稼ぎの少ないオカルト事務所所長、VTuberになる   作:酉柄レイム

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第50話 第一回オシャレミーティング

 東京都某所、『project:eden』事務所、その会議室。

 

 そこに、俺と満と月宮さんとアザミ。ニッコリ探偵団が集まっていた。そして、社員である企画担当の方が……と聞いていたが、なぜかイベリスが脚を何度も組み換えながら座っている。相変わらず動きがうるさい人だ。それはオシャレなのか?

 

 俺たちが集まっているのは、12月にある『楽園都市』、そこでニッコリ探偵団が3Dとなり、更にステージまでいただけるという好待遇。それについての会議のようなものだ。オンラインでいいのではと思ったが、アザミが「びっくり調査団とは会ったんだから、私たちと会ってもよくないか」と拗ねた理屈を展開し、オフラインでの会議となった。正直言ってかなり可愛い。

 

 しかし、なぜこの場にイベリスがいるんだ? いや、今更イベリスがどこに出現しても驚きはしないが、疑問はある。あとイベリスがいたらルイスもシゲキもきそうで怖い。一期生の三人が現場にいると、もう色々めちゃくちゃになるに決まってるからな。

 

「どうやら、気になっているようね」

「まぁ、そりゃあな」

「私がなぜこんなにオシャレか」

「オシャレの秘訣は別に気になっていない」

 

 『project:SP』で教えてもらったオシャレは本当にオシャレだったが、イベリスが自分で持っている『オシャレ』の概念は未だにわからない。イベリスはオシャレだと思うが、一般的なオシャレとイベリスのオシャレはどうも違うように思えるし……オシャレオシャレうるさいな!

 

 イベリスには話が通じない、あるいはイベリスからすれば俺に話が通じていないからか、アザミがオシャレなティーカップを揺らし、背もたれにぐでーっと背を預けながら推測を口にする。

 

「大方、私たちの3D化及びステージを提案したのがイベリスといったところだろう。一期生は、評判だけ見れば問題児の烙印を押されてはいるが、その実面倒見がいい。そして会社利益のことも考えている。『project:eden』の顔は一期生と言ってもいいからな。様々な企画の発案は、一期生であることが多い。これもその一つだろう」

「正解よ、アザミ。あなたたちとってもオシャレだし、オシャレなうちにオシャレした方がいいものね」

 

 勢いのあるうちに、みたいなことか? なんとなく意味は推察できる。もしかしたら俺もオシャレに染まってきているのかもしれない。それはいいことなのか? 人の道を踏み外すことになるんじゃないのか? だが、イベリスはおかしいが人生を見れば成功していると言える。俺もオシャレになれば大企業の社長になれるかもしれない。成功者は、何かに突出していることが多いからな。

 

 イベリスはやっと脚を組み替えることをやめて、美しく背筋を伸ばして立ち上がり、また座る。周りから見れば意味のない行動も、きっとイベリスにとってはオシャレなのだろうと無理やり納得し、満を微笑ましそうに見ている月宮さんをなんとなくぼーっと眺め、その視線を感じたのか月宮さんと目が合った瞬間「えっ、あっ、いやっ、違うんだ!」と変な言い訳をした直後、イベリスが掌を二回打った。

 

「さ、第一回オシャレミーティングを始めるわよ!」

 

 また背筋を伸ばして立ち上がり、ホワイトボードを引っ張り出す。ホワイトボードが何やら豪華絢爛な装飾が施されているのは、イベリスの仕業だろう。イベリスは事務所にいることが多いのか、事務所の各所にイベリスの息がかかっている。

 

 イベリスはホワイトボードに『オシャレ』と達筆で書き、俺たちに向き直った。

 

「もうあなたたちは聞いていると思うけど、『楽園都市』で3D化、そしてステージを担当してもらうわ!」

「ホワイトボードにオシャレって書いた意味を聞きたいところですけど一旦それは置いといて。ステージの内容は決まってるんですか?」

「もちろん、提案自体はさせてもらうわ。最終的にはあなたたちで考えて決めてほしいけど……まず、あなたたちの強みって何だと思う?」

 

 俺たちの強み。それを問われ、自然と満、月宮さん、アザミに視線を向ける。

 

 俺は憶病だ。だからこそ視聴者の反応は逐一チェックし、需要を理解するように努めている。更に、多角的な視点を確保するために、少数派の意見にも目を通している。

 ニッコリ探偵団は、その仲の良さ、遠慮のなさがウケている、と思っている。集まるときも段取りなど特に決めず、ふらっと集まってふらっと解散。企業所属でありながら、単なる友人としての振る舞いができていることが強み。そして、単純に相性がいい。俺のような人間を受け入れてくれたこともそうだが、だからといって繊細に気遣うわけでもなく、初めに言ったように遠慮がない。配信者がパフォーマンスとして回す口とは違い、『日常』を提供できている部分がある。

 

「と、俺は思う」

「つまり、私が書いた通りということね」

「オシャレとしか書いていないように見えますけど……」

 

 イベリスが首を傾げた。どうやら俺が言った通りのことを書いていたつもりだったらしい。いや、まぁ、オシャレと言えばオシャレなのか?

 

「そう、あなたたちの強みは一言で言うなら『掛け合い』よ。そして、お互いへの理解の深さもあるわね」

「二言言ったな」

「こら、アザミ! 茶々を入れるのはオシャレよ!」

「じゃあ怒らないでくれ」

 

 めちゃくちゃだが、少し尊敬できる部分もあるな。イベリスがいれば、すぐにイベリスの空気になってしまう。空気作りも、ペースに乗せるのもうまいんだ。流石、『project:eden』を創成期から支えてきただけのことはある。

 ……まぁ、空気を作っている、ペースに乗せているわけではなく、もうそうなってしまうと言った方がしっくりくるな。

 

「でも、掛け合いって言っても、それじゃあ3Dでやる意味なくないですか?」

「チッチッチッチッチッチッチッ、甘いわね優姫」

 

 チッが多すぎだろう。電撃を撃たれるかと思った。

 

「確かに、普通の雑談なら3Dになったところで、と思うでしょうけど。あなたたちの会話には『動き』があるの」

「ニコの動揺が代表的な芸だな」

「そう。普段あなたたちの会話を聞いていると、『こういう風に動いてるんだろうな』という想像をしてしまう。それが実際の動きとなって見られるというのは、意外にも大きい需要よ」

「んー……せっかくなら普段と違うことの方が、集客効果ありそうじゃないですか?」

 

 イベリスが月宮さんの言葉を聞いてため息を吐き、額に手を当てる。

 

「その通りよ」

「その通りならその通りの態度取りなさいよ!!」

 

 月宮さんが大声を出し、船を漕いでいた満が驚いて目を覚ます。可愛い。会議とかそういうの、実際の会議内容がどうであれ響きだけで苦手だもんな。

 月宮さんが無意識のうちに満を撫でて、また満が気持ちよさそうに眠り始めたところで、少しだけ止まった会議が再開される。

 

「さて、『掛け合い』があなたたちのオシャレだって言ったけど、もう一つあるの。それは、ニコに由来するものよ」

「えっ、俺ぇ!!!??」

 

 突然の名指しに、『世界の命運は、ある一人の少年に託された!!』と画面アップにされたときみたいな反応をしてしまった。一瞬本当に託されたのかと思った。よかった、託されていたら世界が終わるところだった。

 

 驚いている俺とは対照的に、月宮さんとアザミは納得したように頷いている。突然の疎外感から逃れるために「なるほどな」と頷いていると、「わかってないのにわかったふりやめなさい」と月宮さんに注意された。そんなにわかりやすいか? 俺。

 

「ニコ由来というのであれば、一つしかない。それは、女性関係での炎上しにくさにある」

「アイドル活動してる星菜とでさえ燃えなかったものね」

「その通り! ニコはキャラクター感が強く、さらにすさまじい童貞よ!」

「最後の悪口、付け足す意味あったか?」

 

 ……いや、そういうことか。俺が燃えにくく、更にすさまじい童貞であること。それは一種のキャラであり、『すさまじい童貞』の反応が笑える要素となっている。アザミにからかわれてひどく動揺するのもそのうちの一つだ。

 え? ということはなんだ? 俺の『すさまじい童貞』を押し出したステージにするということか? あまりにも不名誉すぎる。俺の童貞をなんだと思っているんだ!

 

「つまりね。あなたたちってあんまり制限がないのよ。これがやりたいけど、男女だし……っていう制限がほとんどない。例えば、『告白する』っていう罰ゲームも受け入れられちゃう。『ネタ』だと理解させる力が強いのよ。そこで!」

 

 イベリスがホワイトボードに何かを書き出した。中央に大きく、達筆で『オシャレ』。もうホワイトボードの意味ないだろ。捨てろ。

 

「あなたたちには一週間、一緒に生活をしてもらうわ!」

「だっ、ダメだダメだダメだ! いくら仲が良くて何かが起こる心配がなかろうと、一緒に生活するのは世間的によくないだろう!」

「でも、安心して」

 

 あっ、まぁ、そうだよな。実際には一緒に生活するとかじゃなくて、しているように見せかけて収録するということか。

 

「実際に家を借りて、一週間一緒に生活してもらうから」

「本当に安心させるつもりがあったのなら、どういうつもりか聞かせてもらおうか」

「落ち着け、ニコ。お前がすさまじい童貞で、女性と生活するという響きで既に興奮状態にあることは承知している」

「しない!! あっ、しないというのは月宮さんとアザミが魅力的ではないということでは決してなく、むしろ」

「その言い訳、もうしなくていいわよ」

 

 言い訳をキャンセルされた。俺の扱いに完全に慣れている。

 

 一週間一緒に生活、だと? いくら俺にキャラクター感があるからといっても、それは危険じゃないか? ニッコリ探偵団を応援してくれている人はまだいいかもしれない。だが、ニッコリ探偵団を知らない人は? 『project:eden』がバラエティ集団だとはいえ、少なからずガチ恋勢というものはいると思う。『project:eden』が男女を一緒に生活させるような事務所だと思われることは、マイナスにしかならないんじゃないか?

 

「いいのよ、マイナスで」

 

 俺の思考を読んだイベリスが、座りながら答える。

 

「ガチ恋勢って、いい客ではあるわよ。売上を考えれば離さないのが正しい選択なのでしょうけど、はっきり言って面白いことをするのに邪魔なのよね。それの存在だけで表現が制限されちゃうし、『project:eden』はそんなこと知ったことじゃないっていう事務所だって広めるいい機会よ」

「だが、一緒に生活となるとガチ恋勢でなくとも意見する人はいると思うぞ?」

「……あぁ、そうか。満がいるのか」

「そ」

 

 名前を呼ばれたからか、満が目を覚ます。そしてきょろきょろと俺たちを見た後、首を傾げた。

 

「特殊趣味のゴミカスは置いといて、性と子どもは対極にあるものよ。男女が一緒に生活するという事実だけを聞いて何かが起こるんじゃないかって考える人も、そこに子どもである満ちゃんが加わることで『そんなわけがない』って思ってくれる。それでも性的なことが起こるんじゃないかって考える気持ちの悪い社会のゴミは、『project:eden』にはいらないわ」

「……つまり、イベリスは私たちのステージで視聴者をふるいにかけたいということか」

「それもあるけど、そうなったらいいなっていうだけね。一番は、『男女が一緒に生活する』っていうタブーを、あなたたちなら面白くできるっていう期待も込めてる。最悪、出せなさそうな映像が撮れちゃったら、予定を無理やり変更してもいいしね」

 

 リスクが高いなぁ、とは思う。『project:eden』自体の評判に影響するような話だ。こういうものは考えすぎなくらいがちょうどいい。イベリスなら評判が下がったことに対するケアも考えているだろうが、下がらないことが一番いい。

 演者は俺たちだ。断る権利はもちろんある。

 

 ただ、俺たちなら面白くできるという信頼に応えたくもある。

 

「……ん? そう言えば生活を収録するなら、『楽園都市』当日はどうするんだ? 映像を流すだけか?」

「会場のお客さんと一緒にみて、反応してもらうわ」

「ものによっては地獄ね……」

「まぁ、いいんじゃないか? その、一緒に生活というのは楽しそうだし……」

 

 もじもじするアザミにキュン。それを言われると弱い。

 恐らく、月宮さんはどちらかと言えば反対派だろう。渡る必要のない危ない橋を渡るような性格ではない。俺もどちらかと言えば反対だ。二人でなんとかしてイベリスを納得させよう。自然とアイコンタクトをして頷き合った時、満が眠そうな声をふにゃふにゃと発した。

 

「よくわかんないけど、みんなでおとまりできるの? 楽しそうだねぇ」

「やりましょう、ニコ」

「あぁ、やろう」

「決まりね!」

 

 結論。満が可愛くて反対できなかった。ま、まぁ、使えない映像だったら方針変更すればいいしな。

 

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