稼ぎの少ないオカルト事務所所長、VTuberになる   作:酉柄レイム

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第28話 相談

 配信画面には月宮さんとアザミさん。宵月weekと銘打って始まった一週間の同居。元々、アザミさんは月宮さんをなんとしてでも恥ずかしい目にあわせたり、可愛いところを見るのが大好きだったりしたからか、意外にもアザミさんの方が乗り気。月宮さんが帰ってくると玄関まで迎えにきてくれるらしい。

 

 なんていうほのぼの同居生活の裏で、なぜ俺はパラレルワールド電波女を事務所に招いているんだ?

 

「どうぞ」

「ありがとうございます」

 

 透華がお茶を入れて、朝凪さんの前に置く。笑顔だけどなんか怖い。いつも頼りになる帝斗は口を開き、虚空を見つめてアホのフリをしている。ということは、どうやら帝斗が現実逃避したくなるほどの状況ということらしい。なぜそうなのかはわからないが、俺も感覚でピリついているということはわかる。

 

「それで、教師役で呼んでくれるんだっけ」

「えぇ。概要は事前に伝えた通りです」

 

 今日朝凪さんに来てもらったのは、初回ゲストにきてくれないかという依頼と、それに伴うお願いごと。別に通話でもいいかと思ったが、前に事務所へ来ていいと言ったし、透華も会いたいと言っていたから、ちょうどいい機会だと事務所に来てもらったらこうなった。迂闊という言葉の意味を、今正しく理解した気がする。

 

「たけちーと満のことはめちゃ知ってるかんね。任せて」

「ぜひ。ただ、朝凪さんはパラレルワールドの俺たちのことは知っていますが、この世界の俺たちのことはあまり知らないでしょう? その辺りを、俺の友人である帝斗と透華から聞いていただこうと思いまして」

「ん、おっけー。西園寺さん、羽崎さんもすみません。お手数おかけします」

「いえ。先輩と満のことなら私がよく知っていますから」

「なぁ佐藤。キャッチボールでもしにいかねぇか?」

 

 お前、こういう雰囲気苦手すぎるだろ。俺も気まずすぎて咄嗟に目を逸らしちゃったけど。

 満も純粋が故か、もしかしたら俺と帝斗よりもピリついた空気を感じ取っているのか、俺の背中で震えている。透華にはちゃんと朝凪さんは怪しいけど悪い人じゃないと説明したんだが、普通警戒するよなぁ。パラレルワールド見えますって言って自分の先輩に近づいてきた人なんて、危険人物以外の何者でもない。

 

「ただ、その前に」

「なんですか?」

「パラレルワールドの私たちって、どんな関係だったんですか?」

 

 透華が朝凪さんの目を見て、小さく首を傾げながら聞く。なぜそんなことを? ただ単純に気になったのか? それとも……。

 思考の海に飛び込みかけた俺を、諦めに似た表情をした帝斗の視線が引き上げる。何? お前、パラレルワールドの説明の時、不自然に透華のこと誤魔化しただろって? いくらパラレルワールドの出来事とはいえ、こんな俺と結婚するなんて口が裂けても言えないだろう。俺が透華の立場でそんなことを聞いたら腰を抜かして腰がなくなるぞ。

 

「んーと……仲良しでしたよ。愚痴言ったり聞いたり、一緒に遊んだり。めちゃくちゃ友だちでした」

「うん、なら友だちになりませんか? きっと、朝凪さんもそっちの方がやりやすいでしょうし」

「えぇ……いいんですか? こんな女の言うこと信じて」

「疑ったっていいことありませんし、信じる方が楽しいじゃないですか」

「なるほど。この世界でもたけちーに毒されてると」

「他の世界でもそうなんだ」

 

 ふふ、と笑い合う透華と朝凪さん。和やかな雰囲気を感じ取った満の震えが止まり、俺の腹から顔を出す。いいけど、俺がカンガルーと思われたらどう責任取るんだ?

 

 透華と朝凪さんはそのまま二人で楽しくお喋りを始めた。さっきまで張り詰めた空気だったのに、今はふんわりとした和やかな空気になっている。何が原因でそうなったのかはわからないが、とりあえずよかった。俺の視聴者も、女性同士が仲良くしているところを見ることでのみ摂取できる栄養があるとわけのわからないことを言っていたが、今そのことが少しだけわかった気がする。

 

「なぁ、佐藤」

「どうした帝斗」

「奇紀怪解ってプレイしたか?」

「いや、まだだな。あれだけクオリティが高いなら、しっかり腰を据えてやりたい」

「そうか」

 

 朝凪さんをじっと見つめながら、何やら考え込む帝斗。なんだ、惚れたか? 確かに朝凪さんは可愛いし、パラレルワールドが観測できて、その影響で俺に激重感情を抱いているところに目を瞑れば好きになってもおかしくない。瞑れるわけないだろうが。

 

「そういえばさ、あれって先に内容確認しておかなくていいのか? 多分、並行世界であったことそのまんまで作られたら、ちょっとマズいことあんだろ。透華に伏せた内容とか」

「……確認だが、その伏せた内容が何かは気づいていないよな?」

「結婚とかだろ、どうせ」

 

 ドンピシャで当てられ、動揺して椅子から崩れ落ち、まだ間に合うと思って「なーんちゃって」と言ってみたものの、《なんちゃってなわけないでしょ》と満に論破されてしまった。俺も目の前で椅子から崩れ落ちた人間が「なーんちゃって」とか言ってきたら、なんちゃってなわけがないと思う。

 

 まぁ、帝斗にバレたところでどうというわけではない。帝斗なら透華にバラさないという信頼はある。こいつは多方面に気を遣えるかなりいいやつだ。だからこそ俺の友だちなんてものをやってくれている。

 

「流石に、結婚どうこうはゲーム中にないだろう。ライバーはそのあたりちゃんと気を遣うものなんだろう?」

「あ、そのことなんだけど、ゲームだからいいかなって思って、三人から嫁を選ぶ章作ってる途中」

「リメイク版天空の花嫁かよ。絶対やめてくれるか? それ」

「ちなみに相手は?」

「透華さんと私と明ちゃん」

「よかったですね先輩。星菜ちゃんいないから、まだ犯罪じゃなくて」

「よくない!! むしろリアルだろうが!!」

「ふふ、流石に冗談だって」

 

 冗談だとしても、朝凪さんがそういうこと言うと「あれ? パラレルワールドではそういうことがあったのかな?」って思っちゃうんだよ! 俺に限ってそれはないだろうけど。どの世界の俺であろうと、相手を選べるような立場にあるわけがない。透華だって、あまりにも俺が哀れだから拾ってくれたに違いない。

 

「そうだ。そういえばさ、せなちーと直接会うのは平気なの? 女子高生の華々しいオーラに焼き尽くされたりしない?」

「あぁ、それなら帝斗の提案で、毎日少しずつ個人でやり取りして慣れておくようにしています」

「へー。じゃあ企画の説明とかもしてるんだ」

「あぁ。俺は忘れていましたが、透華から言われてこの前その話をしました」

「いいね。優秀なマネージャーが二人いると」

 

 ほんとにな。連絡する前は企画の説明をしようとしていたのに、あまりにも緊張しすぎて会話するのに精いっぱいだったし。女性との会話で俺が変なヘマをしていないか透華に見てもらわなかったら、一ノ瀬さんが何も把握しないまま本番当日を迎えるところだった。

 

「よし、そんじゃあ優秀なマネージャーさんに、この世界のたけちーと満のこと教えてもらおっかな」

「うん。わかった」

「なら早速。意外にも、豆ごとのコーヒーの違いがわかる」

「へー。たけちーそういうのわかんないイメージだった」

「満が」

「イメージ合ってたわ」

 

 一発目でバカにされて拗ねかけた俺は、《で、でも飲めないよ! 死んでるからとかじゃなくて!》とフォローなのかフォローじゃないのかわからないが、とにかく必死な満がかわいくて拗ねるのをやめた。あとその死んでることをジョークにするのやめろ。鼻唄が異名の骸骨かお前は。

 

 

 

 

 

 寂しい。

 

 配信画面には月宮さんとアザミさん。仲良く隣り合って雑談中。最近は二人の配信を見てから配信を開始し、その感想を視聴者と言い合うのが日課になっている。そのことについて、二人から「嬉しいけどキモい」とのお言葉をいただいた。俺もそう思う。

 

 ただ、自分でやらせておいてなんだが、疎外感がある。いつも三人だったからか、こうも二人で何かをしているところを見せられると途端に寂しさが沸いてくる。本当に26歳男性なのか? 俺は。

 

「三人で配信したいなぁ」

《すればいいんじゃない?》

「二人で過ごす一週間なんだ。俺が入っていつも通りにしない方がいいだろう。特別感が薄れる」

《そういうものなの? 二人で過ごしてるところに佐藤さんが加わるなら、いつも通りじゃないんじゃない?》

 

 俺、雷に打たれる。そうか、確かにいつもとは違う。例えるなら、いつもは三人で誰かの家に集まって遊んでいたが、今は月宮さんとアザミさんが一緒に暮らしていて、俺がそこへ遊びに行くイメージ。そうすると見え方が変わってくる。

 まず、月宮さんとアザミさんの距離が近い。物理的にも精神的にもだ。そして一緒に暮らしているから生活感が出る。この時点で普段俺が関わっている二人とは違う二人。つまり、いつもと違うニッコリ探偵団を見せられるということだ。

 

「でもなぁ」

《なに?》

「自分から二人で生活しろと言っておいて、コラボしてくれっていうのは自分勝手すぎないか?」

《別に気にしないでしょ。むしろ寂しいからコラボしてーって言ったら喜ぶんじゃない?》

「い、言えるかそんな恥ずかしいこと!! 俺は26歳だぞ!?」

《寂しいとか遊びたいとか、そういう感情に年齢なんて関係ないと思うけど》

 

 ……それも、そうか。そうなのか? 前に26歳が寂しがるのはキツイって言われたような気もするが、時と場合によるってことか?

 いやでも、そういう話じゃない。配信という形で届ける以上、それが本当に視聴者にとって需要があるかどうか考えるべきだ。要は、今の二人と今のニッコリ探偵団、どちらの方が需要があるかという話。需要がないのに息巻いてコラボしても仕方がない。それなら、配信外で遊んだ方が全然いい。

 

「ま、まずはジャブで連絡するか……」

 

 配信終わりにdicecodeで連絡をとる。

 

ミッドナイト・サイコナイト

二人での生活はどうだ?

月宮 優姫

ちょうどよかった

あんた今度うちきなさいよ

アザミ・フレンジー

どうせなら、この機会にまたオフコラボでもと思ってな

 

《佐藤さん、にっこにこじゃん》

「お前もな」

《佐藤さんが嬉しそうだから》

「可愛すぎないか? お前」

 

 えへん、と胸を張る満が更に可愛かった。

 

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