稼ぎの少ないオカルト事務所所長、VTuberになる 作:酉柄レイム
「マリー!!」
「ニコちー!! 好き!!」
「なぁ!? 何を言ってるんですか!! クソ、だから『project:eden』は嫌なんだ!!」
「天導さん、マリーを拾ってくださってありがとうございます!! それで……」
マリーと合流し、会話もそこそこに後ろを見る。そこには、報告で聞いていた通り鳳凰に乗ったイベリスと、地獄みたいな顔でサンバ衣装を着せられている大勢の人たちがいた。サンバ衣装を着ているから判断に迷うところだが、恐らく賭けの参加者、のはず。赤く光ってるし。
光るのは参加者をわかりやすくするためと思っていたが、結構厄介だな。助けるために合流すれば光が大きくなり、その分バレやすくなる。隠れ続けると地味になるからということか。細かいところまで手が届きすぎていて鬱陶しい!
「幸い速度はそこまでなようだが、あれがずっと後ろにいるストレスは半端ないな。かといって距離を離せるような速度でもない。空でも戦ってくれているが、地上で撒いて、どこかで隠れるのが最善か」
「来たわね! ニコ!!」
「今考えているんだ!! 後にしてくれ!!」
やかましいやつに話しかけられ、再度後ろを見ると、鳳凰の羽が獄彩色の輝きを放ち、イベリスが立ち上がった。それとともに、オシャレなBGMが一番の盛り上がりを見せる。一つ聞いておきたいんだが、事務所間、ひいては業界内での壁を無くすためのゲームなんだよな? ではなぜイベリスがサンバ隊を率いているんだ。かわいそうだ。
「あなたがくるのを待っていたわ。このまま追い続けるだけではノーオシャレ。私が直接真理に手を下したら意味がないし」
「僕は眼中にないってことか……!」
「そんなことないわ。ピンチの女の子を助けるなんてオシャレに決まってるでしょ!!!!!!」
「おいニコ!! なんであの人はあんなにキレてるんだ!!」
「一期生のことを正しく理解できている者は誰もいない!! やつらの発言と行動は深く考えるな!!」
まるでパレードみたいだぜ!
なんで一期生はおとなしくできないんだ
ルイスとシゲキはおとなしくしてるのか?
まだ何も動きがないから、不穏がすぎる
確かに、ルイスとシゲキも喜んで参加してきそうなものなのに、なぜ……いや、シゲキは人の感情の動きなどを見るという別の目的もあったはずだ。どこかで観察しているだけ、とかならかなりありがたい。
というか、余裕がなくて天導さんにタメ口を使ってしまった。あとで謝罪配信をするべきか……? いや、それはいい。今はこの場を切り抜ける方法を考えろ。
イベリスの相手は、欲にまみれた白峰さん。周りのサンバ隊は他の人たちが相手をしてくれる。武器と移動手段の調達に少し時間がかかっているが、くるのはもうすぐだろう。だからと言って、油断してここでやられては元も子もない。
「さっき俺がくるのを待っていたと言っていたな。だが、俺がきたとしてもお前が手を出せないことには変わりないはずだ!!」
「その通りよ!!」
「その通りなら消えてくれ!!」
「落ち着いてニコちー、乗せられてる。ちなみに私はニコちーに乗ってほしいし、乗りたい」
「クソッ!! 頭がおかしくなる!! 僕はもう逃げていいか!?」
「逃げるならマリーを連れて逃げてくれ!!」
あっさり行われる既婚者へのセクハラ
そろそろ法的に裁かれてもおかしくない
マリーの配信見てみろ、ずっとニコを見てるぞ
多分もう自分がやられちゃだめってこと忘れてるだろ
やはり『project:eden』と関わりすぎるとストレスになるのか……。そう考えると、アルや茉莉さんは比較的まとも側だが、おかしくなっていない時点で適性があったということか……。
天導さんは「冗談だよ。乗り掛かった舟だ。自分から降りるようなダサい真似はしないさ」と降りたそうにしながら言って、何も言わずに右に曲がる。曲がるときは言ってくれ!! 急に曲がるの難しいんだぞ!!
「しかし、手を出せないとはいえアレに追ってこられると常に位置がバレる。早いところどうにかしたいが……」
「白峰さんはまだなのか!」
『お待たせいたしました。白峰、出ます!!』
なんとか曲がって、なおついてくるイベリスとサンバ隊に焦っていると、通信が聞こえてきた。そして、正面からそれが現れる。
趣味の悪いショッキングピンクの巨大なハート。そこから六本の機械的な脚が伸び、その先にはごついタイヤがついている。ハートには真っ白な巨大な翼が生えており、『この世の可愛いを貪り喰らう者』とえらく達筆な字で刻まれている。
そのハートの上にはやはりと言うべきか、白峰さんがいた。
「イベリスさん、私が相手です!!!!!」
「なっ、なんてオシャレなの!! スーパーオシャレと言うほかないわね……!!」
白峰百合、資質あり
なんかもうダメだろ
警備隊にフレイルを守ってもらわないと……
アレと一緒に遊ぶことになったんだろ? 最悪だ
まさか、ここまでエキセントリックだったとは。よく見れば、ハートの背後にバイクや車に乗った人たちがいる。まるで現代版の合戦のようだ。先頭に立つ者たちの趣味が現代とは口が裂けても言いたくはないが。
『俺たちはこのまま左に曲がります! あとは任せました!』
『承知いたしました。フレイルちゃんとの愛の力、思い知らせてやります!』
『ニコ、白峰と会う時ついてきてくんね?』
『流石に既婚者は気が引けますね……』
『やかましい! その話は後だ!』
通信で曲がる方向を伝え、後を託す。なぜかフレイルさんに炎上の火種を投げられたが……信用してくれているようで嬉しいが、無防備すぎる。いや、まぁ、女性にきてもらうよりは安心だと本能的に思ったのかもしれんが。
天導さんを先頭に、左へ曲がる。そしてすぐに仲間の車とバイクが道を塞いでくれた。ここで相手の人数を減らしてくれたらかなり楽になる。頼むぞ!
『報告! イベリスさんと白峰さんが睨み合い、お互いが跳躍して地面を転がって死にました!』
『報告感謝します! 混乱せず引き続き現場の対処を!』
「意味不明すぎてゲボが出そうだ!! 助けてくれ!!」
「がんばれ、ノアちー」
「言われなくても頑張ってるよ!! クソッ、頑張るのなんて久しぶりだ!!」
「遠回しに天才アピールしててウケる」
「うるさい! 僕は天才だ! 何も問題ないだろう!」
頑張れ天才!
一番可哀そうなのはノアなのかもしれない
あまりにも普通
応援したくなっちまうよ
恐らく、天導さんの視聴者にとってはらしくないと思われるかもしれない。でも、今の彼を見て「いつもと違う」と言って離れる視聴者はいないはずだ。あまりにも不憫すぎて応援以外の選択肢が浮かばない。信じられるか? カッコよくマリーを助けたと思ったら、鳳凰に追いかけられたんだぞ? 頭がおかしくなっても不思議じゃない。
『空の状況は!』
『こちら茉莉! 倒せず倒されずって感じだけど、なんとかそっちに行かねぇよう戦ってます!』
『助かります!!』
「……今の内か。ニコ!!」
「どうした、天導さん」
天導さんがバイクを停車させ、合わせて停車する。今は追われてはいないが、あまりゆっくりもしていられない。
「朝凪さんはニコが乗せてくれ」
「えっ」
「マリー。後でいくらでも話を聞いてやる。今は黙っておいてくれ。それで、なぜだ?」
「この先囮が必要になれば、朝凪さんを乗せていない方が必然的に囮になる。ニコは実質的な指揮官、いや、柱と言えばいいか。とにかく、ニコを失うことは精神的な打撃になる。だから、ニコが朝凪を乗せて、必要になった時に僕が囮になった方が合理的だ」
「わかった。もしものときは死んでくれ」
「そのつもりで言ってるさ」
多分、今のセリフ言った瞬間ドーパミン出てるぞ
決まったとか思ってそう
こういうときはうおおおおおおおおお!!! でいいんだよ!!
うおおおおおおおおおおおおおおお!!!!
マリーが降りて、俺のバイクに乗る。「緊張するね」というマリーの言葉は意図的に無視して、再びバイクを走らせた。
確かに客観的に見れば、賭けの元であり、厄介な『project:eden』のライバーの情報を持っている俺がいなくなると痛い。俺は自分自身を重要視しないから、言われて気づいた。天導さんは頭がおかしくなりそうになりつつも、冷静であったということか。
「それにさ」
「なんだ」
「相手チームに芥川愛人がいるのが見えちゃったから。もし襲いに来て、僕が逃げるっていうのは癪に障るから」
「なるほどな。そっちの方がよっぽど納得感がある」
「男の子ってそういうとこあるよね。かわいい。もちろんニコちーだけ」
「この色ボケがなんで重要人物なんだ!!」
「いいじゃん。そこら中で混戦するよりわかりやすいっしょ?」
「それはそうだけど……!!」
……俺の後ろに乗せたのは失敗だったか? マリーの発言で今更炎上することはないだろうが、透華の機嫌が悪くなる可能性がある。謝罪する準備をしておこう。謝罪の予定が多すぎて、すべて土下座する必要があるのであれば、俺の額は近い将来無くなるかもしれん。
ビルの間を抜けて、大通りに出る。空で戦っている光景と、背後で戦闘音。俺たちの周りには誰も……!?
「お望み通り!!」
いない、かと思いきや。空からバイクが降ってきてきた。それは天導さんを狙っており、天導さんは間一髪曲がって避ける。
「きてあげたよ。天導ノアだっけ? ニコさんと一緒にいるから名前は覚えた!」
「ニコのおまけ扱いか、ムカつくね……!! ニコ、行って!!」
「あぁ、任せた!!」
やってきたのは、芥川愛人。名前を出した瞬間にくるとは、どこかで聞いていたのか? いや、「お望み通り」と言っていたということは聞いていたのだろう。どのタイミングで出るのが一番いいか、ついてきながら考えていたに違いない。あいつ一人いれば戦況がひっくり返るくらいの働きはできるというのに、俺たちが対処できるタイミングできてくれて助かった。
天導さんにその場を任せ、爆速で離れる。どこへ向かおうかと悩み始めた瞬間、俺に並走してくる影。
「さぁ、決めようか!!!!!」
隣を見れば、白銀の竜を思わせる造形の大型バイク。
「真のエンターテイナーを!!!!」
「望むところだ!!!!」
リニスがそこにいた。マリーが後ろで「しばらく二人きりだと思ってたのに……」としょげていた。な、なんかすまん。