稼ぎの少ないオカルト事務所所長、VTuberになる   作:酉柄レイム

39 / 228
第37話 いつもの相談相手

 朝凪さんは、本当に何も知らなさそうだった。演技がめちゃくちゃうまいという可能性も捨てきれなくはないが、あのゲームを作った理由は前にも聞いたとおり、俺に自分の存在に気づいてもらうためとのこと。

 俺としては、朝凪さんがそれとは別の目的があって、パラレルワールドの記憶を俺たちに植え付けている、とかの方がありがたかった。そうじゃないなら、別の要因でパラレルワールドの記憶が植え付けられているということになる。

 

 じゃあその要因は? 俺と満と月宮さんが、パラレルワールドを観測できるようになったとか? なくはないが、ないと思う。オカルト寄りの俺ならまだしも、月宮さんはオカルトと縁が薄い。パラレルワールドの月宮さんは邪神と遭遇したことがあるが、この世界では一度も会ったことがない。であれば、オカルト関連の力に目覚める可能性は薄いだろう。

 

 配信を見てくれていたかわからなかったが、一期生の三人にもデジャブがなかったかを聞いてみたが、返答はNOだった。あの三人なら、パラレルワールドの記憶が植え付けられているものの、普段の思考がおかしすぎて気づいていないというのもありえる。なんか、こっちの世界と向こうの世界でやってることが変わらなさそうだからだ。流石にそれはないとは思うが、大筋は変わらない気がする。

 

「満、パラレルワールドの記憶は、すべて思い出したのか?」

「《んー、全部かって聞かれると微妙かも。なんか、ぼんやりとこんなことあったなー、みたいな感じ》」

「オカルト専門事務所らしいことになってると思ったら、いきなりめちゃくちゃきな臭いな」

「なんなんスかね」

 

 そしてもちろん、こんなことになってしまったからには、帝斗と透華に話さないわけにもいかない。あと、これを伝えるのは避けたかったが、透華にはパラレルワールドで俺と結婚していることを伝えた。キモすぎて絶交されるかと思ったが、「そう、っスか」と言ってしばらく俺に背を向けていた。キモすぎはキモすぎでも、絶交まではいかなかったらしい。

 

 帝斗と透華も、パラレルワールドの記憶はない。本当に謎だ。どういう基準でパラレルワールドの記憶が植え付けられるんだ? そもそも、植え付けられるという表現は正しいのか?

 

「先輩と満と月宮さんだけがパラレルワールドの記憶を持っている……。なんか、三人が何かに巻き込まれてるとしか思えないんスけど」

「それが一番しっくりくるな。ただ、佐藤だけならともかく月宮さんも……ギャグですまなくなってきたな」

「俺だけでもギャグじゃすまないだろうが」

「《済むと思う》」

 

 俺が、ということは、満も言われているということと同義だぞ。俺とお前は一心同体なんだから。

 

 パラレルワールドの影響がこの世界に出始めていて、パラレルワールドの記憶が混ざり始めているのではないか、というのは朝凪さんに「なくはないけど、まぁない」と否定された。それなら、特定の個人だけではなく、もっと広い範囲で影響が出るはずであり、そもそも真っ先に朝凪さんに影響が出るはずだと。確かに、朝凪さんならパラレルワールドの影響が出始めたらそれすら観測できそうだ。もっとも、朝凪さん自身はパラレルワールドと混ざりあうというのを経験したことがないようだったから、「なくはない」とふんわり否定したのだろう。

 

「このまま奇紀怪解を続けていいのかも疑問だよな。パラレルワールドの記憶を思い出すのがどんな影響があるのかわかんねぇけど、もし悪い方だった場合、わざわざ影響されにいく意味がねぇ」

「でも、先輩は結構微妙なんスよね? 記憶があるかないか」

「あぁ。なんとなくといった感じだ。満にパラレルワールドの記憶を言われれば、確かにそうだったかもと思う程度だな」

「《佐藤さんが鈍いのか、佐藤さんが中心だから思い出すきっかけがいっぱい必要なのか……》」

 

 ……なんだろう。我ながら前者な気がする。オカルト慣れしすぎてパラレルワールドの記憶のインパクトが薄いとか。

 だとすると、奇紀怪解はやるべき、だとは思う。普通に面白いし、このまま放置しておくのも気持ち悪い。更に手がかりはあのゲームしかない。朝凪さんにパラレルワールドのことを教えてもらうというのもいいが、俺が配信という形をとることで、月宮さんのように俺と満以外の誰かが記憶を思い出す可能性もある。

 

 それに、もしかしたら奇紀怪解の出来事の中にヒントがあるかもしれない。俺と満と月宮さんだけに記憶がある理由。そのヒントが。

 

「……いいっスけど、先輩がやるときは事務所にいますからね」

「本当に話が早いな」

「やるぞ! って目ぇしてんだよ。だったら、俺たちは何かあった時のために待機。その何かが邪神とかそういう類だとしたら、まぁ仲良くお陀仏だな」

 

 そう、だな。今回の事象に限っては、何が起こるかわからないし、大体何でもありえる話だ。奇紀怪解に出てきた邪神は様々な種類が存在した。その中の一体が、次元を超えて俺たちに記憶を植え付けているという、本来なら奇想天外ともいえることさえありえない話じゃない。あとは、邪神が顕現するための工程が、俺が奇紀怪解を進めることだとしたら。そうなれば、帝斗と透華も邪神と遭遇することになる。

 

 邪神は、人を襲う者、襲わない者がいる。襲わないからといって友好的かといえばそうではなく、『別に気にする必要がないから』襲わないだけで、その存在自体は冒涜的であるということに変わりはない。遭遇しただけで精神がおかしくなる可能性がある。

 

「一緒にいてくれるのはありがたいが、何があるかわからん。できれば」

 

 俺の側ではなく、安全な場所にいてほしい。そう言おうとした俺の口の動きは、透華の指によって止められる。

 

「それで言うこと聞くようなら、とっくに先輩と関わってないっスよ」

「《惚れた……》」

 

 いつも思うが、俺より先に惚れるのはどういうことだ?

 

「まぁ、そういうことだ。つか今更気にすんなよ。助けてって言うのは得意なんだろ? いつも通り助けを聞きやすいように近くにいるってだけの話だ」

「そうっスよ。まぁ、先輩がどっか行っちゃわないかなって、怖いっていうのもあるっスけど……」

 

 満が《透華かわいい! 透華かわいくない!?》と言って大興奮している。ちょっと落ち着いてくれ。透華が可愛いのはわかってるから。お前が透華のことが大好きなのもわかってるから。

 ……パラレルワールドの俺が、透華と結婚した理由がわかる気がする。俺の近くでこんなことを想ってくれている女性にちょっと勇気を出せば、満が背中を押してくれてそのまま、みたいな流れになりそうだ。

 

 いい友人を持った。いい友人を持ったが、今更パラレルワールドで透華と結婚しているということを意識して、しかもそれを透華に教えてしまったことも意識して、ものすごく恥ずかしい。透華との会話一つ一つが、結婚の理由に思えてきてしまってもうどうしようもない。ごめん帝斗。今思ったけどパラレルワールドで結婚している男女と一緒の空間にいる気まずさったらないよな。なんなら最初出て行こうとしたもんな、お前。でも大丈夫だ、親友。お前を一人ぼっちにはさせない。

 

 何? 俺がいなくても帝斗はいっぱい人に囲まれているだと? うるさい!!!!!

 

「わかった。正直、俺自身何が起こるかわからず、少しの恐怖もあったしな。一緒にいてくれるか?」

「はいっ」

「ま、友だちがゲームやってるところ見るくらいなんでもねぇしな」

「《ほんと、人脈だけは恵まれてるよねー。佐藤さん》」

「あぁ。お前とも出会えたしな」

「《……》」

 

 いつもの調子に戻そうと、わざわざ俺を攻撃しにきた満にカウンターを食らわせれば、顔を手で覆い隠しながらくるくる回り始めた。この可愛く照れている姿を二人に見せられないのが残念だ。パラレルワールドの俺なら、満の具現化くらいわけがなかったのに。

 あれ、どうやっているんだろうな。満の魂を捉えて、俺の魂とつなげることで、死から生へ近づけて具現化させる、と説明はされていたが、それをどうやるんだっていう話だ。試しに気合いを入れて満に掌を向け、「ハァッ!!」とやってみるが、

 

「え」

「あ?」

「……」

 

 顔を隠しながらくるくる回る満を指して、帝斗と透華を見る。頷いた。そうか。

 

「満。ちょっとこっちにきてくれ」

「んえ? うん」

 

 少し顔の赤い満を手招きすれば、素直にこちらへ寄ってきてくれる。その満に透華が恐る恐る()()()

 

「み、満?」

「なに? 透華」

 

 頭をぽんぽんされ、腕を掴まれ、ほっぺをぷにぷにされ。確実に実体があり、触れられることを確認している。そうされれば流石に満も自分に実体があることに気が付いたらしく、ゆっくりと俺に視線を向けた。

 

「さ、佐藤さん?」

「おう」

「じ、実体がある」

「なんかできた」

「なんかできた!!!?? まぁいいや! 透華―!!」

「わ」

 

 一瞬の特大びっくりの後、そんなことよりもと、透華に抱き着く満。生きている頃は珍しいことじゃなかったんだろうな、と想像してしまった俺は目頭が熱くなり、二人から少し離れて涙ぐんだ。

 

 そしてもちろん俺の隣にきてくれるのは親友、帝斗。

 

「なにしてんだ? お前」

「オカルトの才能が怖い……」

「才能なのか、どうなのか。パラレルワールドの佐藤ができていたことなら、その力すらも混ざるようになってきてる、みたいなことねぇか? それか、無意識のうちにやり方を覚えていた、みたいな」

「あ」

 

 満を実体化できたという事実自体が嬉しすぎて、そのことを忘れていた。そうか、パラレルワールドの俺ができていたことなら、その可能性があるのか。

 この世界の俺が身につけたのではなく、パラレルワールドの俺が身に着けたことを、世界が混ざりあって俺ができるようになった。

 

「……他も試してみるか」

「つか、満なら覚えてんじゃねぇの?」

「二人の時間を邪魔できるか! 検証に付き合ってもらうぞ、帝斗!」

「ま、それもそうか。了解」

 

 後ほど、「私が教えたかったのに!!」と満がご立腹だったが、透華に撫でられるとその牙を収めた。動物か、お前は。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。