稼ぎの少ないオカルト事務所所長、VTuberになる 作:酉柄レイム
『BAR:midnight』は、想定外の繁盛具合を見せている。飲食店自体数がそもそも少ないということもあるが、『炎上の危険性はあるものの、危険人物はいない安全地帯』として知られているらしい。この前買い出しで外に出た時、見覚えのある連中が街中で暴れ散らかしていたから、恐らくその影響だろう。この店に誘導するために暴れてくれているのか、と一瞬思ったが、すぐに暴れたいから暴れているのだと思い直した。
そういうこともあって、未だ火種は燻ぶっているものの、炎上はしていない。俺のコメント欄がぐちゃぐちゃになっているのはいつものことだから炎上していないったらしていない。なぜか最近色んな人から気遣われるのは、俺の人徳だということにしておく。
そんなこんなで、俺は今日店を抜けて街に繰り出していた。臭いから追い出されたとかではなく、いつも店にいる俺を気遣って、みんなが送り出してくれたのだ。ミハイルも交代で外に出ることになっている。まったく、いい従業員に囲まれたものだ。
そういう理由もあるが、経済を動かすためでもある。店の売り上げはプールと従業員で配当しているが、俺が動かなければプール金は溜まっていくばかり。飲食物の材料はプールからお金を出しているものの、それで経済が回るかと言われれば、少しは貢献できているだろうが十分とは言い難い。
「さて……」
でかい金を動かすならカーディーラーだろう。そう意気込んで街に繰り出した俺は、迷子になった。いや、俺が方向音痴なのではなく、せっかく外に出たのだからマップを見ずに散策したという思いがあったまでであって、俺は悪くない!!
「クソッ、まさか迷子になったと連絡するわけにもいかん……!! どうする……?」
迷子程度で窮地に立たされるな
マップ見れば?
マップ見ろ
マップ見よう
「マップを見ろだと? それは負けた気がするから嫌だ! 第一、この街は交流を目的としたもの! マップに頼らず、人に聞いて辿り着いてこそ意味がある!」
不倫確定! ビッグボーナス! よーく狙って?(受胎)
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最近見慣れた俺専用の連投コメントで溢れてしまった。確かに、女性相手に不躾なことを口走ってしまったらそう捉えられる可能性がある。気を付けなければな。マシになってきてはいるが、俺がコミュ障であることに変わりはない。まさか役に立つ連投がこの世にあるとはな……。本当に荒らしにきた人もこの連投で撃退してるし……。
連投により気を引き締めて歩いていると、ふと道端に座り込んでいる男性を発見した。誰かとの待ち合わせか? 現実であれば表情が見えるからある程度は推測できるが、ゲーム内だとそうはいかん。ただ、関わってほしくないのであればこんな道端にはいないはず。声をかけても問題ないだろう。
「あの、どうかされましたか?」
「……? ヒィ!! 『project:eden』だ!!」
声をかけた瞬間、腰を抜かして後ずさりし始めた。どうやら、『project:eden』の悪名は『project:conflict』で強まったらしい。
「落ち着いてください。『project:eden』を恐れるお気持ちもわかりますが、俺は善良です」
「……あ、あぁ、ミッドナイト・サイコナイトさんか」
「長くて面倒ならニコと呼んでください」
「ニコさん。よろしく。僕は天導ノア」
あ
あ
ニコ、癒してやれ
かわいそうに……
コメント欄の様子がおかしい。いつもおかしいが、そういうことではなく。
天導ノア。イベリスが言っていた、要注意人物。Arcadia所属の天才であるが、『project:eden』の天才に叩き潰されないようにしたい、という人物。そして、コメント欄の「癒してやれ」や「かわいそう」、俺が声をかけた時の『project:eden』への拒否反応など、既に叩き潰されてしまったのではないか、と想像してしまう。
「天導さん。元気がないようですが、何かありましたか?」
「僕は、何者でもなかったんだ……」
どうやら叩き潰されてしまったようだ。
「何があったか聞かせていただいてもよろしいですか」
「ふっ、君は人に追い打ちをかける趣味でもあるのかい? 僕がこんなに傷ついてるっていうのに、また思い出させて粉々にしようなんて流石『project:eden』、容赦がない」
「そう思わせてしまって申し訳ございません。ですが、『project:eden』のライバーがあなたを傷つけたのであれば、同じ『project:eden』である俺が責任を取らねばなりません。何分、うちのライバーはブレーキがあるのにも関わらず、意図してアクセルをべた踏みするような連中が多々いるものですから」
「……」
プロエジェ以外見たことないから違和感なかったけど、やっぱおかしいのか
この前、警察とギャングがドンパチやってるときにイレ姉が来ただけで阿鼻叫喚だったぞ
ついでにイオスも粉々になってた
いつも通りか
そのいつも通りが他箱からすると完全なる異常。一部良識があるルイスや月宮さんやシェリーさんなどが調和を保つために動いてくれているらしいが、十分手が回りきるはずもなく、調和から零れてしまった結果、天導さんのように恐怖を植え付けられる。
今までも店に来た人で同じようなことがあった。盛り上げ役にいる人はメンタルケアの達人も達人だから、最近ではメンタルケアのために店にやってくる人もいるくらいだ。
が、天導さんはそれとは毛色が違うように思える。天導さんは自身のアイデンティティである天賦の才を打ち砕かれた。単純なメンタルケアではどうにもならないだろう。あと、その前提で話を進めているが打ち砕かれたということで合ってるんだよな?
「ごめんね。ちょっと心が荒んでて、失礼なこと言っちゃった」
「いえ、お気になさらず」
「……芥川愛人、って知ってる?」
「あちゃー。もちろんです」
「あちゃーって言っちゃってるよ」
よりにもよってか、と思って言ってしまった。最近のシゲキならまだ救いはあったかもしれないのに、あの狂人と出会ってしまったか。
「僕も噂には聞いてたからさ。芥川っていう才能の塊みたいな一族がいるって。そんな人と会っちゃったもんだから、意気揚々と勝負しかけたらさ。外れしかないってわかってる宝くじがあったとして、君なら買うの? って言われて、ムカついて銃撃ったらエモートで負けて。いや、倒されてはないんだけど、殴って削られて、回復してる間周りで踊られて、また殴って削られて」
めちゃくちゃエグイことされてるな……。エモートとは、通常の操作とは別の、踊ったり拍手したりする操作のこと。それだけ使って圧倒されたようだ。今まで天才だと言われてきた天導さんからすれば、この上ない屈辱だろう。
「その後粘着されて。え? 君って天才って言われてたの? 本当に生まれ育った国一緒なのかな? 意味違うくない? とか言われて」
「とんでもない地雷を踏みましたね」
「人の努力や才能を踏みにじるのが大好きって言ってたよ。なんなのあの人。もうやめようかな……」
普通に不憫
愛人が面白いやつなのはプロエジェの中にいるからってだけだったか
本格的に幽閉した方がいい
外に出すと不利益しか生まない男
やっていることは最悪だ。もし愛人が同じようなことをそこら中でやっているなら、俺の店がまだ燃えていないのも頷ける。他にひどいものがあるから、そちらに集中しているのだろう。
このままでは、『project:eden』の元から高くなかった評判が更に地へ落ちる。好き勝手自由にやるのはうちの事務所のいいところでもあるが、悪い方面への作用がデカすぎる。
それをどうにかするのが、俺の役目だ。
「天導さん。一度やられて折れるのが、あなたの言う天才ですか?」
「……」
くるぞ!!
言葉の力に定評がある男
それ以外に定評がない男
もう童貞かどうか定かじゃないしな
「確かに、芥川愛人は強大です。あなたの完全上位互換だと言っていい。あいつは、興味を持った事柄なら世界一になれるレベルの才能を発揮する」
「じゃあ勝てないじゃん……」
「勝てないなら、勝つまで挑戦し続ければいい。そうすればあなたの人生において、負けで終わる勝負はなくなります」
「……!!」
「今の時代に男だ女だと言うのは古いとは言われますが、それでも我々は男に生まれました。男であれば、負けてうじうじすることは正しくない!! 不屈の精神でもって、泥臭くてもなんでもいい!! ただ勝つと決め、前進あるのみです!!」
「で、でも、俺は天才なんかじゃなかった!! もう自信がないんだ!!」
「あなただけではありません。全員、かつては天才でした。天才じゃなくなったのは、自分を天才だと思わなくなったからです」
うおおおおおおおおおおおお
うおおおおおおおおおおおおおおお
俺たちも天才だった
俺たちが天才じゃなくなったのは、俺たちが天才だと思わなくなっただけだ!!
天導さんが顔を上げて俺を見る。俺は、迷わず手を差し伸べた。
「かつて天才だったあなたへ。もう一度天才になりませんか」
「……わかったよ、天才」
天導さんは立ち上がり、頭を下げた後どこかへ去って行った。
……あっ、カーディーラー!!!!!