稼ぎの少ないオカルト事務所所長、VTuberになる 作:酉柄レイム
『一つ断っておくが、私は私の行動に納得しているわけではなく、あくまでゲームの世界観を守るために声をあてただけであって』
「わかってるわかってる。大丈夫だ」
『アザミ、ずっとこんな調子でうるさかったのよ。わかる? 私の苦労』
「《月宮さんお疲れ様》」
第四怪クリア後に配信を終わらせ、アザミさんがデジャブを感じたかどうかを確認するために通話を繋いだ瞬間に、やらなくてもいい言い訳が飛んできた。どうやら、奇紀怪解の自分が俺を殺そうとしていたことに対する言い訳らしい。別にゲームの世界だからいい、と言いたいが、あれは実際にあったことだから簡単にそう言えないのが苦しいところだ。
ただ、この世界のアザミさんからするとやらないだろうということでも、別世界のアザミさんからすると当然のことだった。不浄の存在……所謂邪神を毛嫌い、危険視する気持ちも理由も理解できた。というか、それに触れすぎてアザミさんの精神がかなり衰弱していて、発狂状態だったのが見ていられなかった。本当にしんどかった。
『不浄の存在を寄せ付けないようにニコを殺す? 違うだろう。むしろ、その体質を生かし、邪神の研究を進めるべきだ。ニコを殺して邪神を遠ざけるのは根本的な解決になっていない。どうやらゲームの中の私は知能が足りないようだ。科学は現実よりも発展しているようだが、私の知能は衰えているらしいな。まぁ、精神状態に関しては実際に経験してみないとなんとも言えないが……。だが、最終的にはニコの近く、事務所に所属し、邪神の研究を進めるという同様の結論に至ったのは流石私と言うべきか』
『長い長い。ちょっと落ち着きなさいよ。そんなに文句あるなら、声あてる時に言えばよかったじゃない』
『シゲキと同じ日に収録したから、一刻も早く帰りたかった』
茂樹さんとアザミさんは、別世界でもこの世界でも仲が悪いらしい。二人は元々同じ研究チームに所属していたらしく、そのチームが結成されてから解散するまで、ずっと喧嘩をしていたらしい。
恐らく、この世界でも同じようなことがあったんだろう。思想の違いは人間であれば仕方がないことだが、頭脳のレベルを考えれば、二人が組まないというのはもったいない気もする。
『それで、聞きたいことと言うのは?』
『えぇ、それが……アザミ。あのゲームであったこと、デジャブみたいなもの感じなかった?』
『いや、特になかったな。それを聞くということは、月宮優姫は感じたということか』
『私だけじゃなくて、満ちゃんも』
「あとは恐らく俺もだな。はっきりと感じているわけではないが、違和感はある」
『……そうか』
満とアイコンタクト。アザミさん、寂しがってると思うか? 思う。
しかし、アザミさんは感じなかったのか。これで今のところは俺と満と月宮さんだけ。それなら気のせいということで片づけられなくもないが、月宮さんが透華のことを知っていて、なおかつ別世界でしか起きていないこと、俺と結婚していることを知っていたことはどうしても気のせいでは片づけられない。
『……あの完成度なら、デジャブがあってもおかしくはない。ただ、それをわざわざ聞いてくるということは、単なるデジャブでは片づけられない何かがあるということだな?』
『私は気になってるというか、存在しないはずの記憶が湧き出てきたっていうか……』
『存在しないはずの記憶?』
『えぇ。ニコが、透華さんっていう人と結婚してるっていうのとか。ニコは今結婚してないけど、なぜかね』
《佐藤さん、どうする?》
満が俺の本名で聞いてきたということは、パラレルワールドのことを話すかどうか、ということを聞いてきているんだろう。
もう無視できないところまできているというのは理解している。俺の個人情報がどこかから漏れているという線もない。月宮さんの性格的に、もしも漏れた情報を耳にしたのなら、そうやって伝えるはずだ。
……悩むまでも、ないか。朝凪さんには申し訳ないが。
「それについて、なんだが……朝凪さん、いるだろう?」
『……あぁ、オカルトの話?』
「そうだ。朝凪さんは、パラレルワールドを観測できるらしい。あのゲームは、そのパラレルワールドで実際に起きたことをほぼそのまま再現している。ちなみに、少なくともこの世界で、ゲーム作成時点では朝凪さんは俺の事務所にきたことはないが、事務所が完全に再現されていた。そして満もだ」
『なるほど。それで、その別世界では透華という者とニコは結婚していると?』
「あぁ」
『……完っ全にオカルトね』
アザミさんはデジャブがなかったようだから伝える必要はなかったが、同じニッコリ探偵団。共有しないというのはあり得ない。それに、アザミさんは俺より賢い。俺にも思いつかないような知恵をくれるかもしれない。人に頼ることに関しては、俺は誰よりもうまいと思っている。
というか、そうなるとは思っていたがすんなり信じてくれたな。月宮さんとアザミさんは、普通なら信じないだろうということも普通に信じてくれる。きっと、俺を信頼してくれているんだろう。そう考えると嬉しくなってしまうが、嬉しくなっている場合ではない。
『月宮優姫が知らないはずの、別世界の情報を知っていた。ないとは思うが、朝凪真理から聞いていたというわけではないんだな?』
『聞いてない。ニコが奇紀怪解をやってるところを見てたら、いきなり記憶が生まれたというか、流れてきたというか……知識としてじゃなくて、エピソードとして』
『奇紀怪解をプレイしたことは?』
『ない。ニコがやるって言ってたし、見るのを楽しみにしたかったから』
「え、嬉しい」
「《ニコさん。そんな場合じゃない》」
「ごめん」
謝罪すると、月宮さんとアザミさんが小さく笑った。これで笑ってくれる人たちでよかった。
いやでも、普通に嬉しいだろう。俺の配信を楽しみにしてくれていたんだぞ? そりゃあ視聴者も楽しみにしてくれているとは思っているが、知っている人、それも仲のいい同期である月宮さんが楽しみにしてくれているなんて、言ってくれればもっと気合いを入れたのに。
『ないのなら、そうだな……あのゲームの世界、別世界でこの先ニコに起こる出来事を言ってみてくれ。ニコ、ネタバレは嫌いだろうが、この際我慢してくれ』
「あぁ、わかった」
『じゃあ……んー、とはいっても、私はニコの事務所に所属してたわけじゃないから、全部は知らないわよ?』
『なら、ニコの事務所に所属することになる人物はいるか?』
『それなら二人。安倍聖麗さんと、朝凪真理さんの二人。順番も今言った順番』
「《合ってる……》」
「満?」
満が目を見開いて、口元を手で押さえている。合ってるというのは、まさか満にも別世界の記憶があって、それと合致しているということか?
……かくいう俺も、違和感はまったくない。というか、そうだろうなと思っていた。朝凪さんは元々所属していたと聞いていたが、他に所属しているとすれば安倍さんだと。元々、オカルト適正で言えばあの二人以外ありえないんだ。
一つ気になるというか申し訳ないのは、満がものすごく嫌そうな顔をしていることだろうか。
「《えっと、私も記憶があって。安倍さんはハロウィンの日にニコさんが百鬼夜行に襲われてた時助けてくれて、真理さんは邪神に囚われてたところをニコさんが偶然助けて、みたいな》」
『あー、聞いたことある。言っちゃ悪いけど、朝凪さん絶対ニコのこと好きよね』
『そうなのか? ニコ。ぜひ詳しく聞かせてくれ』
「絶対前のめりになっているだろう今! ノーコメントだ!」
『ぶー』
「何……? 可愛いな」
『キモいわよ』
思っても言うな。仕方がないだろう。俺は女性経験がなさすぎてあざといのに弱いんだ。
というか、俺、ハロウィンみたいな浮かれたイベントの日でさえ襲われるのか……。しかも百鬼夜行に。あの世界の俺、本当にそういう存在に好かれているんだな。アザミさんが俺を排除しようとしたのも納得できる。だって嫌だろう。ハロウィンの度に百鬼夜行連れてくるやつ。絶対親玉じゃないか。
それに、更に納得した。朝凪さんから初めて俺が邪神を倒したと聞いた時は、正直どうやって倒すのか想像もつかなかったが、この世界よりも遥かに発展した科学力を持つアザミさんと、自称最強(多分本当)の陰陽師が味方だったのなら、なんとか倒せそうな気もする。
『冗談はこのくらいにしておいて……二人の記憶は一致しているとみていい。それなら、偶然と片付けるには無理があるな。ニコ、朝凪真理に連絡は?』
「とっている。が、返信がこな……」
「《わ……》」
『ニコ?』
ミッドナイト・サイコナイト
満と月宮さんが奇紀怪解の出来事にデジャブを感じたと言っているんだが、心当たりはあるか?
朝凪真理
ないけど、それよりさ
終わらない配信、やるとき呼んでくれるって言ったよね
し、知らないみたいだが、マズい。最近忙しすぎて忘れていた。確かに、逆凸をしたときにそんな約束をした覚えがある。それなのに俺はそれを忘れていて、朝凪さんはそれでも何も言わなかったのに、俺がデジャブだなんだと朝凪さんからすれば訳の分からないことを聞いてしまったということか? そりゃ怒るだろ。
「と、とりあえず知らないみたいだ」
『そうか。ところでどうした、ニコ。声が震えているぞ』
『ちょっと、何かあったの? 大丈夫?』
「……そうだな、俺たちの間に隠し事はなしだ」
本気で心配してくれているのが伝わった。さっきも考えていたことだが、俺は人に頼ることに関しては誰よりもうまい自信がある。
「二人とも。女性との約束を破ってしまって相手が怒ってしまった時、どうすればいいと思う?」
『約束を破ったことに事情があったのだとしても、破ったことは事実だ。まずは謝罪が道理だな』
『あー、そういえば逆凸の時、終わらない配信するときは朝凪さんを呼ぶって約束してたわね。普通にあんたが悪い』
「よし、謝ろう」
「《私も……》」
ついでに、パラレルワールドについて詳しく教えてもらおう。『通話できるか?』と送れば、『ちょっと待ってて』と返ってきた。その、準備をほのめかすのやめてくれないか。嫌でも意識するだろうが。
ニッコリ探偵団 視聴者支部 part8
683:このライバーがすごい! ID:qB0/g99eX
【悲報】奇紀怪解、キツイ
684:このライバーがすごい! ID:TBsFSKCAa
ただのギャグシナリオじゃなかったのか!?
685:このライバーがすごい! ID:K2xcjvKCZ
VTuberがキャラとして出るゲーム、感情移入しやすすぎて困る
686:このライバーがすごい! ID:WfrNmXWk7
ゲーム世界アザミんまとめ
・不浄の存在に、お遊びで人智を超えた科学力を脳に植え付けられる
・それに耐えることができてしまい、ほとんど理性が壊されながらも、不浄の存在を打倒するための計画『project:eden』を立ち上げる
・『project:eden』には、同じく人智を越えた科学力を植え付けられたシゲキもいたが、『不浄の存在を研究対象として好む』シゲキと、『不浄の存在を滅ぼすべき』と考えるアザミんが激突し、シゲキが離脱
・そんな中、もちろん不浄の存在に観測されていて、研究の途中で自身以外のメンバーが殺され、自身も殺されそうになるも、突然現れたシゲキが不浄の存在を虐殺
・死への恐怖と、不浄の存在との遭遇、研究者としての挫折で発狂状態になる
・そうして、不浄の存在を引き寄せるニコの存在を知り、すべての原因がニコだと決めつけて殺害を決める
687:このライバーがすごい! ID:jyKqHpiLm
>>686
これ、えげつないのが
・不浄の存在のおもちゃにされる
・打倒するための計画がそもそも知られていて、無駄だった
・途中で抜けた自身と対立していたシゲキが、自分が手も足も出なかった相手を簡単に倒した
・理性的で合理的な考え方ができていた自分が、ニコを殺害するという短絡的な思考しかできなくなってしまった
っていう尊厳破壊コンボ
688:このライバーがすごい! ID:zjCrTYlqc
同僚をゲームの世界とはいえこんな目に遭わせるマリー、エグい
689:このライバーがすごい! ID:Okx4TJ7Fp
声当ててるから一応同意のもとなんだろうけどな
690:このライバーがすごい! ID:40ijCG2MI
世界観的にあるだろうなとは思うけど、いやぁ、エグイ
691:このライバーがすごい! ID:11XLfqL/9
一番エグイのはシゲキだろ
一作品に一人はいるチートキャラ
692:このライバーがすごい! ID:anac0uNyf
シゲキ、不浄の存在説
693:このライバーがすごい! ID:KlY4MyQ/I
>>687
ごめん、配信見れてなかったから誰か教えてほしいんだけど、これってどっちにしろまだ観測されてるんじゃないの?
694:このライバーがすごい! ID:NwxLdGg7K
>>693
不浄の存在って書いてるけど、カテゴリーってだけで実際には色々な不浄の存在がいる
今回アザミんをひどい目に遭わせたゴミは、シゲキが一匹残らず駆逐した
695:このライバーがすごい! ID:FLWXFq87S
>>693
犬っていう生き物に色んな犬種がいるみたいな感じ
696:このライバーがすごい! ID:ZP8PKx/Nd
>>695
危機感なくなる例えやめろ
697:このライバーがすごい! ID:XhEAovqoK
なお、製作者マリー
ニコちー、終わらない配信に呼んでくれるって言ってたのに
698:このライバーがすごい! ID:smdt6AX6G
>>697
あっ……
699:このライバーがすごい! ID:bkDA8XCup
>>697
やらかしたな、ニコ
700:このライバーがすごい! ID:F7leEUypn
あんなに可愛い子との約束を破るなんて
701:このライバーがすごい! ID:Fm6XyqGVG
失業した
702:このライバーがすごい! ID:4m32teyEM
>>701
失望しろ
ニコじゃないんだから
703:このライバーがすごい! ID:NmGjLhKZC
>>702
ニコは仕事あるだろ! ないけど!
704:このライバーがすごい! ID:uf76claop
今日は疲れたのか早めに終わったけど、明日からの奇紀怪解も楽しみ
705:このライバーがすごい! ID:Bmruyn7hT
ギャグ回と思わせてギャグ回じゃなかったから、今度こそギャグ回がくる
706:このライバーがすごい! ID:4zAIwQpCW
出てきそうなのは、聖麗とか?
707:このライバーがすごい! ID:N0jPMk3zT
出るだろうなぁ
708:このライバーがすごい! ID:qqIs1T+0y
クソッ、奇紀怪解プレイしなきゃよかった
新鮮な状態で楽しみたかった
709:このライバーがすごい! ID:1eBE//AdM
というかさらっとアザミんが事務所に所属したの、羨ましすぎないか?
710:このライバーがすごい! ID:6eR0OGO/u
>>709
ニコ「どれだけ苦しんだか、どれだけ悲しんだか、俺はアザミじゃないからわからない。でも、アザミがすごいやつだっていうことはわかる。だから、探偵である俺からの依頼だ。俺にはアザミが必要だ。俺の側で、不浄の存在から俺を守ってくれ。その代わり、俺は二度とアザミを苦しませない。毎日を笑って過ごさせてやる。俺に任せろ。仕事も社会的信用もないが、笑われるのは得意なんだ」
弱ってる時にこれ言われたんだぞ?
711:このライバーがすごい! ID:Y+pwEZazh
>>710
その後、
アザミん「……シゲキの方が、私より優れている。シゲキに守ってもらったらどうだ」
ニコ「バカ言うな。俺の命がもたん」
アザミん「……ふふ、それは確かにな」
早速笑わせるニコ
流石に誇らしすぎる
712:このライバーがすごい! ID:5NOrXyFW3
エンディングのアザミんの、「責任、取ってくれるよな」に大興奮した