稼ぎの少ないオカルト事務所所長、VTuberになる 作:酉柄レイム
「さて、今日集まってもらったのは他でもない。公式番組にお呼ばれしてしまった。助けてくれ」
「他力本願すぎるだろ」
「まぁ、今に始まったことじゃないっスね」
エデンズリングをクリアするまで終わらない配信。月宮さんとアザミさんがきてくれたからなんとかなったが、あの後も『ミッドナイト・サイコチャレンジ』を何度か開催し、見事チャレンジクリアしたものもあれば、クリアできずに罰ゲームを受けたものもあった。7/8くらいだな。ちなみに、クリアしたものが1で、罰ゲームを受けたものが7だ。
そんなこんなで、もうすぐVTuberとなり一か月。大手に所属したこともあってか、チャンネル登録者もじわじわと伸び続け、もうすぐ7万人。月宮さんとアザミさんはもうすぐ10万人だ。
そんな順調にVTuber人生を送っていた俺に訪れた新たな問題、それが公式番組への出演である。
俺が所属している『project:eden』はVTuberの事務所として大手であり、公式番組と銘打って、いくつか公式チャンネルで配信、もしくは動画投稿を行っている。出演依頼がきたのはそのうちの一つ、『えでんずたいむ!』である。
「『project:eden』に関わりのあるトピックを拾う情報番組みたいなもんだっけ?」
「助けてくれっていうような内容じゃないと思うんっスけど。新人紹介みたいなもんっスよね」
「いや、落ち着いて聞いてくれ。『えでんずたいむ!』は基本的に動画配信だが、新人紹介の時は生配信で行われる! しかもだ、事務所に行って、スタジオ収録でだ!」
これがどれだけ恐ろしいことか! MCは先輩ライバーでもちろん初対面。月宮さんとアザミさんも何度か喋ってはいるが、顔を突き合わせるのは初めてだ! 今まではネットを通じて声だけだったからなんとかなったものの、実際に会ったら人見知りする自信しかない!
「そこで俺は考えた! 俺が人見知りするのはもう仕方がない! そういう性格だ!」
「社会性まったくねぇしな」
「社会に出るべき人じゃないっスもんね」
《ちゃんと大学まで出てるのに、友だち二人だけだもんね》
「仕方がないとは言ったが、どうぞ攻撃してくれと言った覚えはないぞ」
帝斗と透華だけじゃなく満まで……!! いや、言われても仕方がない。この二人は俺と友だちをやってくれているばかりか、生活を助けてくれている。なんならこの前も一生のお願いでエナジードリンク買ってきてくれたし。ただ、満という例がある以上、一生は最低でも二回はあることが証明されている! つまり、一生のお願いはもう一度使えるということだ!!
「帝斗、透華!! 一緒に事務所まできてくれ!!」
「嫌」
「嫌っス」
《ふん、そりゃそうだよ。常識考えたら?》
短く断られた俺は、絶望のあまり椅子から転げ落ちた。そこに満の追撃が刺さり、みっともなく背中を丸めてうめき声を漏らす。まぁそりゃそうだ。だって仕事でもないのに、26歳が人見知りするから一緒にきてくれって言われて、わかりましたって言ってくれるやつなんてこの世に一人もいない。
クソ、名案だと思ったのに……満に「帝斗と透華についてきてもらおう!」って言った時から機嫌悪くなったから、なんとなくダメだと思ってたけど。
「つーか、もし俺たちがよくても事務所がNGだろ。VTuberの中の人と会っちまうし」
「あ、そうか……」
「先輩。本当にちゃんとしてくださいね? 身バレって案外簡単にするもんなんスから。気にしすぎなくらいでちょうどいいんスよ」
そういえば、VTuberには中の人がいるんだ。あまりにもミッドナイト・サイコナイトが俺過ぎて忘れていた。普通はそうだよな。俺はもう俺が二次元になっているだけだけど、VTuberのガワと中身が違うのは当然の話。帝斗と透華は中身を拡散なんていうことはしないと俺は信頼していても、事務所はそうもいかない。
「ま、佐藤はそのまんまでいいだろ。今んところありのままがウケてるみたいだし」
「それに、満もいるんスから」
《ほんとだよ! まったく》
むすっとした満が腕を組んで、俺をじとっと睨んでくる。……もしかして満、機嫌が悪くなってたのって、「私がいること以上に心強いことないと思うけど?」とかそういうことだったのか?
《私がいるじゃん! 大丈夫、佐藤さんは一人じゃないよ!》
「……あぁ、そうだな。すまない帝斗、透華。俺も男だ、腹を決めた。満と一緒に、公式番組とやらに出てやろうじゃないか!!」
「話も終わったし、飯作るか」
「確か、罰ゲームで『5日間、ご飯の味付けはピーナッツバターのみ』だったっスよね」
俺の決意は、地獄くらい苦しい罰ゲームを思い出したことによりしなびて萎んだ。
「ハァ……ハァ……」
《佐藤さん、大丈夫だよ! ほら、深呼吸! 吸ってー、吐いてー》
公式番組、当日。久しぶりの外出、久しぶりの都心。六本木の街を彷徨って辿り着いたのは、めちゃくちゃ高いビルだった。このビルの7階と8階に、『project:eden』がある。一度面接の時にきたことがあるが、やっぱり全然慣れない。
ビルに入って、7階まで行けば楽屋があるらしい。本来ならマネージャーさんが迎えにきてくれるはずだったが、俺が「緊張して死ぬのでやめてください」と必死に頼み込んで一人にしてもらった。俺、マネージャーさんとまともにコミュニケーションとってなくないか?
《佐藤さん、このままビルの前でおどおどしてたら、不審者って思われちゃうよ! 覚悟決めて入ろう!》
「あぁ、そうだな! 行くぞ!」
「あれ? あんたもしかして」
「ぴぃ!!」
背後から声をかけられて腰が抜け、がたがた震える俺の前に現れたのは、二人の女性。
ふわふわの明るい茶髪を肩まで伸ばした美人可愛い女性と、隈を蓄えた、腰まで届く無造作黒髪のダウナー美人の女性。
「あ!! もしかして」
「バカ」
ふわふわ茶髪さんは俺の口を手で塞ぐ。そのまま俺の耳元に顔を寄せ……近い!! パーソナルスペースバグってないか!? 俺は人見知りでコミュ障だぞ!? 殺す気か!!
「あんた、ニコでしょ? 私とそっちのはあんたのお察しの通り。だけど、どこで誰が見てるかわかんないんだから、不用意に名前呼ぶのはやめなさい」
「……」
「そこまでにしておいてやれ。どうやらそいつはすさまじい童貞らしい」
「童貞に形容詞つけないでくれます?」
ふわふわ茶髪さんは月宮さん。ダウナー美人さんはアザミさん。さっきの月宮さんの言葉で確信した。あとアザミさんの失礼な発言で更に確信した。
アザミさんの言葉で、月宮さんが俺から離れる。そしてバッグからアルコール消毒液を取り出して、俺の口に触れていた手を念入りに消毒し始めた。あの、いや、別に俺の口が綺麗だとか言うつもりはないけど、なんか傷つくぞそれ。
「さて、それじゃあ行きましょっか」
「ま、待ってください! 心の準備を!」
「どうせ、数十分以上心の準備をしていたんだろう。大した成人男性だな」
「行ってやろうじゃないか!!」
「なるほど、そうやって扱うのね」
《佐藤さんの扱い方を学習されてる……》
先陣を切ってビルに入る。バカにしやがって、俺の堂々とした雄姿を見るがいい!
「何ッ……エレベーターホールが二つある!?」
「上層階と下層階で分かれてるんでしょ」
「7階ならこっちだな」
エレベーターホールが二つあるだけで動揺した俺とは違い、月宮さんとアザミさんはすたすたと歩いていく。俺の雄姿、見せ場なし。満が《佐藤さんと一緒にいると楽しいよ!》と励ましてくれなければ、俺の心はぐちゃぐちゃのズタズタになっていた。
「もちろん、わかっていましたよ」
「そ、えらいわねー?」
「くっ……甘やかしボイスだと!? 危なかった、もう少しで俺のママになってもらうところでしたよ」
「うわ、最悪」
「キモいタイプのコミュ障だな」
「なんでそう的確に人の心を抉る言葉を吐けるんです?」
《今のは完全に佐藤さんが悪いもん》
「自覚はある」
じゃあダメじゃん、という満の言葉は聞き流し、エレベーターに乗る。いや、だって帝斗と透華以外の人と顔を合わせて喋るの久しぶりだし、月宮さんとアザミさんってめちゃくちゃ優しいから、ちょっと距離感を間違えるというかだな……。二人とも面白ければオッケーみたいな人たちだから、「ママになってもらうところだった」というのも、罵倒しながら笑っていたし。なんだ? ここがエデンか? edenだった。
「そういえばあんた、MCの先輩のこと頭に入れてきた?」
「当然でしょう。こう見えて予習復習を完璧にやるタイプですからね」
《それ以外やることなかったもんね》
「うるさいな!」
MCの先輩は、一期生のイベリスさんだ。見た目は腰まで届く金髪、青を基調とした、金の刺繍が入った騎士服を身に纏う、美しい顔立ちのオカマ。最初見たときは何の冗談かと思った。まさかVTuber事務所の一期生にオカマがいるなんて。イベリスさんを見るまでは、VTuberはアイドル的なものだと思っていた。思えば、『project:eden』はアイドル売りもあるが、バラエティ売りの側面が強い。イベリスさんが一期生としてデビューしたのは、他の事務所とのすみわけ的な意味があったんだろう。
俺が事務所の意向について完璧な推理をしていると、アザミさんが俺をじっと見ていることに気づく。というより、俺の先にいる何かを、満を見ている。
「今のは満と喋ったのか? やはり本当にいるのか。興味深い。ニコ、収録が終わった後家に行ってもいいか? 満について色々調べたいことが」
「待ちなさい! いくらニコの家でも、男の家にそう簡単に上がるもんじゃないわよ!」
「今の『いくらニコの家でも』っていうのは、信頼的な意味だと思うか?」
《手を出すような度胸がないって意味だと思う》
満が俺の『男』を否定した瞬間、到着を告げる音。エレベーターのドアが開き、先陣切って降りてやった。別に、ちょっと傷ついたとかそういうことはない。
傷ついていたとしても、そんなものは一瞬で吹き飛んでいただろう。なぜなら、エレベーターを降りた瞬間、視界に飛び込んできたのは、豪華絢爛な装飾が施された椅子に座り、長い脚を組んで俺たちを出迎える男性。
「よくきたわね!! 未熟オシャレたち!!」
いや、オカマだった。
ニッコリ探偵団 視聴者支部 part3
250:このライバーがすごい! ID:+0K4koH4i
ニッコリ探偵団、一か月の軌跡
優姫ちゃん
推理ゲーをばったばったとなぎ倒し、雑談では『依頼』と称してお悩み相談
恋愛ゲームをやってほしいという要望を受け挑戦するも、「意味わかんない!」という一言とともに終了する
アザミん
満の声を何とかして届けられないかをずっと考えている
それ以外にも『効率的にニコへ罰ゲームを受けさせる方法』『効率的に月宮優姫の可愛い姿を視聴者へ提供する方法』を視聴者と討論している
ニコ
チャレンジ企画を行い、罰ゲームを受けた回数は8回のチャレンジ中7回
・エデンズリングをクリアするまで終わらない配信
・優姫ちゃんとアザミんをお姉ちゃんと呼ぶ
・三日間『パンティ男爵』と名乗る
・ホストボイスを披露
・歌唱披露
・クソゲー5本消化するまで終わらない配信
・5日間、ご飯の味付けはピーナッツバターのみ
251:このライバーがすごい! ID:h7AFbIgK4
やっぱり優姫ちゃん以外おかしくない?
252:このライバーがすごい! ID:iZ0l5bUJB
ニコも正統っちゃ正統な気が……
253:このライバーがすごい! ID:OqgHFYCIe
>>250
二つ目と三つ目の罰ゲームが被ったせいで、自らを「パンティ男爵」と名乗って同期を「お姉ちゃん」と呼ぶド変態が出来上がったのは腹抱えたわ
254:このライバーがすごい! ID:bi2cdOVcQ
バラエティ方向に舵切ったな
255:このライバーがすごい! ID:tjIKNtK4o
かと思えば、普通に歌うまかったし、ボイスも”使える”って声あったぞ
256:このライバーがすごい! ID:4WJA8Xi3z
優姫ちゃんは正統に可愛いし、アザミんは同期大好きで可愛いし、大当たりじゃないか?
257:このライバーがすごい! ID:0TNR5aEOJ
そんな三人が、ついにオフで会うんすよね……
258:このライバーがすごい! ID:HqMzkpPIC
えでんずたいむ! か
259:このライバーがすごい! ID:7y7tqB6sb
MCイベリスっていうだけでものすごいことになる予感しかない
260:このライバーがすごい! ID:y1YHmbiSM
ニッコリ探偵団からVTuber見始めたんだけど、イベリスって?
261:このライバーがすごい! ID:VVu4PwwX5
>>260
・『project:eden』一期生の一人
・『オシャレ』が口癖
・人を『オシャレかそうでないか』で区別する
・何かしらの会社の社長らしい
・多分オシャレ関係
・オカマ
262:このライバーがすごい! ID: y1YHmbiSM
なるほど
エグい
263:このライバーがすごい! ID:9muZKnvnq
一期生は他に二人いて、それぞれ『クール』『シゲキ』が口癖だったりする
264:このライバーがすごい! ID:+nDhgDCQm
しかも男・男・オカマという強気な構成
265:このライバーがすごい! ID:ZuppMJ2RX
だから俺、優姫ちゃんとアザミんみたいに可愛い女の子が入ってきてくれて嬉しいんだ……
266:このライバーがすごい! ID:Fokmtw8yZ
満ちゃんもな
267:このライバーがすごい! ID:pOnwaY3qq
オフで会うって、ニコ人見知り大丈夫か?
268:このライバーがすごい! ID:kUZAQGZly
なんだかんだ仲いいし、あの二人ニコの扱いうまいから大丈夫だろ
269:このライバーがすごい! ID:MhLK0N5TS
配信もイベリス様がうまくさばいてくれるだろうし
270:このライバーがすごい! ID:G9j2fQTLd
あの人、問題あるように見えて有能なオカマってだけだからな
271:このライバーがすごい! ID:Ml4HSm+FS
しっ、もう少しで始まるぞ!