稼ぎの少ないオカルト事務所所長、VTuberになる   作:酉柄レイム

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第35話 奇紀怪解 第四怪

 まず、月宮さんは透華のことは知らないはずだ。それどころか、結婚しているのはパラレルワールドの話で、この世界の話じゃない。

 なのに、月宮さんは俺と透華が結婚しているかのように話してきた。それがなければ、ゲームの完成度が高すぎてデジャブがあった、と片付けられるのだが、そういうわけにもいかなくなった。

 

 とはいえ、朝凪さんが話さなかったパラレルワールドのことをほいほい人に話していいのか、という心配もある。そこで俺は、『アザミさんが出る怪までやってみる』ことを提案した。

 今のところデジャブを感じているのは、満と月宮さん。そして、恐らく俺。デジャブをはっきりと感じているわけではないが、満が感じているのなら同じ状態ではあるはずだ。俺と満は一心同体だからな。

 

 同時に、朝凪さんにもDMを送っておいた。『満と月宮さんが奇紀怪解の出来事にデジャブを感じたと言っているんだが、心当たりはあるか?』と送っておく。パラレルワールドを観測できるのなら、パラレルワールドに関する事象を知っていてもおかしくない。別世界での出来事の記憶が混ざる、ということがあり得るならそれでいい。その程度で済めばいい。

 

 色々心配事はあるが、

 

「さぁ待たせたな! 十分休めただろう? 早速奇紀怪解の続きをやっていくぞ!」

「《いぇーい!!》」

 

 テンションを下げてはいけない。俺は配信者であり、”面白い”を届ける仕事。心配事があるからと言ってテンションを狂わせ、視聴者にも余計な心配を与えてしまうのはダメだ。

 

ちょっとテンションおかしくね?

無理やり上げてる?

やっぱり疲れ溜まってるのか

無理しないでね

 

 ……察しいいな!!

 

 

 

 

 

「満。俺は邪神を打倒した。そうだな?」

「《うん》」

「そして事件を未然に防いだ英雄だ。そうだな?」

「《うん。みんなには知られてないけど》」

「ならなぜ依頼がこないんだ!?」

「《みんなには知られてないからじゃない?》」

 

 満が冷たい。

 

 月宮さんと解決した夢の事件。邪神だなんだと意味の分からない存在が関わっていたそれを解決した英雄である俺。依頼がドカドカくると思っていたら、いつも通り鳴いている閑古鳥。もうそろそろ評価されていいくらいの働きはしてると思うんだ、俺。

 

「《星菜ちゃん、学校でこの事務所の宣伝したら、怪しい宗教にはまってるって勘違いされたらしいよ》」

「……まぁ、オカルト事務所に縋るような学生がいないと考えれば、いいことではあるだろう」

 

邪神が関わるような事件に巻き込まれていいわけないしな

ニコを知らないでオカルト専門事務所の話聞いたら、騙されてるとは思うな

しかも星菜ちゃん純粋そうだし

星菜ちゃんが騙されてるって、何かいいよな

邪悪

 

 んん……一応連絡先は教えてもらっているから、事務所の名を出さないよう釘をさしておくべきだろうか。俺としては宣伝してくれるのはありがたいが、それで一ノ瀬さんが変な目で見られるのはいただけない。というか本当に騙してると思われて、変な意味で事務所が有名になってしまうのは避けたい。

 俺は客観視ができる人間だ。宗教だなんだと噂になっている事務所から、眼帯をつけた細身の男が出てきたらもう完全にそうだと思われてしまう。

 

「一ノ瀬さんに連絡しておくか」

「《だね。星菜ちゃんが変な子って思われるの嫌だし》」

 

ニコが連絡!?

嘘だろ!?

初めて再現度が低い要素出たな

 

 電話は……友だちと一緒にいるとしたら、あまりよくないな。SMSにしよう。スマホを取り出して、電源をつけて、画面に表示されている『見つけた』という文字を見て、冷や汗をダラダラ流す。

 

「《わ、なにそれ。ロック画面の趣味悪くない?》」

「……満がやったわけじゃないのか」

「《え?》」

 

 そうだよな。これ、ロック画面じゃないし。いくらフリックしても画面が動かない。『見つけた』という文字がずっと表示されているだけの画面。

 

 どっちだ? 邪神とやらの類か、人間のいたずらか。後者であってほしい。邪神とはもう会いたくない。こんな短い期間で邪神と連続で会ってたまるか。俺はただの依頼のないオカルト事務所所長だぞ?

 

 心の中で文句を言いながらスマホを眺めていると、『見つけた』という文字が消えていく。残されたのは、点滅している縦線。文字を入力する位置が分かりやすいように表示されるそれ。

 誰かが俺のスマホを勝手に奪い取って、何かを伝えようとしている? それなら、応えないわけにはいかない。俺に助けを求めているかもしれないんだ。無視していいものではない。

 

「えぇと、何々? 『お前の体質は、不浄の存在を引き寄せる。よって、排除した方が世のためだと判断した』……」

「《ねーねー。なんか、窓の外にドローンみたいなのが浮いてるけど、何?》」

 

 満に画面を見せる。俺と目が合った。二人で窓の外を見る。

 

 ドローンから銃口を向けられていた。

 

状況はマズいけど草

動き可愛い

なるほど、多分ギャグ回だ

 

 考える前に走り出し、事務所のドアを蹴破って外に出る。そのままバイクに跨って、法定速度を無視して爆走。振り向かなくてもドローンが追ってきていることが音でわかる。銃声も聞こえる。ふざけるなよ、本当にふざけるなよ!?

 

「なんでこんなことになった!?」

「《不浄の存在ってなに!? 汚いのが集まるってこと!?》」

「知らん! だが推測するに、前に会った邪神の類だろう! 妙に気に入られたとは思ったが、やはり悪いことなのか!?」

「《悪いことじゃなかったらいきなり殺されるようなことされないと思う!》」

「だとしてもどう悪いのか説明されないと納得できないぞ! いや、納得したからといって死にたくはない!」

『説明しよう』

 

 声が聞こえた。落ち着いた女性の声。発生源はスマホから。どうなってるんだ俺のスマホ。いつの間に制御を奪われたんだ? 満がいるからエッチなサイトは見ないし、違法なリンクも踏んでいない。変な使い方なんてしていないはずなのになんで奪われるんだ! 普通こういうのって「あなたのスマホからデータが抜かれそうになっています!」みたいな真っ赤な警告みたいなのが出て、そこに個人情報を入力してしまったが故に起こるものなんじゃないのか!?

 

『不浄の存在。それの認識はお前のものでほぼ間違っていない。主なものは邪神の類だな。普通に過ごしていれば関わるはずのないそれが、お前が存在することによってもはや日常レベルで存在することになりかねない』

「それはなぜだ!」

『体質だよ。光に虫が集まるように、お前に邪神が集まる。好ましいんだ、邪神にとってのお前は。器としても、おもちゃとしても、観測対象としても』

「納得はできんが、そういうことだと理解はした! だからといってはい死んでくれってどういうことだ!」

『夏の夜、わざわざドアを開けて虫を招き入れるような真似はしないだろう? そういうことだ』

 

 なるほどな! 意味が分からん! 邪神を引き寄せる体質は元厨二病として心躍らなくもない……いや、踊らない! ふざけるな! それはつまり、邪神にも狙われて、それを危惧した人間にも狙われるということじゃないか! こんな形で人気になりたいわけじゃないんだよ!

 クソ、どうする。このまま街中に行ったら人を巻き込んでしまう。かといってこのまま郊外を走り回ったとしても、どのみちいつか人を巻き込んでしまう。今すべきことは、あのドローンを破壊して、今話しかけてきている女の居場所を突き止めて、なんとかしてやめてもらうことだ。

 

「おい! 誰だか知らんが、俺を敵に回したことを後悔させてやる! 俺はミッドナイト・サイコナイト、深夜の狂騎士! ドローン一つに追われたところでやられる俺ではない!」

「《増えた! 増えたよニコさん!》」

「あの数は無理だ」

『ふふっ』

 

 何笑ってるんだお前!!

 

 背後の音が増える。そして、正面にも複数のドローンが現れた。なんだよ、最近までオカルトの相手してたのに、いきなりこんなメカメカしくなりやがって! オカルト満載だったから科学で帳尻合わせようということか!? いいんだよそんな気遣い! 俺はオカルト以外には無力なんだ!

 

「誰か助けてくれー!!」

 

 情けなくも叫んだその瞬間、俺を取り囲んでいたドローンが一斉に爆発する。その爆発を引き起こしたのは、俺のバイクだった。いきなりヘッドライトが開いたかと思えば、そこから複数の小型ミサイルが発射され、ドローンを撃墜。派手な爆発音を響かせて、俺の安全が確保される。

 

 そして俺のスマホから聞こえてきたのは、シゲキ的な声だった。

 

『そーろそろ目ェつける頃だっと思ったぜ!! 久しぶりだなァ、アザミ・フレンジー!!!!! シゲキ的な存在を嫌うのは変わらねェなァ、面白くねェ!!!! 俺の理解の外にあるものを排除するなんざ、俺がおとなしくしてるわけねェだろ!!!!!』

『シゲキ……邪魔をしてくるとは思ったが、早かったな』

「ちょっ、ちょっと待てお前ら! なぜ俺のスマホを仲良くシェアしているんだ! 俺のプライバシーはどうなっている!?」

「《命狙われてるんだし、プライバシーなんて今更じゃない?》」

「確かにな! チクショウ!!」

 

もしかしてとは思ってたけど、やっぱりアザミんか

ゲームの世界で同期に命を狙われる男

シゲキとアザミんは知り合いか?

というかどうなってるんだあのバイク

 

 このバイク、ミサイルを搭載した覚えはないから、勝手に改造しやがったな!? それで命が助かっているからあまり文句は言えないが、普通こういうのは持ち主に一言断りを……! まぁ、シゲキだし仕方がない。シゲキに常識を求めるのは酷な話だ。

 

「シゲキ! お前が助けてくれたということは、ルイスもイベリスも助けてくれるということか!」

『こねェよ!! 俺はタイマン張ってアザミをわからせてやらねぇといけねェからなァ!!!! 生温い敗北じゃねェ、俺がいる限り、俺の意に反することをすりゃあどうなるか、シゲキ的に教え込んでやる!!!!!』

『ミッドナイト・サイコナイト。シゲキのセリフを聞いて、正義がどちらにあるか判断してほしい』

「セリフだけ聞くとシゲキが悪だが、俺の命を守ってくれていることは事実! ここはわかりやすく、勝者こそが正義というのはどうだ!」

『正義だ悪だ、下らねェカテゴライズしてんじゃねェよ!! この世は、シゲキ的か、そうじゃねェかだ!!!!!!』

「《ニコさん、頭痛くなってきた……》」

 

 俺も。

 

第四怪 シゲキ的で狂乱的な一日

 

ミッドナイト・サイコナイトは、アザミ・フレンジーに命を狙われた。

そこに現れたのはシゲキ的な男、茂樹シゲキ。二人には因縁があるらしい。

不浄の存在を引き寄せる体質。それを危惧するアザミ。逆にそれをよしとするシゲキ。

人間性で言えばシゲキが悪だと判断したミッドナイト・サイコナイトは、死にたくないという理由でシゲキとともにアザミ・フレンジーを打倒しようと動き出す。

 

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