稼ぎの少ないオカルト事務所所長、VTuberになる   作:酉柄レイム

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第218話 愛

「シゲキ的ニコ、ちょっとツラ貸せ。赤羽満は帰れ」

「なんだいきなりっ、って手錠!? お前、なぜこんなものを!! すまん満、先に帰って、もういない……!?」

 

 『project:eden』の事務所に用があって、その用を済ませた瞬間、シゲキに拉致された。急展開すぎる。あと満、少しは俺の心配をしてくれてもよくないか? シゲキに拉致られてるんだぞ。俺が死んでもいいっていうのか!!

 まぁ、流石にこんな人目につくような場所で拉致したのだから、殺しはしないだろう。シゲキなら逆にやりそうな気もするが、どう考えてもリスクの方が大きい。ルイスとイベリスも見ているだろうしな。

 

 何も悪いことをしていないのに手錠をつけて連行され、『本日はシゲキ的に利用不可』と目に痛いシゲキ的な色の張り紙が張られている会議室にぶち込まれた。「座れ」という目配せに従って椅子に座ると、対面にシゲキが座る。

 

「お前、性行為しただろ」

 

 かと思えば、いきなり爆弾を投げつけられた。せっ、性行為!?

 

「やっ、やややや、やっていたとしてもお前に言う義理はない!!」

「黙れいつもよりオスクセェんだよテメェ。次誤魔化したらシゲキ的に殺す」

「いいか、シゲキ。人にはプライバシーというものがある。それをむやみやたらに侵害することは褒められた行為じゃない」

 

 シゲキが懐から正体不明のリモコンを取り出した。

 

「お、脅しには屈しないぞ!!」

「まァいい。お前はそういうやつだから、やってねぇってことでもいいから聞け」

 

 シゲキにしては物分かりがいいな、と内心拍子抜けに思っていると、シゲキがリモコンのボタンを押した。死んだと思ったが、俺にかけられていた手錠が外れただけだった。恐らく、シゲキの物分かりがよくなかったら手錠が爆発して、俺の命はなくなっていたことだろう。まさか普通なら安全とされている事務所内で命の危機に陥るとは……。

 しかし、聞け、とはなんだ? それに、前提としてせ、性行為の経験の有無を聞いてきたことが気になる。……ま、まさかアザミとそういうことをするとかか? そんなはずはない。シゲキはそういう行為を無駄だと切り捨てるような輩のはずだ。でもそういう知識と経験を獲得するためにアザミと一緒にいるのだったか……? であればない話じゃないが、想像ができん。シゲキがそういう話をするとは到底思えん。

 

 ということは、俺の脱童貞をおもしろおかしくいじりにきたということか!?

 

「アザミが抱かせねぇんだ。どうすりゃいい」

「なっ、なにぃいいいいい!!!?????」

 

 し、シゲキが男女関係の相談だと!? あの傍若無人で、自分中心で物事を考える自己中心的で、自分を中心に世界が回っているのではなく、もはや自分を中心に世界を回すようなやつが!?

 ……それほど、アザミはシゲキの中で大きな存在なのだろう。正直俺よりも適任はいるだろうとは思うが、せっかくの相談を無下に扱うわけにはいかん。最大限力になってやらねば。

 

「抱かせない、というのは?」

「そのまんまだ。照れてんのかなんなのか知らねぇが、抱かせろっつっても拒否ってきやがる。どうすりゃ女を抱けんだ?」

「……」

 

 でも俺、透華から動いてくれたしなぁ……。そもそも婚約したのも遅すぎたくらいで、一般的な男女の関係からは外れていると言ってもいい。早速何も思いつかん。どうすれば抱けるかなど、そんなことを俺が知っていたらもっとスマートになれただろう。

 シゲキなら、俺がそういう人間であるということなどわかっているはずだ。それでも俺に聞いてくるのは俺がアザミの同期だからで、アザミが思っていそうなことを理解しているから、か? でもそれなら月宮さんも……いや、流石のシゲキでも女性相手にそんな話はしないか。

 

「まず、アザミは何と言って拒否するんだ?」

「キスもまだだとか処女クセェこと言ってやがったな」

「お前のデリカシーが足りないことが原因であることはわかった」

 

 あとめちゃくちゃ気まずいな、同期のそういう事情聞かされるの。次アザミと会った時に知らないフリをできる自信がない。ただでさえ俺が脱童貞したことを視聴者にバレないように立ち回らなければならないのに。俺はどれだけ多くの場面で平静を装えばいいんだ。

 その話は一旦置いておこう。シゲキに足りないのはデリカシーだ。最近のシゲキの話をしているアザミを見る限り、好意があることは間違いない。そして、アザミは冷めているように見えて存外乙女だ。恐らくキスが好きだしハグも好きだろう。こんなことを考えている俺はキモすぎるが、シゲキの相談に乗るためだから許してほしい。満がリンクを切っていて本当によかった。

 

「シゲキ。お前はなぜ行為に及ぼうとしている?」

「そういうモンだから」

 

 であれば、必要なのは『愛してくれているという証』。シゲキが行為に及ぼうとしているのは、『そういう仲の男女はそうするものだから』という知識に基づいたものに違いない。そういう一般的な経験を得ることを目的にしている、とアザミもわかっているから、好意を抱きつつも拒否しているのだろう。というかこういう話題の時にテーブルに肘をつきながら「そういうモンだから」って舐めているのかこいつ?

 

「まずお前に教えてやろう。そのような行為は、相手を愛してこそ成り立つものだ」

「なら条件は整ってんじゃねぇか。俺にとってアザミ以外の女はいねぇよ」

「えっ」

 

 思わず俺がきゅんとしてしまって胸を抑えると、シゲキから「クソキメェ。シゲキ的に死ね」と言われた。きゅんとしただけなのに暴言がエグすぎる。

 そうか。シゲキは俺と同じ……というとシゲキに失礼だが、大事に想っている相手に対して、その想いの表現方法を知らないだけなのだろう。だから、『愛しているから』という感情よりも、『そういうものだから』という理屈を理由にしてしまう。

 

 どうやら、シゲキの意識から変える必要があるようだな。

 

「シゲキ。アザミと普段どうやって過ごしているんだ?」

「研究。時々アザミが俺を数秒以上、平均して大体6秒程度見てきたら、来いっつって近くにいさせてやってる。機嫌がよくなるから便利だぜ?」

「クッ、お前への怒りとアザミの可愛さがぶつかり合って心がぐちゃぐちゃだ……!!」

 

 それは好きな人に甘えたいというサインで、それを正しく受け取っているのにも関わらず、その真意までは理解していない!! そしてアザミがかわいい!!! そういえば月宮さんとのスキンシップもボディタッチが多めだったな……。やはり、人のぬくもりに安心感を覚えるタイプなのだろう。愛しすぎるな。口に出さないのもアザミらしい。

 

「俺への怒り?」

「あぁそうだ!! アザミのそれは甘えたいサイン!! お前は近くにいさせてやっているだけだろうが、アザミはもっとお前からの愛を感じたいと思っているんだ!!」

「そいつはどうやって与えるんだ」

「そもそもだな、愛とは『そういうものだから』という理由で成り立つものではない!! 愛するが故に、衝動的にそうしてしまっているという方が正しいんだ!! なのにお前は恋人の一般論からごちゃごちゃと面倒なことを考えて理由付けして、男の風上にもおけん!!」

「……なるほどな」

 

 これがそうなのか。シゲキは初めて愛を知ったアニメキャラみたいな言葉を吐いて、納得したように頷いた。

 ……案外、真面目に聞いてくれるな。

 

「ってなるとそうか。俺はミスってんな」

「あぁ、ミスっている。そもそも、お前はさきほど『いさせてやっている』と言っていたが、愛とは言い換えれば奉仕の精神だ。相手のためにこうしたい、という感情を愛と呼ぶ」

「自分起点じゃねぇってことか」

「そういうことだ。ざっくり言えば、アザミの気持ちも考えろ、ということだな」

「わかった。助かった」

 

 シゲキはらしくもなく礼を言って、立ち上がる。覚悟を決めた男の目をしていた。

 

「またなんかあったら頼む。こういう話は、お前にすんのが一番めんどくさくねェ」

「……一応褒め言葉として受け取っておく」

「シゲキ的に褒めてんだよ。会話が滞りなく成立する頭があって、なおかつダリィ茶化しも入れねェ。お前が誰にでも好かれるワケだな」

 

 ……調子、狂う!!!!!!!

 

 

 

 

 

 翌日。俺と満と月宮さんは、会議室に集められていた。昨日のことがあるから、もしかしてシゲキが大失敗したのかと身構えていると、アザミがもにょもにょと口を開いた。

 

「その……し、シゲキがいきなりカッコよくなって、どうすればいいかわからん」

 

 三人で目を合わせる。何がどうなってそう思ったかはわからんが、アザミがかわいいことは確かだ。

 

「聞かせて」

 

 月宮さんが見た者すべてを惚れさせてしまいそうになるほど真剣でカッコいい表情でアザミに話を促す。そして満は我慢できなくなってアザミのそばに浮き、頭を撫で始めた。かわいいが渋滞している。どこの世界を探しても、誰からも不満が出ない渋滞はこれくらいだろう。

 

「し、してほしいと思ったことにすぐ気づいてやってくれたり、私のそばを通る時に頭を撫でてくれたり……。今までは恋人とはそうするものだから、という理屈が先行していたのに、何か、昨日は違ったんだ」

「ニコ。これで抱きしめるなって言う方が無理な話よね?」

「いいぞ」

「いえ、耐えるわ。大人だもの」

「大人なのににやけているぞ」

「感情が漏れることくらい許しなさいよ」

 

 いきなりのシゲキの攻勢に戸惑っているようだ。シゲキが優秀すぎる。あんな漠然とした俺の答えを聞いて、それをすぐに実行できるとは……。アザミのことを理解しているからこそだろうな。元々満点を叩き出せる土台はあったが、視点が違っていただけか。

 

「ねぇアザミさん。どうすればいいってどういうこと? 何も悪いことないように聞こえたけど」

「……その、だな。あまりにも驚いてしまって、キスも断ってしまって。すべては私の舌を嚙みちぎるための布石だとわけのわからないことを考えて」

「なくはないのが微妙なところだな……」

「でも、それで茂樹さんが止まるって、本当にアザミのことが大事なのね」

「信じられんが、自覚はある。ただ、早く私が慣れないとシゲキがいつ暴挙を働くかわからん」

 

 シゲキに、相手のペースも保つように伝えておくか……。このままでは、シゲキと司法で戦う準備をすることになりそうだ。シゲキに限ってそんな心配はないだろうが。自分が不利になるようなことはしない、というよりも、昨日話してアザミが大事であることは伝わった。そして、その方向性の修正もできている。アザミを傷つけるような真似はしないだろう。

 

「無理に慣れようとする必要はない。月宮さんも言った通り、シゲキもアザミが大事なのだろう。いくらシゲキと言えど、待ってくれるはずだ」

「……本当か?」

 

 不安そうなアザミについに月宮さんが我慢できなくなり、アザミを抱きしめた。

 

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