稼ぎの少ないオカルト事務所所長、VTuberになる   作:酉柄レイム

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めちゃくちゃサボってました。ふと思い立ってポケモン全シリーズやってました。


第222話 先の長い想い

「それで、なんも起きへんけど。まぁちょうどなんもない日やったからよかったわぁ」

「そ、そうか。それならよかった」

「佐藤さん。今のは『せっかくの休日をどうしてくれるの?』っていう意味だよ」

「そ、そうか。それはすまん」

「す、すんません……」

 

 事務所を出て都城を呼び、数十分歩いて、今。公園のベンチに四人並んで座り、都城はにこにこして、俺と宍道は縮こまっていた。「俺が歩けば事件が寄ってくる!!」と自信満々に言い放っておいてこの体たらく。よく考えればそんなことがあるなら今頃エミと同じように依頼のある日々を送っていただろう。騙しやがって!! 許せん!!

 まぁ、エミは今頃海に沈められているだろうから勘弁しておいてやるか。というか向こうの世界のすべてがエミに対して勘弁してやってほしい。なぜ俺が話かける時はいつも命の危機なんだ。

 

「まぁ、ボスに会えたことやし、そんな怒ってへんよ」

「すまんが、俺は既婚者だ」

「黙れ、カス」

 

 らしくない冗談を言ってみたらこの仕打ち……。宍道もめちゃくちゃ睨んできている。二度とこんな冗談を言うのはやめにしよう。都城からはんなりが消えたらアラートだと思った方がいい。

 都城は怒っていないとは言ったが、呼びつけておいて何もないのは申し訳ない。なんなら今怒らせてしまったし、何か詫びをするべきだろう。とはいっても人生経験が浅く、こういう時の詫びとして何が適切かまったく思い浮かばない。そもそも事件があったとしても休日に引っ張り出して事件対応なんてどちらにせよ申し訳ないし。どのみち詫びる未来だったか……?

 

「あの、本当にすまん。せっかくの休みを……」

「もう。ほんまにええんよ。何もせえへんのをできるんは、充実してる証拠なんやから」

「都城……心に余裕ができたか? 昔なら『遠回しに死にたいって言ってるのかと思った』くらい言っていただろうに」

「これでも大人の女性やから。何やったら確かめてみます?」

「俺に三節棍が突きつけられたから遠慮しておく。いや、突きつけられていなくても遠慮はするが!!」

「テメェ、姐さんの誘いを遠慮するたァどういうことだ!!」

「佐藤さん、袋小路に行くの好きだね」

「俺が好きで袋小路に行っているように見えるか?」

 

 都城は魅力的だが、俺は既婚者だからな。と言うと、宍道は「それもそうだな」と言って三節棍を下げてくれた。言動行動が悪く見えるが、素直なだけだからな。素直だから言えばちゃんとわかってくれる。三節棍を携帯してはダメだというのはついぞわかってくれなかったが。

 しかし、何もしないのをできるのが充実している証拠、か。以前の俺は何もしないをしていたのではなく、何もしないことしかできなかっただけだからな。それで言えば、俺も最近充実しているということだろう。思えば、こうしてゆっくりするのも久しぶりかもしれない。

 

 そうして何もしないをしている中、初老の男性が公園にやってきた。初老の男性は砂場に行って数秒懐かしむように眺めた後、一人で山を作り始める。

 

「何やってんだ? あのじいさん」

「砂遊び……やろうけど、あの歳で、しかもおひとりで」

「そういう趣味があるのかもしれんが……」

 

 考えすぎ、と言われればそれまでだが、あのくらいの年齢になると脳機能の低下による子ども返り、徘徊……というのもありえなくはない。このままご家族の方がこなければ、声をかけた方がよさそうだ。

 と思っていたら、満が既に走り出して「おじいちゃん!」と声をかけに行っていた。行動力の化身すぎる!!

 

「すまん、行ってくる」

「水臭いわぁ。みんなで行きましょう」

「いい子だな、満」

 

 あいつ、大人っぽいところはあるし警戒心もちゃんとあるけど、死人だからか変なところで警戒心薄いんだよな……。もし万が一妙な人だったらどうするんだ。

 その可能性も考慮して、刺激しないように歩いて男性と満に近寄る。何か話を聞いているところのようで、よく見れば満も一緒に砂遊びをしていた。男性の表情にも笑顔が見えることから、俺の心配は杞憂だったようだ。

 

「満、いきなり走り出すな。すみません、突然お邪魔してしまって」

「だって、一人で寂しそうだったから」

「あんまり怒らないであげてください。一人で寂しかったのは事実なので」

 

 男性は人当たりのいい優しい微笑みを浮かべて、砂遊びの手を止めて会釈をしてくれた。認知機能はしっかりしていそうに感じる。それなら、ただ砂遊びが好きなだけか? まさか本当にそういう趣味の人だとは……。それなら、あまり踏み込まない方がいいか。

 

「いつも一人でここにいはるんですか?」

 

 俺は踏み込まない判断をしたが、都城はそうではなかった。しゃがんで男性と目を合わせ、微笑みながら小さく首を傾げる。好奇心旺盛なのは変わっていないらしい。和装なのに砂で汚れるのも気にしていないようだ。

 

「いつも……と言えばいつもですが、最近になって、ですね。いや、お恥ずかしい。私のような年齢の男が一人で砂遊びをしていたら怪しまれると分かってはいるのですが」

「まぁそうっすね」

「おい、宍道」

「はは、自分から言った事実を事実だと言われて怒りませんよ。お気になさらず。気を遣っていただけるのは嬉しいですが、気を遣われすぎますとこちらも肩肘を張らねばなりません。気楽にお話しいただけると嬉しいです」

 

 物腰柔らかで綺麗な人だな、と感じた。「話がわかるじいちゃんだな」と気安く隣にしゃがみこむ宍道に、「ありがとうございます」と笑顔でお礼すら言っている。この分だと、「まだじいちゃんと呼んでいいようなお歳ではない」と言っても封殺されることだろう。

あと俺だけ立ってるのはなんか恥ずかしいからしゃがむことにしよう。そう思って気取られないようにゆっくりしゃがむと、都城が「お揃いやね」と耳打ちしてきた。やかましい!!

 

「砂遊びが好きなんですか?」

「うぅん……初対面のみなさんにお話するのは気が引けるのですが……」

「……大丈夫だと思うぜ。ここにいる全員、なんとなく察してるから」

「おや、そうなのですか。なぜかは気になりますが、みなさんがそう仰るならそうなのでしょう」

 

 言うか言うまいか。そうやって悩んでいる時に切り込むのは宍道らしい。

 自然に。あまりにも自然に、俺たちの輪に入り込む人がもう一人いた。それを自然に感じられたのは、男性を除く俺たちくらいだろう。なぜなら、その人は男性と同じくらいの年齢の、女性の幽霊だから。その女性の幽霊が、男性を愛しい目で見つめているのを見れば、いやでも察しがつく。

 思えば、満が真っ先に砂場へ行ったのは、女性に気づいたからかもしれない。

 

「最近、妻を亡くしまして」

 

 奥様の手が、男性の手に重なった。

 

「子どもの頃からの付き合いでしてね。幼い頃はよく公園で遊んでいて……。ですから、ここに。怖くなったんです。60を過ぎましたから、いつか忘れてしまうんじゃないか、と。それなら、思い出があるここにくれば、忘れないで済むのではないか、と」

「あのね、おじいちゃん」

 

 満が奥様に微笑みかけてから、口を開いた。奥様は自分が見えていると思っていなかったのか、目を見開いて驚いている。だから、男性が満を見ている隙に俺たち三人も手を振っておいた。見えていますよ、と伝えるために。

 

「先にいっちゃった側ってね、大好きな人に想ってもらうのってすっごい嬉しいんです! でも、すっごい申し訳ないって思っちゃうんです。やっぱり、まだこれからがある人の人生の足を引っ張りたくないって。そんなこと、おじいちゃんは絶対思ってないと思うんですけど」

「……うん」

「あなたと生きたこれまでが幸せだったから、あなたが生きるこれからも幸せであってほしいって、思ってると思います」

 

 奥様がゆっくりと頷いたのを見て、満が一瞬ほっとした表情をした。勢いで代弁するな。お前が読み取る人の感情に間違いはないとは思うが、違ったら取り返しがつかんぞ。

 

「でもなぁ」

 

 都城が、奥様をじっと見つめる。何かを確かめるような、そんな視線だった。その視線を、次に男性へ向けた。

 

「奥様のことを忘れへんようにするんが、幸せなんちゃうかなーって思うんですけど、どうです?」

「もちろん。私の幸せは、妻とともにあることですから」

「だーかーら! それが申し訳ない! って思っちゃうんです!」

「まぁ、姐さんの言うこともわかりますけど、未練っつーもんもありますし。じいさんが想い続けることで成仏できねーってのもあるわけで……」

「つまりですね。この人はもう私がいなくても大丈夫だ、と奥様が思ってくれれば大丈夫なんです。忘れる必要はありませんが、いつまでも引きずっていると奥様が次にいけません。……が」

 

 都城から、満から、宍道から。言葉を繋げて途中で止めて、俺も奥様に視線を向けた。

 俺と満がそうであるように、透華と満がそうであるように。生者が未練を持ったまま、死者がこの世に定着するなんてことは珍しくない。俺は死後の世界を知っているわけではない。輪廻転生があるとも信じているが、確証はない。成仏した方がいいなんてこの世側の理屈で、あの世側がどうかなんてわからない。

 

 ただわかることは、今この瞬間、奥様は生きている。自分を忘れないように砂場へきてくれている自分の旦那の側に居ようと、愛しい目で旦那を見ているこの人が、生きていないなんてことはありえない。

 そしてもちろん、男性の幸せだけではなく、奥様の幸せも考えるべきだ。さっき満は死者側の理屈で前を向いてほしいと言ったし、俺もそう言ったが、本当はどうだろう。

 

 多分、満が一番よくわかっていることだ。

 

「俺は、このままでもいいと思います。だって、奥様がまだあなたのことを愛しているそうですから」

「……そうですか。あなたには、そう見えますか」

「私ら全員、そう見えてますよ」

 

 奥様は、さっきと同じようにゆっくり頷いた。さっき満に勢いで代弁するなと言った俺が勢いで代弁したから、内心ちょっと焦っていたから本当によかった。本当にすみません奥様。自分が思っていることを人に言われるのはあまりいい気持ちではないでしょうに。

 

「ありがとう、ございます。少し楽な気持ちになりたくて話したつもりが、ここまで元気をもらえるとは思ってもいませんでした……というのは、あなた方に失礼ですね」

「おいおい、気楽に話せって言ったのはじいさんだろ? そんなん気にしねぇですって」

「はは、そうでした。……改めて、ありがとうございます。先の長い片想いかと思っていましたが、両想いであるなら、幸せと言えるのかもしれません」

 

 

 

 

 

「実体化とか、やんなくてよかったのかよ」

 

 二人きりにした方がいいだろうと公園を去ってしばらくしてから、宍道が少し責めるような空気を纏って俺を小突く。それにどう答えたものかと頭を悩ませている間に、都城がくすりと笑った。

 

「あの人らは、あれでええと思うんよ」

「でも、会えた方がいいじゃないですか」

「もう伝わってるんやもん。あれが美しいって思ったから。そうやんな?」

「あぁ。あの人は、奥様の声を必要としていたが、必要としていなかった。そう思った」

「意味わかんねー」

 

 不満そうにしつつも、二対一は旗色が悪いと思ったのかすんなり引き下がった宍道は、次の話題を提供してくれた。

 

「んで、影響されて寂しがってオメーの背中に張り付いてる満はどうすんだ?」

「かわいらしくてええやん。しばらくこのままでええんちゃう?」

「うぅー……」

 

 寂しがりつつも、俺が貧弱だから浮きながら張り付くという芸当をしてくれている満に苦笑して、「リンク繋げるか?」と聞けば「それはいい」と断られた。俺が気色悪いからか!?

 

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