稼ぎの少ないオカルト事務所所長、VTuberになる   作:酉柄レイム

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第26話 教師役

 プレゼン配信を終え、翌日。途中からテンションが上がっていたから、あの日のことはほとんど覚えていない。ただ、一ノ瀬明さんが「ニコさんのこと舐めてたよ」と言ってくれたり、リニスさんが「貴様、見上げたエンターテイナーだな! 名を名乗れ!」って絡みにきてくれたり。フレイルさんと黒衛さんのコミュ強っぷりにやられて飲みに行ったりと、印象的な出来事があったことは覚えている。

 

 自惚れじゃなかったら、気に入ってくれたんだとは思う。しかしあまりにもコミュ障を発揮した俺はまったく言葉が出てこなくて、結果月宮さんとアザミさんが俺を挟んで落ち着かせてくれたことによってなんとか会話が可能なようにはなった。

 

「あれ、俺もしかして、失った青春を取り戻しつつあるのか!?」

「《誰かとご飯に行くなんて、考えられなかったもんね》」

 

 必要な栄養分は帝斗と透華が供給してくれるから……。

 

 さて、プレゼン配信が終われば後は投票結果を待つだけ。なんだろう、あれだな。月宮さんかアザミさんが選ばれて俺が選ばれない、みたいなことになったら言うことを聞かなきゃいけないから、妙な緊張感がある。受験の合格発表の緊張感と近い。

 

我ながらプレゼンはうまくいったと思っているが、コンセプトは違えど、俺と月宮さんの企画は取り扱える内容が似ている。選ばれるとすればどちらかで、どちらも選ばれるということはまずないとみていい。票数が分かれるとすれば、キャストの差だろう。

俺は一ノ瀬さんと、月宮さんは黒衛さんと。黒衛さんを選んだ理由は、犬っぽいから、らしい。それを言った瞬間のコメント欄ときたら、「犬と呼んでくれ」「わんわん!」「奉仕させてくれ」と気持ちの悪いコメントばかり。「確かにそうですよねぇ」と同意を見せた安倍さんに、「最低」と月宮さんが侮蔑の表情を見せたのは当然のことだった。俺は安倍さんの隣に座っていたから巻き添えを食らった。

 

「まぁなんだかんだ、プレゼン配信は概ね成功といっていいんじゃないか?」

「《あとは、これをどうするかだね……》」

 

 プレゼン配信での思い出を振り替えり、なんだかんだ納得のいく出来だったととりあえずの満足感を得て、dicecodeを見れば。

 

朝凪 真理

呼んでくれるよね? 教師役として

 

「正直、配信がどうこうというより、俺の精神が荒れる未来しか見えん」

「《でも、真理さんその辺りの分別はついてるから大丈夫じゃない?》」

 

 下の名前で呼んでいるあたり、随分飼いならされたらしい。

 

 そう、投票結果を待つだけかと思ったが、もし採用された場合の時のことを考えて、第一回のゲストや番組内容を決めないといけない。結果が発表されてからでは遅いんだ。

 それを思い出させてくれたのが、朝凪さんのDMと、いつも通り帝斗からの「初回の内容を考えておいてくれだってよ」という言葉だった。カバー案として運営も考えてくれているらしいが、番組を企画した俺が初回の内容、ゲストを決めて、そこで雰囲気を運営が掴んでくれて、その後は運営がゲストと放送内容の決定を行ってくれるとのことだ。

 

「初回、初回か……」

「《佐藤さんも星菜ちゃんも認識あるし、結構うってつけなんじゃない?》」

「お前、朝凪さんに懐いてるよな」

「《え? そんなこと……あるかも。透華は友だち! って感じだけど、真理さんはお姉ちゃん! みたいな感じ?》」

 

 前に朝凪さんと会った時、気づけば満を膝の上に乗せていたり、ほっぺをむにむにしていたり、めちゃくちゃ可愛がっていたことを思い出す。そういえば、満を年相応に甘やかしてくれる人はあまりいなかったか……。俺が全然知り合いいないせいだけど。

 

 とはいえ、朝凪さんを教師役にして何を教えてもらうか。朝凪さんの普段の配信は、ゲーム作り、シナリオ作りが多く、それと並んで飲酒と視聴者からのお悩み相談。ちょうど俺を主役にした『奇紀怪解』が製作中で、初めの方に一ノ瀬さんも出るから、ゲストとしては満の言うようにうってつけではあるが、視聴者全員がそのつながりを知っていることが前提になる。どちらかと言えば、回を重ねて俺と一ノ瀬さんのことを知ってもらったうえで朝凪さんに来てもらった方が、ゲストとしての効果は高い気がする。

 

「と思うんだが、どうだ? 帝斗、透華」

「成長したんだな、佐藤」

「いきなり助けを求めなくなったっスね。えらいえらい」

 

 どうせ悩んでいるだろうから、と事務所にきてくれた二人に意見を求めれば、子ども扱いされた。されて仕方がない今までだったとはいえ、少し気に入らなかった俺は不満を隠すようにコーヒーを口に運び、淹れたてだったばかりに舌を火傷する。

 

「なんだ、いつもの佐藤か」

「安心するっスね」

「うるさいな!」

「《火傷で心配より先に安心がくるのって、佐藤さんくらいだよね》」

 

 それは俺がコーヒーで火傷するのが珍しくもなんともないからだろう。熱いものは熱いうちに。そうでなければ食べ物や飲み物に温度が存在する意味がない。という理屈をこねれば、「でもそれで火傷するのはまた別の話だろ」と帝斗から反撃されるのはわかりきっているから、黙って受け入れることにしている。

 

「初回なら、佐藤と一ノ瀬さんのことを視聴者に知ってもらうのがいいんじゃねぇの? 佐藤目当てで見る人もいれば、一ノ瀬さん目当てで見る人もいる。公式番組だからって見に来る人もいるし、自己紹介的な意味があった方がいいと思うぜ」

「ゲストは二人の実力を引き出せるような人がいいっスよね。星菜ちゃんは誰が相手でもパフォーマンス変わらないでしょうけど、先輩は相手によってはダメっスし」

「二度と俺を”ダメ”の二文字で表現するな」

「《でも反論できる?》」

 

 無理だった。

 

 帝斗と透華の言っていることはわかる。つまり、俺がネックだ。一ノ瀬さんをレギュラーに選んだ理由の一つがそもそも誰にでも合うからであり、俺のダメなところをカバーしてくれるから。

 俺のキャラが浸透し始めれば、その形でもいいだろう。しかし、初回から俺のダメなところが目立てば、一ノ瀬さんに負担がかかっているように見えて、番組の面白さよりも失望が目立つ可能性がある。俺のダメな部分もキャラクターだと自負しているが、俺のキャラクターが浸透していない初回は、まともにパフォーマンスを発揮できる相手がゲストであることが望ましい。

 

「ってなると、月宮さんかアザミさんか……明さんもいいな。あの人、性格的にMC向いてるだろ。気遣い上手で全体が見えていて、今回持っていった企画もアイドルもの。バラエティに偏った事務所で新規顧客の獲得も期待できるし、『まぁこの事務所バラエティよりだしな』って諦めてた視聴者の需要も満たせる」

「先輩と星菜ちゃんにないものを教えるっていうなら、包容力とかでも片づけられるっスね。まとも路線で行くなら明さんがいいと思うっス」

「《そうだね。私、うっかり明さんの妹になりかけたし、ダントツで向いてるかも》」

 

 どうやら俺が満に悪影響を与えてしまっているらしい。俺もうっかり月宮さんにママになってもらうところだったり、一ノ瀬明さんの包容力にやられて赤ちゃんになりかけていたりするから、満の教育のためにも気を付けようと思う。

 

「あとは、バラエティ寄りにするなら茂樹さんとか?」

「まともな番組になる気がしないぞ」

「茂樹さんは星菜ちゃんが可哀そうだからナシっス」

「《紆余曲折あって私が研究材料にされそうだから、私も遠慮したい》」

 

 でも確かに、振り回す側として茂樹さん……というか一期生は優秀なんだよな。あの人たちがいれば大体かき回されて何かが起こる。バラエティという点においては重宝するべき存在だろうが、教育に悪すぎるから遠慮願いたい。

 ただ、感触的には俺との相性は結構いい気がする。やはり、まともじゃない相手だといつも通りの俺でいられるからな。あとは、一ノ瀬さんがまともじゃないのを相手にどこまでやれるかだ。

 

「あとは、ゲスト無しでもアリだろ。お互いのことを、お互いと視聴者に教える、みたいな感じで」

「初回っぽくていいっスね。でもそれをやるなら、先輩と満、星菜ちゃんのことを知っている人が授業するっていう方がよさそうじゃないっスか?」

「あー、まぁそれは言わないでくれみたいな絡みもできるしな。それだと教師役のゲストは明さんは固定だとして、佐藤側はどうする? 正直、佐藤を知ってるっつったって……」

 

 その場にいる四人(二人に満は見えていない)が同時にdicecodeの画面を見た。

 

 朝凪真理。パラレルワールドにてオフィス失楽園に所属し、この世界でも満が見えて、多分俺よりも俺のことを知っている人。

 

「……いや、俺と満のことを知っている説明がつかないか」

「俺と透華が教えた、っていう建前があればいいんじゃねぇか?」

「実際、話してみたかったし。直接会えないっスかね?」

「《いいかも! 佐藤さん、返信しよ?》」

「あぁ、そうだな。前に事務所へきていいと言ったことだし、いい機会ではあるか」

 

ミッドナイト・サイコナイト

近々、お時間ありますか?

頼みたいことがありまして

朝凪 真理

いくらでもつくる

 

「返信早いな」

「好かれてるっスね、先輩」

「まぁ悪い気はしないな。経緯を考えれば少し怖い気もするが」

「ふぅん」

「よし佐藤! 朝凪さんと予定決めたら、久しぶりにゲームしようぜ! 俺たち友だちだからな!」

「ん? おぉ、いいぞ。透華もやるか」

「友だちだからっスか?」

「《佐藤さん。私耐えられない》」

 

 なにがだ?

 

 

 

 

 

ニッコリ探偵団 視聴者支部 part7

 

215:このライバーがすごい! ID:egrKdapAL

アザミん「私の企画が採用された暁には、ニコと月宮優姫を部屋に監禁しようと思う」

 

216:このライバーがすごい! ID:yVUPWZmWJ

>>215

無敵かよ

 

217:このライバーがすごい! ID:OfjnHCNqt

>>215

多分その二人だと、姉弟みたいな感じで落ち着くぞ

 

218:このライバーがすごい! ID:NvjmRhl/J

それはそれでいいよな

 

219:このライバーがすごい! ID:+JLWhBwt5

アザミん「それかニコと一ノ瀬星菜……は未成年か。なら姉の方だな」

 

220:このライバーがすごい! ID:KIIlASl5N

アザミんはニコに恨みでもあるのか?

 

221:このライバーがすごい! ID:dbKdDigKY

面白くなるっていう信頼だろ

 

222:このライバーがすごい! ID:NCNkkYSno

実際、童貞丸出しで面白そうではある

 

223:このライバーがすごい! ID:cfhL16439

>>222

お前が童貞じゃなかったらそうやってバカにしてもいいけど、童貞じゃないのか?

 

224:このライバーがすごい! ID:8GE3Pggmv

>>223

やめなさい

童貞から見ても童貞丸出しは面白いんだから

 

225:このライバーがすごい! ID:cJcxcdCNO

でも、ニコは童貞だけど絶対手は出さない安心感あるよな

 

226:このライバーがすごい! ID:M8rGqXum5

童貞だからだろ

 

227:このライバーがすごい! ID:o1ZO5GBCX

理性のブレーキはめちゃくちゃききそうではある

 

228:このライバーがすごい! ID:wGTh6UDSh

常識と良識はまぁあるんだよな、ニコ

 

229:このライバーがすごい! ID:iAmrnnxvP

アザミんもニコが猿だったらあんなにからかってないって言ってたし

 

230:このライバーがすごい! ID:QdxSBgLSf

ニコに性欲はあるのか調査してくれ

 

231:このライバーがすごい! ID:TDUkQYr8/

>>230

あるだろうけど、満ちゃんと常に一緒だからないものとして扱ってる説

 

232:このライバーがすごい! ID:tmyqL2WDu

つまり、数年間発散していない……?

 

233:このライバーがすごい! ID:2AyCwy/Yy

ニコ、枯れてるのか……?

 

234:このライバーがすごい! ID:f65VBQM49

だからあんなマスコットっぽいのか

 

235:このライバーがすごい! ID:PQrle3zCx

優姫ちゃんも前に言ってたな

ニコがいい子なのは、満ちゃんと一緒にいるからっていうのもあるかもって

 

236:このライバーがすごい! ID:yWCUllpRE

それぞれの要素でみたらかなりまともなのに、なんでまともじゃないように見えるんだ?

 

237:このライバーがすごい! ID:QUSDU3UZT

ニコだし

 

238:このライバーがすごい! ID:lJXLkTnIU

ニコだし

 

239:このライバーがすごい! ID:7NsX2N9/g

プロエジェで生きていくには、一番いいバランス感覚してると思う

 

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