稼ぎの少ないオカルト事務所所長、VTuberになる   作:酉柄レイム

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第40怪 件のマンション

「こんちはー、ニコさん」

「こんにちは! お久しぶりです!」

「こんにちは。すみません、急に誘ってしまって」

「ニコさん敬語」

 

 ぶすっとした星菜さんに言われ、「すまない」と返すと、満足気に頷いた。

 

 奇紀怪解。パラレルワールドで俺の身の周りで起きた出来事をベースに作られた、ホラーゲーム。それをやっていくうちに、俺と満と月宮さんにその世界の記憶が混ざってきて、そろそろ解決した方がいいだろうと乗り出した、思い出の場所巡り。

 第一怪の登場人物は、一ノ瀬姉妹。失礼かと思ったが、始まりは星菜さんから依頼を受けるところからだったため、事務所に来てもらった。

 

「よかったの? 事務所の場所知っちゃったけど」

「それを悪用するようなことはないだろう。信頼の証だと思ってほしい」

「あれ? ニコさん、お姉ちゃんには敬語使ってませんでしたっけ」

《あーあ》

 

 し、しまったぁぁぁあああああ!!! 別世界の俺の記憶が混ざって、ついタメ口で喋ってしまった!! い、いきなり距離を詰めてきてキモいとか思われないか? 大丈夫か? ただでさえ姉妹揃って呼びつけてキモいだろうに、もうダメだ。俺は終わったかもしれない。キモがられながら死んでいくんだ。

 

 しかし、俺の相棒は優秀だった。自分をちょいちょいと指し、ニコっと微笑む。実体化の話題にすり替えろということだろう。あと、伝わったからいいけど、普通に喋っていいぞ。二人には聞こえないから。

 

「んんっ、ところで、俺の配信を見てくれていたかはわかりませんが、俺はあることができるようになってな」

「敬語とタメ口混ざってるし、やりにくいなら私にもタメ口でいいよ? 全然嫌じゃないし」

 

 すり替える前に指摘された。どうやら明さんは捕まえるのがうまいらしい。それか俺が逃げるのが下手かのどちらかだな。多分後者。

 

 ま、まぁ、元々俺の方が年上だし変な話ではない。包容力や落ち着きで見れば明さんの方が年上に見えるが、そんなことは言っちゃいけない。女性に年齢の話はタブーだというのは、流石の俺でも理解している。

 

「知ってます! 満ちゃんを実体化できる! みたいな!」

「その通り! 見せてやろう、満の姿を!」

 

 コツは掴んだ。どうやら俺はオカルトに関しては天才らしく、オカルト的な力をマスターするのに時間はいらなかった。

 別に向ける必要はないが、見た目がカッコいいから満に掌を向ける。そうして少し意識すれば、満が実体化した。

 

「満ちゃんだー!! 髪おろしてる! かわいい!」

「星菜ちゃんこんにちはー! へへ、ありがとー!」

「へぇ、マジだったんだ。立ち絵と変えてるのは身バレ対策? ニコさんもいつもと違うもんね」

「あぁ。せっかくなら、満も外を歩かせてやりたいからな」

 

 満は俺と同じく、ほぼそのままの姿で立ち絵が出てしまっている。絵と人間だと比べられても同じだとは思われないかもしれないが、用心するに越したことはない。

 

 いやぁ、しかし。満が誰かと仲良くしている姿はいいな。俺の生きる意味はこれだったのかもしれない。

 

「そんで、聖地巡礼? だっけ?」

「そうだ。奇紀怪解をやってから、オカルト的な力が目覚めたかもしれなくてな。同じ場所に行けば何かあるかもしれんと思い、せっかくならと誘わせてもらった」

「あの、すっごく嬉しかったです。ニコさんから誘ってくれて、しかも配信とかじゃなくて遊びに誘ってくれるなんて!」

「星菜ちゃん、ニコさんにすごく懐いてるよね」

「いい人ですから!」

 

 気に入ってもらって悪い気はしない。妹のような感じだと言うとキモいが、やはり慕ってくれる年下は可愛いものだ。微笑ましくなる。

 

 ……でも待てよ? 今思えば俺、女子大生と女子高生と女子中学生を引き連れることになるのか? それって大丈夫なのか? 普通に通報案件じゃないか? 流石に眼帯は外しているし、いつもと違う髪型だが、いくらこぎれいにしていようと成人男性は成人男性。いつの間にか俺が挙動不審になっていて、知らない間に警察のお世話になっていることもあり得る。

 

 ……が、だからといってきてもらっていかないというのはない。警察が働き者ではないことを祈ろう。

 

「よし、じゃあ行くか」

「はい!」

「はーい」

「おっけー!」

 

 言いながら宙に浮いた満の手を引いて、「歩けよ、わかったな?」と念を押して事務所を出た。

 

 

 

 

 

 しばらく歩いて、件のマンションに到着する。道中は特に何もなく、手を繋いで歩く満と星菜さんを、俺と明さんが並んで見守っていて、その光景を第三者から見た時のことを想像し、気まずくなっていたくらいだ。明さんもそれに気づいたのか、「私たちも手ぇ繋ぐ?」とからかってきたし。本当にやめてほしい。俺には心に決めた女性が……いや、これは別世界の話だ。

 

「わ、すごー! ゲームで見たまんまだ!」

「ね! 懐かしい!」

「懐かしい?」

「け、結構前だったから! 第一怪やったの!」

 

 マンションを見上げ、満が口を滑らせる。俺と満にとっては懐かしいという表現が適切だが、まさか一撃目で口を滑らせるとは……。あんなにポンコツだったか? もしかしたら、別世界の満に引っ張られている……? そんな恥ずかしい形で引っ張られることなんてあるのか?

 

 もしかしたらあるかもしれんと思っていたが、マンションの敷地内に入っても誰かに見られるなんていうことはなかった。あの時はずっと見られていたが、今は見られるとしても一瞥して、俺を変な目で見た後に目を逸らす程度。俺のみが普通に不審人物と思われているだけだ。それはそれで問題かとは思うが、オカルトが絡んでいるわけでもない正常な反応。

 あの時と同じことが起きたとしたら、それはそれで記憶混在の謎を解く要素になり得そうで悪いことではなかったかもしれんが、危険な目に遭わない方がいいに決まっている。どこか残念に思いながらも、安堵の方が強い。

 

 そうして胸を撫でおろしている俺の肩を、明さんが優しく叩いた。

 

「なんだ?」

「なんでこのマンションの場所知ってたのとか、聞いちゃいけない感じ?」

「……」

 

 し、しまった!!! そういえば、奇紀怪解ではマンションの詳細は明かされていないし、道中もカットされていた。モデルがあるかどうかも定かではないし、このマンションの存在を知り得るのは、マリーと別世界の記憶を持つ者だけ。迷いなく辿り着けること自体がおかしい。

 マリーから聞いたと言えばいけるか? いや、それにしては間を空けすぎた。どうしたって言い訳感が強くなる。クソ、どうして俺はこう肝心な時に口が回らないんだ!

 

 沈黙する俺をどう捉えたのか、明さんは肩を竦めて、「真理さんに聞いた、っていう風に思っとくよ」と笑ってくれた。姉御……。

 

「ねーねー、ニコさん! お姉ちゃんが住んでた部屋とか、行けたりしませんか!」

「あぁ、ちょうど空き部屋だったらしくてな。イベリスに頼んだら鍵をくれた」

「なんでそこでイベリスさん?」

「ニコさん、どうにかして部屋に入ろうと思った時に、一番権力者っぽいからってイベリスさんに頼んだの」

 

 ダメ元で頼んでみたら、「もう、そんな急にオシャレなことを言われても、オシャレにだって準備があるのよ? ちなみに、鍵はもうあなたの事務所のポストに入れてあるわ」と言われ、ポストを見てみたら鍵があった。怖すぎて縮み上がった。どの世界でも、あの一期生三人組が規格外であることに変わりはないらしい。

 

 星菜さんが「鍵ください! 鍵!」とねだってきて、無くさないように言いながら手渡すと、満の手を引いてマンションのエントランスへ直行。星菜さんの元気な様子と、友だちに手を引かれる満にめちゃくちゃ和んでしまう。明さんも俺の隣で、いつものしっかりとした様相を崩して「かわいいねぇ」とほにゃほにゃしている。

 

 しかし、やはりしっかりしているというべきか。明さんは俺を見て、「でさ」と切り出した。

 

「文句言うわけじゃないけど、奇紀怪解全部やったわけでもないのに、聖地巡礼ってなんか違和感あってさ。もしかして、なんか変なことに巻き込まれてたりすんの?」

「そっ、そそそ、そんなことないぞ!!」

「誤魔化すの下手すぎ。ウケる」

 

 けらけら笑う明さんに、ぐぬぬと歯を食いしばる俺。やはり、変だとは思われるか。星菜さんは純粋で、どんなことでも楽しさを見出して乗り切れる天性の明るさがあるが、明さんはそんな星菜さんをサポートすることに命を懸けている。当然、俺が何かに巻き込まれている可能性を考慮すれば、それに星菜さんが巻き込まれるんじゃないかという心配も生まれるだろう。

 

 あとは、純粋に心配してくれている、というのもあるかもしれない。俺の自惚れじゃなければだが。

 

「ま、言いたくないならいいけどさ。これでもニコさんのこと気に入ってるんだ。力になれることがあったら相談してよ」

「……ありがとう。ここまで連れてきておいて話さないのは礼儀に反するが、何があったかは恐らく言うべきじゃない」

「そ。ならいいや」

 

 今は異常が出ていないだけで、俺がパラレルワールドのことを話した瞬間、俺たちと同じように別世界の記憶が混ざってしまうかもしれない。悪いことだと決まったわけではないが、用心するに越したことはない。

 などという俺の言い訳を明さんはすんなり受け止めて、「早くー!」と俺たちを手招きする星菜さんに応えて、エレベーターに乗り込んだ。

 

「お姉ちゃん、ニコさんと何話してたの?」

「んー? 秘密」

「えー。……も、もしかして付き合ってたり」

「あんまり面白いこと言わないでよ」

「流石に傷つくぞ?」

「大丈夫だよニコさん。フラれても私はずっと隣にいるから」

「そんなに慰めてもらうほど傷ついてはいない」

 

 ニコさんがお兄ちゃんになるんだーって思って一瞬喜んじゃった! という可愛さ抜群の愛しいセリフを星菜さんが吐いたところで、目的の階に到着する。どうにかして星菜さんを俺の妹にしようと思ったが、俺の思考を読んだ満に「本当にやめた方がいい」と真面目な顔をして言われたため正気に戻った。参った、俺はすぐに家族を増やそうとするクセがある。

 

 目的の部屋は4階の401号室。初めて来たときは、角部屋なんてリッチだなぁと思ったことを覚えている。

 

「では、開けます!」

「お願いします!」

 

 なぜか畏まったやり取りの後に、星菜さんが鍵を開けて、中に入る。当然空き部屋だから、中には家具も家電も何も置かれていない殺風景な空間が広がっていた。ただ、それがないというだけで確実に記憶の中の部屋と一致している。

 

「……なんか、中に入ったら回覧板くるんじゃないかって怖くなってきちゃった」

「ベランダ出てみる? 隣から覗いてるかも」

「やめて!」

 

 あまりにも一致しているからか、楽しさよりも恐怖が上回ったらしい。このまま怖がり続けても可哀そうだ。

 

「満、一緒にベランダに出てくれ」

「ニコさんも怖いんだ……」

「怖いわけじゃない。一人で確認するより、誰かと確認した方が確実だろう」

「あー、そういうことね! おっけー!」

 

 満と並んでベランダに出て、隣を見る。やはりこちらを覗いている人物はおらず、満と頷き合った後、部屋に戻った。

 

「誰も覗いていなかった」

「よかったー……」

「……?」

 

 星菜さんの動きが、止まる。明さんを見れば、明さんも同じように固まっていた。俺は動ける、満も俺と同じで動けている。なんだ、何が起きた!? 俺の有り余るオカルトパワーが二人に影響を与えてしまったのか!?

 

「そんなわけないでしょ! えっと、ど、どうすればいいんだろ? こちょこちょしてみる?」

「多分俺がその光景を見るのは法律に違反するだろう! やめてくれ!」

「見るくらいで違反しないよ! っていうかそう思うなら後ろ向いとけばいいじゃん!」

「訂正する。同じ空間に存在するだけで法律に違反する!」

「じゃあ出て行けば!」

「こんな状況で、満を一人にはできんだろう!」

「……そ、それもそっか」

 

 しかし、どうする。あまりにも突然すぎる。何が起きているのかさっぱり……。

 

「……わかる」

「え、なにが?」

「魂だ。二人に似た魂が、宿っている……?」

「……いつもの厨二病じゃなくて?」

「じゃない。それに、俺は意外にも普段はあまり厨二病じゃない」

「意外にもって自分で言うことじゃないと思う」

「──う」

「──ね」

 

 二人が、何かを言った。ほとんど聞き取れなかったが、何かを言ったことは間違いない。

 

 その瞬間、知覚できていた魂が抜けだした。同時に、二人が動き出す。

 

「……あれ? 何か、一瞬時間が飛んだような……」

「……ニコさん、何かした?」

「……いや」

 

 何かはわからないが、何かが確実に起きた。

 

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