稼ぎの少ないオカルト事務所所長、VTuberになる   作:酉柄レイム

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第48話 探検しよう

「どうしたんスか先輩。いきなり椅子をなぎ倒しながら床に転がって、机の角に頭ぶつけて悶絶してますけど」

「うわ、痛々しい……」

「痛々しいはやめろ! 痛そうでいいだろう!」

 

 大丈夫っスか? と頭を撫でてくれる透華に「でぇじょうぶだ」と舌が変な風に絡まった結果、願いを叶えてくれる不思議な七つの玉があるから、人が死んでも大丈夫だと思っている宇宙人のような口調で返す。

 満め、透華を見習って純粋に心配してくれてもいいのに、痛々しいだと? 俺が厨二病だと言いたいのか!? ……なんて思いつつ、満は誰も心配していなかったら俺を心配するであろうということはわかっている。周りの人の動きを見て、自分の動きを変えるからな。バラエティ適正が高そうで何よりだ。

 

 俺が椅子から転げ落ちたのは、突如届いたDMが原因だ。何事かと近づいてきた帝斗が俺のPCを勝手に見て、「あー」と納得する。別にいいけど、見る時は一言くらい声をかけてくれないか? とんでもなく恥ずかしいものを開いていたらどうするつもりだ。あっ、べ、別にとんでもなく恥ずかしいものなんてPCに保存していないけどな!?

 

「お前、そろそろ仲いい人以外からDMきたら転がるのやめろよ」

「無茶を言うな!!」

「無茶は言ってないと思うんスけど」

 

 確かに。DMがきただけで転がるのはどう考えてもおかしい。これは俺が悪い。せめて転がっていなかったみたいな顔をして座り直すことにしよう。

 

 俺にDMを送ってくれたのは、フレイル・アースレイドさん。別世界では関わりがなく、奇紀怪解では登場しなかった人。

 

 フレイル・アースレイドさん。『project:SP』で一度お会いしたことのある、四期生の方。職業は探検家で、配信を頻繁に行うわけではなく、日本国内に留まらず、海外にまで探検をしにいって動画を撮影しそれを投稿。配信は探検先であったことを話す、といったVTuberには珍しいスタイルを取っている。3Dの体も持っているから、探検先の動画と自分の3Dを合成して、本当にその場にフレイルさんがいるかのような映像を作っているから、こだわりもある人なんだろう。

 

 そんなフレイルさんから届いたDMは、「探検行こうぜ」だった。小学生の頃を思い出すセリフだな。そんなことを言ってくれる相手はいなかったが。

 

「探検か……。まぁ、俺の溢れ出んばかりの才覚をいち早く見抜き、より素晴らしい探検をしたいという気持ちは理解できるが」

「何も理解できてないじゃん」

「佐藤にある才能は面白いってだけだろ」

「あとオカルトっスね」

「そんな袋叩きにされるようなことを言ったつもりはないぞ?」

 

 いや、よく考えたら面白さとオカルトの才能があるというのは袋叩きでもないか。袋叩きにしてきたのは満だけだ。だから袋叩きではなく叩きだな。満め、俺を叩きおって……!

 

 溢れ出んばかりの才覚というのは、冗談だ。冗談じゃなかったらよかったのにとは思うが、ない物ねだりをしても仕方がない。

 だからこそ、フレイルさんが声をかけてくれた理由がわからない。自慢じゃないが、俺はインドア派で運動音痴だ。フレイルさんは普通に山にも海にもジャングルにも行く。俺がついて行ったところで、足手まといになるとしか思えない。

 

「なぜ俺なんだ……?」

「聞いてみりゃいいだろ」

「バカ言うな! 下手なことを言って嫌われて、仲良くもないのに口説いてきたと悪評を振りまかれたらどうする!」

「バカ言ってんのはどっちだよ」

「そうだな。フレイルさんはそんなことをするような人ではない」

「反省早いのはいいことっスね」

 

 謝った方がいいだろうと思い、「申し訳ございません。フレイルさんはそんな人ではないのに」と打ち込んでいたら、慌てた三人に止められた。どうやら俺は下手なことを言おうとしていたらしい。

 

ただ、理由を聞かなければいけないというのは事実。探検に行こうと言われてもどこに行くのかがわからないし、俺に何を期待して声をかけてくれたのかもわからない。せっかく声をかけてくれたのであれば力になりたいし、そのためには理由を聞かなければ始まらない。

 

「よし、見守っていてくれ」

「まぁ、配信とか動画とか見た感じ、悪い人じゃねぇからあんまり構えなくていいと思うぜ」

「あぁ。距離感的には男友だちのような感じだったな。だからこそ、時折見せる女性らしさや、女の子扱いされた時の反応が視聴者にウケている。属性的には古くからあるものだが、アニメや漫画ではなくリアルに存在しているフレイルさんが素でそういう反応をするからこそ価値があり、尊いものだ」

「先輩。キモいのはいいっスけど、喋ってる内容打ち込んじゃってます」

「下手なことどころの騒ぎじゃないね」

 

 激キモ文章を慌てて消して、一息つく。俺はこんなにもDMでのやりとりが下手だったのか……? 最近、仲良くなった人としか連絡を取っていなかったから忘れていた。俺は呆れ果ててゲボが出るほどコミュ障なんだった。なんで俺は26年間生きてこられたんだ?

 

 そんなことはどうでもいい。ここで足踏みしていては、フレイルさんに迷惑がかかる。もしかしたらフレイルさんはDMの画面を開いているかもしれない。俺が打ち込むたび、『ミッドナイト・サイコナイトが入力しています』と表示されるから、「こいつ、打っては消してを繰り返してんな……」と思われたら恥ずかしい。

 

 つまり、次に打つ文章で決める必要がある。

 

フレイル・アースレイド

探検行こうぜ

ミッドナイト・サイコナイト

詳細をお聞かせ願えますか

 

「カテェけど、まぁ大丈夫か」

「佐藤さんの文章って、佐藤さんのキャラ知らなかったら冷たいよね」

「何っ!? クソっ、謝罪を送るべきか……?」

「大丈夫っスよ。落ち着いて」

 

 透華によしよしされた。最近、子ども扱いされることが多い気がする。俺は26歳男性だぞ? 子ども扱いされる26歳男性ってきつすぎないか? 高校生から見たらおじさんだぞ、俺。そろそろ俺が大人であるとみんなにわからせる必要があるらしい。

 

 ところで、大人ってなんなんだ? 年をとれば自動的になるものだと思っていたが、俺は自分のことが大人だと胸を張って言える気がしない。俺の知っている大人は、社会的責任を背負い、毎日苦しみながら仕事をしているものだ。だというのに俺は毎日配信をするか動画を見るかで、遊びに行けば子どもに混ざって大はしゃぎ。

 

 子ども扱いはしばらく受け入れようと思う。仕方がなさすぎる。

 

「おい佐藤」

「なんだ?」

「通話かかってきてるぞ」

「!!!!?????」

 

 再び椅子から転げ落ちそうになる俺の上半身を帝斗が支え、透華が椅子を抑え込み、満が足を掴む。介護されすぎて悲しくなるが、悲しくなっている場合ではない。すぐにヘッドホンをつけ、マイクをオンにして、通話に出た。しまった! ちょっと待ってくださいとか言えばよかった!!

 

「はっ、はい! 我が名はミッドナイト・サイコナイト! またの名をニコ! 深夜の狂騎士だ!」

「慌てながらもその挨拶が出るんだ……」

『お、いきなりごめんな? ニコ、満』

 

 帝斗と透華に目配せすると、二人は俺の側から離れてくれる。間違って声でも入ってはいけない……いけないこともないが、普段からリテラシーを気にしている二人に配慮するべきだ。

 

 フレイルさんは少し低めの声でカッコいい。だからといって男と間違えるようなそれではなく、どことなく少女らしさも残っている。満が落ち着いた成長を遂げればこういう風になりそうだな、というイメージだ。満が、成長……!!

 

『なんか泣いてねぇか?』

「気にしないでください……っ!」

『ふーん。まぁいいや。いやさ、文でちまちまやんのめんどくせーし、フレイル様の声を聞かせてやろうかと思ってよ』

「ありがとうございます。フレイルさんの声はカッコよくて可愛らしくて好きなので」

『あんがとな。オメーもカッコいい声してるよ』

「あっ、いえっ、そんなそんな」

「カッコいい声してるとは思えない反応だね」

 

 満の発言にフレイルさんがけらけら笑う。よかった、小さいことは気にしない人で。あ、いや、ワカチコとかじゃなくて。

 フレイルさんの声を褒めてしまった時、言ってから「あっ、これキモいって言われるやつだ!」と思ったが、まさか俺の声も褒めてくれるとは。器が大きい人なのかもしれない。そういえば、前にお会いした時は「ファンタジー世界で出会う、酒場の気のいいおっちゃんみたいだな」と思ったしな。失礼すぎるだろ。

 

『んでさ、ちょっと次の探検付き合ってもらいたくてな』

「なんでまた俺に? 声がカッコいいからですか?」

『ハハっ、それもあるけどな! 次行こうとしてるところが、オカルト的な感じでよ。そんなら専門家がいた方がいいだろーなってことで』

「なるほど……お力になれるかはわかりませんが、ちなみに俺と満とフレイルさんだけですか……?」

『いや、聖麗もマリーも誘ってる。アレだろ? びっくり調査団ってやつ!』

 

 ……なんか、とんでもないオカルトが待ち受けてたりしないよな?

 

 

 

 

 

 

ニッコリ探偵団 視聴者支部 part13

 

23:このライバーがすごい! ID:GTpDVGzcX

12月、『楽園都市』開催決定

 

24:このライバーがすごい! ID:unLrJk5l8

やったぁぁぁああああああ!!!!!

 

25:このライバーがすごい! ID:yNQU9zsls

うおおおおおおおおおおおおおお

 

26:このライバーがすごい! ID:Cqr63SFSf

んほぉおおおおおおおおおおおお

 

27:このライバーがすごい! ID:HUaVGy1sU

>>26

朗報で快楽を得るな

 

28:このライバーがすごい! ID:baOYr0kGG

ニッコリ探偵団初めての楽園都市か

 

29:このライバーがすごい! ID:CvEsT8TLq

例年通りなら、続報でステージの情報があるはず

そこでニッコリ探偵団のステージがあることを期待してる

 

30:このライバーがすごい! ID:bJYW6Yrbg

でも3D体ないからなぁ

 

31:このライバーがすごい! ID:oaha+KcSG

楽園都市で3D解禁とか……?

 

32:このライバーがすごい! ID:lBb30dd4+

このままニッコリ探偵団の勢いが持続するなら、結構集客効果ありそうだしな

 

33:このライバーがすごい! ID:hDnsH9PQY

満ちゃんも3D化しないと許しませんよ?

 

34:このライバーがすごい! ID:oFy2eDhbt

マジで3Dでわちゃわちゃしてるニッコリ探偵団が見たい

 

35:このライバーがすごい! ID:WLCO0biPl

絶対可愛い

 

36:このライバーがすごい! ID:ptGoNInj0

何かを間違えてニコが星菜ちゃんと3Dで並んで炎上してほしい

 

37:このライバーがすごい! ID:sF0xsjwIT

そろそろ炎上が面白い段階になってきたよな

 

38:このライバーがすごい! ID:cdFWgQ3fm

本人は面白くないだろうからやめなさい

 

39:このライバーがすごい! ID:MPMvB/VYh

でも、炎上してもニッコリ探偵団なら大丈夫だっていう安心感がある

 

40:このライバーがすごい! ID:H8Q6hLjrJ

そもそも、ニコ自身が叩かれ慣れてるしな

 

41:このライバーがすごい! ID:tFue7RXj/

俺たちはニコのことをわかってるから、ずっと味方でいれば問題ない

 

42:このライバーがすごい! ID:vaD92kBla

>>41

絶対何人か面白がって燃やす側に回るぞ

 

43:このライバーがすごい! ID:m1PWlQ9NO

ラインはしっかり見極めないとな

 

44:このライバーがすごい! ID:xW4plqEBt

打てば響くからといって、いくらでも打っていいわけじゃないんだから

 

45:このライバーがすごい! ID:Qi/s3f8kk

優姫ちゃんとアザミんは普段からニコにきつい言い方するけど、

ニコが炎上したらめちゃくちゃ味方になりそう

 

46:このライバーがすごい! ID:0VQeAFWNd

>>45

笑えない炎上ならめちゃくちゃ味方になって

笑える炎上なら笑ってそう

 

47:このライバーがすごい! ID:tDOZIXdn8

その辺のバランス感覚はあると信じてる

 

48:このライバーがすごい! ID:pTiEqSSK6

炎上どうこうの話より、実際にニッコリ探偵団とお話できる可能性について語ろう

 

49:このライバーがすごい! ID:VMUnql5cv

せっ、拙者、アザミんに転がされたいでござるっ!!!!

 

50:このライバーがすごい! ID:mUeritN5n

この話はやめよう

 

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