稼ぎの少ないオカルト事務所所長、VTuberになる 作:酉柄レイム
グローブと硬球を取り出そうとした帝斗を止めて、月宮さんとアザミを事務所に入れて自己紹介を交わし、今。
「ねぇ、羽崎さんが私のこと睨んでくるんだけど、どうにかしてくれる?」
「帝斗にキャッチボールでもしてもらえ」
「よしきた」
「キャッチボールと何の因果関係があるんだ……?」
「アザミさん、真剣に考えなくていいよ」
パラレルワールドで実際にあったことが奇紀怪解の元になっていることを知っている透華は、どうやら俺とホテルに行った月宮さんにご立腹らしい。なんというか、その、もしかして透華も混ざっているのか? ここまでわかりやすい反応は、別世界の記憶だと結婚してからしかなかったはずだが……。
月宮さんが俺に助けを求めていたのが聞こえていたのか、透華は慌てて頭を下げる。「感じ悪かったですよね、ごめんなさい」という謝罪に、月宮さんは「いいですよ。可愛い人なんですね、羽崎さん」とイケメンな対応を見せた。
流石月宮さんだ。ここまで気持ちのいい性格の人は珍しい。もしも俺がまともな人生を歩んでいたなら、今頃月宮さんに惚れていただろう。誰がまともじゃないって!?
「それより、ごめんなさい。ニコから私たちと会わないように気を遣ってくれていると聞いてはいたんですが、アザミがどうしてもニコに会いに行くって聞かなくて」
「別に、私はパラレルワールドと記憶が混在していると聞いていたから、もし万が一ニコの身に何かがあったらという可能性を考えただけであって、誤解を招くような言い方はやめてほしいな、月宮優姫」
「何? ここは二階だぞ?」
「ぶっ飛ばす」
ちょっと和ませようと思っただけなのにこの仕打ち。まさか親友からぶっ飛ばされそうになるとは思わなかった。どうやら、俺の完璧な激うまジョークに嫉妬したらしいな。ところでなんで満は自分の体を抱いているんだ? 寒いとでも言いたいのか?
「寒い」
言われた。
俺が寒いのは客観的に見ると事実だからそれはいい。そんなものは、今俺が気づいた事実と比べれば塵のようなものだ。
そう、俺が気づいた事実とは、現状『俺が友人を友人に紹介している』ことになっていそうなこと。今まで友だちが帝斗と透華しかいなかった俺にはありえない状況。きっと過去の俺が聞いたら、びっくりしすぎて目玉が飛び出し、ついでに洗浄してから戻るところだった。
じゃあ健康的でいいのか? 飛び出した目を洗うことが健康的にカウントされるかどうかは微妙だが。
「えーっと、ニコさんから色々聞いてます。といっても、私は別世界の記憶があるから、色々どころの騒ぎじゃないんだけど……」
「俺たちも……アー、ニコから色々聞いてますよ。配信も見てますし」
一瞬、俺の本名を言いそうになってやめた帝斗は流石と言うべきか。もう月宮さんは知ってるし、アザミに知られたところでどうもならないと思うから、別にいいような気もするが、それでも本名を言わないのはリテラシーの高さがうかがえる。
一つ気まずいのが、月宮さんだけが俺の本名を知っている、という事実に面白くなさそうにしていることだ。本当に可愛い性格してるな、この人。
「……別に、俺を本名で呼んでもいいぞ? アザミになら知られても問題ない」
「ん、そうか。じゃあ教えろ」
「人に名前を聞く時に命令口調か……もっと可愛らしくお願いできないのか?」
「ね、教えて。だめ?」
「アッ、佐藤たけしです」
「佐藤さん、よわ……」
しっ、仕方がないだろう! 上目遣いで一瞬にして目に涙をためて、もじもじしながら言われたら本名を教えるしかない! クソッ、アザミめ。演技力が高い上に、あざとい行動に躊躇がないのは厄介すぎる。そのせいで何か透華の機嫌が悪くなった気がするし、帝斗がキャッチボールの準備を始めた。そろそろ捨てろよキャッチボールキャラ。
というか、今話すべきことはキャッチボール云々の話ではなく、邪神についてだ。それを切り出すために咳払いをして注目を集め、本気で咳が出て満に背中をさすってもらう。ゲームをしすぎて体調が悪くなったか……?
「んっ、んんっ!! さて、邪神についてだが、マリーに聞いたところ、この世界にも邪神がいて、なおかつその邪神は俺と月宮さんのことを気に入っていたあの邪神ではないか、と推測してくれた」
月宮さんがめちゃくちゃ嫌そうな顔をした。俺と同じ反応だな。よかった、俺の感性は間違っていなかった。
「あの邪神は面白いことに目がなく、興味の赴くままに行動する。その興味が俺たちに向いているのが今だと仮定するのなら、まぁそれはそれで問題ない。問題なのは、他に興味が向いた時だ」
「私たちにとってはいい存在だったけど、他の人にとってはそうなるかわからないものね」
「なるほど、つまりそれを危惧して、邪神を見つけたいということか?」
「ってなると」
帝斗が立ち上がり、普段使われることのないホワイトボードを引っ張り出した。そこに邪神の特徴を書いた後、『推測される邪神の場所』と記載する。
マリーは、案外近くにいるんじゃないか、と言っていた。邪神を人間の常識の物差しで測るのはナンセンス。人に擬態することもあれば、姿が見えないこともあり得る。オカルト的な力を感じ取ることができる俺をもってしても、姿を隠しきることができるかもしれない。それであれば『見つけられない』というのが答えになってしまうから、一旦それは除外しておいていいだろう。
「先輩と月宮さん……主に先輩でしょうけど、二人を見て楽しみたいって言うなら、近くにいるか、『project:eden』にいるか、リスナーっスよね」
「リスナーなら、探すのは苦労しそうだな。まさか一人一人に会っていくわけにもいかないだろう」
「んー、佐藤さん。なんかオカルトパワー感じるコメントとかなかった?」
「流石に文字から感じることはできんな……」
「近くにいるっていうなら、羽崎さんと西園寺さん? 私もなんとなくついでに気に入られたみたいな感覚だから、佐藤さんの近くにいそうなのよね」
「まぁ、違うけど周りからみたらそう見えるわな」
帝斗が納得のいっていない表情で、自分と透華の名前を書く。あ、ちょ、悲しそうな顔をするな透華! 探偵として考えるべきことであって、その、本当に疑っているとかそういうことはないんだ! というか仮に透華が邪神だったとしても、邪神が透華を演じることによって徐々に透華のすばらしい精神性に影響されて、悪いことは一切しなくなると思ってるし、いや、言い訳にならないなこれ。
「『project:eden』の誰か、となると、全体的に疑うことは前提として、佐藤たけしと関りのある者に絞った方がいいだろうな」
「あぁ。イメージだが、あの邪神は『こんな近くにいたのに気づかなかったの? ぷーくすくす!』と煽ることを目的に近くにいそうな気がする」
「ろくでもないっスね」
「邪神だからな」
関わりのある人物として、帝斗がホワイトボードに書いていてく。星菜さん、明さん、マリー、聖麗、ルイス、イベリス、シゲキ、あとはこちらでは関わりが薄いがリニス。そして、一瞬アザミを見た後、遠慮がちにアザミと書いた。
「すみません、アザミさん」
「ん? 何がだ。私も客観的に見れば私が一番怪しいと思うからな。私自身が違うと言っても、疑うこと自体は間違いじゃない。というか佐藤たけしと月宮優姫の近くにいて、面白いことと興味のあることに目がないなんてほぼ私だろう」
「アザミすぎて逆にアザミじゃないと思ったくらいにはアザミね」
俺も……。なんなら、別世界とこの世界のアザミの性格は少し異なっていて、別世界のアザミはあざとい真似はしないし、身内を大事に思ってくれてはいるが、この世界のアザミのようにわかりやすい感じではない。それはまぁ、不浄の存在の被害に遭ったか遭っていないかで性格も変わるだろうということで納得はしているが、どうしてもこの世界と別世界の違いは気になってしまう。
……というか、元々を考えれば、俺たちを気に入っているから俺たちだけに別世界の記憶が植え付けられている、と仮定したんだよな。そうするとそれはつまり、常に面白い存在でなければならないということじゃないか!?
「みんな、重大な事実に気づいてしまった」
「先輩は面白い存在だから大丈夫っスよ」
「月宮さんが気に入られたのも精神性の方だろうしな。それがブレねぇ限り、二人に興味がなくなってその矛先が違うところに向くってのはないんじゃねぇかな」
「……なんとなく何の会話してるかはわかったけど、私、何ターンか会話聞き逃した?」
「大丈夫だ月宮優姫。聞き逃していない。ただそこの二人が佐藤たけしと共にいすぎたせいで、その意図を読み取ることに長け過ぎただけだ」
やはり話が早い。けど納得がいかない。俺が面白い存在だと? 確かに他のライバーのコメント欄で見かける「カッコいい」とか「かわいい」とかそういうコメントは……後者は俺と誰かの関係性を指して言われたりするが、少なくとも「カッコいい」は言われたことがない。それでも俺は、俺のキャラ的に「カッコいい」と言いづらいだけで、しかも俺の視聴者はそういう「カッコいい」とかを素直に言えないやつらの集まりだと思っているから、俺はどちらかというと「面白い雰囲気を装いつつも、みんながカッコいいと思っている存在」だと思っている。
じゃあ面白いじゃないか。
「今のところ一番怪しそうなのは、朝凪さんね」
「別世界を観測できて、なおかつそれをゲームにして佐藤たけしにプレイさせた。怪しむ要素しかないな」
「それじゃあ、オフコラボでもしてみましょうか」
「それが手っ取り早い。そうと決まれば西園寺帝斗。早速取り付けてくれ」
「俺は佐藤のマネージャーであって、お二人のマネージャーではないんですけどね」
「俺のマネージャーでもないだろう。というか待て、展開が早くてついていけん! オフコラボをするのか!?」
「ニッコリ探偵団とびっくり調査団、そろそろしてもいい頃でしょうし」
「どちらが佐藤たけしを大事に思っているか、というのでもいいな。勝つ自信しかない」
「キュン……」
月宮さんが口を手で押さえて、透華にトイレへ案内されていた。そこまでキモかった?