稼ぎの少ないオカルト事務所所長、VTuberになる   作:酉柄レイム

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第219話 契約

「ニコさんにお願いがあるんです」

「お願い、とは?」

 

 8月が終わり、辛うじてクーラーによる電気代の心配をしなくてもよくなるほどの暑さに変わった9月初旬。俺はリックさんに呼び出され、事務所の会議室にいる。なぜか満はついてこないようにという指定があり、俺一人のみだ。

 リック・アルベールさん。傭兵集団ヴァールハイトに所属しており、視聴者からの扱いは俺や聖麗、そして愛人と似ている。つまり雑に扱われているということだ。飄々としていて人を小ばかにし、陥れることが何よりの幸福らしい。その終わっているとも言うべき性格から、純花さんにものすごく嫌われている……はずなのだが、視聴者からは『嫌よ嫌よも好きのうち』と捉えられ、純花さんに捕捉されない範囲でカップリングを楽しんでいる。

 

 そんなリックさんに、満抜きでという指定があったということは、どうせろくでもないことなのだろうなと当たりをつけてリックさんに続きを促した。リックさんは神妙な面持ちで俺の目を見て、いつもより低い声で告げる。

 

「ボスをかわいく見せるボイス台本を、書こうと思うんです」

「聞きましょう」

 

 心の中で手を取り合い、リックさんの真剣な目に真剣な目で返す。なんだ、ろくでもないことじゃないじゃないか。自身が所属する組織のボスの魅力を伝えたい、ということだろう。リックさんの普段のイメージからすれば『ボスをおちょくりたい』とも捉えることができるが、かわいいは正義という言葉もある通り、可愛く見せることが罪になるわけがない。もちろん俺が聞きたいからという理由で無理やりそう納得しているわけではなく、本当にそう思っているわけであって、『project:versus』でポンコツな面が見えてきたから「あれ、この人思ったよりもかわいいな」と思い始めているなどということはなく、つまり俺はリックさんの心意気に胸を打たれたというだけだ。

 

「最近、『project:versus』でボスのポンコツが露呈し始めたので、辱めるなら今だと思いまして」

「なるほど」

 

 リックさんの邪悪な発言は聞かなかったことにした。

 

「何戦かやって、流石ボスっていうのもありましたけど、例えばブランドものがわからなかったり、高級な楽器の音色がわからなかったり、『完全無欠』っていうイメージから離れるようなポンコツが露呈している。これをいじらずしてヴァールハイトは名乗れません」

「確かに、地味に俺とシェリーさんは勝率がどっこいどっこいなんですよね……」

 

 『project:versus』の予選を数回行い、今俺たちは本選に行けるかどうか微妙な勝率だ。シェリーさんはさっきリックさんが言った通り、所謂『格付け系』に滅法弱い。愛人も弱いと言えば弱いが、戦闘系で相手が女性でなければ大体勝ってくれる。戦う種目事態に興味がなくとも、『負けるより勝つ方がそりゃいいでしょ』という理由で勝てる。アレは理解の外側にいる人間だ。そもそも人間かどうかすらも怪しい。

 俺に関しては、頭を使うものであれば勝てる。相手がシゲキやアザミであれば無理だろうが、幸いルール的に相手はランダムだ。俺は自分の時間が大量にあって知識量もあるから大体勝てる。『格付け系』も運が良ければ勝てる。身体能力が絡めば無理。

 

 というわけで、俺たち三人の勝率を並べた時に俺とシェリーさんはどっこいどっこいになる。あのシェリーさんが俺とどっこいどっこいなど、今までのシェリーさんのイメージからすれば信じられないことだろう。俺に対して失礼な話だが、俺もそう思う。

 

「ちなみに、案はあるんですか?」

「もちろん。というのも、今までボスはボイス自体全然出してこなかったので、いつか辱めるために書いていた弾がいくつもあるんです」

「一応聞きますが、シェリーさんはヴァールハイトのボスなんですよね?」

「別に殺し合いは日常茶飯事ですし、それに比べたら僕のこれはかわいいものでしょう」

 

 むしろ、殺し合いならシェリーさんは必ず勝つだろうから、社会的に辱める方がエグイと思うが……。シェリーさんも、部下にポンコツがバレるのが恥ずかしいと言っていたし、人並みに羞恥心はある。リックさんがやろうとしていることは大ダメージだろう。

 

「ボイスを出さなかった理由は?」

「需要がないだろうからって。あぁいう冷たく見えるのに優しいお姉さんキャラが需要ないなんてことあるはずないのに……まぁ、ボスは感覚がずれていますから」

「今まで出したボイスは会社の上司のパロディ、姉パロディ、日常(ただし戦場とする)、でしたね」

「聞いといて把握してるじゃないですか」

「同じチームですから当たり前です」

「それもそうですね」

 

 他のVTuber事務所の例に漏れず、うちの事務所も誕生日や周年でボイスを出したりする。しかしシェリーさんがボイスを出したのは三回のみ。それもデビューしてすぐの時と、視聴者に頼まれすぎた時と、視聴者に頼まれすぎた時の三回だ。どれも自発的というわけではなく、仕方なくといったイメージが強い。

 

 ……ん? 待てよ。

 

「気づきましたか、ニコさん」

「はい。シェリーさんがボイスを出した理由のうち二つは、どちらも視聴者に頼まれたから。シェリーさんの程の頭脳があれば、いや、シェリーさんほどの頭脳がなくとも、『需要がある』と判断する材料には十分なはず。であれば、『需要がないから』というのは建前で、別の理由がある……?」

「すぐにそこに気づくとは、流石ですね。気持ち悪いです」

「流石という言葉と罵倒が共存することあるんですね」

 

 もちろんリックさんだから褒め言葉のつもりだとは思うが……。マズいな、リックさんといると最近鳴りを潜めていた俺のキモい部分が丸裸になってしまう。せっかくキモいと言われることが少なくなってきたのに、このままではデビュー初期の頃に逆戻りだ。

 別に、キャラクターとして『キモい』というのは悪くないとは思うが、将来生まれるであろう俺の子どものことを考えると、父親がインターネットで『キモイ』と言われまくっているのは流石にかわいそうだからな。一番身近な大人である親は、子どもの規範となる必要がある。

 

「その理由は……単純に恥ずかしいから、とかですかね」

「はい。ボイス収録の現場に変装して潜入してボスの様子を確認しましたが、かなり恥ずかしがっていました。その時に映像にも残そうとしたんですが、やはりボスに気づかれてカメラを破壊され、ついでに僕の体も破壊されました」

「ついでで人体を破壊することあります?」

「確かに。普通は人体破壊がメインですからね」

「いや、そうではなく」

 

 さっきシェリーさんの感覚がずれていると言っていたが、リックさんも十分ずれているな……。傭兵集団としてはずれていないのだろうが、少なくとも日本の現代社会においてはずれている。よく考えれば積極的に人を辱めようとするのはおかしい。なぜ俺は乗り気なんだ?

 とはいえ、需要があることに間違いはない。『project:versus』でのポンコツ露呈後も解釈違いを起こしている視聴者はいなさそうだった。であれば、このタイミングでそういったポンコツを押し出したボイスを出すというのも正しい。

 

 問題は、それこそ解釈違いなのではないか、ということだ。

 

「少しいいですか、リックさん」

「なんでしょう」

「シェリーさんはボイスを出すのが恥ずかしくて嫌がっていた。視聴者に頼み込まれてやっと、というレベルです。そんなシェリーさんが、通常のボイス以上に嫌がるであろうポンコツを押し出したボイスを出すというのは、視聴者にとって解釈違いを生むのでは?」

「そこも考えてあります。だからこそ、ニコさんに協力を仰ぎたかったんです」

 

 その言葉を待っていた、と言わんばかりに笑みを浮かべ、リックさんが資料を見せてくる。それは企画書のようで、タイトルは『常識勝負! 負けたら恥ずかしいボイス収録!』とわかりやすいものだった。

 

「ヴァールハイトにはこれといったルールがありません。だからこそ行き過ぎていなければ殺し合いも咎められませんし、謀反のように見えるミハイルさんの別事務所への所属もお咎めなし。イレイナさんのように、個人的に許さないとかそう思うのも自由。ただし、一つだけルールがあります」

「それは、なんですか」

「ヴァールハイト内過半数の承認を得た場合、ボスは喧嘩を必ず買わなければならない」

 

 続いて、リックさんはタブレットを見せてきた。そこには何かしらの契約書が計六枚映し出されており、承認欄にサインが書かれている。

 

「イオスさん、グレイヴィーさん、ミハイルさんはボスの恥ずかしいところが見たいと快く同意してくれました。イレイナさんはこういった書類はよく読まずに承認するのでチョロかったです。サラさんも『ニコが相手なら』と承認し、エルロイさんも『おもしろそう』と承認してくれました」

「待ってください。俺が相手なら?」

「詳しくは企画書を」

 

 促されるままに企画書を読む。そこには、『project:versus』にて俺とシェリーさんの勝率が並んでいるため、シェリーさんのボスとしてのメンツを保つために、上下関係をはっきりさせることを目的とした『常識クイズ』を行うといった内容が記載されていた。負けたら恥ずかしいボイス収録! というのは俺にも適用されるらしい。

 

「俺の承認を待たず企画が決定している……!?」

「もちろんそんなことはありません。ニコさんが承認しなければ、この企画は流れます。ただ、ボスにはもうこの話をしていまして……受ける、と言っていました」

「なっ、何……!? いや、そうか。過半数どころか全員から承認があるのであれば、ルールに基づいて受けざるを得ないか……」

 

 というか喧嘩ってこういうのもありなのか。確かに広義で見れば喧嘩だとは思うが、唯一明確に存在するルールにしてはあやふやじゃないか? もっとこう、謀反というか、『ボス』として相応しくないからこそ、その地位を交代するためにあるルールとかそういうのだと思っていた。

 恥ずかしいボイス、というのは何を収録させられるんだ? 自慢じゃないが、俺に恥ずかしいと思わせるのは至難の業だろう。俺の知らないところで企画が進んでいたのは思うところはあるものの、実際俺にとってデメリットはほぼない、か。

 

「わかりました。受けましょう」

「ありがとうございます! ではこちらにサインを」

 

 リックさんに渡されたタブレットには、新しい契約書が映し出されていた。そこの承認欄にサインを書いて渡すと、リックさんは満足そうに頷いて。

 

「ちなみに、ニコさんが負けたら愛を囁くボイスを収録してもらいます」

「ふざけるな!!!!!」

「契約書にも書いてたじゃないですか。ちゃんと読んだ方がいいですよ」

 

 リックさんが再度契約書を見せてくれた。一行目にめちゃくちゃ書いていた。

 

 

 

 

 

ニッコリ探偵団 視聴者支部 part43

 

189:このライバーがすごい! ID:765HUfH6h

【常識クイズ】負けたら恥ずかしいボイス収録! ボスVSニコ!!

 

190:このライバーがすごい! ID:1y0Vb4dqW

急な配信告知

 

191:このライバーがすごい! ID:W33h/rOU4

なんとしてでもボスにボイス収録させようっていうリックの悪意を感じる

 

192:このライバーがすごい! ID:S+XTTy5aX

ボス、格付けみたいなやつはほぼ全外しだったからなぁ

 

193:このライバーがすごい! ID:180bOJF2U

常識クイズならまだいけんじゃね?

 

194:このライバーがすごい! ID:nqt+52dos

企画の発案がリックだし、無理だろ

 

195:このライバーがすごい! ID:tknXs5N8J

リックがどっちを負けさせたいかによる

 

196:このライバーがすごい! ID:scj8LwLxR

ちなみに、ボイスはどっちも恋愛系らしい

 

197:このライバーがすごい! ID:ZSPVJlCRY

ニコ、勝て

 

198:このライバーがすごい! ID:VrA1tYk/L

ここで勝たなかったらどこで勝つんだ

 

199:このライバーがすごい! ID:IcduDYRqe

【悲報】マリー、ボスを全力応援

 

200:このライバーがすごい! ID:1UkN6ycHe

【悲報】聖麗、ニコを全力応援

 

201:このライバーがすごい! ID:Z92Va2gNx

マリー「ボイスを出してもらった後、全人類の聴覚を奪えば私だけのものになる」

 

202:このライバーがすごい! ID:WSfgu7eQS

聖麗「ニコさんのボイスは面白そうですが、流石にキショイので」

 

203:このライバーがすごい! ID:ihUEBk/s0

聖麗にキショイって言われるの遺憾すぎるだろ

 

204:このライバーがすごい! ID:zkZQvJCo7

マリーを犯罪者にさせないためにも、ニコは勝つ必要がある

 

205:このライバーがすごい! ID:mmfLRZGjn

既婚者なのに……

 

206:このライバーがすごい! ID:E3GrUAT1F

嫁さん大丈夫なんかね

 

207:このライバーがすごい! ID:UGF9oKyzz

でもさ、あまり触れないようにしてたけど

ニコ、今も童貞なのか?

 

208:このライバーがすごい! ID:UaneRx1t8

最近、ニコに対する童貞いじりが少なくなってきたよな

 

209:このライバーがすごい! ID:1KpDwYtSR

それってつまり……

 

210:このライバーがすごい! ID:ChP88FCrb

やめとけ

ニコだけならともかく、嫁さんが関わることならイベリス様が黙ってないぞ

 

211:このライバーがすごい! ID:VwZgCaExv

プライベートなことは大好物だけど、あくまで出してくれたものを楽しむだけにしようね

 

212:このライバーがすごい! ID:/osacmAOQ

レストランで厨房に乗り込んで食うやついないだろ?

 

213:このライバーがすごい! ID:HnSJueetw

視聴者の質がいい

 

214:このライバーがすごい! ID:E2/fZ2G3X

イベリス様が片っ端から教育してるからな

 

215:このライバーがすごい! ID:gwIP1MRqw

エリちゃんは最近、「あいつの事務所とコメントの雰囲気ちげぇな。こっちのがガキっぽい」って言って燃えてたぞ!!

 

216:このライバーがすごい! ID:iBFU4Zu6h

流石に事務所単位で触れるのはなぁ

 

217:このライバーがすごい! ID:Tg1nbE0pM

事務所に怒られたって言ってちゃんと謝ってた

あまりにも素直すぎる

 

218:このライバーがすごい! ID:LtdZfwcGU

気の強いひよこ

 

219:このライバーがすごい! ID:VJhDPRQo4

ニコにはあんなにかわいい後輩がいるのに、どうして俺は……

 

220:このライバーがすごい! ID:F9kfCVTh1

>>217

事務所に怒られたからって理由なの? 反省してないよね?

っていうコメントに対して、

エリちゃん「ガキっぽいって思ったことは事実だけど、それは言うべきことじゃなかったって反省して謝ったんだ。だから間違ってねぇだろ」

って喧嘩売ってた

 

221:このライバーがすごい! ID:KwUW4749m

いつからここはエリちゃんスレになったんだ?

 

222:このライバーがすごい! ID:qLzzzLOQx

久しぶりにワクワクするニコの知り合いがきて興奮してるんだよ

 

223:このライバーがすごい! ID:UUcYdfJ6z

ちなみに、ユースちゃんはエリちゃんの方が橋渡しに向いてそうだと思って悔しがってるらしい

 

224:このライバーがすごい! ID:aKj7pC7jM

気の強いひよこは可愛い以外の何物でもないからな

 

225:このライバーがすごい! ID:uOvwqMdSO

優姫ちゃんとアザミんもエリちゃんとふみさんに会ったらしいな

 

226:このライバーがすごい! ID:dAe+SWOy7

それマ?

 

227:このライバーがすごい! ID:tUzYeaJQ/

ふみさん「エリちゃんが『ニッコリ探偵団って、本当に探偵団ってわけじゃねぇのか……』って安心しとったわぁ」

って言ってた

 

228:このライバーがすごい! ID:8KK8NoU3V

一緒に探偵したいってこと!?

 

229:このライバーがすごい! ID:Ge3HtGqwI

優姫ちゃん「可愛かったわよ、エリ。素直でいい子よね」

アザミん「口調こそ粗暴だが、純粋で可愛らしい」

 

230:このライバーがすごい! ID:lnO2vF65R

なお

優姫ちゃん「ふみは手強そうね」

アザミん「アレは人をおもちゃにするタイプだな。親近感が沸く」

 

231:このライバーがすごい! ID:vVxj3K9hD

エリちゃん、もしかしてガキなのか……?

 

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