稼ぎの少ないオカルト事務所所長、VTuberになる 作:酉柄レイム
「マップを見ろ! それが、俺たちのエンターテイメント・ロードだ!!」
「何っ!?」
リニスに言われてマップを開く。そこには、とあるルートがナビのように照らされていた。向かう先は『BAR:midnight』になっている。
「なるほど、シンプルにここへ先に辿り着いた方の勝ちということか!!」
「その通り!! 流石俺の見込んだエンターテイナーだ!!」
「まってニコちー。普通に罠だと思う。待ち伏せとかされてたら終わりじゃんね」
「マリー。俺を罠にハメるような男が、果たしてエンターテイナーと言えるか?」
「や、リニスさんがハメる気はなくても、リニスさん以外はそうじゃないっていうか」
「それはそちらも同じこと!! 俺たちは誰に狙われるかもわからない状況で、熱く血の滾るレースを行う!! ただそれだけのことだ!!」
てことはつまり、エンターテイメント・レース第二幕ってことか
このレースの勝者に意味はない
意味なんて、レースの勝利以外に必要か?
マズい、熱にあてられ始めてる
「スタートはあのコーナーを曲がった瞬間。いいな!」
「わかった。手加減はせんぞ!!」
「あー、いいや。頑張れニコちー」
すまんな、マリー。珍しくまともなことを言ったのに、俺がまともじゃなくて。
確かに、リニスのレースを受け入れるメリットなどない。俺たちがレースをしているという噂を聞きつければ、何人かはまた妨害しにくるだろう。マリーを後ろに乗せているのならなおさらだ。
しかし。俺は先ほど、天導さんが愛人にリベンジする姿を見ていた。『EOE』の頃からリニスには勝てていない。天導さんに天才だなんだと説いておいて、俺がリベンジしないなどありえん!!
惜しいのは、マリーが後ろに乗っているから、こちらの方が速度を出しにくいというところか。できればフェアに勝負をしたかったが、俺はハンデを抱えた上で勝利して見せる!!
「行くぞ、ニコ!!」
「こい、リニス!!」
減速し、コーナーを曲がる。それと同時に、バイクが二つ、唸りを上げた。直後の加速により、二つの風が生まれる。速度はやはりリニスの方が速い。だが、俺にはマリーがいる!!
「マリー、リニスを撃って妨害してくれ!」
「りょ」
「ふっ、やはりきたか!!」
リニスは一人である分速度を出せる。俺は二人であるが、その分マリーが自由。であれば当然、マリーはリニスを妨害可能ということ!
マリーが俺の後ろで銃を構える。形はピストル。マリーはエンターテイメント・バトルロイヤルが始まってすぐに逃走を始めたから、強い武器は持っていないのか。いや、むしろこれでフェアだろう。強い武器により一瞬でリニスを仕留めてしまっては興ざめだ。
銃声が六回。ワンマガジンを撃ち切るが、リニスは華麗に避けて見せる。
「ごめん、当たんない」
「いや、十分だ。リニスが避けるという動きをすることで、その分距離を縮めることができる!」
「共同作業、嬉しいね……」
「どう捉えるかは個人の自由だが、やめてくれ!」
「ぶー」
かわいい
ほんとにかわいいか? 略奪者だぞ?
その人の属性と、その人のかわいさは関係ない
『かわいい』は『かわいい』だろうが!!
マリーの不満を表す声に、視聴者が持っていかれそうになる。かわいいから仕方がない。でもできればこのアツいバトルに注目してくれ!!
「マリー、リニスの後ろを走る。リニスがバランスを崩した瞬間に追い抜くから、そのつもりでいてくれ」
「おけー」
気の抜けた返事を聞きながら、リニスの後ろに移動する。
スリップストリーム、という現象がある。高速で走る車やバイクなどの後ろは、空気抵抗が少なくなる。そのため、最高速が通常よりも伸びる、という現象だ。ただし、安定感を失うというデメリットがある。が、マリーを乗せていることを考えると、そこまで失うわけでもない。
「スリップストリームか!! しかしニコ、その状態で次のコーナーを曲がれるか!!」
「曲がる!! それに、心配なのはお前の方だ。マリーの妨害を受けながらコーナーを曲がれると思うなよ!!」
「俺を誰だと思っている!!」
車体が傾く。その瞬間にマリーが発砲するが、急激なウィリーによってほぼ縦になって回避し、フィギュアスケーターのように回転しながらコーナーを曲がった。な、なんだあの曲芸は!!
「ニコちー、やらなくていいからね」
「ぐっ、わ、わかっている!!」
カッコいいな、と思ってうずうずしたが、マリーによって咎められ、泣く泣く普通に曲がる。差は少し開いてしまった。まさかリニスがあんなことをできるとは……まさかではないな。できそうではある。
しかしかなりのバランス感覚だ。この速度であのウィリーをすれば、普通ならバランスを崩して転倒する。だというのに俺の目からは完全に安定して見えていた。流石はエンターテイナーと言ったところか。
「残念だったな、ニコ!! 俺の歩みを止めることができるのは他でもない俺のみ!! 他者に俺の歩みは止められん!!」
「止められないのならば、追い抜くまで!! マリー、弾はまだあるか!!」
「あとちょっとだけ」
「俺をまさぐっても構わん!! 俺から取れ!!」
「あ……う、うん」
「何を緊張しているんだ!! そういう意味ではない!!」
あれね、まさぐるっていうコマンドね
相手のインベントリからアイテム取れるやつね
に、ニコが運転で動けないのをいいことに!?
俺はマリーを責められない
マリーが俺をまさぐって、弾を持っていく。マシンガンのようなものを持ってきていればよかったが、俺が持ってきているのはハンドガンのみ。マリーと同じで、すぐにエンターテイメント・バトルロイヤルが始まったからな。
「でもやばいよリニスさん。バランス感覚エグいし」
「撃たれるという意識を持たせるだけでも効果はある。引き続き頼──」
言葉は、そこで無理やり途切れさせられた。なぜか。
俺の肩が撃ち抜かれ、体力の三分の一が削られたからだ。
「ニコちー!!」
「大丈夫か、ニコ!!」
「あぁ、問題ない……!!」
「なんでリニスさんが心配してんの?」
「俺も撃ち抜かれたからだ!!」
「え」
『ニコさん、聞こえますか!!』
『聞こえます!!』
マリーに治療してもらいながら、空にいる茉莉さんからの通信に応える。走りながら周囲を確認するが、人影はない。怪我の功名か、リニスとの距離は縮まっている。
『報告!! ヴァールハイトの生き残り、グレイヴィーさんがニコさんたちの周辺のビルを跳び回って、狙ってます!!』
『グレイヴィーさんが生き残り!?』
『驚くのそこなんすね!! まだそっち行けそうにないんで、耐えてください!!』
そこで通信が途切れる。グレイヴィーさんが? 普段の姿からは想像もつかないが、ヴァールハイト同士の戦争で生き残ったというのか。
……いや、ゲームだからありえるのか? 現実だとあり得ないと断言してもいい。それくらいヴァールハイトはおかしい。
それより、なぜリニスも撃ち抜かれているかだ。グレイヴィーさんは確かリニスに賭けていたはず。であれば、俺だけを撃ち抜く、もしくは直接マリーを撃ち抜けば済む話だ。
「リニス!! どうやら、グレイヴィーさんが俺たちを狙っているらしい!!」
「グレイヴィーが!? なるほど、俺たちが繰り広げるエンターテイメントに参加したくなったということか!!」
「お前はそれで納得できるだろうが……!!」
「なんでだろーね。依頼とか?」
「そうか、依頼なら自身の利益を無視することもまだわかる。が、俺たち二人の殺害依頼……? それにもメリットを感じられん」
こういう時は、正攻法とは言えないがコメント欄を見よう。こいつらのことだ、各所から情報を集めているに違いない。
グレイヴィーはヴァールハイトの戦争で発生した爆発から運よく生き延びただけだぞ!
その後に魔王様に捕まって、よくわからんからニコとリニスを56せって依頼されたぞ!
魔王様は家臣が増えたと思い込んで高笑いしてるぞ!
今車に轢かれて4んだぞ!
思った通り、視聴者から情報を連携される。グレイヴィーさんだけが生き残ったのは本当で、魔王様に俺とリニスを殺す依頼を受け、依頼した魔王様は高笑いした後、車に轢かれて死んだらしい。場を混乱させるだけさせて死なないでくださいよ!
だが、魔王様には感謝しなければ。魔王様の依頼がなければ、今頃マリーがやられていた。少なくとも、マリーが撃たれるのは俺とリニスが死んだあとということになる。
「ぐっ!?」
「痛いぞ!!」
「また……!! あの酒カスおじさん、本当にすごいんだ……」
考えている間にまた撃たれる。先ほど治療してもらったが、すべて回復したわけではない。このままでは殺されるのは時間の問題だろう。なんでこの速度で走るバイクに乗っている俺とリニスを正確に撃ち抜けるんだ!!
「──ニコ、マップを見ろ!!」
「なっ、なんだ!?」
マップを開くと、ルートが二つになっていた。それぞれ赤と青のルート。『BAR:midnight』までの距離は同程度に見える。
「今、同じ距離になるよう新たなルートを生み出した! 次のコーナーで分かれるぞ!! どちらがグレイヴィーに追われても泣き言は許されん!!」
「しかし、リニス!!」
「聞かん!! 俺は赤のルート、貴様は青のルートだ!!」
何かを言う前に、コーナーに辿り着く。リニスは右に、俺は左に。
どちらを追うかなど、わかり切っている。グレイヴィーさんはリニスに賭けていて、俺とリニスを殺せば次にマリーを狙う。つまり、合理的なのはリニスを追うこと。リニスを殺してから俺のところにくれば、その流れでマリーを殺せるからだ。ヴァールハイトは、何より依頼を優先する。
「これで勝つのは納得いかんぞ、リニス……!!」
『無事か? ニコ』
『ミハイル!!』
悔しさに震えていると、ミハイルから通信が届いた。そうか、ヴァールハイトの戦争はミハイルとシェリーさん以外で行われていて、ミハイルとシェリーさんは別で戦っていたんだった!! ということは、勝ったのか!?
『勝ったのかって思ってそうだけど、勝ってねぇよ。ボスに依頼しただけだ』
『まさか』
『グレイヴィーを殺せってな。依頼料は後で返せよ』
『問題ない。この勝負に勝てばお釣りがくる!!』
『山分けされるやつとは別に請求するに決まってんだろ』
『……後で話をしよう!!』
『毎度あり』
なんて機転が利く男だ……!! 頼むから、リニスがやられる前にグレイヴィーさんを仕留めてほしい。そうでなければ、リニスとの決着がつけられん!!
『BAR:midnight』。そこにリニスが現れることを願って、ひたすら前へと突き進んだ。