稼ぎの少ないオカルト事務所所長、VTuberになる   作:酉柄レイム

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第34話 デジャブ

 第三怪の感想。月宮さんは月宮さんだった。

 

「うん、やはり月宮さんは最高だな。好きだ」

「《どうにかしてお姉ちゃんになってくれないかな……》」

 

こっ、告白!?

ニコに限ってそれはない

拙者、ニコの「好き」に対し、軽くあしらう優姫ちゃんが大好き侍

女性Vに好きって言って荒れない男性V、ニコくらいだろ

 

 いや、ルイスさんとか茂樹さんとかはキャラ的に許されるというか、気にされなさそうな気もする。

 

 第三怪。いい夢を見ていたのはまさに事件の前兆で、夢を現実とし、一生夢の世界に閉じ込めようとする邪神の仕業だった。夢を怪しく思って調査し始めた俺たちは邪神に悪夢を見せられ、日に日に衰弱していくにも関わらず、一切弱音を吐かずに前だけを向いて歩き続ける月宮さんは控えめに言って最高だった。

 俺は満が憑りついているからまだ悪夢のようなオカルト的な攻撃に耐性はあるが、月宮さんは、俺のようにオカルト耐性がない。それなのに、それなのに……!

 

そういえば、アザミんと優姫ちゃんが同時視聴してるらしいぞ

最高だったぞ優姫ちゃん!

別で配信枠取ってるから、そこで言ってやれ

 

「ん、そうなのか。月宮さん。やはりあなたは気高く、カッコいい人だ。月宮さんがいなければ今頃俺は夢に囚われ、そのまま死んでいたことだろう。本当に助かった」

「《普通こういうのって、見られてることに恥ずかしがったりしない?》」

「? 恥ずかしいところなどなかっただろう?」

 

 ゲームに没入し、ゲームの世界から帰ってこないというのは見方によれば恥ずかしいことかもしれないが、俺は配信者だしな。そういうものをお届けする職業だ。であれば、何も恥ずかしいことはない。

 

 しかし、邪神を撃退するのに邪神の力を借りるとは思わなかった。俺という存在と月宮さんの生き様を気に入ってくれたみたいだが、月宮さんのことはともかく、俺のことは完全におもちゃとして見られているような気がした。俺は邪神にまで舐められるのか?

 ……よく考えれば、邪神には舐められてもいいのか。

 

 しかし、これもパラレルワールドで実際にあったこと、か。朝凪さんを助けた時は邪神を打倒したと言っていたが、その前にも遭遇はしていたのか。どうやら、パラレルワールドの俺は邪神と縁が深いらしい。羨ましいな。

 

「さて、流石に休憩するか。何時間くらい経った?」

「《んーと、4時間くらい?》」

 

結構経ってるな

映画二本見た気分

見る方も体力使うぞこれ

ニコと満ちゃんの体力の消耗エグそうだな

 

「楽しすぎて熱中してしまったな。ここまで見てくれてありがとう。1時間程度休憩を挟んで、また枠を再開する。また見に来てくれると嬉しい」

「《またね、みんな!》」

 

 挨拶もそこそこに枠を閉じ、背もたれに背中を預けて深く息を吐く。

 

 いやぁ、疲れた。基本的にはノベルゲーで、戦闘やアクションはダイスを振って処理をするシステムだから、そこまでゲーム自体に体力がいるわけではないが、俺のスタイル的に入り込みすぎて大分体力を持っていかれる。本当にゲームの世界へ吸い込まれてしまうような感覚に陥った。

 

「満、疲れていないか?」

《平気! 佐藤さんは?》

「疲れてはいるが、体調が悪くなるほどではないな。……しかし、第二怪も第三怪も、パラレルワールドで実際にあったことか」

《色々経験してるねぇ。もしかしてこの世界にもいるのかな? 邪神》

「かもしれんな」

 

 否定はできない。パラレルワールドの定義が不明だが、ゲームの登場人物が俺の周りに集まっている以上、まったく違う世界というわけではないのだろう。だとすれば、俺が出会っていないだけで、存在自体はしているのかもしれない。それこそ、日ごろ除霊をしている安倍さんならその辺り詳しそうだ。

 正直、邪神という存在には惹かれるものがあるが、ゲームで遭遇した感じを見ると、切り抜けられたのは運がよかっただけだろう。少し歯車が食い違えば、一瞬で命を奪われていた。それに、俺はオカルト耐性があるから運の要素に持ち込めるが、なければそもそも遭遇した時点で終わりのようなものだろう。そういう存在だ、アレは。

 

《うーん……》

「どうした? 満」

 

 邪神の存在について思考を巡らせる俺の隣で、満が腕を組んで唸っている。試しに頬をつついてみれば、ぷくっと膨らませて抵抗してきた。もし満が俺の姪だったら、小学校の入学祝いに家をプレゼントする自信がわいてくるくらい可愛いな。

 

《なんかさぁ》

「あぁ」

《本当に実際にあったことのような気がして》

「それくらい人物の再現度が高かったな。パラレルワールドを観測できるとはいえ、朝凪さん自身の人を見る力もすごいんだろう」

《じゃなくて。でじゃぶ? みたいな》

 

 要は、経験したことがある、既視感があるということか。まぁ、なくはない。パラレルワールドで実際にあったことだというのなら、精神的につながりがあってもおかしくはない。そうじゃなくても、実際に俺と満は声を出してセリフを読んでいる、もとい入り込んでいるんだ。そのリアルさがデジャブとなってもおかしな話じゃない。

 

《んん……入り込んでたってことなのかなぁ。なんか違う気がするんだけど》

「!! まさか、ゲームの世界、つまりパラレルワールドが俺たちの本当の世界で、この世界が仮初の世界なのか!?」

《何考えてるの? そんなわけないじゃん。現実見なよ》

「お前が先に言ってきたんだろうが!!」

 

 ぷんぷん! 怒ったぞ俺は! 26歳にしてはきつすぎる怒り方をするくらい怒った!  うそ、そんなに怒っていない。

 ただ、まぁ。俺の言ったこともない話ではない、とは思っている。仮初の世界とはいかないまでも、パラレルワールドに優先順位をつけるとするのであれば、この世界が下にくる、あるいは元の世界の派生くらいなんじゃないだろうか。実際のところ、世界のしっくり感でいえば、俺はゲームで体験した世界の方がしっくり来ている気はしている。

 

 かといってこの世界を否定するわけではない。俺はいつまでも空想の世界を夢見る痛い26歳だと自覚しているからな。邪神やオカルト能力満載のあの世界を羨むのは俺としておかしいことじゃない。

 

「おわっ」

《あれ、月宮さんからだ》

 

 そこまで考えて、まぁ世界がどうだとかスケールの大きい話は置いておいて、飯でも食うかと立ち上がろうとしていたその時、月宮さんから通話がかかってきた。いつもならDMで一言断りを入れるのに、珍しいこともあるものだと特に何も考えず応答する。

 

「月宮さん、どうしたんだ?」

『ニコ。えっと、その……』

「告白か?」

『は? キモ』

「《ニコさん、ないわ》」

「なんか緊張してそうだったから、和ませようとしただけだろ!」

 

 俺のちょっとした冗談は、短い罵倒に打ち砕かれた。かなり勇気出したんだぞ? 女性に「告白か?」なんてキャラじゃない。関係性が出来上がっていなければ、「こっ、ここここ、ここっ、こくっ、こくはっ、ははっ、こくっ、はくっ、でしょうかっ?」ってなるくらいにはハードル高いセリフだったんだぞ。ニワトリにならなかったことに感謝してほしいくらいだ。

 

『さっきの、見てたわよ。面白かった』

「ありがとう。月宮さんも」

『聞いてたわよ。ありがとね』

 

 そうか、配信を見てくれていたんだったな。改めて伝えようとしたが、二回目は流石にしつこいか。二回伝えたくなるくらいカッコよかったのに……。

 

「それで、わざわざそれを伝えるために?」

『いえ、その……あれって、本当にあった出来事だったりする? 私が後遺症かなにかで忘れてるだけ、みたいな』

 

 ……満や俺が、あの世界にデジャブを感じるのはまだわかる。パラレルワールドの存在を知っていて、あれが別世界で実際にあったことだということを知っていて、なおかつ実際にゲームをプレイして、声を出してセリフを吐いている。嫌でも没入するし、実際の出来事だと思っても何も違和感はない。

 

 ただ、月宮さんは違う。フルボイス化に伴って、実際にセリフは吹き込んだだろうが、ゲームをプレイしていたわけでもなく、パラレルワールドの存在も知らない。そんな月宮さんがデジャブを感じるのは、俺と満が感じるのと訳が違う。

 

「俺にも覚えがない。そんなに熱中してくれたのか?」

『確かに面白かったし、自分が声当ててるから熱中はしたわね。でも、そっか……』

 

 月宮さんが沈黙する。『なかった』と言っても、すんなり納得できないくらいには引っかかっているらしい。

 ……え、これもしかして本当にありえるのか? ここが仮初の世界? いや、別世界の記憶が混ざっているということもありえるのか? なにせ、パラレルワールドを観測できる朝凪さんが作ったゲームだ。実際にあったことをベースに作っているのなら、何かしらのオカルト的な力が働いてそういうこともありえるかもしれない。

 

『……いえ、変なこと言ったわね。ごめんなさい』

「いや、そうなってしまうくらいリアルだし、人物像もしっかりとらえているゲームだったからな。朝凪さんが見事というほかないだろう」

『そうね。あ、あと一つ聞いてもいい?』

「なんだ?」

『あんた、透華さんって人と結婚してたりする?』

 

 ……ややこしいことになってきたな。

 

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