稼ぎの少ないオカルト事務所所長、VTuberになる   作:酉柄レイム

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第230話 エンターテイメントカップ

 あの後、なんとか自力でカーディーラーに辿り着き、どうやら店員さんは現在不在のようで、勝手に見て勝手に買える状態のようだ。ふぅ。

 

交流はどうした?

今安心しただろ

どうしたら人がいっぱいいるサーバで一人行動ができるんだ?

これがマッチング店の店長の姿です、か

 

「やかましい! 会わなかったんだから仕方がないだろう! 俺が交流を避けているわけではない!」

 

 俺が情けない目に遭っているのが大好きなコメント欄が沸き立ち、様々な言葉を俺に浴びせてくる。今日も今日とて元気だな。

 ただ、これまでほとんど店内の様子しか見せられていなかった。代わり映えしない絵というのはそれだけで退屈。大体誰かと喋っていたり、視聴者と喋っていたりしたから完全な退屈というわけではないだろうが、こういったサーバ特有の面白さというのは見せられていなかった。だからこういったサーバ特有の面白さというものを見せてやろうと思っていたのにこの体たらく。我ながら情けない。

 

「やはりバイクか? いや、社用車として積載量の多い車を買って、外に出て飲食を売る……いや、それだと店にきてもらえなくなっていきそうだ。やはりここは俺自身のカッコいいバイクを買い、店主としての威厳を見せつけるところかもしれん」

 

ダッサ

ダッサ

正気か?

やめとけ

 

「選ぶ前に否定するな!! 見ておけ、俺のセンスを!!」

 

 購入する前に、実際どのような形、色、性能をしているか画面で確認できる。俺はバイクの一覧を開いて、一つ一つじっくり見ていった。ちなみに、俺はまったくこの手の知識がない。現実で持っているバイクもカッコいいからと買ったものだし、性能とか車種とかは全然知らん。

 ただ、買い物とはそういうものだと思っている。出会いと一緒で一期一会。見た時にビビッとくるものがあればそれが運命であり、俺に最も合うものだ。

 

 そして、運命が現れた。艶を抑えた黒で統一された大型のバイク。鉄の塊を無理やり走らせるために必要なものだけを削り出したようなシルエット。エンジンは剥き出しで、タイヤは男らしく太い。余計な装飾はほとんどなく、唯一目を引くのは側面を走る深い赤のラインだけで、それも光の加減でようやく気づく程度に抑えられている。よく見なければ見えないというのがカッコいい。ダークヒーローみたいだ。

 

「カッコいい……」

 

まぁわかる

ドクロついてるやつとかじゃなくてよかった

ニコにしてはマシな美的センス

乗るやつが細すぎて帳尻合わなくね?

 

「帳尻合わないだと? 帳尻を合わせようとバイクに乗るやつを見たことがあるのか! 乗りたいものに乗る、それがその者にとってのベストオブベスト! 値段は……何ッ!? 安い!! 買いだ!!」

 

 購入をクリックすると、店の外にワープして、目の前にバイク……いや、ミッドナイト・サイコバイクが現れる。すばらしい造形、配色、威圧感だ。

 

「すばらしい……!! これに乗っているところを想像するだけで笑いが止まらん。ふっ、はっはっは!! ハーッハッハッハッハッハ!!!!」

 

こういう時の笑いは普通にやけるとかだろ

それ、運転クソむずいらしいけど速いぞ!!

病院に連絡しておけ

ついでに頭も見てもらえ

 

「何ッ!? 性能を見ず買ったが、速いのか!! 運転が難しいというところも男心をくすぐる。ピーキーな性能を使いこなしてこそ真の男だ!!」

 

変な奴らと相性いいしな

現実の人間関係がそれを表してる

流石だ、ニコ

乗りこなせるのはお前しかいない

 

 今のコメントは無視することにした。俺がミッドナイト・サイコバイクに乗って街を爆走するカッコいい妄想が、現実でかかわりのあるとんでもないやつらに塗りつぶされてしまいそうになったからだ。今あいつらのことは考えなくてもいい! 時間の許す限り、このミッドナイト・サイコバイクで楽しみつくす!!

 

「よし、行くぞ!! ミッドナイト・サイコバイク!!」

 

う、うそだろ

正気か?

俺がもしこのバイクなら、一生ニコを恨む

深夜の狂バイク

語呂悪すぎる

 

 バイクにまたがり、爆走。俺は黒い光とともに風となった。いや、黒い光だとなんかゴキブリみたいな感じがして嫌だな。黒い稲妻とでも言おうか。いや、稲妻が横軸に動くか? そういえば稲妻というのは田んぼと密接な関係があり、稲妻が落ちて電解質があーだこーだで、米がおいしくなるらしい。だから雷は雨に田んぼの田と書き、稲妻は稲の妻と書くのだそうだ。

 

 そんなことより速い!!!!!

 

「うおおおおおおおおおおおお!!!! 今助けに行くぞ!!!!」

 

ごっこ遊び始まった

知らない誰かを助けに行こうとしてる

でも多分、助けてほしいって思ってる人はいっぱいいるぞ

街が街だからな……

 

 最高速に乗るまでがかなり速い。メーターを見ると時速は200kmを越えている。200kmを越えている!? 速すぎないか!? どうりで街の景色がものすごい速さで変わったり、音が一瞬で背後に回ると思った!!

 速いのはカッコよくていいが、事故だけは気をつけねばならん。俺だけが事故って怪我をするならいいが、誰かを巻き込んだら目も当てられん。

 

「みんな、遠くでもいい。人が見えたら教えてくれ!! 俺のスーパードライブテクニックによって避けて見せる!!」

「それは、俺への挑戦状と受け取った!!」

「何ッ!?」

 

 

 いつの間にか、隣に白銀の竜を思わせる造形の大型バイクにまたがったリニスがいた。なんかバイクってそう言えば誰かを思い出すなーと思っていたら、やはり貴様か!! あとさっきの何が挑戦状だと受け取られたんだ!? スーパードライブテクニックか!?

 

「スーパードライブテクニックを自称する貴様なら、エンターテイメントカップに参加するに相応しい!!」

 

 スーパードライブテクニックだったらしい。

 

「エンターテイメントカップだと!?」

「そう。エンターテイメントカップとは、エンターテイメントを競う大会!!」

「全容が見えん!!」

「ふっ、流石だ!!」

「ん? 速すぎて会話を聞き逃したのか!?」

「ルールを説明しよう!!」

 

 説明しない感じだったのに説明してくれるのか。ありがたい。

 リニスが手元の端末を操作すると、俺たちの前にホログラムによるモニターが映し出された。そこには俺とリニスの顔写真と、オッズ、か? 恐らくオッズが表示されている。オッズが目まぐるしく変動しているところを見るに、意外にもかなり拮抗しているようだ。

 

「まずはエンターテイメントカップを行うフィールドへご案内しよう!! エンターテイメントフィールド、起動!!」

 

 リニスがまた端末を操作すると、目の前にホログラムによって上り坂が映し出されたかと思うと、俺たちはその坂を上り始めた。ホログラムではない、実体があるだと!?

 坂を上ると、広大な入り組んだサーキットがあった。宙に浮かぶサーキット場はバルーンや星、虹などで彩られている。道幅は広く、『EOE』を思い出す光景だ。

 

「ニコ、アレを見ろ!!」

「あれは……なんだ!? 俺たち以外の人たちの顔写真があるぞ!!」

 

 リニスに示された方を見ると、ホログラムによる巨大な電光掲示板があった。そこに、大勢の人の顔写真と、何かが記載されるかのような空白がある。

 

「勝利条件はこのコースを三周すること!! そして、俺たちは賭けの対象になっている!! 賭けに参加している者たちは、自由に妨害が可能だ!! 更に!! その妨害が有効なものであると認められた場合、配当金の倍率が1.2倍される!!」

「自らの手で勝敗を操作できる上、更に得する設計ということか!!」

「そういうことだ!! また、妨害しにきたものを妨害することも認められている!! それも有効なものであると認められた場合は、同じく配当金の倍率が1.2倍される!!」

 

 つまり、あの空白には妨害によって増した倍率が表示されるということか。俺たちの速度はかなり速く、ここは通常の道ではなくリニスが作った空中のサーキット。妨害するには骨が折れるだろう。妨害ばかりになったら面白さに欠ける。そういうところも含めて考えているのか。なぜか素直に認めたくはないが、流石だな。

 

「だがリニス!! 配当金は誰から出るんだ!!」

「無論!! 負けた方の財布からだ!! 足りなければ借金してもらう!!」

「何!? もしとんでもない額になったらどうするんだ!!」

「そこで!! レースが終了し、勝敗が決定した後の一時間!! 賭けに勝利した者たちを、賭けに敗北したものはそれぞれ赤と青に発光し、勝者を敗者が殺せば、その者が手にするはずだった配当金は殺した者へ移る!! 殺された者はその時点で配当金を得ることは不可能となり、戦闘への参加権も失う!! そして一時間後、合計した配当金の多い方が真の勝者となり、配当金を山分けする!!」

「つまり、俺たちのエンターテイメントの後に、さらなるエンターテイメントが開始されるということか!!」

「そういうことだ!! これより10分後、エンターテイメントを開始する!!」

 

いきなり巻き込まれるエンターテイメントのレベルじゃないだろ

賭けに参加しない選択肢ないよな

おい!! シゲキがリニスに100万賭けたりニコに100万賭けたりしてるぞ!!

どちらにしようかなってこと?

今マリーがニコに賭けるよう脅して回ってるぞ!!

 

 もう始まっている、ということか。コメントを見る限り、既に動いている者もいるようだ。あとマリー、俺の味方をしてくれるのはありがたいが、脅したりするとむしろ敵が増えそうだから手段は考えてくれ。そしてシゲキは絶対に俺に賭けて俺の味方をしてくれ!!

 

 電光掲示板を見ると、誰が誰に賭けたかがわかるようになっている。『project:eden』なら、誰と戦いたいかで賭ける対象を変えてもおかしくない。よし、ヴァールハイトはばらけている!!

 

ノアがお前に賭けてくれてるぞ!!

ヌ゜も賭けてくれてる!!

大丈夫なのか? プリティなのに危なくないか?

フレイルに追従して白峰もきたぞ!!

 

 着々と舞台が整ってきたようだ。精神統一し、そういえばめちゃくちゃ速いのにちゃんと曲がれてることに気づく。どうやら、妙な経験をしすぎたことである程度スキルが身についているらしい。

 

 ……あとは、事故って負けないようにしないと。レース直後のバトルロイヤルで、俺の味方をしてくれる人が一人もいなくなるかもしれんからな。

 

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