稼ぎの少ないオカルト事務所所長、VTuberになる   作:酉柄レイム

56 / 227
第54話 VTuberになった理由

「VTuberになった理由?」

「せっかくの機会だから、聞きたいと思ってな」

「あぁ、ステージをもらえるという特別な機会に合わせて、ということか。多方面を気にするニコらしい考えだな」

「そういうことは察しても言わないであげて」

 

 図星を突かれた俺は平然としようと心掛けたが、月宮さんに「震えてるわよ」と指摘された。どうやら俺にポーカーフェイスというやつは不可能らしい。

 

 プールの時もそうだったが、やはり一日二日を共に過ごせばすぐに慣れてしまって、ついに明日で最終日となった。この適応能力の高さがあってなぜ社会に出られなかったのかという疑問があるが、社会に出られないような職を選んだことが原因だと結論が出た。そのせいで俺がコミュ障をこじらせたところもあるしな。つまり俺の能力は元々高く、ただそれを発揮する場所に恵まれなかったというだけである。困ったな。そろそろ俺の能力に気づいて、各国が動き出しているところかもしれない。外国語の勉強をしなければ。

 

 VTuberになった理由。正直、月宮さんとアザミはVTuberになる理由が見当たらない。元々好きだったから、というのはよく聞く話だが、二人はそうでもなかったようだし、職がなかったわけでもない。確かに、『特別な機会に特別な話を』という意識がなかったわけではないが、俺自身が気になったのも事実だ。仲良くさせてもらってはいるが、こういった真面目方面の話はそんなにしたことがなかったしな。

 

 俺の質問に、月宮さんが顎に指を添えて考え込む。満も真似して、アザミがサイレントで写真を撮り始めた。それ後で送ってくれ。

 

「理由をつけるなら、ネット方面での顔がほしかった、って感じね。VTuberになったら嫌でもネットの流れは把握しておかないといけないし、探偵業にもいかせそうだったから。あとは、事務所の人に息抜きとして勧められたっていうのもあるわね」

「息抜きに、か。むしろ仕事が増えて息抜きにならなさそうな気もするが」

「何も生み出されない時間があまり好きじゃなかったのよ。ほら、VTuberって仕事としてゲームとか色々できるでしょ?」

「仕事という建前でなければ息抜きもできないほど、ワーカーホリックだったということか」

 

 アザミの言葉に、月宮さんが軽く頷く。おい満、なぜ俺を見る。まるで俺がワーカーホリックから最も遠い人間だとも言いたげな目をしやがって! 俺だって依頼がどしどしきていたら、それこそワーカーホリックに相応しい働きをするぞ。何もない時間は好きだが、働くことが嫌いなわけではない。俺の力を正しく扱える場としてオカルト専門探偵事務所を立ち上げたわけだしな。それなのに働きたくないというのは、辻褄が合わないだろう。

 

「結果的に、ちゃんとした息抜きにはなってるわね。あんたたちがいるし」

「嬉しすぎる」

「少し照れているところもポイントが高いな」

「月宮さん可愛い!」

 

 そうだよな、私たちがいるからな。といってにじり寄るアザミを押しのける月宮さん。いじる対象を見つけたらとことんだな。普段の俺とアザミは周りから見るとあぁ見えているのか。こうして見ると、俺がアザミに転がされている姿がある程度人気を持っている理由がわかる。いじる相手が俺と月宮さんでは、人気の種類も異なるだろうが、根本的には同じだろうし。

 

 結局、押しのけても下がらないアザミが月宮さんの隣に座り、肩と肩が触れ合う距離まで密着することで決着がついた。アザミが薄く笑っているから、月宮さんの言葉がかなり嬉しかったんだろう。ほんとに可愛いな、この人。これで自分がどう映っているかを把握してやっているから末恐ろしい。その上、自分の感情に嘘偽りがないから更に恐ろしい。演技というわけでもないから素で可愛い。同期として誇らしいな。

 

「ニコはどうなのよ。言い出しっぺ」

「恥ずかしい話、金だな」

「何も恥ずかしい話ではないだろう。なぜか日本の教育では金の話をほとんどしないが故、金を目的とすることがある種のタブーとされているが、だからといって金を目的とすることが間違いというわけではない」

「雇う側としてはありがたい話しよね。ニコみたいに情があって、なおかつお金を目的としてるなら、これ以上に操りやすい人間はいないし」

「それは褒められているのか?」

「ニコさんは面白いねってことじゃない?」

 

 なんだ、そうか。ならいつも言ってもらっていることと同じだな。

 

 金。そう、金だ。事務所を立ち上げても全然依頼がこないから、別で金を生み出す必要があった。幸運なことに活動が軌道に乗り、そこそこ稼がせてもらっている。もう専業にしていいくらいじゃないかと思いもしたが、オカルト関連で困った人の逃げる場所として、事務所をたたむことはあり得ない。別世界の俺もほとんど依頼はなかったようだが、それでもちょくちょくはあったようだしな。この世界でもいつか依頼がくると信じている。

 

 それに、いつも面倒を見てくれる帝斗と透華に甘えたきりではよくないという思いも強かった。あの二人は底抜けにいいやつだから、きっと俺が依頼のない探偵事務所の所長だけを続けていても、ずっと面倒を見てくれていただろう。しかし、それに甘えたままでは、一生依頼のない探偵事務所の所長、いや、置物としての人生だった。それではいけないと思った。いつか、俺が稼いだ金で、旅行をプレゼントしようと考えている。親孝行と似た感覚だな。

 

「ただ、金という割には投げ銭がオフのままだな」

「いつかの配信で言った気がするが、対等じゃなくなりそうで嫌なんだ。VTuber、配信者とは視聴者との距離が近いからこそいいと思っている。配信者側から見ても、視聴者側から見てもな。ただ、そこに投げ銭という目に見えた金銭が発生すると、情けない言い方をすれば『その金額分の働き』を意識してしまうんだ」

「要は、お金を払って友だちと話す人なんていないってことね」

「それが一番近い。流石月宮さんだ」

 

 諸々との兼ね合いがあるから、何かしらの記念配信では投げ銭をオンにしようと思っているが、基本的にはナシだ。無意識のうちに投げ銭をした人を優遇してしまいそうで怖い。俺と視聴者、そして視聴者同士のパワーバランスはできるだけ均等にしたい。……金を目的と言いつつ、面倒くさい性格をしているな。

 

「アザミは?」

「最初は何としてでもシゲキを地獄に落とそうと思って入ろうとしていたんだが」

「詳しいことは聞かないが、そのシゲキに対する殺意はなんなんだ……?」

「命まで取ろうとは思わん」

「アザミさんに関しては、命を取らない方が怖いと思う」

 

 アザミに優しい微笑みを向けられた満が、俺を盾にして「ごめんなさい!」と一瞬で謝罪。明確な怒気より笑顔の方が怖いよな。わかる。怒気なら『怒り』という感情しか選択肢がないが、『笑顔』はこちらに想像の余地を与えてくる。つまり、選択を間違えれば終わりということだ。明確な恐怖に正体不明の恐怖がプラスされる。相手がアザミならなおさらだ。

 

「だがってことは、別に理由があるの?」

「あぁ。実は、元々『project:eden』は内側からシゲキを破壊するために裏方として関わっていたんだが、当時面接にきたニコを見かけてな」

「人に対して破壊という表現は、もはや神の視点だな」

「っていうか、あのときアザミさんいたの!? 声かけてくれたらよかったのに!」

「当時のニコは、緊張のあまりか震えに震え、エレベーターが到着した瞬間腰を抜かし、腰を抜かしながらエレベーターに乗り込み、腰を抜かしながらエレベーターを降りていたからな。声をかけるより観察する方が面白いと判断した」

「そういえばニコさん、腰を抜かす動きで移動してたかも」

「俺はそんなグリッチみたいな移動をしていたのか……?」

「その上、満と話していたのか周りから見れば独り言満載だった」

「完全に不審人物じゃない」

 

 腰を抜かしながら移動し、独り言を吐き続けるだと? なぜそれで面接に受かったんだ。恐らく『project:eden』だからだろうが。

そういえば当時の記憶がまったくないから、緊張しすぎていたんだろう。まさかアザミと会っていた……正確には見られていたとは思わなかった。俺がちゃんとしていれば、「あっ、あの時の!!」っていうやつができていたかもしれないのに、不甲斐ない。

 

「当時のニコを見て同期になることを決意した。面白過ぎたからな。近くで観察しないわけにはいかない。そう思えば、満が羨ましいな」

「でしょ! 特等席だよ!」

「私はニコが羨ましいわ。こんなに可愛くていい子の満ちゃんとずっと一緒なんて」

「そうだろう! 特等席だぞ!」

「ふふ。ほんと可愛いわね」

「知っているか月宮優姫。カップルが長続きする秘訣は、女性側が男性を可愛いと思えるかどうからしいぞ」

「震えあがって寿命が縮まるようなこと言わないでよ」

「俺に精神的苦痛を与えるようなことは言ってもいいのか?」

 

 許容の心、というやつだろうか。例えば男がだらだら過ごしていても、働け! ではなく、可愛いなと思えたらストレスがたまらず長続きする、みたいな。俺が可愛いと言ってもらえるのは満がいてこそのことだと思うから、満が隣にいなければ俺は一生独身……?

 ま、まぁいいだろう。生物として子孫を残すことは正しいと言えるが、それに抗ってこその人類。繁栄というものは何も数だけで表されるものではない。思想の広がりもまた繁栄。多様性という点では俺のような人間がいてもいいだろう。

 

「今となっては、ニコが面白いというのももちろんあるが、優姫もニコも満も好ましく、一緒にいて居心地がいいから続けている」

「アザミ。私と二人きりの時の呼び方が出ちゃってるわよ」

「……」

「ズキューン!!!」

「ニコさん。激しくキモい」

 

 珍しくアザミが頬を赤くして視線を逸らした姿を見て撃ち抜かれた。いつもは人のことをフルネームで呼ぶアザミが、月宮さんのことを『優姫』と呼び、それが二人きりの時に表れる呼称だという事実。普段計算で周囲を盛り上げるようなことをしてくれるアザミの計算外の盛り上げ。それによる恥じらい。それを嬉しそうににやにや見つめる月宮さん。すべてがパーフェクト。

 

「アザミ、どこまで俺の心を乱せば気が済むんだ」

「うるさい」

「ありゃ、本気で恥ずかしがっちゃってるわね」

「アザミさん! ごめんだけどすぐいつも通りに戻って! ニコさんがキモい死に方しちゃう!」

「べ」

 

 アザミが子どものように小さな舌をべっと出した瞬間、俺は蜂の巣にされた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。