稼ぎの少ないオカルト事務所所長、VTuberになる 作:酉柄レイム
「『project:SP』、それは『project:eden』のライバーが、クールな企画を持ちより、クールなリスナーにクールな選定を行ってもらい、クールなレギュラー番組を決定する企画」
アークはいつでもクールだろ
だからクールってなんだよ
クールはクールだろ
「今宵、クールな運営の選考を突破した、8人の英雄にきてもらっている。もちろん、クールで厳正な選考を行った。それが本当かどうかは、英雄のプレゼンを聞いて判断してくれ。それでは、英雄come on!!」
始まってしまった。
『project:SP』がついに始まってしまった。そりゃスタジオにきたならもう始まるだけだろうが、何かしらのトラブルで延期とかになってくれないかなと思っていなかったと言えば噓になる。楽屋で月宮さんとアザミさんと一ノ瀬さんと談笑して和らぎ始めていた緊張がまた戻ってきているのを感じた。
《大丈夫? 手でも握ろっか?》
「そこまで情けなくなった覚えはない」
「ならワタシが握りましょうか?」
「あとなんでいるんですか安倍さん」
「さっきアークさんが仰っていた理由以外にないでしょう。ここにいる理由」
ルイスさんが一人一人紹介していってくれているのを見ながら、マイクを切って安倍さんと話す。
安倍さんは、ギリギリになって楽屋に入ってきた。なんでも仕事が長引いたそうで、「しつこいカビくらい手こずりましたよ」といつもの胡散臭い笑みを浮かべながら話しかけてくる安倍さんを見て、思わず目を逸らしてしまったのは悪くないと思う。
運営の選考を通ったのは、俺、月宮さん、アザミさん、一ノ瀬明さん、安倍さん、そして初対面の方三人。見事に俺の周りの人が通っているのは、やはり俺の周りに集まるのはすごい人だということだろうか。
一人目、四期生のフレイル・アースレイドさん。褐色肌、金の髪を雑に一つで結んだ、橙色の瞳の女性。職業は探検家。バラエティ集団と呼ばれる『project:eden』で、常識を失っておらず話も通じ、何もおかしいところがないという特異性がある。
実際のところ、月宮さんも明星姉妹もおかしなところはないから、大げさに言われているだけだとは思うが。
さっきの楽屋の時も普通に挨拶をしてくれて、「もしよかったら今度探検行こうぜ。オカルトの感じするとこ見つけたんだ」と誘ってくれた。こう言っては失礼かもしれないが、距離感が男友だちと話しているようで、少し気楽だった。……あれ? 俺の男友だちって帝斗だけか?
二人目、七期生のアルテュール・
彼も『project:eden』には珍しく常識人。少々知能が足りないと視聴者に言われることはあるが、社会性的な意味で常識がないわけではない。むしろ、一番常識に近いような気もする。ノリがよくて明るくてコミュ力が高いし。
黒衛さんも楽屋で話しかけてくれた。見た目がガワと同じくチャラついていたから警戒していたが、普通に敬語を使ってくれて、礼儀正しい挨拶。爽やかだった。俺は何か負けた気がした。
三人目、二期生のリニス・ディバルディアさん。金髪オールバック、同色の瞳、アメフト部くらいごつい体。『project:eden』が始動し、二期目に入った人だからか、豪快だ。もちろんさっきの二人と違ってあまり常識は……茂樹さんとかと比べるとある方だが、実社会にいたらおかしいと思うくらいではある。
例に漏れず、リニスさんも話しかけてくれた。いや、話しかけた内に入れていいのか? 「貴様がミッドナイト・サイコナイトか!! 数多くの人間を笑顔にしていると聞くが、笑われているだけでは進歩はない!! 貴様のエンターテイナー性には期待している。今日のプレゼンで、あっと驚くエンターテイメントをこの俺に見せてみろ!!」と言って去っていった。強烈だった。
「あれは彼なりの激励ですよ」
「一応そう受け取っています」
安倍さんが俺の心を読んで話しかけてきた。俺がわかりやすいというのもあるが、安倍さんは『その人の表情、動作を見て、その人の身の周りに起きたことを知っていれば』という条件で、考えていることが大体わかるらしい。普通ならすごいと思うのだろうが、安倍さんができるとなると恐怖が勝るのはなぜだろうか。
「これよりこの8名が企画のプレゼンを行う。その後二週間の投票期間を経て、選ばれた三つの企画が番組となり、一か月間週一で放送。更にその後、再び投票を行い、選ばれた一つの番組がレギュラー化される」
投票システムによるだろうけど
どっちにしろ人気投票だって厄介ファンが騒ぎそう
「フン!! ネガティブを吐くことだけは得意なやつがいるようだな!! そのエネルギーを勇往邁進に使えば更なる未来が見えるというのに、矮小な精神だ」
「相変わらず熱いな、リニス。非常にクールだ」
どっちだよ。
「しかし、視聴者の言うことももっともだ。人気投票になってしまうという危惧はクールに存在する。だがそれでいい」
「何っ!!?」
リアクションいいな、リニスさん……。やっぱり二期生だから、こういうのに慣れているんだろうか。俺の隣でへらへらしてる人も二期生だけど。
「8名それぞれのチャンネル登録者数、配信全体の平均コメント数、アーカイブ及び動画全体の平均再生数により、視聴者が一日に投票できる数を決定した。茂樹が5分でやってくれた。シゲキ的な祭りは嫌いじゃねぇ、と言ってな。クールなやつだ」
なるほど……。つまり、通常の人気が高い人、ファンの母数が多いと判断された人は一日に可能な投票数が減って、逆だと増えるということか。
「人気投票であればファンの母数で差が開くが、このシステムだと投票回数でその差をカバーできる」
「質問だ!! 一日に投票できる対象は!」
「全員にできる。本来なら企画の面白さで判断してもらいたいが、クールに推しているライバーに投票したいという気持ちを否定したくない。もちろん、全員が推しだというクールにありがたい者もいるだろうからな」
そこはシステム的なこと考えないのか……。一応考えたけど、いくらでも穴がありそうだな。まぁ、聞いたところによれば実際の投票数は視聴者に公表しないそうだから、最終的には運営で決めるとか、そういうことがあるのかもしれない。
「そして、視聴者投票に選ばれるプラス、特別審査員の評価も含めて選ばれる番組を決定する」
「何!? 聞いていないぞ!?」
「台本に書いてたっスよ?」
「台本? あの軟弱な物体のことか! 俺の方が強かった」
「やめとけアル。リニスさんに常識は通用しねーよ」
リニスさんが好き勝手喋るからか、黒衛さんもフレイルさんもマイクに音を乗せた。こ、これは、俺も何か言うべきなのか……?
《大丈夫? 無理しない方がいいよ?》
「オッホ」
やっぱりやめておこう。こんなに本気で満が心配してくれているなら、やらない方がいいということだ。
「特別審査員を発表する。まずは一人目」
「ハーイ! みんな、今日ももちろんオシャレしてるわよね? オシャレな企画をオシャレに審査させてもらうわ!」
早速審査に偏りがありそうだぞ
オシャレだったらいいのか、安心した
イベリスさんがキャスター付きの椅子に足を組みながら座り、キャスターを転がしてスタジオに現れる。本当に行動ごとにやかましいな、この人。
「続いて二人目だ」
「シゲキ的な祭りがあると聞いてなァ? もちろんシゲキ的な企画を作ってきたんだろ? 楽しみにしてるぜェ!!!!!!!!!!!!!」
逃げろ!
シゲキ的にされる!
なんでこう偏りがありそうなのばっかなんだ!
よかった。茂樹さんが見えた瞬間に耳を塞いだから、なんとか鼓膜は無事だ。
……? なんか、アザミさんが嫌そうな顔してるな。もしや知り合い? 共通点と言えば科学者っていうところくらい……でも方向性似てる気がするから、なくはないな。
「そして三人目はこの俺だ。クールに審査させてもらう」
ふざけるときはめちゃくちゃふざけるけど、こういう時は真面目だからな
信頼できる
でも非常識ではあるぞ
特別審査員が一期生の三人……クールかオシャレかシゲキ的かで判断されそうだ。一応俺たち演者は一期生が審査員をやると聞かされてはいたが、それを聞いたのは配信が始まる前。つまり、一期生の好みに寄せた企画作りはしていない。というか知っていたとしてもあの三人の好みに寄せた企画作りなんてできるわけがない。『project:eden』ももうすぐ三周年を迎えるが、未だに『クール』『オシャレ』『シゲキ』が何か、本人たち以外誰もわかっていないんだ。
「以上で説明は終了だ。ここから企画のプレゼンに入る」
「シゲキ的なプレゼンじゃなかったら、この俺がシゲキ的にしてやる」
「あらダメよ茂樹。今日の主役はあの子たちなんだから」
「主役なら食われるわけねェだろ? じゃあ何やったって構いやしねぇ!!」
「その考え、オシャレ!!」
「ふっ、相変わらずクールなやつらだ」
ほらな? 誰もわかるわけがない。
「プレゼンの順番は、俺の気分で決める」
「じゃあプレゼンやりたかったらアピールしたらいいんっスね!!」
「お、元気があってクールだな。それじゃあニコからやってもらおう」
「なんでだ!!!!??? 今黒衛さんが挙手してましたよね!!?」
「言っただろう、俺の気分と」
「確かに言いましたけど……!!」
「大丈夫よ、ニコ」
「誇っていいんじゃないか。この企画の一番槍を任せられたんだ」
俺の前にいる月宮さんとアザミさんが振り向いて背中を押してくれる。隣にいる安倍さんも、「オッホォ」と笑いながら背中を叩いてくれた。あなたかなり邪悪ですけど、自覚あります?
同期の二人に勇気づけられたなら、怖気づいている場合じゃない。というかむしろ、最初にプレゼンすれば後は話を聞いておくだけだから、いいのかもしれない。そう考えれば気が楽だ。
あとは、面白くないと言われて非難されなければパーフェクトだ。
「さて、それじゃあプレゼンしてもらおうか」
「わかりました! 俺が考えた企画は──」