細が発表された。

 

 現在は5月中旬。企画提出は6月中旬までで、そこから二週間程度、運営による選考があり、そこで選ばれた企画の発案者が視聴者に向けてプレゼン。一週間の投票期間の末、視聴者に選ばれた3つが、8月の間放送され、最終的にその3つの中から、視聴者投票でレギュラー番組が決まる。

 

 とは言っても、実はもう提出してるからあとは待つだけなんだが。

 

《今回は珍しく西園寺さんにも透華にも泣きつかなかったね》

「当然だ。ニッコリ探偵団の勝負なんだ、俺だけの力でやることに意味がある」

 

 何かを考えるとなれば、いつもなら帝斗と透華に助力を求めていた。しかし今回は、ニッコリ探偵団で誰が採用されるかの勝負。もし俺が助力を求めていたとしても、月宮さんとアザミさんは気にしないだろうが、俺の気持ちの問題だ。自分から対等を求めておいて、勝負事で他の人間の力を借りるなんて、それはないだろう。

 

「それで、だ」

《うん》

 

 『project:SP』は待つだけ。ただ、俺にはまだやるべきことがある。そのやるべきことの詳細は、今俺が見上げているビルに入ればわかるらしい。

 ビルに入って、エレベーターで9階へと向かう。案内板を見ると、9階は『オフィス:オールジャック・トレーダー』と刻まれていた。ルイスさんを所長とする探偵事務所、らしい。

 

 そう。俺は今、ルイスさんが俺に力を借りたいと言っていた依頼のために、ルイスさんの事務所にきている。人の事務所にお邪魔するのは緊張するからと帝斗に声をかけようとして、ルイスさんと月宮さんがいるからダメだと黙ってここまできた。もう帝斗と透華もVTuberになってくれ。そうすればこういうときもついてきてもらえるから。

 

 ドアが開いて、エレベーターから出た。ところで、目の前に見覚えのある美人がいた。

 

「つっ、月宮さんっ!」

「何緊張してんのよ」

《タメ口でーみたいな話してから、改めて会うの初めてだもんね……》

 

 その通り! あんな話をした後だから、妙に恥ずかしい! 月宮さんは気にした様子もないからなんかそれも恥ずかしい! ただでさえ人の目を見て話すのが苦手なのに、いつもより意識してしまって月宮さんの体を見てしまう。あっ、いやっ、その、いやらしい意味じゃなくてな!?

 

「……あぁ、そういうこと? あんたくらいになると、距離縮めるのも難しいのね」

「わかってくれま、いや、わかってくれるか……。その、なんだ。敬語を使っているときは仕事相手として、と割り切っていたが、タメ口を使うとなると、えっと、距離が近くなって、月宮さんが美人だと強烈に意識して、それも含めて緊張してしまうんだ。しばらくは許してくれ」

「……あんたねぇ、普段からそういうことやってんの?」

《普段からこういうことできてたら、ぼっちじゃないかな》

 

 ? なんの話だ?

 

 なぜか呆れ顔の月宮さんが「ついてきて」と言って先導してくれる。背筋を伸ばしてキビキビ歩く姿がカッコいい。俺はいつの間にか背中が曲がってしまっていたから、あれは見習うべきところだろう。姿勢を悪くしたままでは健康にも悪い。せっかく帝斗と透華が健康に気を遣った食事メニューにしてくれているのに、俺自身の怠慢でそれを無駄にするなど言語道断だ。

 

《佐藤さん、どうしたの? 背筋伸ばしてると違和感あってキモい》

 

 しかし俺の相棒は、俺の努力を「キモい」の一言で一蹴した。そんな違和感あるか……?

 

 少し歩いた先にあったドアを開け、月宮さんに促されて中に入る。応接室のように見えるそこには、先客がいた。

 

 一人はルイスさん。俺たちを見ると、「今日もクールだな」と挨拶を飛ばしてくれる。

 二人目は、ニコニコと笑みを浮かべている、袈裟を着た男性。黒い髪を後ろで一つに束ね、長い脚を組みながら俺に……いや、満に手を振っている。

 三人目は、暗めの金髪をストレートに腰まで流し、どこか既視感のあるバラの髪飾りを付けた女性。俺を見て笑った後、口パクで「やっと会えたね」と伝えてくる。

 

 自己紹介されていないのにわかる。安倍さんと朝凪さんだ。

 

「ニコ、よくきたな。そこの二人は聖麗とマリーだ」

「どうもぉ。会えて嬉しいです。安倍聖麗です」

「朝凪真理。ふふ、なんか緊張してんね、ニコちー」

「えぇ、それはもう……」

「それじゃ、私は行くわね」

「月宮さん!? なぜ!?」

「オカルト関連は悔しいけど手に負えないもの」

「そ、そんな」

 

 それじゃあ俺は、ド変態陰陽師と激重巫女の相手を一人でしないといけないのか!? ルイスさんは依頼をそのまま俺に譲ってくれるという話だったからついてきてくれないだろうし……朝凪さんはまだいい。激重感情に目を瞑れば普通の人だ。その激重感情だって何も悪いことじゃない。

 問題は、阿部さん。満に振っている手が無視されているのに、まだ振り続けている異常者。満が怯えすぎて俺の背中に隠れてしまっているじゃないか! 普通に犯罪だぞ貴様!

 

「月宮さんと一緒にいられないのは残念だ。また機会があれば一緒に仕事をしよう」

「配信でもほとんど一緒なのに、こっちまで一緒だったらノイローゼになっちゃうわよ。ま、それも悪くなさそうだけど」

 

 ウィンクを一つ残して、月宮さんが部屋を出る。まったく、あの人はオシャレなやり取りがうまいなぁ。俺じゃなかったら惚れていた。よかった、俺の自己肯定感が低くて。変な勘違いをしてせっかく得た友情がなくなるのは嫌だからな。

 

「ニコちー。話しよっか」

「ハイ!!」

 

 威圧感のある朝凪さんの声に従い、安倍さんの隣に座、ろうとしたところで安倍さんがソファの上に足を投げ出して妨害。

 

「朝凪さんの隣にあなたを座らせた方が面白そうなので」

「靴を脱いだところだけは評価しますよ……!!」

 

 流石に足を無理やりどかせる度胸はなく、朝凪さんの隣に座る。座る前、子どもみたいな目で俺を見ていた朝凪さんが不覚にも可愛かったが、対面でニヤついている陰陽師が癪に障りすぎてそんな感情も消え失せた。

 

「さて、まずは集まってくれてありがとう。クールなやつらだと思っていたが、期待通りにクールだったな」

「こちらこそありがとうございます。おかげで満さんに会えましたから」

《ひぃっ》

「安倍さん、そろそろ満が本気で怖がっているのでやめてくれませんか?」

「失礼。満さんが幽霊であるのにも関わらず生気に満ち溢れ、とてもお元気で可愛らしく、元気の象徴のようなお方だと思い、つい気になってしまいまして」

《なんだ! いい人だったんだ!》

「チョロすぎるぞ満! 誰に似たんだ!」

「ニコちー」

 

 《よろしくお願いします!》と言って握手までしてしまっている始末。少し褒められただけで警戒心が吹き飛ぶなんて、大丈夫か満は。怪しい宗教勧誘に引っかかって成仏させられたりしないか?

 

「失礼しました。ルイスさん、続きをどうぞ」

「構わない。依頼は、遊園地『FAKE LAND』についてだ」

「あ、そこ知ってる。なんか色々オカルト的な噂があるんですよね」

「流石博識だな、マリー」

「満、知っているか?」

《知らないし、死神はリンゴしか食べない、の冒頭みたいな聞き方やめて》

「オッホ! 失礼!」

「笑い方キモ。ウケる」

 

 まぁ、遊園地ってまったく縁ないしなぁ。行こうと思えば行く機会はいくらでもあったとは思うが、遊園地に行くと俺の視界には幽霊も並んでいるように見えるから、俺だけ待ち時間が人の二倍近くかかる。非効率だ。

 

「『FAKE LAND』では、今マリーが言ってくれた通りオカルトの噂が多発している。従業員に一人多く数えられたり、触れられた感覚があったり、遊園地のどこで写真を撮っても何かが映りこんでいたり……ちなみに、これがその写真のサンプルだ」

 

 ルイスさんが懐から写真を取り出し、俺たちの間にあるテーブルへそれを滑らせる。

 その写真に写っているのは大学生グループだったり、社会人っぽかったり、家族っぽかったり。共通点を探すとすれば、そのいずれにもはっきりとは目に見えない人の姿が写っていることだろう。

 

「本物だな」

「本物ですねぇ」

「本物だね」

《ここにいけば友だちできるかな!?》

 

 多分そういうのじゃないと思う。

 

「依頼主は『FAKE LAND』オーナー。このオカルトの噂をどうにかしてほしい、というアバウトな依頼だ」

「聖麗さんが全員蹴散らすとか?」

「写真越しだと微妙ですが、恐らく悪霊の類ではなさそうなんですよねぇ。だとすると気が引けます」

「とにかく、いってみないことには始まらないか」

 

 写真が本物だとすると、触れられたとか、一人多く数えられたとかも本当だろう。そんなにはっきりと霊障が出ていて、特に目立った被害がないのであれば、安倍さんの言う通り悪霊の類ではなさそうだ。

 だとすると、目的は何か。それをはっきりさせる必要がある。幽霊のやりたいことを阻害して、結果悪霊になってしまった、なんてことがあれば本末転倒だ。

 

 今回は、陰陽師ではなく幽霊との会話に慣れている俺の出番に違いない。そのまま俺の活躍を大々的に宣伝できれば、オフィス失楽園にも依頼がドサドサくるはずだ!!

 

「よし、行きましょう!」

「ワタシ、車できたのでワタシの車で向かいましょうか」

「お、いいんですか? お願いしまーす」

《車に乗った瞬間祓われるとかないですよね?》

「そんなまさか! じんわりと除霊するのが趣味ですし、そもそも満さんにそんなことしませんよ」

「前半がなければよかったのに……」

 

 また満が怯えて俺の背中に隠れてしまった。でもまぁどうせ乗せられて元通りになるから、今は甘えさせておこう。

 

「もし邪神とかいたらどうします?」

「ニコちーがどうにかしてくれます」

「ふっ、実績がありますからね」

「おや、そうなんですか?」

「らしいですよ」

「なぜ他人事……?」

 

 だってパラレルワールドの俺だし。

 

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