稼ぎの少ないオカルト事務所所長、VTuberになる 作:酉柄レイム
「やっと時間ができたから、奇紀怪解をやる!」
「《やっと時間ができたっていうセリフ、ニコさんから一生聞くことないと思ってた》」
「俺も同じこと考えてた」
ニコの活躍ぶりを考えると全然言ってもいい
初配信見た時はこんなに活躍すると思ってなかった
ニコは今まで見つかってなかったってだけだろ
『EDEN’s School』の一か月分の収録を終え、やっと時間が確保できた俺は、ずっとやりたかった『奇紀怪解』をクリアするまで終わらない配信を開始した。罰ゲームで終わらない配信をよくやっていたからか、もう終わらない配信をするのが癖になってしまっている。配信ジャンキーのキルアか?
もはや懐かしさすら感じるタイトル画面を越えて、ゲームが始まる。主役が俺と満だからか、没頭できる自信しかない。前にやったときは星菜さんとお姉さんと一緒で、プレイ自体は星菜さんがやっていた。今回は俺がプレイするということも考えると、『青春ノート』の時のようにまた視聴者を置いてきぼりにしてしまうかもしれない。
「初めに断っておくが、ゲームの世界に入って帰ってこないかもしれない。そうなった時は許してくれ」
「《そうならないように努力するっていう選択肢は?》」
「そうならないように努力して、中途半端なプレイをしてしまうくらいならもう突き抜けた方がいいだろう?」
「《まぁ確かに?》」
リアルタイムで見る動画みたいな感じだし
無言でやるわけじゃなくて、べらべら喋りはするから問題なし
やはり俺の視聴者。よく訓練されている。
視聴者に断りを入れた俺は、コメント欄からゲーム画面へと視線を移す。見慣れた事務所を背景に、俺と満の立ち絵が映し出されていた。
ミッドナイト・サイコナイト
「……! 満、勘違いだったら言ってくれ。この眼帯の奥に隠された眼、とうとう力が宿ったと思うんだが」
満
「勘違い」
ここは『オフィス獄楽園』。閑古鳥が皆勤賞を獲得してしまうほど依頼がない、オカルト専門の事務所。
今日も今日とて閑古鳥が鳴いていて、所長であるミッドナイト・サイコナイトは妄言を吐き、自身に憑りついている幽霊少女の満に軽くあしらわれていた。
「再現度高いな」
「《あまりにも暇だったら、こういうやりとりするもんね》」
これを再現できるマリーって何者なんだ?
巫女さんだし、スピリチュアルはお手のものだろ
本当にスピリチュアルはお手のものなんだよな……。まさかパラレルワールドを観測できるとは思いもしないだろう。しかもそのパラレルワールドでは、朝凪さんはオフィス失楽園に所属している。そりゃあ俺と満の会話なんて苦も無く再現できるだろう。なにせ、ほぼ一日中喋っているからな。パラレルワールドの俺と満がどうかはわからないが、俺と満はどの世界でも変わらない自信がある。
先日、一ノ瀬姉妹の一件を解決したものの、カッコつけて報酬を受け取らなかったミッドナイト・サイコナイトは、今日も金欠だった。ほぼ毎日友人が助けにきてくれるものの、このままではだめだとわからないようなレベルの唐変木ではない。
ミッドナイト・サイコナイトは、ついに重い腰をあげ、依頼を取りに行こうと動き出した。
「さぁ行くぞ満! 動かなければ何も始まらない。餌を待つ魚のような人生を過ごすより、男らしく狩人としての人生を歩むのだ!」
「《男らしい……?》」
「俺の男らしさに疑問を持つようなら、俺に考えがある」
「《なに?》」
「まぁ……」
「《勢いだけで喋るのやめよ?》」
あまりにも自然なフェードイン
この系統のゲームの才能がありすぎる
すぐに合わせられる満ちゃん、相棒すぎだろ
事務所を出れば、東京の割には閑散とした路地に出る。依頼がこないのは立地も悪いというのも原因の一つ、いや、これだけが原因に違いない。立地の問題さえどうにかすれば、俺は今頃依頼がドカドカきているはずだ。
ただ、今現在依頼が全然きていないから、立地を移すだけの金がない。思い切って借金でもしてみるか? ただ目的もなく、ギャンブルで金が溶けたから借金をするというのはまったく意味はないが、将来のための借金なら悪くない。要は投資のようなものだ。借金した金を、金を生み出す何かに使い、そこで得た利益で借金を返す。これが正しい使い方だ。
じゃあなぜそれを今すぐしないのかと言われると、立地を移しても依頼がこなかったら立ち直れる自信がないからだ。
「あの姉妹のように、オカルト的な被害に遭っている人がいるのは間違いないんだ。そしてオカルトは正しく世間に浸透していない。何かが起きていても、それがオカルトかどうかも判断がつかない」
「《そういう人を探そうってこと? どうやって?》」
「満、運命というものを信じるか?」
「《そんなものがほいほいあったら、今頃依頼を探すようなことしてないでしょ》」
ゲームの中のニコはアグレッシブだな
現実のニコにも行動力があれば……
VTuberになる行動力はあるから、向き先が違うだけだろ
満はそう言うが、運命というものはほいほいあるものではない。そんな安っぽいものが運命であるはずがない。思いがけない時に運ばれてくるものを運命と呼ぶ。いつだってどこにだって運命と出会う可能性はあって、俺はそれを見つけにいっているだけだ。
そして、その運命が転がっていた。いや、飛び込んできた。
俺の進行方向、その路地裏から飛び出してきたのは、金髪碧眼のガタイのいい男。日本には珍しい、いや、現代ともなれば珍しくもないと言うべきか、西洋人のその男は、俺を見つけると一直線にこちらへ向かって走ってくる。
「なっ、なんだ!?」
「すまない、そこのクールな男! 何も聞かず隠れ蓑になってくれ!」
「《隠れ蓑って、え……?》」
男は俺の背に回って縮こまった。え、隠れ蓑ってそういう……? 建物の陰とかじゃないのか? というかなんで隠れるんだ? 隠れるにしてもなんで小さい子がかくれんぼしていて、「ちょっと隠れさせて!」みたいなテンションで俺の後ろに隠れるんだ?
突如襲ってきた疑問は、またも路地裏から飛び出してきた影によって解決した。
路地裏から飛び出してきたのは、黒いスーツに黒いサングラス。どう見ても怪しい集団だった。逃げ切れば賞金をもらえる番組に出てくる足の速い集団のような装いのそいつらは、何かを、いや、誰かを、いや……俺の後ろにいるこの男を探しているのだろう。きょろきょろと周囲を見渡している。気づけよ。
「ふっ、どうやらお前のクールなオーラが、クールな俺を覆い隠しているらしい。大したやつだ」
「いや、これどういう状況なんだ……?」
「事情は後で説明しよう。とりあえず今は、この状況を切り抜けることが先決だ。……しかし、運命というものは存在するんだな。まさかお前ほどクールなやつに出会えるとは。フフッ、ハーッハッハッハッハッハ!!!!」
「いたぞ!!」
「何!? なぜバレた!?」
「《高笑いするからでしょ》」
ゲームでもめちゃくちゃで草
現実でもゲームでもギャグ漫画みたいなキャラだな
アークすら表現できるマリー、才能えげつないな
男は本気でびっくりしていて、「ブラザーのクールなオーラに隠れた俺を見つけるとは、中々やるようだな」とクールに笑いながら俺の前に出る。勝手にブラザーにするな。
「《今のうちに逃げる?》」
「……そう、だな。どう考えても厄介ごとだ」
見た目的にはスーツの集団が悪役っぽいが、事情を知らない俺はどちらの味方もできない。妙なことに巻き込まれる前に逃げるのが吉だろう。運命は信じるが、必ずしも訪れた運命に応えなければいけないわけではない。
「後ろの男は仲間か?」
「当然だ。これほどクールな男、俺の仲間以外になんと表現する?」
「何言ってるんだお前!? 俺はお前の仲間になった覚えはないぞ!!」
「くっ、巻き込んですまない」
「なぜ悔しそうな顔ができる!? お前自ら巻き込んできただろうが!!」
「《反応しちゃだめ! すぐ逃げよ! 何も考えず!》」
いや、そうだ。あまりにも理不尽で反応してしまったが、相手にしない方がいい。このままだと本当に仲間だと思われそうだ。
「おい、俺は行くからな」
「安心しろ、ブラザー。すぐに片がつく」
「できれば片づけてからきてくれたら嬉しかった」
「次からはそうするさ」
「なにをべらべらと」
スーツの男たちが、懐に手を差し込んだ。あの動きは、銃!? 日本で!? とうとうそこまで治安が悪くなったか! 俺の仕事がないのもそのせいか!?
銃が飛び出てくるかと思った、その時。何やらオシャレな音楽が聞こえてきたかと思えば、遠くから何かが高速で走ってくるのが見えた。
それは、鳳凰。色は金色。雄々しく翼を広げた金色の鳳凰。ただし生物ではなく、貴金属や電飾で彩られ作り上げられた、ド派手な人工的鳳凰だった。
その鳳凰を背負っているのは、豪華絢爛な装飾が施された椅子。その椅子に座っているのは、腰まで届く金髪、青を基調とした、金の刺繍が入った騎士服を身に纏う男性。長い脚を組みながら、動力不明な鳳凰を携えて爆走してきている張本人。
「なっ、なんだあれは!?」
「避けるぞ! 轢かれる!」
スーツの集団は慌てて意味不明な物体の進行方向から逃げ出した。俺もそれに続こうと一歩踏み出した瞬間、男に腕を掴まれる。
「は?」
「どこに行くんだ、ブラザー。一緒に逃げるぞ!」
「俺は今逃げようとしたんだよ!」
「自分の力のみで逃げ切ってみせるということか。クールなやつだ」
「お前から逃げようとしていたんだ!」
「おしゃべりはそこまでよ! オシャレに舌を噛みたくなかったら、そのオシャレな口を閉じてなさい!」
満を見る。ものすごい勢いで首を横に振った。じゃあ誰の声かと探す前に、体がふわりと宙に浮く。浮遊感とともに感じたのは、何かに捕まれる感触。
気づけば俺は、鳳凰から伸びてきた筋肉質な腕に掴まれて、意味不明な物体とともに爆走していた。
「!!!!???」
「助かった、イベリス。クールなタイミングだ」
「オシャレと言ってちょうだい! さぁシゲキ、やっていいわよ!」
「やっとかよ!! さァシゲキ的にいくぜ!!」
鼓膜に響くシゲキ的な声。それは鳳凰の背から聞こえてきた。視線を向ければ、ピンクの髪に稲妻のように金のメッシュが入っている、ピンクの丸いサングラスに、ピアス、リング、ネックレス、これでもかとアクセサリーを付けた男がいた。
その男の手にはスマホに似た端末が握られており、目で追えない速度でそれを操作した瞬間、鳳凰が翼を広げる。そして、その羽が射出された。それらはスーツの集団目がけて突き進み、着弾。
直後、爆発。
「ヒュウー!! シゲキ的だぜ!!!」
「呆れたオシャレね。呆れオシャレ! オシャレが足りてないわ!」
「そう言うなイベリス。ひとまず切り抜けたんだ、クールに行こう」
「おい待て!! どうなっている!? ここは日本だよな!?」
「細けェことは気にすんな!!! シゲキ的に揉みけしゃやってねェのと一緒だ!!」
「クソッ、こっちが悪だったか……!!」
「悪? バカを言うな。俺たちは、オカルトに関することであれば、他の追随を許さないお前に用があってきたんだ」
「は?」
「《……ね、運命って信じる?》」
これからは信じないことにした。
第二怪 魂の牢獄
シェリアーク・ルイス。イベリス。茂樹シゲキ。
犯罪者集団かと思われたその三人は、『オフィス:オールジャック・トレーダー』という何でも屋。
その何でも屋から持ち掛けられたのは、『魂の牢獄からの解放』。
目的は不明だが、人々の魂を閉じ込め、抜け殻としている組織があるらしく……。
内容はちゃんと怖そう
内容が怖くても、登場人物がこれじゃあ……
ニッコリ探偵団 視聴者支部 part8
341:このライバーがすごい! ID:vDXCZxZvp
奇紀怪解をクリアするまで終わらない配信、開始
342:このライバーがすごい! ID:V/gqOYpF3
世界観どうなってるんだ?
343:このライバーがすごい! ID:3FNzDgOxw
一期生はどこに行ってもめちゃくちゃだってことがわかった
344:このライバーがすごい! ID:nYkBCejsc
この濃さをクリアするまで受け続けられるのか?
345:このライバーがすごい! ID:U3z/kyk88
ニコならできる
346:このライバーがすごい! ID:h8miKvLs3
ニコでも無理だろ
347:このライバーがすごい! ID:FWRGyg+P1
ニコがいけても、満ちゃんが心配
348:このライバーがすごい! ID:6nzEQ2OYr
安心しろ
ニコは奇紀怪解のために、5日間くらい予定を入れていないらしい
349:このライバーがすごい! ID:1aFvp4aCY
血糖値上がって倒れるくらい濃いぞ
350:このライバーがすごい! ID:Xe+Df5rqh
公式ホームページからDLしてクリアしたけど、多分無理だと思う
351:このライバーがすごい! ID:4wY7inuZk
>>350
ネタバレしない範囲でどんなもんか教えて
352:このライバーがすごい! ID: Xe+Df5rqh
>>351
本当に温度差がエグい
ギャグシナリオかと思いきや、突然ホラーに殴られることがよくある
353:このライバーがすごい! ID:TxyvkghSB
奇紀怪解を作ったマリーは正気じゃないんじゃないか……?
354:このライバーがすごい! ID:szAmvbdRm
何気にフルボイスだしな
355:このライバーがすごい! ID:wHUY0t91z
色んな意味で正気じゃない
356:このライバーがすごい! ID:gjEC782if
味濃すぎてぶっ倒れそうだから、優姫ちゃんとアザミんの配信でも見るか……
357:このライバーがすごい! ID:Yg9z7lQMB
正しく癒しすぎる