稼ぎの少ないオカルト事務所所長、VTuberになる   作:酉柄レイム

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第51話 ニッコリ探偵団一週間生活

「さて、今がどういう状況か聞かせてくれるか?」

「ハウススタジオに集合と言われ、一週間分の用意をしてこいと伝えられ、きてみたらそこら中にあるカメラ。まぁ、先日聞いたあの件だろうな」

 

 まだ三日くらいしか経ってないんだが……?

 

 ニッコリ探偵団で一週間生活。イベリスからその話を聞いたのが三日前で、一週間分の荷物を持ってハウススタジオに集合と言われたのも三日前。まさかとは思ったが、そのまさかだとは。だから帝斗と透華が「一週間後に会おう」って言っていたのか。なぜ俺はその時に確信せず、今確信したんだ?

 

 都内某所のハウススタジオ。3LDKの一軒家で、部屋はすべて2階にある。今こうして落ち着くまでは、ハウススタジオに来たのが初めてだから探検し、間取りは把握した。風呂は豪華だった。恐らく結構な値段がすると思う。

 

 ちなみに、探検はニッコリ探偵団で行った。「行こ!」と目を輝かせた満に俺も同じテンションで同意したのにも関わらず、満が月宮さんとアザミの手を引く形で。いや、別にいいけどなんか寂しかったな……。

 

 そうして探検を終え、月宮さんの「カメラは1階の共同スペースだけみたいね」というセリフで、あっ、そういうことか! と確信した。

 俺を確信に至らせた月宮さんはコーヒーメーカーで俺たちの分のコーヒーを淹れ、テーブルに並べてくれた。満にはココアを淹れているあたり、ちゃんと子ども扱いをしてくれている。

 

「ま、早いのも理解できなくないわよ。目的はどうであれ、問題になりそうっていうのは事実だし、撮るなら早めの方がいいもの」

「モーションキャプチャをつけているわけでもない。後の合成の手間、最終的に映像を採用するかの決定、それに伴う宣伝も考えれば、妥当な時期だな」

「それならもっと早くに提案があってもよくないか?」

「それはそうだけど、イベリスさんだもの。仕方ないわよ」

「ニコさん、大人になろうよ。コーヒー飲んでるんだから」

 

 子ども丸出しの発言が可愛い。あと状況を察して「佐藤さん」ではなく「ニコさん」と呼んだのも賢くてすごい。

 

 あの日、「自然体での映像が撮りたいから、モーションキャプチャなしで撮影する」と聞かされていた。その代わり、後ほどモーションキャプチャを装着し、実際の動きに合わせて合成用の映像を撮る必要がある。正直めちゃくちゃ安心した。こけてぶつけて壊してしまわないかと心配だったからな。

 

「さてと。一緒に生活するんだし、最低限のルールは決めましょうか」

「私に料理の心得はない」

「同じく」

「同じく!」

「……まぁ、いいわよ」

 

 不甲斐ない俺たちに頭痛を抑える仕草をして、月宮さんが料理当番となった。申し訳ない。俺が帝斗と透華に介護され続けているばかりに。

 別に、料理がまったくできないというわけではない。ただ、人に食べさせられるレベルかと聞かれればそうではないというだけだ。一週間チャーハンでいいなら俺が作るが、まさか年若い女性に一週間チャーハンを振舞うわけにもいかないだろう。

 

「しかし、意外だな。アザミは大体何でもできると思っていた」

「できないわけではないが、月宮優姫の手料理が食べたいからできないことにした」

「えー! アザミさんも料理できるの? 食べてみたい!」

「ふふ、そうか。なら交代制にでもするか」

「人のこと言えないけど、満ちゃんに弱すぎるでしょ」

 

 俺たち全員がそうだ。満の手にかかれば、アザミの無表情も一瞬にしてふにゃふにゃにできる。アザミが料理を振舞ってくれるとわかって「やったー!」と万歳している姿などふにゃふにゃにならない理由がない。いいよな、普段落ち着いている人が年下の子を見て優しく笑う姿。元来の性格の良さが見えるし、それだけで周囲の空気も柔らかくなる。

 

「トイレは1階と2階にあったな。2階は俺が使おう」

「夜中にニコのトイレの音で目を覚ますのは癪すぎるにもほどがあるから、夜中にトイレはしないでくれ」

「俺がおねしょをしてもいいというのか!?」

「我慢しなさいよ」

 

 確かに。

 

「風呂はどうする? ニコが私たちの残り湯を飲み干す可能性を考慮すると、ニコが先に入った方がいいか」

「えげつない可能性を考慮するな!」

「でもニコさん。ちょっとは気にするでしょ?」

「……」

「返す言葉がなくなったわね。そうしましょ」

 

 俺を完全に理解している満の言葉に粉砕され、風呂の順番が決定した。いや、でも仕方なくないか? いくら性的対象として見ていないとはいえ、月宮さんとアザミは美人だ。そして俺は自他ともに認める童貞であり、「……さっ、さっきまでここに」と考えない自信がない。童貞でなくとも男なら考えるはずだ。多分帝斗は考えないが、あいつは人間ができすぎているから除外だ、除外。

 

「あと、掃除ね。私たちの家じゃないし、出て行く時は綺麗にしておかないと」

「俺がやる! このままだと何もしないくせに一番風呂をいただいてしまう!」

「危なかったねニコさん。生活でも仕事がなくなるところだった」

「ふっ」

 

 アザミのツボだったらしい。顔を背けて肩を震わせている。俺が無職なのがそんなに面白いか? あと今更だが、俺のキャラとして定着しているのが『無職童貞厨二病』って終わってないか?

 

「1階のトイレは私たちでやるか」

「あ、じゃあ私がやる! あとあと、料理もお手伝いしたい!」

「そう。じゃあお願いするわね」

「はい!」

 

 月宮さんが満を撫で、聖母の微笑み。美しい。なんかこう、月宮さんとアザミは満をまっとうに子ども扱いしてくれるから、何割か増して満が子どもっぽくなるんだよな。思えば、俺が情けなさ過ぎて満がしっかりしなければいけない場面も多かっただろうから、子ども扱いしてくれる存在はありがたい。俺はどちらかと言えば、子ども扱いというより相棒だと思っているからな。

 

「寝室は三人で分けるとして、ニコはどうする?」

「まずは俺がナチュラルに部屋を与えられなかった理由を教えてもらおうか」

「私と一緒に寝るからではないのか?」

 

 ソファの背もたれを越えて後ろに滑り落ち、床を転げまわる。いっ、一緒に寝るだと!? 両親か満としか一緒に寝たことがないこの俺が!? 別世界も合わせると透華と月宮さんとしか一緒に寝たことがないこの俺が!? そんなことをしたら、何か間違って自分が何かしないか不安になって、縄で自分をぐるぐる巻きにした上で、一切眠らないように針の上で正座する自信がある!

 

「流石に冗談だ。ニコも男だからな」

「ま、まったく。そういう冗談はやめろ。俺が相手だったからよかったものの」

「ニコが相手だから言っているんだ。信頼しているからな」

「なんだ! そうか!」

「チョロすぎるわよ、あんた」

 

 信頼してくれているなら仕方がない。可愛い冗談じゃないか。目くじらを立てる必要など一切ない。ふふ、俺にならどんな冗談を言ってもいいと思ってくれるのは嬉しいな。信頼、いい言葉だ。今までほとんど縁のなかった言葉だけに心に沁みる。月宮さんに「チョロすぎる」と言われた気がしたが、「チョコ好きすぎる」の聞き間違えだろう。俺がチョロいわけがないからな。

 

 立ち上がり、キッチンにあったチョコを取り出して月宮さんに渡し、首を傾げられたところで再開。

 

「満が嫌なら、俺はリビングで寝るが」

「え? んー、別にいいよ? ニコさんだし。でも、月宮さんともアザミさんとも一緒に寝たい!」

「アザミ、勝負よ」

「わかった。法律を破って銃火器を製造するから待っていてくれ」

「誰も求めてないわよそんなバイオレンスな決着」

「確かにニコの言う通り、製造だけで一週間が終わってしまうな」

「言ってないぞ?」

 

 思ってはいたが。

 

 月宮さんとアザミが睨み合っている。パフォーマンスだろうが、マズい。満を取り合う形で二人が喧嘩のパフォーマンスをしてしまったら、満が気にしてしまう可能性がある。

 満を見る。気分よさそうにしていた。完全に俺の影響だ。違う方向でマズかった。

 

 一触即発に見える空気を醸し出しつつ、やはりそこは大人な二人。すぐに「その日誰と寝たいかは満に任せる」という結論に落ち着いた。「もっと取り合ってくれてもよかったのに……」という満の発言は無視することにした。

 

「あとは何かある?」

「一つ大事なことがある」

 

 アザミが真剣な顔で俺の顔を見ている。まぁ、そうだよな。満がいるとはいえ、女性の中に男一人。信頼のおける仲ではあるが、男女に関わるルールは厳密にしておくべきだ。アザミはその辺りを気にしなさそうなキャラだと思われていそうで、面白そうなことに一直線ではあるが、考え無しというわけではない。

 

「ニコに着替えを見られた時、きゃー! と言うか否か」

「それのどこが大事か聞かせてもらえるか?」

「キャラの話だ。正直に言えばそこまで気にせんが、私のようなキャラが着替えを見られた時、女性らしい反応をすることが果たしてウケがいいのか悪いのか」

「多分ニコさんが先に、きゃー! って言うと思うよ」

「その後に、ゆっ、ゆゆゆゆゆゆゆ、許してくれ!! って慌てふためいて、壁とか家具とかに体ぶつけながら去っていくのが想像できるわね」

「殺人鬼にでも追い詰められてるのか? 俺は」

 

 アザミの着替え姿は確かに殺人級ではあるかもしれないが、待て、今のはなしにしてくれ。そんな目で見るな満!! なんでお前は最近俺の思考を簡単に読んでくるんだ! これは感嘆するしかないな。ハッハッハ!!

 

 満の視線が更に冷たくなった。おかしいな、俺の激うまジョークが通じないとは……。

 

「そんな心配はせずとも、二人の部屋に勝手に入るような真似はせんし、二人が風呂に入っている時は風呂場に近づかない」

「しかし、それは入っていることを知っている場合のことだろう? 気づいていない場合はどうする? 風呂の時間帯を決めたとしても、ふとした瞬間に忘れてしまうことはありえる」

「それなら、扉に『入浴中』と書いた札をさげておいてくれ」

「もしそれを私が忘れていた場合、すなわち『入浴中ではない』ということになってしまう。もしくは、『入浴中』という札がなく、音で風呂に入っていることに気づいた場合、『入ってきてもいいよ』のサインと捉える可能性はないか?」

「そっ、それは確かに……!」

「満ちゃん。バカ二人は放っておいてお昼ご飯作りましょ」

「はーい」

 

 結論、俺は脱衣所の扉を開ける際、念のために「きゃー!」と叫び、誰かが入っていれば入っていると答えてくれることになった。これでよかったのか……?

 

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