稼ぎの少ないオカルト事務所所長、VTuberになる   作:酉柄レイム

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第1話 配信バレ

「さて、急にどうしたんだ? 二人とも」

「当たり前のように話始めたところ悪いっスけど、何してんスか?」

 

 配信を終えて、しばらく。俺の家……いや、事務所に帝斗と透華がやってきた。いつもなら唯一親しいと言っていい女友だちと、大親友と言っていい帝斗の来訪は喜ぶべきだが、今は素直に喜べない。

 なぜなら、俺がVTuberになったことがバレたかもしれないからだ。気合いを入れて買った配信機材は、二人が入ってきたときに「あれはこの前解決した依頼の報酬なんだ」と完璧な誤魔化しを入れたから、まだ完全にはバレていないはず。ここから、どうにかして誤魔化さなければならない。

 

 勝手知ったるという風に、透華が買ってきたコーヒーの粉や食材を棚と冷蔵庫に入れ、帝斗が持ってきた茶菓子を適当に準備しながら、電気ケトルのスイッチを入れる。いやぁ、いつも悪いな。この二人がいなきゃ俺は今頃野垂れ死んでいる。

 

「何してんスか、とはどういう意味だ?」

「あの配信機材は?」

「さっき言っただろう? この前解決した依頼の報酬だと」

「あのなぁ佐藤。お前に依頼なんかあるわけないだろ?」

「ぐぅ!!」

 

 あまりにもストレートすぎてぐぅの音が出た。帝斗には人の心がないのか!? 俺であったからぐぅの音が出たものの、普通の人間が相手ならぐぅの音も出ないぞ!!

 

 クソ、満もうんうん頷いてるし。俺に依頼がないのがそんなに当たり前なのか? 当たり前か。だからVTuberになって金を稼ごうとしたんだからな。

 それもこれも、現代日本が悪い。科学の発展とともにオカルトが廃れ、信じられることがなくなっていってしまった。満がこうして存在しているように、科学が発展しようとオカルトは身近にあるというのに。まったく嘆かわしい。

 

「いや、その……」

「別に、VTuberになったことを怒ってるわけじゃないんスよ」

「え? そうなの?」

《え? そうなの?》

 

 長年一緒にいた影響か、満とまったく同じ反応をした俺に、透華と帝斗は揃ってため息を吐く。なんだ、お揃いか?

 

「聞くけど佐藤、鏡見たことある?」

「ナニィ!? 見るに堪えない醜いドロダボウとでも言いたいのか!!」

「や、先輩はカッコ良いっスけど」

「え、ほんと? えへへ」

《佐藤さん、キショイ》

「なにおう!?」

 

 俺のことをキショイなどとぶちかました満はひとまず寛大な心で許してやるとして、事務所の姿見で容姿を確認する。

 首のあたりまで伸びた黒い髪、右目を覆い隠すカッコいい眼帯。見えている左目は自信満々の釣り目で、ぱっちり二重の綺麗でカッコいい瞳。無理して買った高い黒のスーツが、俺のカッコよさをより際立たせている。

 

 あまりの完璧な容姿に満足していると、帝斗が俺の肩を叩いた。見れば、その手にはスマホ。その画面には『project:eden』の、俺の紹介ページ。

 

 姿見を見る。

 

「……!!」

「気づいたみたいだな」

「ほとんどまんまなのに、これでオッケーする事務所もどうかと思うっスけど……」

《しまった……! 面接の時はちゃんとしてって私が言ったから……!》

 

 そう、事務所に面接へ行った時は眼帯を外し、髪も整えていた。『ミッドナイト・サイコナイト』は無造作に髪を伸ばしている印象だから、まさか現実の俺とここまでそっくりだとは思わなかったんだろう。

 

「なんでこんなまんまにしちゃったんスか?」

《聞いて透華! えっと、私が悪いの! 佐藤さんをいつも通りな感じで面接に行かせていれば、こんなことにはならなかったの!》

「いや、それをよしとしたのは俺だ。だから俺が悪い。しかし透華、よく聞いてくれ。身バレを危惧しているのだろうが、むしろ今の俺は『ミッドナイト・サイコナイト』のコスプレだと思われるんじゃないか?」

「あー。まぁ元々佐藤のこと知ってるやつなんて全然いねぇしな」

「ぐぅ!!」

 

 またもストレートに殴られ、ぐぅの音が出た。隣で《佐藤さーん!!》と叫ぶ満の声をBGMに、「そんなはっきり言わなくてもいいじゃないか……」と言葉を漏らす。確かに友だちもいないし依頼もないし、社会的信用もないが、そんなに言わなくてもいいじゃないか。

 

「でも、ミッドナイト・サイコナイトのコスプレしたがる人なんているんスかね? 生き恥っスよ?」

「」

《佐藤さーん!!》

 

 透華の追いうちに、俺は死んだ。まぁ死ぬのも悪くない。真に満の隣にいられるようになるわけだからな。ハハハ。

 

「満。これからも俺たちは一緒だ……」

《それは嬉しいけど、まだ死んじゃだめだよ!!》

「すんません。言い過ぎたっス。ところで、なんでVTuberに?」

「ん? 金以外になる理由があるのか?」

「言いすぎじゃなかったかもな……」

 

 なにを言う。金がないと何もできない。いくら高尚な思想があろうと、何をするにも金がいる。証拠に、ここにある配信機材だって借金して買ったわけだしな。事務所に泣きついて「経費で! 経費でなんとかなりませんか!!」って縋り付いたものの、俺に社会的信用がないばかりに却下されてしまった。

 この世の中で最も必要なのは、金と社会的信用だ。

 

「ま、応援はするぜ。佐藤は外に出てなかっただけで、面白れぇやつだってことは知ってるからな」

「私も、身バレとかそのあたりを気を付けてくれるなら」

「おぉそうか! いい友人を持って鼻が高い! ついでに相談がある!」

 

 粉コーヒーを入れて、ソファに座ってゆっくりする体勢に入った二人に真剣な眼差しを向ける。

 

「同期コラボが待ち受けている……!!」

 

 同期コラボ。そう、同期コラボだ。

 

 俺が所属した事務所、『project:eden』は、VTuberの大手事務所だ。所属しているVTuberは30を優に超える。そして、『project:eden』のVTuberとして同時期にデビューした人が、俺の他に二人いる。

 月宮優姫さんと、アザミ・フレンジーさん。どちらも女性。友だちが少なく、もちろん女性と話した経験もほとんどない俺からすれば同期が女性だというのも軽い絶望なのに、初配信の後には『同期コラボ』というのが待っているのだ。

 

 『同期コラボ』。初配信の後に行われることが決定されており、そこでは『同期の通称』……俺たち三人のユニット名のようなものを決めたり、色々したりするものだ。戦略的に言えば箱推しをしてもらうためのものだとは思うが、俺には荷が重い。

 

「恥ずかしい話だが、俺は初対面の女性とうまく話せる自信がまったくない!」

「本当に恥ずかしいな」

「26歳っスよね?」

《社会経験まったくないもんね》

 

 俺の精神が脆弱であれば、今頃魂が抜けてしまっているくらいの言われようだ。しかし、俺は自分が情けない存在であることを自覚している。まだ俺が俺として羽ばたく舞台が整っていないだけで、現状の俺は取るに足らない存在だ。

 だからこそ、俺の数少ない友人である二人の力が必要なんだ!!

 

「頼む!! このままじゃ俺は、同期の女性相手に失礼を働き、炎上に炎上を重ね、『ミットモナイヨ・サイコナイト』というあだ名をつけられてしまう!!」

「んー、そういや透華との初対面はどんな感じだったんだ?」

「私ん時はちょっと普通とは違うっていうか、満きっかけだったんで」

 

 透華との初対面は、満のかつての友人を探して辿り着いた先が透華だった、というものだ。だから、今回の同期コラボのように、初対面の女性と話したことなんて人生で一度もない。26歳なのに。あれ、なんか涙が出てきたな……。

 

《うーん、でも別に、佐藤さんが情けないのは今に始まった話じゃないし、むしろ等身大を見せて行った方がウケよさそうな気がするから、そのままでいいと思うんだけどなぁ》

「俺が情けないだと!? どこがだ!!」

 

 帝斗に、昨日アザミさんに晒されたdicecodeのスクショを見せられた俺は、白旗を振った。

 

「くっ、もういい!! どうなっても知らんぞ!!」

「別になんでもいいっスけど、台所借りるっスよ」

「お、飯作んのか? 手伝うぜ」

「お願いします」

 

 話は終わったと、二人は立ち上がって台所へ向かう。稼ぎの少ない俺のために、食材を買ってご飯を作りに来てくれる二人は、俺にとって死ぬほどありがたい存在だ。

 

 ……。

 

「満、俺は情けないか?」

《だから言ったじゃん》

 

 そして俺は、袖を濡らした。

 

 

 

 

 

 昨日少し突き放すようなことを言ったものの、応援するっていうのは嘘じゃない。佐藤の同期の配信は観るようにしたし、佐藤含めてチャンネル登録もしておいた。

 

 月宮優姫。この子は、佐藤と相性がいいかもしれない。おっとりしていて一歩引いた感じの子なら、佐藤に引いてそのまま引き続けて終わり、っていうのが目に浮かぶけど、月宮さんみたいにキツめなら、佐藤を攻撃してくれそうだ。現に、dicecodeで初配信のことを怒ってくれていたみたいだし。

 アザミ・フレンジー。佐藤との相性は、今のところわからない。けど、悪くないんじゃないかと思ってる。面白いことが好きそうで、好奇心も旺盛。コメント欄で知らない単語を見つけたら、流れを無視してそれが何かを追及するくらいには。だから、佐藤なんていう面白い生物を見たら、放ってはおかないんじゃないかと思う。

 

 同期コラボは、月宮さんのチャンネルで行われるらしい。待機画面を眺めながら、『どうしよう!!』という内容の佐藤からのRINEを完全に無視していると、やがて配信が始まった。

 

『いやぁ!! すっかり年が明けましたねぇ!!』

『は? いつの話してんの?』

『地球の裏側に住んでいても暦は同じだぞ。もしや、違う惑星に住んでいるのか?』

 

 あ、うまくいきそうだ。

 

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