稼ぎの少ないオカルト事務所所長、VTuberになる 作:酉柄レイム
「いや、卒業せんが!!!???」
手の込んだ卒業のお知らせかと思った
ニコがVTuberじゃなくなったら何ができるっていうんだ?
ニコはいいけど、満ちゃんは置いて行ってくれ
奇紀怪解をやる5日間、最終日。
やはり覚えのあるシナリオをこなし、いよいよ最後のシナリオ。俺にしかできない番外編として作られたそれは、『俺がVTuberとしてデビューする世界が偽物の世界である』というものだった。
皮肉にも今抱えている『別世界の記憶』に関わる内容だったからめちゃくちゃ肝が冷えたし、めちゃくちゃムカついた。満が3D化していないのにVTuberを引退する? ふざけるな!!
夢中になっていてあまり意識していなかったが、この番外編は別世界で実際にあったことではなく、この世界の俺の物語ということだろう。今、律儀にマリーから「さっきのシナリオは別世界で本当にあったことじゃないよ」とDMがきた。
「満は置いて行ってくれだと? 残念だったな貴様! 満と俺は運命共同体、俺がいなくなれば満もいなくなる!」
「ニコさんは、引退しないから安心しろって言ったんだよー」
俺たちのおもちゃがなくなるかと思った
別枠でアザミんが取り乱してたぞ
妙にリアルだったしなぁ
妙にリアルだったから入り込みすぎた。あと内容がマズい。結婚のことと、月宮さんとホテルに行ったこと。めちゃくちゃな炎上要素が詰め込まれていた。前者はともかく後者はマズいかと思ったが、コメントを見るにそのことが気に入らないといった様子はない。なぜだ……?
「……まぁ、最後は言いたいこともなくはないが、面白いゲームだった。最後のシナリオ以外は、『project:eden』のホームページからダウンロードして遊ぶことができる。気になった者はプレイしてみてくれ」
「これ流行ってくれたら、ニコさんの視聴者増えたりしないかな?」
ニコが人気者になるのか……
今でも十分人気者だと思うけどな
俺もそう思う。VTuberになる前は帝斗と透華以外と関わりがなかったから、現状とえらい違いだ。こうして多くの人たちと触れ合えているのは、かなり幸運なことだろう。
VTuberを引退するなどありえない。なぜなら、未だに依頼がまったくこないからだ。やめてしまったら金が無くなって、野たれ死んで……しまわないだろうな。帝斗と透華がいるから。
「5日間見てくれた人も、途中から見てくれた人も、感謝する。当然引退はせず、これからも配信活動は続けていく。貴様ら、俺の雄姿を見届けるがいい! では!」
「じゃあねー!」
締めの挨拶を終えて、配信を終了。すぐにその手でマリーに通話をかける。
『はろー』
「ハローじゃないだろう!! なんだあのシナリオは!!」
『あー、あれね。なんかたけちーっていつまでVTuberやってくれるんだろうなーって。たけちーの事務所の現状考えたらすぐにはやめないだろうし、心配するだけ無駄だってわかってるんだけど、なんか考え始めたら止まらなくなっちゃって。だったらなんか、あぁいうシナリオ作ってやってもらったら、誰がやめるか!! みたいな感じでずっと続けてくれるかなぁって思って、やっちゃった。あ、透華さんと西園寺さんの声はわかってると思うけど本人のものじゃないし、とはいえ出演自体はするから許可は取ったよ。ふふ、狙い通りになったみたいでよかった』
重すぎて言ってやろうとしていた文句が吹き飛んだ。時折出るマリーの激重感情をくらうと頭がおかしくなりそうだ。絆されている満は「仕方ないよねー」って頷いているが。仕方がないで片づけられる激重感情ってなんだ?
……というかいつから準備していたんだ、このシナリオ。パラレルワールドの記憶云々は最近相談したことだ。それよりも前に奇紀怪解を作っていることは確実で、ということは俺と満と月宮さんに別世界の記憶が宿ることを予期していた、っていうことか?
『あれ、もしかして怪しんでる?』
「怪しんでいる」
『まー偶然ってやつだよ。夢の邪神の被害に遭ったのは三人だけだったし、理由付けに使ったってだけ。今たけちーたちに起きてることに関しては、本当に何も知らないよ』
「本当か?」
『たけちーに嘘なんてつかないもん』
「佐藤さん、人を疑うのってよくないことなんだよ?」
「信じすぎるのもまたよくないことじゃないか……?」
まぁ嘘はない、はずだ。邪神がマリーの皮を被っているのなら話は別だが、マリーがマリーなら嘘なんてつかない。つく意味がない。嘘をついていたとしてそれが俺にバレた時、「ご、ごめ、ごめんなさいっ……!!」って本気で謝ってきそうだし、俺に対して本気の罪悪感が沸く真似はしないだろう。
『あーでも、そういえば一番あり得そうなの思いついたんだよね』
「なにっ!?」
『ふつーに邪神いるんじゃない? この世界』
「佐藤さん、凄い顔してる」
そりゃあすごい顔にもなるだろう。この世界に邪神? 奇紀怪解が別世界で本当にあった出来事だと知っている俺からすれば、絶対にいてほしくない存在だ。またあぁいう存在によって誰かが不幸な目に遭っている可能性があるということだ。
しかも、別世界の俺が扱えていた力が扱えるようになったなら、不浄の存在を引き寄せる性質すら持ってしまったかもしれない。だとすれば、俺の周りにいる人たちも危険な目に遭ってしまうかもしれない。ちょうど、俺の配信を事務所で見守ってくれていた透華と帝斗とか。
『邪神がいたらいたでなんとかなる気はしてるけど……。案外近くにいたりするかもね』
「なぜそう思う?」
『だって、たけちーと優姫が狙われてるんでしょ? それじゃ、一番いそうなのって二人のことを気に入ってた邪神じゃない?』
……合点がいってしまうのが嫌なところだな。
あの邪神は、楽しむこと、興味のあることに目がないように感じた。俺と月宮さんのことが気に入ったのなら、俺たちで遊ぼうということも考えられなくもない。やつの力がどの程度のものかはわからないが、別世界の記憶を植え付けるなんてことは造作もないように思える。
そして、反応を楽しむなら近くにいるだろう、ということか。やつなら、扱いを間違えなければ人に危害を加えることはない。少々気まぐれなだけだ。
もっとも、悪い方向で気まぐれが起きることもなくはない。どのみち、近くにいてもいなくても探すべきだろう。
「貴重な意見だった。ありがとう、マリー」
『んーん。たけちーの力になれるなら嬉しい』
「私、席外すね」
「変な気を遣うな!」
『そうだよ満。私、満のこと”も“大好きなんだから』
「えへへー」
『も』を強調するな。一文字で激重感情を表現しやがって。
「また何かわかったら連絡してくれ。俺もそうする」
『おっけー』
「あぁあと、奇紀怪解、面白かった。ありがとう」
『……っぶなー。危うく事務所に押し掛けて、たけちーを私のものにするところだった』
「今透華いるよ」
『やっば』
満が小声で透華の存在を教えると、一瞬で通話が切れる。マリーの声は聞こえていないだろうからヤバいなんてことはないと思うが……。
なんか面白くなさそうな顔をしている。この世界では結婚していないから、まだ浮気というわけではないのに……いや、今のまだというのは決してそういう意味ではなく、ほら、あるだろう? ただなんとなく喋っていて、まったくそういうつもりもないのについ言葉が出てしまう時とか。そういうタイプの『まだ』だ。別世界で結婚していると聞かされて、その経緯まで鮮明に思い出し、意識してしまっているとかそういうわけではない。
「お疲れ佐藤。キャッチボールでもするか?」
「なるほど、そういう状況だったということか」
どうやら、この世界でも別世界でも、恋愛関係になるとキャッチボールをしたがるらしい。……ということは、透華は嫉妬していた、のか? そういうことになるのか? いやでも、俺を慕ってくれているだけで、俺が女性と仲良くしているのがなんとなく面白くない、というレベルかもしれない。それに帝斗が過剰反応しただけだ。きっとそうだ。
「お疲れ様っス先輩。満も」
「ほんとに疲れた! 癒して!」
満が透華に飛びついて、透華が華麗に受け止めて頭を撫で始める。それを見た帝斗が、「キャッチボールはやっぱりいい」と断ってきた。帝斗がキャッチボールしたがるかどうかで状況がわかるの便利だな。
「結局なんもなかったなぁ」
「あぁ。全員覚えていないと言うし、やはり俺と満と月宮さんだけだ」
「優姫さんには何もないんスか?」
「い、いや、俺と月宮さんはそういう関係では」
「奇紀怪解を見て、何も異常が起きてないかって意味だよ」
「ふっ、わかっているさ。動揺するフリをしていただけじゃ」
「動揺してジジイになってんじゃねぇか」
やかましい帝斗は無視して、月宮さんにDMで確認を取ると、「何もないけど、アザミが想像しちゃって拗ねちゃった」と返ってきた。二人で俺の配信を見てくれていたようだから、ずっとアザミの相手をしていたのか。多分、拗ねているならアザミの口数が死ぬほど多くなっているのだろう。頑張ってくれ。
「そういえば、マリーがこの世界にも邪神がいて、近くにいるかもしれんと言っていた」
「言っとくけど俺じゃねぇぞ?」
「私でもないっスよ」
「二人のどちらかが邪神だったら、俺は人間不信になる」
「邪神不信じゃない?」
「それはただの無宗教だろ」
もちろん俺は邪神を崇拝していないから、無宗教でも構わない。むしろ崇拝し始めたら、なんだかんだで教祖になる自信がある。オカルトで俺の右に出るものは、まぁ、いない、かもしれないからな。
「……とはいえ、さっきのシナリオもない話じゃないんだよな」
「それはねぇよ。人間がシナリオとして想像できる範疇なら、邪神としては二流だろ」
「邪神の階級については詳しくはないが……今の邪神側の意見ということではないよな?」
「だからちげーって。無理もねぇけど、疑心暗鬼になってねぇか?」
なっている。最近ずっとそのことばかり考えていたから、頭がおかしくなりそうだ。この世界にも邪神がいて、なおかつ俺たちの様子を見て楽しんでいる可能性もあるのなら、余計に気にしなければいけなくなる。帝斗だって、本当は疑いたくない。疑っていいはずがない。
ダメだ、一度頭を冷やす必要がある。
「少し、外に出てくる」
「邪神に気をつけろよ」
「車みたいに言うな」
まぁ、俺にとっては事故みたいなものか。実体化したまま浮いてついてきた満の手を引いて地面に立たせ、適当に考えながら事務所のドアを開けて外に出た。
月宮さんとアザミがいた。月宮さんは少し疲れ気味で、アザミはなんか拗ねていた。
「よっ」
「二人とも、なぜここに……?」
「アザミがあんたの存在を確認させろってうるさいから……今きて気づいたんだけど、もしかして他に誰かいたりする?」
「ニコさんのお友だちが二人! 会ってく?」
「私はどんな人たちか知ってるからいいけど、会わないように気を遣ってくれているんでしょ?」
「あぁ、少々気を遣いすぎなところがあっ」
音を立てて、事務所のドアが開く。そこには帝斗がいて、俺を見て、満を見て、月宮さんを見て、アザミを見て、一言。
「……キャッチボールでもするか?」
恋愛関係の話じゃなくて、気が動転したらキャッチボールがしたくなるのか……。
ニッコリ探偵団 視聴者支部 part11
294:このライバーがすごい! ID:FrikKo0yd
奇紀怪解、終わる
295:このライバーがすごい! ID:a8TwKQgf/
途中からアザミんが可哀そうで見てられなかった
296:このライバーがすごい! ID:x58ITJmKl
ニコのところに行くって言ってたから、存分に慰めてもらおう
297:このライバーがすごい! ID:9ZOK9Sxn6
同時視聴してるときに、5日間も時間を取ったなら、1日くらい私たちにくれてもいいのにって言った瞬間、可愛すぎて嫌な思い出が全部消し飛んだ
298:このライバーがすごい! ID:4IA78v5JY
てかタチ悪いだろあのシナリオ
この世界? って言えばいいのか、この世界を舞台にしたシナリオだったし
299:このライバーがすごい! ID:6RgLYukcn
冗談きついよ、マリー
300:このライバーがすごい! ID:rmIBBBKIG
マリー、アザミんからめちゃめちゃ怒られそう
301:このライバーがすごい! ID:gkHDpkzsD
今震えて待ってるらしい
302:このライバーがすごい! ID:HCbDWKv1y
>>301
震えて待て、って言う側は聞いたことあるけど、自ら待つやつは聞いたことないな
303:このライバーがすごい! ID:+D7UVhaom
アザミんのためにオフコラボしろ
304:このライバーがすごい! ID:cj6sG/nEO
俺たちも安心させてくれ
305:このライバーがすごい! ID:wcFzZK0r5
会いに行って、そのままオフコラボ始まらないかな……
第39怪から第42怪がシナリオにあたります。
騙すために佐藤とか帝斗とか透華とかリアルの名前を使っていますが、シナリオ中では別名になっているとご理解ください。
騙してすみませんでした。本当に騙しているかはわかりません。