稼ぎの少ないオカルト事務所所長、VTuberになる   作:酉柄レイム

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第49話 探検家 with びっくり調査団

 木々をかき分けながら、フレイルさんを先頭に森の中を進んでいく。じめじめとした夏の嫌な暑さに晒されて、虫よけスプレーなど知ったことかと寄ってくる虫を手で払う。ちなみに、払っているのは満で、俺は普段の不摂生がたたって既に満身創痍だ。

 

「……っ!! ……っ!!」

「フレイルさん。ニコさんがっ、オホッ!! 限界のようですし、少し休みませっ、オホッ!!」

「聖麗。森の原住民だと勘違いされそうな笑い方やめな」

「ん? あぁ、ワリィ。私が気にするべきことだったな。ちょっと休むか」

 

 フレイルさんは立ち止まり、「適当に休んでいいぜ」と言ってから、手に持っているカメラで周囲の風景を撮影し始める。俺から見ればただの森にしか見えないが、探検家の視点では違ったものに見えたりするのだろうか。オカルトに関しては感覚で察知しているし、探偵の仕事もほとんどしていないから、何かの痕跡を辿るとかそういうことはまったくできないんだ、俺は。死ぬほど疲れてるし。

 

 満に肩を借りながら、ゆっくりと腰を下ろす。すかさずマリーから差し出された水を喉に流し込み、むせた瞬間聖麗に背を撫でられた。俺をサポートする環境が整いすぎている。ありがたいことだが情けない。

 

 俺たち、噂レベル、ともすれば御伽噺と言ってもいい場所を探して、夏の森へと突入していた。なんでも、衛星写真にも写らない、誰も立ち入ったことがないと噂の村があるらしい。この森に迷い込んだ人が、明らかに外とは隔絶された文明レベルしか持っていない人間を目撃したらしく、そこから噂が流れ始めた。

 

 もちろん、オカルトチックだったから俺も耳にはしていた。ただ、めちゃくちゃアウトドアな場所にあるから行こうとしていなかっただけだ。被害も出ていないし。

 

「んで、オカルト専門家の三人に聞きてぇんだけど、なんか感じたりするか?」

「いーや? 私は全然」

「ワタシも特には」

「俺もっ……ハァッ……」

「私もー。自然の中楽しいな! ってくらい!」

 

 実体化してから自然という自然に触れたのは初めてだからか、満は終始テンションが高い。それでも俺を気遣って側から離れないのは、本当にいい子というか、俺の娘にしたいくらいだ。元気いっぱいで可愛くて優しい子なんて、この世のどこを探しても満しか見当たらないと思う。今も心配そうに背中をぽんぽんしてくれてるし。聖麗もさっきむせたとき背中をさすってくれはしたが、醜悪に笑っていたというのに。

 

 少し呼吸が落ち着いてきたところで、真面目に考えてみようと思う。まず、俺たちが何も感じていないということは、二通り考えられる。まだオカルトの領域に足を踏み入れていないか、本当に何もないか、だ。俺はどちらかと言うと、前者だと思っている。

 

「今のところ何も感じてはいない、が。妙だとは思う」

「妙? 何がだ?」

「アー、確かに。ここにくるまで、幽霊を見ていないんですよねぇ」

「そういやそっか。普通なら、森の中って幽霊の一人や二人いるもんね」

「あぁ。俺の魂の索敵範囲は、自慢じゃないがかなり広い。それでも”いない”と判断できるのは妙だ」

 

 『まだオカルトの領域に足を踏み入れていない』と思ったのは、それが理由だ。

 

 通常、幽霊というのは街中にも海にも山にも、あらゆる場所にいる。地縛霊の類でなければ、基本的に移動は自由。場所に縛られることのない幽霊は、何かしらの目的を持って、あるいは何も目的を持たず現世を彷徨い続ける。そして、幽霊には寿命がない。生物が死んだ数だけ幽霊が増えると言うわけではなく、当然現世に縛られることなく魂が帰る者もいるが、増え続けることに変わりはない。幽霊が見えない者が想像するより、現世は幽霊で溢れかえっている。

 

 が、しかし。

 

「森の中に幽霊がいないのってありえねぇことなのか? 別に、ここで死んだやつがいねぇとか、そもそも何もねぇからって近寄らねぇみたいなことあるだろ」

「仰る通りです。ですが、今の我々の状況においてそれはありえないと断言できますね」

「なんで?」

「ニコちーがいるから」

「俺は幽霊にかなり好かれるんですよ。普段歩きなれている土地で、俺のことを知っている幽霊であれば近寄ってこないこともありますが、知らない土地にいる幽霊は必ずと言っていいほど俺を一目見に来る」

「この辺一帯に幽霊がまったくいなかった、ってことならありえるだろ」

「フレイルさん。信じられないと思いますけど、他県に旅行とか行ったら、少なくとも旅行先の市町村から幽霊が集まってくるんです」

「マジかよ」

 

 大体は笑ってくれるフレイルさんですら引いてしまった。が、そうなんだ。

 

 旅行に行かないのは、元々行く相手がそもそもいなかったというのもあるが、さっき満が言ったことも原因の一つ。俺が幽霊を引き寄せすぎて旅行にならない。修学旅行なんか、班行動のはずが俺の視点では班行動どころかクラス行動くらいの密度になっていた。別世界でアザミが言っていた、不浄の存在、とまではいかないが、オカルトを引き寄せる性質は元々持っていたらしい。

 

「故に、おかしいんです。この森に入る直前から、幽霊を知覚できなくなった」

「というわけでございまして、考えられることとしては一つ。この森の中に、オカルトが毛嫌いする何かがある。こちらは可能性としては薄いですね」

「あー、満がいるからか」

「その通り。オカルト、と括ってしまうのは満さんに失礼ですが、毛嫌いする何かがあるのであれば、満さんが嫌悪感を抱いていないと辻褄が合いませんからね」

「だとすると、毛嫌いする何かってより、”この森に入らない方がいい”って、幽霊の間での共通認識がある?」

「お、鋭い。フレちーオカルトの才能あるよ」

「探検家は思考するのが仕事だからな」

「専門外の知識を受け入れて、それをもとに推論するのは少し厳しいものがあると思いますし、尊敬します。カッコいいですね、探検家というのは!」

 

 ありがとな、と照れ臭そうに笑うフレイルさんに「あっ、いえっ、その、偉そうなことを言って申し訳ございません!」と頭を下げる。笑われた。

 

 オカルトが毛嫌いする何かがあるなら満が違和感を抱く。満と俺はもはや一心同体と言ってもいいから、生者判定を受けてもおかしくはないが、そもそも毛嫌いする何かを設置するのであれば、人に憑りついている霊を対象外とする理由もないし、設置する側が想定していないわけがない。だからといって可能性を考慮しなくていいというわけではないが、頭の片隅に置いておく程度でいいだろう。

 

 であれば。フレイルさんが言ったように、幽霊のネットワークで”あの森には近づくな”という共通認識がある、というのが腑に落ちる。それであれば、生者にとってこの森は有害じゃないから、噂程度で済んでいたと言うのも納得できる。生者にとって有害であれば、今頃噂ではなく”この森には何かがあること”が真実となっているはずだからな。

 

「……ん? ってことはつまり、満が危ねぇ目に遭うかもってことか?」

「はい。というわけで俺はここで引き返そうかと思います。幽霊の間でそういう共通認識があるのであれば、幽霊に聞き込みをして然るべきですので」

「ワタシも賛成ですね。未知は興味をそそられるものではありますが、同時にその興味に見合わないリスクもあります」

「満が突然消えちゃったー、ってなったら嫌だかんね」

「なるほどな。よし、じゃあ戻ろうぜ」

 

 あっさり来た道を引き返すフレイルさんに目を丸くする。なんか、「何が起こるかわからないから面白れぇんじゃねぇか!!」って少年漫画の主人公みたいなことを言うと思っていた。

 意外と思ったことが表情に出てしまったからか、フレイルさんが俺を見て「どうした?」と首を傾げる。慌てて取り繕わずに思ったことを正直に話してしまえば、フレイルさんは俺の思考を笑い飛ばした。

 

「専門家呼んどいてそいつらの言うこと聞かねぇって、意味わかんねぇじゃん? 確かに未知は好きだけどさ。だからってリスクと天秤にかけて、どっちを取るかが判断できねぇほど夢想家でもねぇよ」

「フレイルさん、好きだ」

「ははっ、あんがとな。今のとこはカットしといてやるよ」

「よかったですねぇ。炎上していたかもしれませんよ? フレイルさん、男性人気ありますからねぇ」

「カッコいい人が可愛いっていうの、いつの時代も一定以上の需要があるかんね。ちなみにニコちー……や、なんでもない」

 

 私のことはどう思ってるの? という言葉を飲み込んだのがまるわかりな表情。よかった。事情を知っている人ならマリーのそういった発言をスルーしてくれるが、フレイルさんは知っているわけじゃない。ただ、フレイルさんなら気にしないだろうなという安心感は知り合って間もないのにめちゃくちゃある。いい人だ、フレイルさんは。自分に男性人気があるという話になった途端に居心地が悪そうにしているのも可愛くていい。ファンになった。俺の心を探検してくるなんて、流石探検家と言ったところか。

 

「ニコさん、キモい」

 

 一心同体と言うのは考え物だな。思考を読まれてキモがられてしまう。

 

 再びフレイルさんを先頭に、来た道を引き返す。景色が同一で、目印をつけていなければ迷ってしまうため、フレイルさんが探検家らしくつけてくれた目印を辿る。ちなみに、人が迷うのは無意識のうちに方向感覚を失って、円を描くように歩いてしまうかららしい。その現象にはリングワンダリングという名前がつけられている。カッコよくて覚えていた。

 

「外に出ることないのにね」

 

 一心同体と言うのは考え物だな。思考を読まれてバカにされてしまう。

 

 そうして満とじゃれ合っていると、フレイルさんが足を止めた。何事かと立ち止まってフレイルさんを見れば、木を見上げている。

 その木に、しめ縄があった。紙垂も垂れている。神聖な場所を示すイメージのあるそれが目の前にあった。森の中に。明らかにおかしい。

 

 そして更におかしいのは、確かに来た道を引き返していたはずなのに、来るときにこれを見ていなかったということだ。

 

「……オカルト専門家から見て、どうだ?」

「悪い気配は感じませんねぇ」

「同じく。ただ、それは私たちにとって、ってだけかもしれないけど」

「満」

「んー、わかんない。多分大丈夫?」

 

 多分とつけられると不安なところがある。俺の感覚では、あのしめ縄の先に何かがある気がする。

 ただ、悪い感じはしない。

 

「どうする? 一応、目印なしでも帰れるとは思うけど」

「それで迷ってしまっては、元も子もありませんが……最悪、満に飛んでもらって帰り道を教えてもらえばいいですからね」

「安全を優先しましょう。オカルト的な何かに襲われたらワタシとニコさんがなんとかできますが、不意を打たれる可能性もゼロではありません」

「悪い感じはしないんだけどねー。触らぬ神に祟りなしってやつ?」

 

 とりあえず場所は記憶しておいて、森を出ることにした。

 

 しばらくすると、またしめ縄が現れた。

 

「……よし、俺だけ先に行こう」

「待て待て、ここは私からだろ。私が誘ったんだから」

「いえいえ。ここはワタシが。荒事ならワタシが一番慣れています」

「それなら私が。普段巫女装束だし、しめ縄と一番親和性高そうじゃん?」

「ニコさんが行くなら私も行くからね! ずっと一緒だから!」

 

 散々口論し、全員で足を踏み入れることにした。どうか、何も起きませんように……!!

 

 

 

 

 

ニッコリ探偵団 視聴者支部 part13

 

337:このライバーがすごい! ID:RJR8fwqIT

フレイルの動画みた?

 

338:このライバーがすごい! ID:l+kOz+PWA

見た

ワクワクした

 

339:このライバーがすごい! ID:iCUrF5+CL

以降、ネタバレを許可する!

まだ見ていないものは、即刻見に行くように

 

340:このライバーがすごい! ID:40ZeglRvm

なんか、動画見てるとマジでオカルト専門家なんだなって思った

 

341:このライバーがすごい! ID:ZRGi2/cLM

普段のポンコツ感全然なかったよな

 

342:このライバーがすごい! ID:D+rN2UEFl

もしオカルト事件に巻き込まれて、あのモードのニコに助けてもらったら惚れる

 

343:このライバーがすごい! ID:KQ4LevQMi

普段のニコを見て、「この人、こんなのだけどカッコいいんだよね……」ってなる

 

344:このライバーがすごい! ID:1fGm5eXGy

結局、廃村だったな

 

345:このライバーがすごい! ID:WwftlndcE

・まだ除霊術が文化として残っている時代の廃村

・しめ縄の効力が強力すぎて、廃村の幽霊が外に出られなかった

・幽霊が森にいなかったのは、廃村に囚われたくないから

・結局、突然しめ縄が現れた理由はわからない

・多分、ニコの引き寄せる力が、引き寄せられる方向に働いた

普段なら幽霊がニコに引き寄せられるけど、

幽霊が動けないからニコが引っ張られたのか?

 

346:このライバーがすごい! ID:r9KnW7Fvs

普通の人間じゃたどり着けなくて、タヒに近ければ近いほど見つけられるって言ってた

 

347:このライバーがすごい! ID:h9X34y7fF

地味に歴史的発見だよな

 

348:このライバーがすごい! ID:yetOrVyEz

少なくとも動画内では何も持ち帰ってなかったけどな

 

349:このライバーがすごい! ID:NChaCR2r5

幽霊と仲良さそうにしてるびっくり調査団を見て、フレイルがむくれてた

 

350:このライバーがすごい! ID:DQvieuq+T

気にしてない風を装ってたけど、絶対気にしてたよな

 

351:このライバーがすごい! ID:VagqNNOAu

ニコがすぐに気づいて通訳を名乗り出たのは流石だった

 

352:このライバーがすごい! ID:LYR6ZPQuT

コミュ障だけど、周りはよく見える子なんです……

 

353:このライバーがすごい! ID:cvclbPykI

そして当然のように感想配信を始めるアザミん

 

354:このライバーがすごい! ID:tzYVM4AIm

アザミん「私も連れて行ってほしかったな、と拗ねてみせれば、面白いくらいに動揺していた」

 

355:このライバーがすごい! ID:LlmSs1iI7

 

356:このライバーがすごい! ID:qrnb0r6Y6

相変わらず転がしてて草

 

357:このライバーがすごい! ID:A3OFx5HLX

なお、優姫ちゃんはDMで感想を送っていた模様

 

358:このライバーがすごい! ID:gpRmhnldz

アザミんの暴露癖が治るときはくるのか?

 

359:このライバーがすごい! ID:DuOw6/kZZ

正直一生治さないでほしい

 

360:このライバーがすごい! ID:Rx6BTc0iP

というか、結局文明レベルが違う人間を見たっていう情報はなんだったんだ?

しめ縄の効果が強くて幽霊が出られなかったなら、幽霊じゃないんだろ?

 

361:このライバーがすごい! ID:wHNvjWPaF

あっ……

 

362:このライバーがすごい! ID:NpjMsp6wI

ヒェ……

 

363:このライバーがすごい! ID:Gr0qbB9Tk

げ、言及を忘れただけかもしれないから

今度ニコに聞いてみよう

 

364:このライバーがすごい! ID:7h35FichQ

普通に森で生活してる人とかか?

 

365:このライバーがすごい! ID:mqrfG/b1r

>>364

ある意味怖いだろ

 

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