稼ぎの少ないオカルト事務所所長、VTuberになる   作:酉柄レイム

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第228話 BAR:midnight (4)

 BAR:midnightはスタートが早く、『project:conflict』の開発元である『project:eden』所属の俺が経営する店だからか、挨拶を兼ねて多くの人が来店してくれる。始まって数日経つが、思いもよらない大盛況だ。悪評を振りまく……と言うと言い方は悪いが、『相席居酒屋のようなものである』ということを吹聴されると客足が遠のいてしまうため、この店の実態を誰かに言おうとした人は約束通りヴァールハイトの皆さんが殺害している。

 逆に、言いふらしたら殺害されることは客の間で噂になっているようで、最近はヴァールハイトが口封じするまでもないらしい。というのは、普通に男側の入り口から入ってきた月宮さんからの情報だ。ちなみに月宮さんは今回『project:eden』でも話が通じるからと、他事務所の人から立ち回りについて相談されることが多いそうだ。ゆっくりしていけと言った時にもどこからか連絡がきて、忙しそうに去って行った。

 

 というわけで、炎上の種は燻ぶっているような気がしつつも、今のところは問題なく、むしろ楽しんでいただけている側面の方が強いように思える。それもこれも、盛り上げ役が不快感なく、人と人とを繋げる役割を買って出て、それが見事成功しているからだろう。

 

「とはいえ、成功してるからって理由で燃やそうとするやつはいるだろうな」

「それに関しては仕方がない。誰がどこに不満を抱くかは自由だからな。俺たちのやっていることはとんでもないという自覚はある。法に触れるようなものでなければ、甘んじて受け入れるべきだろう」

 

ついに炎上するのか、ニコ

炎上したときは俺たちに任せろ

火に油注ぐのは得意だからな

火をつけにきたやつらが思ったより火が大きくなってビビっていくからな

 

 今日も今日とてミハイルと受付をしていると、ミハイルも俺と同じことを考えていたのか、炎上の可能性についてぽつりと零した。実際、俺とミハイルのところには一日中どこかの視聴者からの不満のコメントが連投されている。他の従業員のところにもきているようで、この前ヌ゜さんが「私がプリティ過ぎてみんなプリプリプリティ怒っちゃってる!」と楽しそうにしていた。プリプリ怒っちゃってると言え。

 従業員になってくれる人には事前に心無いコメントがきてしまうと伝え、いつでもやめていいと言ったものの、全員気にしていない様子だった。というのも、普段俺の配信を見ているかららしい。それを聞いた時に俺の視聴者は「俺たちが荒らしだってのか!?」「あんまりプリプリプリティ怒るなよ」「使いこなすな」「語感悪くね?」といつも通り騒いでいた。

 

「つくづく普通だよなぁ、ニコ。『project:eden』にいてその感覚は珍しいだろ?」

「そうでもない。おかしい人たちが目立っているだけで、大半は俺と同じような……少なくとも、今『BAR:midnight』で働いてくれている『project:eden』のライバーはまともだ」

「優姫ちゃんとかもそうだよな。あの子いいよなぁ。芯が通ってて好きだぜって言った瞬間お前の視聴者と思われるやつらが荒らしにきてんだけど」

「すまん。殴ってもいいと思った相手には遠慮を無くすんだ。距離感の測り方が独特でへたくそだからな」

 

お前に言われるのだけは納得いかない

ニコは案外うまい方じゃね?

うまいというか、結果正解になるというか……

距離感の測り方以外の部分で正解にしてる気がする

 

「あと女に弱いよな。俺んとこの女の子たちに温かく迎え入れられたら、すぐに温厚になってチェリー丸出しでかわいいぜ」

「あまり言ってやってくれるな。自尊心が傷ついたらどうする」

 

 既に傷ついてしまっている視聴者もいるようだが……。こう見ると、同族意識で俺を見に来てくれている人が結構いるように見える。視聴者に感じるシンパシーはかなりものだからな。視聴者からしても、俺に感じるシンパシーは俺が感じているものと同程度だろう。

 

 さて、大盛況とは言ったが、やはりこのゲームの花形と言えばギャングと警察。銀行やお店、果てはプレイヤー同士の強盗まで。幅広く犯罪行為を行えるシステムになっており、絵も派手だ。それに集中している時間帯になると、どうしても店に人はこなくなる。今がちょうどその時間帯で、シフト制により盛り上げ役の人たちも数人街で楽しんでもらっている。今はユースさんとアルが店を離れていて、ついさっきユースさんから『安倍聖麗さんとお会いしました!』と連絡がきて『すぐに逃げてください』と連絡したところだ。あの変態はできる限り人と関わらせるべきではない。

 

「……ん?」

「……ん?」

 

 ユースさんが聖麗から逃げ切れたかどうかを考えていると、コメント欄が騒がしいことに気づく。こういう客が来ていない時に騒がしいのは珍しいと思いコメント欄を確認すると、「白峰百合がきてるぞ」「フレイルちゃんが狙われてる!」「白峰百合が百合しにきたぞ!」「フレイルちゃんがロックオンされたぞ!」とフレイルさんの危険を知らせるコメントが大量に流れていた。

 

 白峰百合さん。女性に対して手が早く、欲を抑えるためにプライベートでそういう目的の女性が複数いるという噂の、ゆーとぴあ所属のライバー。イベリス曰く本人には良識があると言っていたが、なぜいきなりフレイルさんがロックオンされているんだ!?

 

「チッ、よりにもよってこのタイミングか。俺のフレイルちゃんに色目使いやがって……!」

「先に断っておくがフレイルさんはミハイルのものではない! ミハイル、フレイルさんへ早急に席へお通しし、その場から逃れるよう伝えてくれ! 俺は手筈通りイレイナさんを呼び寄せる!」

「はいよ」

 

 ゲーム内の通話アプリでイレイナさんに電話を掛ける。出ない。しばらくして、イオスから『すんません! イレ姉が祭囃子に夢中で、端的に言うと殺し合いしてるんで対応できません!』と連絡がきた。なんだと!?

 

「クソッ、どうする!?」

「ニコ。白峰ちゃんがフレイルちゃんとお話させてくれないと一生爆発物を持ってこの店に粘着するって言ってるらしいぜ」

「ならばもう通報してもよくないか!?」

 

 イベリスから話を聞いた時、フレイルさんは大好物だろうからと会わせないように作戦を立てていたのにも関わらずこの体たらく!! 更に今は男側にマッチングさせる相手もいない。この場合、奥に通さず受付で普通に対応するか、盛り上げ役の人に会いたいなら奥へ通すかのどちらかだが、白峰さんがフレイルさんをロックオンした今、奥に行く理由がない。

 ……イベリスが言っていた、白峰さんには良識があるという言葉を信じるか? キャラ的に、ロックオンするようなロールプレイをしているだけなら一番いいが……。

 

「ニコ。フレイルちゃん曰く、白峰ちゃんが興奮状態らしい」

「まずい、危険だ!!」

「病院に連れて行った方がいいか? だとよ。可愛くてたまんねぇな」

「もしかしてお前も注意するべき存在か?」

「二人ともってのは趣味じゃねぇんだ。安心しろ」

「安心はできんが、今は味方だと信じよう」

 

さっきまで平和だったのに、なんでこんないきなり性欲にまみれてるんだ?

でも普通に会話してるぞ

フレイル、基本的に偏見とか色眼鏡で見るとかまったくないからなぁ

だからこそ白峰百合が興奮状態だぞ!

 

「……よし、わかった。ここは、フレイルさんに任せよう」

「へぇ。そりゃなんでまた」

「思えば、その人のことを詳しく知らないのに、危険人物扱いするのは失礼だ。ただ単に交流しにきてくれて、当事者であるフレイルさんが気にしていないなら何の問題もない。ただ一応監視カメラで様子は伺っておこう」

「クソ警戒してんじゃねぇか」

「やかましい!! 俺はこの店の店主だ!! 店で起こったことはすべて俺の責任!! であれば、起こることの詳細を把握しようとするのは、何の問題もない!!」

 

 ゲーム内の端末を操作し、女性側の受付を表示する。そこにはカウンター内にフレイルさん、カウンターを挟んで白峰さんがいて、白峰さんはめちゃくちゃ前のめりになっていた。失礼な話だが、白峰さんが獲物を狙う捕食者に見える。

 

『へー! フレイルさんって探検とかするんですね。女の子が探検って危なくないんですか?』

『猛獣くらいならなんとかなるからな。ヴァールハイトの奴らの相手とかなら流石に無理だけど、そこら辺のやつらにゃ負けねーよ』

『鍛えてるんだ?』

『そりゃーな。結構筋肉ついてんだぜ?』

『えっ、あっ、そっ、それはっ、今度触りに行ってもよいということ?』

 

「おい、隠しきれない欲望が溢れ出てんぞ。どうする?」

「あぁ。フレイルさんは何もおかしいことを言っていないのに、勝手に興奮している。かなり危ない」

 

まるで推しキャラを前にした俺たちのようだぜ

勝手に仲間にすんな

別に推しキャラ相手じゃなくてもあれくらい言葉に詰まるぞ

悲しいね……

 

 俺の視聴者もなぜか勝手に傷ついている。恐ろしい人だ、白峰さん。

 俺たちは白峰さんがおかしな状態に陥っていると気づいているが、それを向けられているフレイルさんは『触られんのは恥ずかしーからだめだ』と火に油を、いや、猛獣に血を嗅がせるような行為を平然と行っている。おかげで白峰さんは『あっ、だめっ』と配信に乗せてはいけないような声色で身を捩ってしまった。本当に早くどうにかしないといけない人かもしれない。

 

「……かくなる上は、俺が一肌脱ぐか」

「待て、お前の貧相な体じゃどうしようもねぇぞ」

「そういうことではない! あと俺は貧相なのではなく、周りにいるやつらが鍛えているだけであって、日本全国の成人男性の平均からすればそこまで貧相かと言われるとそうは言い切れないという程度の貧相さであり」

「お前の貧相についての弁明は今いいだろ。で、奥に行ってニコが相手するってことか?」

「そうだ。このままでは直接会いたいと白峰さんが言い出し、フレイルさんが許可しかねない。別にそれ自体は本人たちの意思で決まることだから別にいいとは思うが、少なくとも今の状態の白峰さんは容認しかねる。早めにフレイルさんから引きはがす……と爆発物を持って粘着されるから、奥でフレイルさんとともに白峰さんの相手をすれば、少しは暴走を軽減できるだろう」

「待て。女の扱いなら俺の方が慣れてる。それに、お前は最終兵器だ。ここは俺に任せろ」

「……最終、兵器か。確かにな。任せたぞ、ミハイル」

 

 ミハイルは力強く頷くと、フレイルさんに連絡して奥へと消えていった。

 

 しばらくすると、フレイルさんをいじり倒すミハイルの姿と、それに興奮する白峰さんの姿があった。し、しまった!! ミハイルはフレイルさんを気に入っているんだった!!

 

ここで起きたことはニコの責任だよな

最終兵器って言われて気持ちよくなってんじゃねぇぞ

店主がフレイルを追い詰めたと聞いて

反省の気持ちはありますか?

 

 そして俺の配信は荒らされた。ま、まぁ、ミハイルは信頼できるし、あぁやって白峰さんのガス抜きをしているだけだろう。……そうだよな? そうだよな!!???

 

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