稼ぎの少ないオカルト事務所所長、VTuberになる   作:酉柄レイム

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第227話 BAR:midnight (3)

 白蓮が姐さんたる風格を見せつけてくれたものの、心配なのは心配。俺はカウンターに立ちつつ、個室の映像を手元の端末で流す。

 ヌ゜さんが立ち上がってうろちょろし、シゲキと南雲さんが隣に、白蓮と鐵が隣に並んで、男女で分かれて座っている。ヌ゜さんを中心にして会話をすればある程度は問題なさそうだが、あの人を中心にしたらあの人しか目立たない。シゲキも、シゲキの目的を考えれば積極的に話すことはしないだろう。

 

『ねーねー、シゲキちゃんってちょープリティだけど、プリティの秘訣とかあるの?』

『シゲキ的に邪魔だテメェ。消えろ』

 

 更には暴言を吐く始末。シゲキにとって炎上などあってないようなものだからな……発言に気を付けようという概念も存在しないだろう。

 

「春樹が縮こまって黙ってんのウケるな。コメント欄荒れて焦ってんじゃね?」

「南雲さんはどういう人なんだ? メンタルが強ければいいが……」

「心配すんな。小心者だけど自我はちゃんとある。あといいやつだ」

 

 ミハイルの言葉の温度感的に、お気に入りのような気配を感じた。確かに、怯えながらもともすれば失礼とも取れる言動をミハイルに対して取っていた。小心者だが、思ったことは口に出してしまうタイプ、と言ったところか?

 

『まーまーそんなこと言わんと。まずは自己紹介でもしません? 私は白蓮ふみいうて、こっちの子は鐵エリ。よろしくお願いします』

『っス』

『私はヌ゜! ふみちゃんとエリちゃんも知ってるよ! プリティすぎ! って思ったもん!』

 

 白蓮が雰囲気を柔らかくしてくれて、すかさずヌ゜さんが白蓮に突撃する。『犬みたいで可愛らしいわぁ』と微笑んでいるのに何か含みを感じるが、気にしないことにしよう。多分「躾がなっていない」とかそういうことを言いたいのだと思う。

 ……今思えば、鐵も含め、毒を吐くやつがあの場に三人もいるのか。南雲さん本当に大丈夫か? あの場で一番追い詰められそうな感じがする。事務所の先輩であるミハイルが動かないのであれば、俺が出しゃばらない方がいいとはわかっているが、もしものときは俺が間に入る必要があるだろう。

 

『おいカス。名前なんつった』

『な、南雲春樹です!』

 

「シゲキが名前を聞いただと!?」

「マジかよ……。ちゃんと成長してんだな」

 

コミュニケーションの第一歩を踏み出しただけで驚かれる男

実際、今までは興味あるやつの名前しか聞かなかったしな

なんか俺、泣けてきた……

なんか同時視聴みたいでおもろい

 

 視聴者も俺と同じことを思ったようだ。だが、シゲキの目的を考えれば最初の手助けくらいはするか。コミュニケーションとしてではなく、あくまで効率的な意味で。成長はしているが、成長の方向がずれてる気がするんだよなぁ……。

 南雲さんは名前を言った後、また縮こまってしまう。やはり白蓮と鐵がゆーとぴあだから、最大限注意しているのだろう。妙な発言をしてしまえば、自分の視聴者のみならず、相手の視聴者も焚きつけてしまうことになりかねない。

 

『南雲っつったっけ。そんなびくびくすんなよ』

『え』

 

 しかし、そんな南雲さんに鐵が話しかけた。女性に話しかけられてびくびくしているのは、以前の俺を見ているようで少し恥ずかしい。

 

今もだろ

今もだろ

今もだろ

今もだろ

 

 なぜ俺は視聴者にも考えていることがバレてるんだ……? そんなにわかりやすいか?

 

『なんかよくわかんねぇけど、コメントでごちゃごちゃ言われたりしてんだろ? してなかったらワリィ。でもどっちにしろ、普通に、ちゃんと話そうぜ。せっかく会ったんだからもったいねぇだろ』

『えー? もしかして私がプリティすぎるからプリティじゃないこと言われてたりするの!? ごめんね、私がプリティすぎて……』

『なんか全部否定し辛いんが鬱陶しいわぁ』

 

「おぉ、言うなぁエリちゃん」

「反感を買うなどということは一切気にしないからなぁ……」

 

 好感は持てるが、危険ではある。さっきの言葉だけで、男と関わろうとしているだとか、相手の視聴者からもしかして狙ってるのかとか、はっきり言って異常なことを言われてしまうが、鐵は気にしないだろう。あいつは、信頼できる相手の言うことしか聞かないやつだからな。この前も配信で俺の話をしてくれていて、コメントで「男の話しないで」って言われたことに対して「キメェよ。彼氏にンなこと言われてもキメェのに、顔も知らねぇオメーにンなこと言われたらキモすぎてゲボ吐いちまうだろうが」と言っていた。あまりにも無法すぎる。

 

『もったいない、かは、まぁ、うん、そうだろうけど……一緒にテーブル囲ってるのに黙ってるのは、確かに失礼、だね。ごめん』

『おう。私らと話したくねーってんなら別に話さなくてもいいけど、そうじゃねぇんだろ? なら話そうぜ』

『じゃあプリティな話しない?』

『テメェはシゲキ的に壁と喋ってろ』

『おっけー!』

 

「いい人だな」

「だろ?」

 

 誠実だ。だからこそ、視聴者側も『仕方なく喋っている』と思ってくれる人も出てくるだろう。口うるさい視聴者を黙らせることはできないかもしれないが、有効な手だ。あとなぜヌ゜さんは本当に壁と喋り始めているんだ? アレはアレで余計うるさいだろう。そして楽しそうにしているのが余計怖い。やはり盛り上げ役にヌ゜さんを置いたのは失敗か……?

 まぁ、この分なら大丈夫そう、か? あまりずっと見ているのもよくない。ちょくちょく様子を見る程度でいいだろう。

 

「もういいのか?」

「あぁ。監視しているようで悪いような気もするからな。この分なら問題なさそうだ」

 

シゲキがいる空間で大丈夫そうなら、今後も大丈夫だろ

むしろ最初に来てくれて温度感わかったから助かったまである

でも言うてニコの身内だからなぁ……

でも満ちゃんとかアルとかが盛り上げ役として入るなら大体問題ないだろ

 

「ある程度の指標にはなるな。シゲキがいることに加え、ヌ゜さんがいてうまくいきそうなら、あまり心配はいらんのかもしれん」

「まぁあとはうちの従業員のメンタルケアか」

 

 コメント欄にも、ちらほら荒らしにきているようなコメントが見受けられる。性欲に支配された猿だとか、ゲーム利用して女食う気ですか? だとか。普段の俺の視聴者のコメントは多いから埋もれるレベルではあり、視聴者も面白がって荒らしに擬態しているからいつも通りと言えばいつも通りだが、俺以外はいつも通りではないだろう。

 

「普段荒らされ慣れていない人もいるからなぁ。そこが心配だ」

「荒らされ慣れてんのニコくらいだろ。あと最近で言うと俺とユースちゃんとフレイルちゃんくらいか?」

「そうだな。荒らされ慣れているのもそれはそれでよくはないが……。メンタルケアはミハイルにも頼るかもしれん」

「了解。多分フレイルちゃんにも任せていいと思うぜ。あの子、めちゃくちゃ柔軟だから『そういうやつもいんのか』くらいにしか思ってねぇだろうし」

 

強靭なメンタルしてないと探検家はできない

さっぱりしてるのに乙女なのがいいんだよ

あまりにもな誹謗中傷があったら俺たちに任せろ

バカ、こういうのは企業側に対応任せた方が丸く収まるんだよ

 

「視聴者が力を貸してくれるのは助かるが、やるとしてもコメントで盛り上げる程度に収めてくれ。相手への攻撃になってしまっては、お前たちも罪に問われかねんからな」

 

 インターネット上の匿名コメントであっても、明らかな誹謗中傷、極端な例を出せば殺害予告や個人情報の拡散などであれば、司法の力によって罪に問うことができる。誰かを守るためにその対象になってしまっては本末転倒だ。俺の視聴者は少し古い価値観を持っているような節もあるから、インターネットで暴れまわりかねない。

 ……俺の視聴者の応援も、俺には荒らしコメントに乗っかって一緒に荒らすという歪なものだが、俺以外の配信者に対してはそうではないと信じたい。そうでなければ俺も途端に加害者側に回りかねないからな。

 

「ニコ。最初の内は暇そうだし、店のこと考えねぇか?」

「ということは何かアイデアがあるということか?」

 

 コメント欄を荒らしにきた人が俺の視聴者のコメントの勢いに負けているのを眺めていると、ミハイルが声に楽しそうな色を含んで話し出す。確かに、時間の有効活用は大事だ。フリーな時間だからこそ、店の発展について考えるべきだ。俺の事務所がまったく発展しないのはそのせいだったのか?

 

「盛り上げ役とかさ、指名制もありだと思うんだよ。つっても数日後くらいでいいと思うけど」

「確かに、何度か来店いただくうちに、この人だと合う、というのもありそうだしな。本来の目的からは外れるが、この人に会いたいから来店する、というのもなくはない」

「指名で入った時は、指名された盛り上げ役の子に普段よりも色付けて給料渡すとか。客から指名料取るのもありだな」

「飲食で金を儲けるには、他の手法も必要だからな……。VTuberは推しという文化も身近にある。この人にお金を払いたい、という心理は、悪い言い方をすれば利用できるものだ。ありだな」

 

俺、お金渡して満ちゃんか星菜ちゃん指名する男いたら、暴れるかもしれん

指名するってことは、相手に炎上の種を与えることになるかもしれないってことか

どうにかしてニコに全責任を負わせる術はないか?

盛り上げ役の子たちには被害者面してもらおう

 

「なるほど。指名制は客が盛り上げ役を指名するから、例えばアイドル売りをしている女性ライバーがアルか茉莉さんを指名すると、燃えかねないというリスクもあるのか」

「その辺は流石にリスク管理できてると思いたいけどな。つか、それで言うならどっちにしろ男女で相席すんだから、リスクはついて回るだろ」

「何なら、いずれは客に席を選んでもらう、というシステムにしてもいいかもしれんな」

「それだと元の目的果たせねぇだろ」

「最終的には強制の絡みではなく、自らの意思で絡む、という風になるのが一番いいからな。いずれはの話だ」

 

 あとは、盛り上げ役をスカウトして交代制というかシフト制にするというか、好きな時に出勤できるようにしなければな。考えることがたくさんだ。

 ……まさか、これが仕事!?

 

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