稼ぎの少ないオカルト事務所所長、VTuberになる   作:酉柄レイム

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第223話 戦略会議

 『project:conflict』。配信者全体を巻き込んだコンテンツを『project:eden』のものにするつもりで制作、配布を行ったゲーム。箱内でやったときは想定されていた遊び方とまったく違う遊び方をしてしまったそれの配信者サーバが、10月の一か月間開かれる。サーバに参加できるのは『project:eden』の運営チームが声をかけた配信者のみとは聞いているが、どうやら事務所だけでなく個人配信者にも声をかけているらしい。

 そして、浮き出てくる問題が一つある。それは、そのサーバに『ゆーとぴあ』の方々も参加する、ということだ。以前都城と宍道と会った時にふとその話をされ、どうやらあの二人とユースさんに留まらず、他のゆーとぴあの方も参加するらしい。

 

「つまり、俺がついに燃えカスになって死ぬ日がくるということだ」

「ニコさん死んじゃうんですか……?」

「マジっすか!? 俺の命分けますよ!」

「大丈夫だよ二人とも。比喩だから」

 

 『EDEN’s School』の収録日。アルをゲストに招いて『人生を楽しく生きる術』を学んだ後(ちなみに俺だけがためになった。他は実践済みだった)、自然と『project:conflict』の話になり先ほどの発言をしたのだが、星菜さんとアルが相手だとこうなるのか。純粋すぎないか? それとも俺が本当に死にそうな見た目をしているからか? 恐らくどちらもだろう。

 

「ゆーとぴあの人とどう関わるべきか……」

「楽しそうですよね!」

「な! なんかゆーとぴあの事務所的にだめそーって思ってたからマジ嬉しい!」

「ニコさん、ほんとに聞いてた? 人生を楽しく生きる術」

「いやしかし、俺には既に守るものができていてだな。俺の転落は俺だけの転落じゃすまないんだ。大炎上して再起不能になったらどうする!?」

 

 全員から何言ってんだこいつみたいな目で見られた。満のみならず、星菜さんとアルまで!?

 

「や、ニコさんがそうなるって想像つかねーんすよね。だってこんなおもろくて優しくてカッケー人、ニコさんに嫌だって言われても誰かが助けますもん」

 

 俺、泣く。星菜さんに背中を撫でられながら満に涙を拭いてもらう様を撮っているディレクターには後で物申しておこう。あの人、星菜さんだけに許可を取って収録後の様子を流す癖があるんだよな……。

 男の意地で涙を止め、改めて考える。今回ばかりは俺の考えすぎではなく、俺だけが考えていることでもない。正直、『project:eden』のライバーであればほぼ無傷で済むとは思うが、今回は個人で活動している配信者の方も参加するんだ。何の後ろ盾もない方からすれば、ゆーとぴあの力……もとい、ゆーとぴあが抱える視聴者層の力というか厄介さというか、そういうものは恐怖の対象になるだろう。

 

 そして、そう思われているであろうことをゆーとぴあの方々も理解していると思う。だから、全力で楽しむ土壌が整っていないんだ。開催を聞かされた時は思わず「早くないか?」と言ってしまったが、ルイスは「あぁ、クールだな」と言っていて、イベリスは「流石にオシャレすぎるわね」と言っていて、シゲキは「シゲキ的だろ?」と同意を求めてきた。意味がわからなかったが、とりあえず止められそうにないことだけはわかった。

 

「なんとかして全員に楽しんでもらいたいが……」

「もう運営側のマインドじゃん。ニコさんらしくて素敵だけど」

「ゆーとぴあの人と他の人が楽しくお喋りできるようになればいいんですよね?」

「あ、それならニコさんが橋渡しすればいいんじゃね?」

「それです! ニコさんにぴったり!」

「だろ?」

 

 いえーい! とハイタッチしている星菜さんとアル、そして置いて行かれている俺。何? 俺が橋渡し? ゆーとぴあとの? 

 一旦想像してみる。頭ごなしに否定するのは愚か者のやることだ。しっかりかみ砕いて、自分でちゃんと考えてからにしないとな。

 

 ……。

 

「満、どう考えても俺が燃えカスになる未来しか見えん」

「いつもなら悲観的すぎって言うところだけど、今回はまぁ……」

「えー。ニコさんなら大丈夫ですよー。ほら、バーとかやって馴染めない人たちの集まるところみたいな感じにして、悩み事を聞くみたいな!」

「俺そこで働きてー! 絶対楽しいじゃん!」

「私も!」

「ちょ、勝手に盛り上がるな! やると言っていないだろう!」

 

 いつも明るい二人がわかりやすく落ち込んだ。ダメだ! いつも二人を制御してくれる人が近くにいないから純粋な攻撃を受け続けてしまう!!

 ……とはいえ、言い出しっぺというか、ゆーとぴあを取り巻く状況を危惧しているのに何もしないというのは筋が通らない。二人の言う通り、何らかの形で橋渡しをできるような役割を引き受けねば男が廃る。

 ……いやでも、バーのマスターか……確かにダークでミステリアスな俺にはお似合いだが、コミュ障だぞ? そんな俺がバーのマスターなんてできるのか? 

 

「……いや、できなくはない、か」

「お、マジっすか!!」

「雇ってください、マスター!」

「ちょっと待て、それはゲームが始まってからの雰囲気というか、色んな選択肢があると思う。二人はゲームが始まって色んなものを見て、それでもと思ってくれるならきてくれればいい」

「んー、一旦わかりました!」

「俺、バーの店員やってみたかったんだよなー!」

「わかります!」

 

 全然わかっていなさそうだった。

 

「どうするつもりなの?」

 

 星菜さんとアルが「制服どうする?」と俺を放置して盛り上がり始めたのをよそに、満がこっそり聞きに来てくれた。その表情には心配の色がある。多分、星菜さんとアルに言われて無理をしようとしていないか心配してくれているんだろう。普段俺をけちょんけちょんにしてくるが、元来優しいやつだからな。

 

「橋渡しをするなら、元々その役割を担っていた人がやるべきだろう、と思ってな」

「……あー、なるほど」

「それに、ゆーとぴあだけではなく『Arcadia』も同様に対処……というと言い方が悪いが、橋渡しをする必要がある」

 

 だから、協力してもらえたら嬉しいが……。そう思いながら、スマホを開いてdicecodeでチャットを送った。

 

 

 

 

 

「なるほどな。ニコらしいっちゃニコらしいが、バーのマスターか。バーのマスター!? 似合わねー!!」

「何だとミハイル!! ダークでミステリアスな俺にぴったりの職業だろうが!!」

「ライトでコミカルだろ」

「なにおう!?」

「まーまー落ち着けって。似合うかどうかは置いといて、立派だよお前。流石だな」

「私たちの事務所のことを考えてくださってるなんて、嬉しいです!」

 

 後日、『project:edem』事務所会議室。そこに集まったのは、俺、満、ミハイル、フレイルさん、そしてユースさんの五人。

 俺が考えたのは、橋渡しをするなら元々事務所の架け橋として動いていた者たちでそのまま懸け橋になればいいということ。ミハイルは『Arcadia』で、ユースさんは『ゆーとぴあ』だからちょうどいい。

 

「俺がいれば『Arcadia』のやつらもきやすいし、ユースちゃんがいれば『ゆーとぴあ』の子たちもきやすい。同じ事務所のやつがいるっていう理由ができるからな」

「あぁ。三人には申し訳ないが、協力してほしい」

「申し訳ないなんて思わないでください。私、すっごく嬉しいです」

「むしろありがとな。そんな事務所同士の架け橋っていう重要なことなのに私を呼んでくれて。元々ミハイルと絡んでたからってだけだろうけど、それでも信頼してくれてるみたいで嬉しいぜ」

「マジでありがたい。合法的にゆーとぴあの子と喋れるってことだしな」

「お前を呼んだのは早計だったかもしれん」

「冗談だよ。女の子が好きなのは嘘じゃねぇけど、流石に今回は事が事だからな」

 

 めちゃくちゃいい人たちだ……。自由度の高い『project:conflict』で始まる前から職業を固定してくれと頼んでいるのに、こうも快く引き受けてくれるとは。もしかしたらこんな重要なことを頼んでいるから断りにくいというだけかもしれんが、少なくともミハイルとフレイルさんは嫌だったら嫌と言ってくれるだろう。だから、本心で言ってくれていると思うことにした。後ろ向きに考えては切りがないからな。

 ただ、引き受けてくれたのはいいが、まだ問題がある。

 

「もう一つ考えなければいけないことが、どう宣伝するかだ」

「そのまんま宣伝すりゃいいんじゃねーの?」

「いーや、ダメだフレイルちゃん。そのまんま宣伝したら、『ゆーとぴあ』の視聴者は『男と絡みたいってことか』みたいなこと言うだろうし、『Arcadia』の視聴者は『女と絡みたいことか』みたいなこと言うだろ」

「私の視聴者さんは大丈夫だと思いますけど、他の子たちは多分そうですね……」

 

 多分、都城と宍道も大丈夫だと思う。あの二人に協力してもらうのもいいかもしれんな。あの二人が燃えてもいいというわけではないが特に気にしないだろうし、『ゆーとぴあ』の人を引っ張ってきてもらう、というのもありか。

 

「うーん、あんまり気が進まないけど……騙しちゃうっていうのは?」

「騙す?」

 

 腕を組んで空中でうんうん唸っていた満が、気まずそうに声を絞り出す。聞き返すと、満は俺たちを一瞥した後、やはり気まずそうに続けた。

 

「その……カウンターを二つ用意して、片方はニコさんとミハイルさん、片方はフレイルさんとユースさんが対応するようにして、とか」

「店員が男のみと女の子のみって宣伝するってことか。そんで入ってみたらそうじゃねぇ、って感じか?」

「それだと入った瞬間に反射で引き返してしまうかもしれん。ただ単に俺たちにヘイトが集まるだろうな」

「あ! 相席居酒屋みたいなのってどうですか?」

「相席居酒屋?」

 

 フレイルさんが首を傾げ、俺も首を傾げた。存在は知っているが、どういうものかよくわからん。多分相席する居酒屋だろう。

 

「いいな。カウンター二つで男の店員と女の子の店員でわかれてるってところまでは本当で、その後俺たちで客同士をマッチングさせるってことか」

「そうです! それならお客さんは騙されたってことで悪く映らないでしょうし」

「んー、でもそれだとさ、めちゃくちゃ気まずい感じになるんじゃねーの?」

「配信者なんだから面白くできねぇ方がワリィだろ」

「一理あると言えば一理あるが、流石に暴論だな。炎上して然るべきだ」

「じゃあさ、マッチングさせた後は店側から盛り上げ役を用意するとかはどう?」

 

 言いながら、自分を指して満がニコニコしている。確かに、バーという空間的に満がいることは適していないが、盛り上げ役としては満が適任だろう。中学生だから変な視聴者にも敵視されにくい。

 とはいえ、盛り上げ役が満だけだと足りないな……。ミハイルとユースさんは顔役の方がいいからカウンターだとして、俺が盛り上げ役など冗談もいい加減にしろと言われかねない。フレイルさんもいけるとして、これで二人……。

 そういえば、星菜さんとアルがいける、か? やる気を出してくれていたから、一度断っておいて申し訳ないが声をかけてみてもいいかもしれん。

 

「盛り上げ役をこちらで用意するならいいと思う。星菜さんとアルに声をかけておこう」

「あとは、また店にくるかどうかってとこだよな。相席させられるってのがわかったらこねぇ可能性があるから……」

「そこはお店全体の手腕でご満足いただけるよう努力するしかないですよ。余りあるメリットを提供すれば、また来店いただけるはずです!」

「その辺りはいくつかアプローチの方法はあるだろうな。経済面が無難か……?」

「それと、相席させられるってことを言いふらされて、新規がこなくなるってのもありそーだな」

「それはそのことを言ったら殺すって言えばいいだろ。ヴァールハイトに協力してもらえばいい」

「物騒すぎるが、世界観的にはアリだな」

 

 盛り上げ役の確保と、ヴァールハイトの方々に話を通しておくこと、そして、いかに顧客満足度を高めるか。これらが今後の課題だな。

 

 ……帝斗に相談してみるか。大体なんとかなるだろう。

 

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