稼ぎの少ないオカルト事務所所長、VTuberになる   作:酉柄レイム

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第23話 企画プレゼン配信(1)

「何!!!!??? 選考を突破しただと!!!!!????」

《そのこち亀みたいな導入やめない?》

 

 最近読んだから真似したくなって……。

 

 『project:SP』。それに提出した俺の企画が、運営の選考を突破したという連絡が、帝斗からきた。もはや帝斗から連絡がくることに驚きはないが、これは『project:eden』の管理体制が杜撰なのか、帝斗なら信用できると運営に思わせた帝斗がすごいのか。前者はVTuberを預かる会社としてないと思いたいから、恐らく後者だろう。

 

《っていうか、自信あったんじゃないの?》

「あったはあったが、ほら、通ると嬉しいしびっくりするものだろう?」

《まぁ確かに? 佐藤さん今までそんな経験なかったもんね》

「なかったけど別に言う必要なくないか?」

《攻撃するのが癖になっちゃって》

 

 どうやら俺の教育が悪かったらしい。俺が悪い可能性もある。

 

 帝斗からきた連絡は、選考の通過と、企画プレゼン配信の日程だった。複数人でプレゼンすることになるから、スケジュールを合わせるのにも苦労する。俺のように普段は仕事がない人ならともかく、普通に仕事をしながらVTuber活動をしている人、もしくはVTuber活動が軌道に乗りまくっている人はそもそもスケジュールがパンパンだ。

 だったら動画という形にしてもいいんじゃないか、という意見もあったそうだが、ルイスさんがそれを却下。生配信の方が動画より熱が伝わってクールだから、らしい。

 

「プレゼンか……ど、どうしよう満。緊張してきた」

《早いって。それに、自分で全部考えた企画ならちゃんと説明できるでしょ? なんで緊張するの?》

「当たり前だろう! 俺がプレゼンした後、『こんなもんが選考突破したのか』とか、『これで通るなら他はどんだけひどかったんだよ』とか言われるかもしれないんだぞ!? 俺だけがひどく言われるならともかく、俺が選ばれたのと同じように、選ばれなかったものも存在するんだ! 選ばれた以上、それらの評判も背負っているのと同じこと!」

《あー、他の人の分を考えたら、失敗できないって感じ?》

「そういうことだ。流石満だな。俺がすべて言わなくても理解してくれる」

《言ってたよ。すべて》

 

 どうやら俺は相当緊張しているらしい。

 

 でも仕方がない。もし俺の企画が採用されず、月宮さんかアザミさんの企画が採用されれば、朝凪さんとの関係を聞かれてしまう可能性がある。

 ……よく考えれば、聞かれてマズいことがあるのか? パラレルワールドを観測できて、その結果激重感情を抱かれました、というだけだ。それで俺が責められるようなことはないはず……いや、まて、客観的に見てパラレルワールドを観測し、同僚に激重感情を抱いた結果、パラレルワールドであった出来事を再現したゲームを作って気づいてもらおうとしたって、あんまり言うべきことじゃないんじゃないか? 朝凪さんの評判に関わる。

 

 やはり企画を採用してもらうしかない。

 

《採用されるのって三つでしょ? 選考通ったのは?》

「8だな」

《じゃあなんかいけそうな気がする!》

「甘いぞ満。『project:eden』はそもそもがバラエティ集団。不定期にも定期的にも開催されるお祭りには慣れている。きっと俺にはない発想を持っていることなんて珍しくないはずだ。その中で自分の企画を採用してもらうのは至難だろう」

《佐藤さんって、自分以外を高く評価するクセあるよね》

「事実だからな」

 

 とはいえ、ほぼ所属ライバー全員が企画を提出して、その中から選ばれたのだからちょっとは自信を持ってもいいはず。企画そのものの面白さ以外に、旬かどうかという判断基準もありそうだが。『新人も積極的に公式番組に起用する』イメージを持たせれば、他の事務所ではなくうちの事務所にきてくれる、という狙いもなくはなさそうだ。

 

 訳知り顔で頷く俺のところに、帝斗から追撃で連絡がくる。なになに? プレゼン生配信は、スタジオで収録……。

 

「満、終わったかもしれん」

《そろそろ慣れよ?》

 

 そんなすぐ慣れることができたなら、俺はもっと人に囲まれた人生を送っていたと思わないか?

 

 

 

 

 

 いつかきた『project:eden』の本社ビル。スタジオは別のところにもあるらしいが、移動が面倒だからと本社スタジオの設備の充実を優先させたらしい。一期生が。

 

 そして、今俺は楽屋で待機中だ。しかも一人じゃない。今日プレゼンするライバー全員が同じ楽屋にいる。『生配信で視聴者に見てもらうんだから、あんまりピリピリしないでね』という意味で歓談させることを目的にこうしたのだろうが、ただでさえ緊張していたのに余計緊張してしまった。初対面の人がいる空間に俺を放り込むなど、ライオンの群れに赤子を放り込むのと同じことだぞ!?

 

「……なんか可愛いわね、あんた」

「?」

「初対面の人間がいるからと、無意識に知っている人間の側にきたニコが可愛かったらしい」

「なっ、俺は26歳だぞ!!」

「そうね。よく考えればキモいし情けないわね」

《こっち見ないで……》

 

 それは満もそう思っているということか?

 

 誇らしいと言うべきか、ニッコリ探偵団の面々も選考を通った。よかった。勝負のことを考えればよくないのだろうが、知っている人がいるというのは心強い。安心感がすごすぎる。しかも二人は俺より先に入った上で、「先入ってるわよ」って連絡してくれたし。どこまで優しいんだ二人は。あとどれだけ介護慣れしてるんだ俺は。

 

「ニコ。初めての人に挨拶とかしないの?」

「月宮さんは俺に死んでほしいのか?」

「死ねと言ったつもりはないと思うぞ」

《さっき情けないって言われたのに、なんで情けないのを重ねるの?》

 

 違うんだ。重ねようと思って重ねているわけじゃなくて、気づけば口から漏れているんだ。だから情けないって言われるのか? 意識して言っているわけじゃないなら、芯から情けないってことじゃないか?

 

「そ、それにだな。今日ご一緒する方の配信をすべて見ようと思ったが、時間が足りなかった。それはあまりにも失礼だろう」

「その理屈が通るなら、ほとんどの人間はあまりにも失礼よ。普通共演相手の配信全部見るなんてやらないから」

「そのような精神性と暇があるのはニコくらいだろうな」

「暇って言葉いらないだろうが」

 

 しかもおかげで寝不足だ。睡眠学習の要領で配信を複数つけながら一応の睡眠はとったが、もちろん何も頭に入っていないし、音を聞きながら寝てしまったためか、ずっと半覚醒状態で寝た気がしない。

 

 そんな俺の背後に、誰かが立った気配があった。俺は誰かが近くにいた経験が著しく欠如しているためか、人の気配には敏感だ。そして、月宮さんとアザミさんは俺の見える位置にいる。つまり、後ろにいるのは初対面の人……?

 

「ゆ、ゆるして」

「なにが……? 久しぶり、ニコさん」

「あぁ!!! 一ノ瀬さんですか!! よかったぁ」

「相変わらず人見知りしてた感じ? そんなら、緊張和らげんのに貢献できたみたいで嬉しいよ」

 

 そちらは相変わらずの包容力で……。よかった、俺が中学生じゃなくて。中学生の頃の俺ならお姉さん力に押しつぶされ、赤ちゃんになっていたことだろう。そうなれば人生終わったも同然だ。

 しかし俺は26歳男性。年齢で言えば一ノ瀬さんの上だ。包容力を感じてバブっている場合じゃない。

 

「月宮さんとアザミさんは初めましてですよね。一ノ瀬明です」

「月宮優姫です。ニコがお世話になってるみたいで」

「アザミ・フレンジー。ニコの知り合いがいてくれて助かるよ」

「ニコさん、保護者同伴?」

「ちゃんとお二人も企画が通ったからきているんです」

《保護者っていうのは間違いじゃないと思うけど》

 

 ……まぁ、確かに強く否定はできない。俺と仲良くしてくれる人って大体介護してくれるしな。帝斗も透華も、月宮さんもアザミさんも。

 

「そういえばニコさん、妹が度々迷惑かけてごめんね?」

「いえいえ。こう言っては何ですが、慕われるというか、好意的に思ってくれていること自体は嬉しいことですので」

「ニコさんを好意的に思わない人の方が珍しいと思うけどねぇ」

「そ、そんな、まさか、ふふ、ふふふ」

「なんだニコ、クスリでも切れたのか?」

「思っても言うんじゃないわよそんなこと」

 

 どうやらキモかったらしい。反省しよう。配信でアザミさんにそんなことを言わせるわけにはいかない。多分クスリって配信で言っちゃダメな気がするし。

 ……言っちゃダメとか気にするだけ無駄なのか? 一期生が好き放題してるから、『project:eden』だけ緩い、みたいなことあったりするのか? 

 だとしても、初対面の人がいる場であまりはっちゃけるわけにもいかない。というか人見知りだからはっちゃけられない。もう正直プレゼンは絶望的だと思っている。クスクス笑われでもしたらその場で硬直し、そっと涙を流す自信がある。

 

「なんかニコさん固まったんですけど、よくあることです?」

「しばらく放置したら戻ってきますよ」

「今の間ならキスしてもバレないぞ」

「!!!!???????」

「なんかニコさん転げまわったんですけど、よくあることです?」

「よくあることです。アザミ、そういうのでニコいじるのやめなさいっていっつも言ってるわよね?」

「逆に言わせてもらうが、キスであそこまで動揺する26歳を面白がらなくてどうするんだ?」

《それはほんとにそう》

 

 満、お前中学生だろ! 立場的には俺と同じはずだ! あ、立場じゃなくて経験。

 

 クソ、服が汚れるかと思いきや、イベリスさんが「私が所属している会社が綺麗じゃないなんてオシャレじゃないわ!!!」という信念のもと清掃が行き届いていてまったく汚れなかった。じゃあいいか。

 

「ていうか、そういうので動揺するのってかわいいね。もしかして経験ゼロ?」

「もしかしても何も、ニコがすさまじい童貞であることは見ればわかるだろう」

「いつも言っているが、童貞に形容詞をつけるのをやめてくれ」

「ちょっと、下品なことやめなさい」

「悪い、俺が童貞で」

「それ自体にじゃなくて、それを口にすることに対して言ってんのよ」

 

 大丈夫だ。流石に配信で童貞なんて言葉は……言いそうだな。もしものときは満に目の前でバッテンを作ってもらおう。微笑ましくて口が止まるはずだ。

 

「頼むぞ、満」

《何をかよくわかんないけど、いいよ!》

 

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