稼ぎの少ないオカルト事務所所長、VTuberになる 作:酉柄レイム
特に重大な事件もなく、一週間生活を終えた。この後は映像をスタッフが確認し、ステージで映す分を選定。そして、その映像に合わせてモーションキャプチャを装着し、俺たちが動き、映像と合成。かかる手間を考えれば、『楽園都市』4カ月前の今に撮影した理由も頷ける。
一週間生活が終わったら暇になる、こともなく。
今日は、星菜さんと明さんの3Dお披露目当日だ。
「ふぅっ……ふぅっ……!!」
「あはは。ニコさんの方が緊張しちゃってる」
「私らが主役なんだけどねぇ」
『project:SP』で俺たちの番組が続くかどうか、中間発表を運営から聞かされた。ありがたいことに票数を集めており、きっと星菜さんの3Dお披露目が重なったからだろうと推測する。そのこともプレッシャーになり、俺の失敗一つですべてが台無しになったらどうしようという後ろ向きな思考が頭の中でぐるぐる回る。いや、後ろ向きだから回っていない。後ろ向きに脳が移動している。鏡を見ていないが、きっと今の俺の頭はぬらりひょんのようになっていることだろう。
「なってないよ」
なっていないらしい。よかった。
もちろん、プレッシャーに押しつぶされそうという後ろ向きな感情だけではない。単純に二人の3Dお披露目は楽しみだし、全力で応援したい気持ちがある。星菜さんの歌を聴いた時に早く3Dで見たいと思った気持ちに偽りはない。
ただ、サプライズだ。その合図を俺がするなんて、どうかしてるんじゃないのか? もし俺が「突然ですが、ここでサプライズです!」なんて言ってしまったらどうするつもりなんだ? 事前告知するサプライズなんて聞いたことがあるか?
「満ちゃん。これって、私たちが緊張しないように気を遣って、過度に緊張してるように見せてくれてる、みたいなこと?」
「そんなわけないよ」
「ふふ。それくらい私たちのお披露目を大事に思ってくれてるってことですよね! ご期待に添えられるよう頑張ります!」
握りこぶしを作りやる気を見せる星菜さん。なんでこんないい子の前で、俺はうじうじ悩んでいるんだ……!! 情けなさ過ぎて涙が出そうだ。俺にもっと社会経験があれば、こんな状況でも緊張しなかっただろうに。
思えば、自分が主役とならない大事な舞台というのは初かもしれない。3Dお披露目なんて人生に一回だ。その人生に一回の大事な舞台を、俺が汚してしまう可能性を考えると我慢ならない!
「は、吐きそうだ」
「大変! えーっと、えと、はいニコさん!」
満が大慌てして、『もしも俺が緊張のあまり漏らしてしまった時用』に持ってきたパンツを荷物から引っ張り出し、俺の前に広げる。何が悲しくて、女子高生と女子大生の前で、吐きそうになりながら自分のパンツを広げられなきゃならないんだ……!! あまりの仕打ちに吐き気が引っ込んだ。「もう大丈夫だ」と伝えると、満が安心したようにパンツを畳んで荷物にしまう。お前、それはパンツと認識しているやつの動きじゃないか?
「なんか、ニコさんがここまで緊張してくれてると落ち着いてくるね。これでも結構緊張してたんだけど」
「ごめんね、明さん、星菜ちゃん。ニコさんがこんな調子で」
「んーん! ニコさんらしいし、全然! むしろ、今のニコさんを私たちのお披露目で笑顔にできるって思ったらやる気出てきたもん!」
光か? どういう教育をすればこんなにいい子が育つんだ? ぜひ将来の参考に聞かせてほしい。将来を共にしてくれる相手が現れるかどうかはともかく。
この、なんだ。こうも真正面からいい子だと、なんとかして力になりたいという思いが沸いてくる。緊張して震えている場合ではない。年長者らしく、激励を送るべきだろう。意を決した俺は膝を叩いて立ち上がって二人を見つめた。
「えー、本日はお日柄もよく……」
「ニコさん。勢いだけで行動するのやめよ?」
「ぷっ、なんかやってくれようとしたことは伝わったからいいよ」
「ありがとうございます! ニコさん!」
こんなのでお礼を言ってくれるなんて、どこの世界を探しても二人といないんじゃないだろうか。このまま引き下がるのはあんまりだから、「が、頑張れ」と言っておいた。
初めて満点の星空を見た時。自身が抱いた感情が何なのかわからなかった。ただ目の前の光景に圧倒され、称賛以外何も見つからない。手を伸ばせば届きそうで、しかし絶対に届かない。
今目の前に広がる光景が、まさにそれだった。
「まさか、二人でアイドルするなんてねー」
「あぁ……見事だ」
俺と同じく、ゲストで呼ばれていたマリーがいつの間にか隣に立っていた。満は俺から離れ、前のめりになって明星姉妹に夢中になっている。
夜空を思わせる衣装に包まれた明星姉妹が、同じ人間なんじゃないかと思ってしまうほど息の合った動きで、息切れも感じさせず、芯の通った歌声が鼓膜を通って心に響く。
正直、意外だった。明さんは星菜さんを立たせるために動き、自身はあくまでサポートで、星菜さんと一緒に歌って踊るなんてことはないと思っていた。今もサポートといえばサポートで、星菜さんを輝かせるような立ち回りをしているが、それでも明さんは目立つ。『そんなことをやるイメージがない』というだけで、多くの視線を引き寄せる。
「なんか、せなちーにめちゃくちゃお願いされたらしいよ。お姉ちゃんと一緒に踊りたい! って」
「なるほど。確かに、可愛い妹の頼みなら断れるはずもない」
「元々、せなちーをサポートするためにダンスレッスンとかボイトレとか、せなちー以上に頑張ってたしね。技術だけで言えばめっちゃ高いから、もったいないなーとは思ってたんだけど」
カリスマや魅力は、天性のものが強い。その点で言えば星菜さんが抜けているが、細かく見れば明さんの方がうまい。星菜さんの立ち位置、歌声の抑揚、すべてを気にして把握して、自身がそれに合わせて動き、歌声を変える。なるほど、同じステージに立っていても、明さんは明さんということか。
「やー、まさか『project:eden』で見事なアイドルステージを見ることになるなんて」
「……俺、ついに炎上するんじゃないか? あんなものを見せられた視聴者が、俺と星菜さんが一緒にいることを黙っているはずがなくないか?」
「ウケる」
「ウケないが?」
あのパフォーマンスをされれば、『project:eden』の視聴者層を越えて、各方面から視聴者を獲得することだろう。そうなれば、俺に矛先が向いてもおかしくない。アイドルに男の影はいつの時代もご法度だ。もちろん俺にそんなつもりはなく、普通に考えれば女子高生とそういう関係になるわけがないが、世間がそう思うかは別の話だ。年齢という要素を取り除けば、星菜さんは魅力的な女性だ。ファンが「男は近づくな」と声を上げても納得できてしまう。
「くっ、どうするべきだ……! 星菜さんの活動を考えれば距離を取るべきだが……」
「そういえば、勝負でニコちーに勝ったら一緒に遊園地行きたいって言ってたよ」
「終わり散らかしたな」
「終わるだけじゃなくて?」
あぁ、散らかした。その発言が飛び出すだけで炎上必至だ。星菜さんからすれば、人懐っこいだけで色恋云々はまったく考えていないだろうが、周りから見れば本人の意思など知ったことではない。応援していながら本人の意思を無視するのは意味がわからないが、コンテンツとはそういうものだ。
「一緒に番組やってるのに、一緒に遊びに行ったことないって怒ってたよ?」
「それを言われると弱いが……そうだ! もしそうなったらついてきてくれないか?」
「えっ、あっ、いっ、いいの?」
「激重感情を察知して飛んできました!」
「チッ」
「今舌打ちしたか?」
わかりやすいくらい慌てて、上目遣いでもじもじし始めたマリーの視界を遮るように満が飛んでくる。あれだけ夢中だったステージを置いて飛んでくるということは、よっぽど激重だったんだろう。帝斗がここにいたらキャッチボールに誘ってきたかもしれない。
満はちらちらとステージを気にしながら、俺に向き直る。
「大丈夫! 明さんがちゃんと星菜ちゃんを止めてたよ。『アイドルなんだから、男の人と積極的に関わるのはやめとこうね』って!」
「流石明さんだ!」
「でも、『じゃあ男の人と積極的に関わるアイドルでいい!』って駄々こねてなかったっけ」
「流石星菜さんだ!」
……まぁ、本人がそういうならいいのか? そこまで頑固に言い張るなら、何を言っても聞きそうにないしなぁ。明さんから聞いた話だと、男と関わるなという声自体は実際にあったようだし。配信で取り上げると確実に反論し始めるからと制御していたらしい。幸いだったのは、星菜さんが色々言われたところで自分は間違っていないと信じ続け、メンタルにまったく影響しない強さを持っていたことだろう。
「……いや、まず大前提俺が勝負で負けなければいい話なんじゃないか?」
「ウケる」
「何がウケるか聞かせてもらおうじゃないか」
「言わなきゃわからない……?」
「告白前みたいなセリフやめろ」
けらけら笑うマリーに肩を落とす。
もう考えるのはやめよう。なるようにしかならないんだ。もしもの時は情けないが事務所に助けてもらえばいい。そのための事務所だ。イベリスも、『project:eden』は好きに表現できる場所にしたいと言っていたしな。星菜さんの表現の内に俺がいるのなら、それに応えなければ『project:eden』の意に反する。
「ま、今日は気軽に3Dお披露目の予行演習とでも思っておけばいいか」
「そーそー。考えんのはいいことだけど、考えすぎんのも毒だよ?」
「人生には毒も必要だろう?」
「社会経験ほとんどないくせに、何分かったようなこと言ってんの」
「真理さん! せっかくニコさんがキメ顔作ったのに!」
「追い打ちかけてね?」
恥ずかしい……。消え去りたい……。
ニッコリ探偵団 視聴者支部 part14
97:このライバーがすごい! ID:vfx8eFGxp
ニコが明星姉妹の3Dお披露目に出るぞ!
98:このライバーがすごい! ID:FKw82jUSV
ニコ、何をやらかすつもりだ?
99:このライバーがすごい! ID:4MeYb/pCJ
ニコの登場を待つだけのつもりが、めちゃくちゃ見入ってた
100:このライバーがすごい! ID:oyzombaUb
流石アイドル
101:このライバーがすごい! ID:akfEpPNBF
ちょっとニッコリ探偵団が歌って踊ってるところを見たくなっちゃった
102:このライバーがすごい! ID:h2QAtFFjq
ニコ、絶対踊れない
103:このライバーがすごい! ID:WYSBcjQzJ
めちゃめちゃガチャガチャな動きになりそう
104:このライバーがすごい! ID:t87h7WuV2
バンドでもいいぞ
105:このライバーがすごい! ID:7G3urIkeH
ニコ、なんかカッコいいからってギターの練習とかしてそう
106:このライバーがすごい! ID:wqIHXhqaN
優姫ちゃんとアザミんはどうせ天才だから何かしらの楽器弾けるだろ
107:このライバーがすごい! ID:JBlpVNO5A
満ちゃんはドラムか?
108:このライバーがすごい! ID:tnZfGLK5s
元気っ子は自動的にドラムだろ
109:このライバーがすごい! ID:z1uYxzsIZ
イメージ的に
ニコ⇒ギター
優姫ちゃん⇒キーボード
アザミん⇒ベース
満ちゃん⇒ドラム
っぽい
110:このライバーがすごい! ID:T/soPxo/p
一瞬で腹話術っぽいものを習得したニコなら、ギターボーカルもいけるはず
111:このライバーがすごい! ID:qypKNgosZ
まさか、楽園都市のステージでバンドをやる気か!?
112:このライバーがすごい! ID:g1zJxuNVO
>>111
多分、ニコの性格的に音楽関係はやらなさそう
113:このライバーがすごい! ID:x5SlqB54U
>>112
まったくやらないっていうより、少なくともお金を取るような場ではやらない気がする
114:このライバーがすごい! ID:NILb/bo7t
お金取るようなレベルじゃないって優姫ちゃんも言いそうだしな
115:このライバーがすごい! ID:SdH+o22Ic
ニッコリ探偵団が何かやるならいくらでもお金を払いたい
116:このライバーがすごい! ID:/6mA8uj9T
消費のプロを舐めてもらっちゃ困るよな
117:このライバーがすごい! ID:5zGVjmSl9
ニッコリ探偵団はもっと俺たちに金を払わせろ
118:このライバーがすごい! ID:tblBijn+1
明星姉妹の3Dお披露目、投げ銭解放されてるからここで投げればいいのでは?
119:このライバーがすごい! ID:z9+VVVguB
>>118
投げること自体は否定しないけど、よそ様の配信だからお行儀よくな
120:このライバーがすごい! ID:TtEFCXRe6
あくまで明星姉妹へのお祝い金として投げるべきだ
121:このライバーがすごい! ID:aTFlQRhQ3
ニコがお世話になってますとかもだめ?
122:このライバーがすごい! ID:dR0bxM3bv
>>121
身内ノリはNG
ニコなら俺たちのアカウント名で気づいてくれるはずだ
123:このライバーがすごい! ID:4QQB/dLO3
要はニコに送るつもりで自己満投げ銭ってことね
124:このライバーがすごい! ID:ZGHB1WOxx
>>123
然り
俺たちに投げ銭させないとこうなるということを思い知らせてやろう
125:このライバーがすごい! ID:cLelzMj68
つまり、投げ銭を稼ぎたいならニッコリ探偵団を呼べばいいってことか?
126:このライバーがすごい! ID:xohDWpFmi
ニッコリ賽銭箱!?