稼ぎの少ないオカルト事務所所長、VTuberになる 作:酉柄レイム
「ふふふ……」
「どうした、マリー」
「なんでもない」
何でもないわけがない
マリーの配信のコメントで二人きりを祝福されてるぞ!
不倫を応援する視聴者層なのか……
終わってて草
リニスと別れて、『BAR:midnight』への道を突き進む。戦闘音は遠くで聞こえており、俺たちのところには誰も来ない。みんながうまくやってくれているということだろう。ということは、よく考えればリニスを無視してこのまま逃げ切れば勝ちなのだが、それはエンターテイナーではない。この勝負に勝ったとしても、負けと同じことだ。
「ねぇ、ニコちー」
「なんだ」
「よかったね」
「それは勝ってからにしろ」
「じゃなくて」
せわしなく飛び交う仲間たちの報告をBGMに、マリーの声に耳を傾ける。勝敗の話じゃないなら何の話だ? このミッドナイト・サイコバイクのことか? 確かに、やっとできた買い物で最高の出会いをできたことに間違いはないが……。
いや、ここは探偵らしく推理するとしよう。マリーがよかったね、と言ったのは、何に対してか。このミッドナイト・サイコナイトの力をもってすれば、朝飯前だ!
「みんな仲良くできてるみたいで」
答えはすぐに提示された。推理の機会を奪われてしょんぼりしながら、「仲良く?」と聞き返す。
「うん。なんか、他の事務所の人たちとの境界? みたいなのを無くしたいって感じだったんじゃん?」
「……あ」
言われてみれば。今飛び交っている報告が、その目的を達成に近づけている証明になることに気づく。所属、ましてや男女関係なく、平等に接して平等に遊ぶ。その光景を実際に見れていないことが残念だが、事実としてそれがあるのは間違いない。
きっと、俺が知らないところでの繋がりもできているのだろう。『BAR:midnight』がそのお手伝いをできていたのなら何よりだ。少々『project:eden』が目立ちすぎている気もしないでもないが……。まぁ、うちの事務所のパワーは言うまでもないだろう。アイドル活動云々ならともかく、バラエティという戦場で負けるわけにはいかない。
マリーに言われて遅れて実感していると、マリーがまた「ふふ」と笑った。
「えらく上機嫌だな」
「誇らしくなっちゃった。私のニコちーはこんなにすごいんだぞって」
「お前のものではない。あと、俺がすごいのではなく、それぞれが行動した結果が今だ。別に、俺がいなくても成立はしていただろうな」
「少なくとも意味はあったよ。リニスさんが勝負しようって思うような相手、ニコちーとか物部さんとかくらいしかいないし」
「……そう言われればそうな気がしてきたな。だが、視聴者の力も大きい。調和を保つために、ひたすら情報を拾ってきてくれていたからな」
今の舞台があるのは、ニコとリニスがエンターテイメントカップを開いたからだからな
ニコには人を巻き込む魅力がある
べ、別に、別になんだからね!
語彙力のないツンデレ
本当に感謝している。今回は動きのない画面であることが多かったから、視聴者も複窓をして複数の配信を同時に見て、面白いことがあったら報告してくれたりしていた。実際にゲーム内で知る、という面白さは必要だとは思うが、俺はそういうゲーム内での出来事に関わることはしないと決めていたから、一緒に楽しんでいる気持ちになれた。まぁそこそこ荒れてはいたが、それはいつも通りだし。
「だからよかったねって。えらいぞ、ニコちー」
「ありがとう。素直に嬉しい」
「いい雰囲気だね」
「さて、もうすぐ『BAR:midnight』か」
「この、焦らし上手……」
マリーからのアタックは無視して、マップを見る。リニスに示されたゴール地点、『BAR:midnight』はもう少しだ。
「リニス……きてくれよ……!!」
この角を曲がれば。リニスが死なずに走れているのなら、リニスと合流するはずだ。曲がった瞬間にリニスがいなければ、自動的に俺の勝利が確定する。が、そのような空しい勝利は必要ない!
祈りを込めて右に曲がる。車体が沈み、景色が流れていくと同時。映った景色に、待ち望んでいたバイクが入り込んできた。
「さぁ、決着をつけるぞ、ニコ!!」
「やはりきたか、リニス!!」
「めっちゃボロボロじゃん。大丈夫?」
「案ずるな! 勝負に情けは無用! 俺の全身全霊でもって、貴様らを粉砕してくれる!」
うおおおおおおおおおおおおおおおおお
粉砕されるなよ、ニコ!!
骨スカスカだから粉も残らないだろ
今そういう話はしてないんだよ!!
スピードだけを考えて、アクセルを全開にする。この距離ならエンジンはもってくれる。ここまで走ってきて大体境界線は掴んだ。あとは信じて走るのみ!!
「忘れたわけではあるまいな!! 貴様は朝凪真理を乗せている分、スピードが遅い!!」
「もちろん覚えている!! マリー、頼んだ!!」
「任せて」
発砲音が複数。しかしリニスは背後を確認していたのか、左右に正確に避け続け、一発も当たらない。が、蛇行した分の距離は詰めることができた。
今いる位置はリニスのすぐ後ろ。風の抵抗が薄れる位置。
ミッドナイト・サイコバイクが加速する。風を切る闇がリニスを追い抜き、そして。
「──見事だ」
『BAR:midnight』。そこへ到着するとともに、空で花火の音が聞こえた。少し遅れてブザーの音。
それは、エンターテイメント・バトルロイヤルの終了を告げる合図だった。
「なんか、あんたいつも中心にいるわね」
「褒め言葉として受け取っておこう」
「褒めてるわよ。同期として誇らしいわ」
「俺に勝利した貴様には、祝宴を受ける権利がある!!」と言ったリニスの号令一つで、戦っていた全員が『BAR:midnight』へ集まった。全員に食べ物や飲み物が配られ、乾杯したのがついさっき。俺と一緒にいたマリーは満から「話があります」と連れていかれ、入れ替わるようにして月宮さんがきてくれた。
月宮さんは裏がない人だ。褒めていると直球で言われると照れてしまう。だからと言って他の人に褒められたら照れないのかと言われればそうではないが、なんかこう、あれだ。わかるだろ?
「そういえば、アザミはどこに? 月宮さんがくるなら、アザミもくるだろうと思っていたが」
「さっきヌ゜さんにシゲキさんと一緒に連れていかれてたわ。プリティすぎるからって」
「それはまた大変だな……」
「仕方ないわよ。最近のアザミ、かわいいもの」
優姫ちゃんもかわいいぞ!
優姫ちゃんの配信で言ってやれ
は、はずかちい……♡
やめてください
月宮さんがイケメンなことを言い放ち、俺の視聴者がいつもの調子を取り戻す。別にいつもの調子ではあったから、正確に言うといつもの配信の調子だな。ここ最近は敢えて炎上を装ったコメントをしていたから、考えてコメントをしていないのは久々だろう。俺ばかりではなく、視聴者への息抜きもさせてくれるとは、流石月宮さんだ。
「なんかあんたのところからキモいのが流れてきたわね」
「あまりそう言ってやるな。俺の視聴者も頑張っていたんだ」
「あんた、他人の評価は自動的に高くするからあんまり信用ならないのよね……。どっちにしろ、人の配信でキモいことしていい理由にはならないし」
「それもそうだ。謝れ貴様ら」
優姫ちゃんに迷惑をかけるな!
一部のマナーがなってないやつらがすみません
なんでちゃんとしてる俺たちが優姫ちゃんからキモいって言ってもらえないんだ!
俺はキッショって言ってほしいぞ!
「すまん。抑圧されていたものが解放された状態のようだ」
「まぁいいわよ。私とかアザミとかにしか行かないでしょうし。うちの視聴者も慣れてるから」
慣れているからといってやっていいわけでは……これ以上は逆に鬱陶しいか。いいと言っているのだから、お言葉に甘えよう。お言葉に甘えるのは俺じゃなくて視聴者か。じゃあ言葉に甘えろ、お前たち。
「それじゃ、私は他の人と話してくるわ。……一緒にくる?」
「気を遣わないでもらって結構だ! 俺を舐めるなよ!」
「はいはい。構ってほしかったら言いなさいね」
短く笑って、月宮さんが離れていった。一緒にくる? あたりから俺の視聴者が月宮さんに恋をしすぎて止まらない。気持ちはわからないでもないが、その気持ちはぜひ月宮さんのボイスを買うことで還元してほしい。キモいコメントを浴びせ続けるのではあまりに申し訳ないからな。
……さて。せっかくこういうサーバで、せっかく色んな人が同じ空間に集まっているんだ。俺も初対面の人と交流を深めて、新しい繋がりを構築せねばならん。でもなんかみんな話をしているしなぁ。俺が途中から入って変な感じにさせるのも悪いというかなんというか、それによく考えれば皆さんからすれば俺はいきなりエンターテイメントカップに現れた変なやつであって、特に話すこともなければ、エンターテイメント・バトルロイヤルで戦った人たち同士の方が会話が盛り上がるのが自然であり、やはりそこに俺が入る余地はないわけであって。
「何一人でぼーっとしてんだ?」
「お疲れ様です。ニコさん」
「どうせコミュ障拗らせて孤立してたんだろ。きてやったぜ」
「フレイルさん! ユースさんにミハイルも! いや、俺は改めてこの光景を見て、目的を少しは達成できたのではないかと思っていただけで、決してコミュ障を拗らせていたわけではない」
「すげーな。私は普通に楽しんじまってた」
「あ、嘘です。孤立していました」
フレイルの純粋さに負けた
口を開けば誇張と言い訳
情けないと思わないのか?
マシにはなったけど、話しかけてもらわないと無理なのか……
ミハイルにコミュ障をいじられて反射的に反論すると、フレイルさんに感心されて罪悪感を刺激された。笑うなミハイル!!
「でも、ニコさんの言う通りですね。私、もう何とも言われませんし」
「俺もだな。つっても全員がすぐには無理だろうが」
「まー、できてねぇことを悔やむより、できてることに喜ぼうぜ」
「クソッ、いいこと言いますね、フレイルさん」
「何悔しがってんだよ」
いいこと言いたかったんだろ
いいこと言いたかったんだな
いいこと言いたかったんだろうなぁ
いいこと言えばよかったのに
言われている意味は同じだが、なんとなく最後のが一番ムカつく!!