稼ぎの少ないオカルト事務所所長、VTuberになる   作:酉柄レイム

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第64話 ランダムマッチ、ショートボイス

「ニコさん、満ちゃん、こんにちはー!」

「こんにちは、星菜さん」

「星菜ちゃん! こんにちは!」

 

 ランダムマッチ、ショートボイス当日。満と星菜さんの未成年が参加するということもあってか、昼の収録。別にオンラインでもできるだろうということでも、『project:eden』では「みんな仲良くなった方がクールだ」「みんな仲良くなった方がオシャレよ!」「全員馴れ合った方が、それがブチ壊れた時がシゲキ的になるだろ!!!」という一期生の心情の下、オフラインで収録することになっている。一人だけおかしい。いや、言ってしまえば全員おかしいが。

 

 満と星菜さんが手を繋いできゃっきゃはしゃいでいる姿を見て涙ぐんでいると、左右の肩をポン、と叩かれた。り、リストラ!!?

 振り向けば、アルとフレイルさんだった。よかった。リストラされていたらまた前の生活に戻るところだった。あの依頼のこない事務所で、満と暇を潰し、帝斗と透華に世話を焼いてもらう日々。……よく考えたら、『満と暇を潰す』という部分が『配信をする』に代わっているだけで、そこまで変わってないな。

 

「ウェーイ! ニコさんこんちゃ!」

「久しぶりじゃん、ニコ。最近っつーか、ずっと調子よさそうだな」

「アル、フレイルさん。こんにちは。いやぁ、調子がよかったことなんて今までの人生でなかったので、新鮮です」

「今まで調子よくなかったんなら、お前は根っからめちゃくちゃいいやつなんだな。人生の調子が悪かったら、もっとひん曲がってよさそうなもんなのによ」

「性格の良さはそのまんまで、面白くなる方にひん曲がったんじゃねっスか? 俺、最近ニコさんの配信見てんだよなー! マジおもれぇっス!」

「ふ、ふふふ」

 

 なんだこのいい人たちは。自己肯定感が上がりすぎて困る。褒められると調子に乗ってしまうからやめてほしい。嘘だ。もっと褒めてほしい。俺が普段褒めてもらえるのは、月宮さんやアザミが何気なく当たり前のように褒めてくれることと、俺が攻撃されすぎた時、帳尻を合わせるように満がフォローしてくれる時だけだからな。前者は俺が悪すぎて基本的に攻撃されているし、後者はそもそも攻撃が前提だから、あまり機会に恵まれていない。

 ただ、褒められるだけがいいというわけではなく、俺は褒められ続けると調子に乗りすぎて終わる可能性がある。というかその未来しか見えない。俺は俺自身のことをよくわかっている。ほどほどに攻撃と称賛で帳尻を合わせてくれなければ、勇往邁進を心掛けられないのだ。26歳なのに。

 

「てか、なんで泣いてんスか?」

「女子高生と女子中学生が仲良くしてんの見て泣いてると、不審者にしか見えねーぞ?」

「変な言い方はやめてもらえますか? まだ満が同年代の子と、普通に仲良くしている姿に慣れないだけです。いやぁ、よかったなぁ……」

「多分、お前毎回言ってんだろ」

 

 毎回言っている。だからそろそろ慣れなければ。まだ外じゃないからいいが、外で泣いてしまえば、フレイルさんの言う通り不審者だと思われる。……よく考えれば、この前遊園地に行った時は泣きまくりだったな。いや、あの時は明さんがいたからまだなんとかなったのか? なんとかはなっていないか。

 

 そんな風にアルとフレイルさんのいい人コンビに挟まれて、楽しくお喋りしている満と星菜さんを見ながら涙をこらえていると、部屋のドアが開く。

 そこから入ってきたのは、松風純花さんと、男性が一人。事前に聞いている参加者から推測するに、お兄さんの松風茉莉さんだろうか。

 

 などとぼんやりしていると、アルが立ち上がって茉莉さんに突撃した。

 

「茉莉ー! 今日もカッケェな!」

「おー、アル! 今日も明るいな!」

「だろ? 純花さんもこんにちは!」

「はい、こんにちはです」

 

 茉莉さんと肩を組みながら楽しそうにしているアル。そういえば、仲がいいんだったな。『project:eden』には珍しく、アルと茉莉さんは若い男性で常識人。どちらも明るく人当たりがいい。力関係が同等の親友というのが一番しっくりくる。俺にも帝斗という親友がいるが、その力関係は同等ではないからな。帝斗はそんなことを思っていないだろうが、もちろん俺が下だ。

 茉莉さんは一言二言アルと話すと、俺を見てゆっくり歩いてくる。しょ、初対面か。配信はすべて見て、いい人で変な人ではないと知っているが、むしろ俺からすれば変な人ではない方が緊張する。

 

「はじめまして。純花の兄の松風茉莉っていいます。ニコさんですよね?」

「はいっ! はじめまして! ミッドナイト・サイコナイト、またの名をニコです」

「配信面白くて、いい人だなーって思ってみてます! お出かけボイスもマジで楽しみにしてます!」

「えっ、まさかボイスを買っていただいていたり……?」

「もちろん! 俺、気になる人のやつは大体買ってますよ!」

 

 あれ、同僚が買うものなのか……? ありがたいが、恥ずかしいな。俺のボイスは月宮さんとアザミ、何かバカにするネタがないかと探そうとしている聖麗、『お出かけボイスも、ランダムマッチもニコちーと一緒じゃないんだけど、どういうつもり?』と俺に聞いてきたマリーくらいしか知らないから、新鮮だ。あとどういうつもりかは俺に聞くな。

 

 まぁ、マリーは最近表でも俺に激重感情……をマイルドにして、『推し』という形で表現し始めている。『project:eden』の運営は求められていることに対して素直に応えるイメージがあるから、遠からずマリーと何かをやることになる、とは思う。ならなかったら俺の命が危ないかもしれない。

 

「で、肝心の企画者サマはまだこねーのか?」

「もういますよ」

「?」

 

 フレイルさんの声に、ロッカーから声が聞こえてくる。直後、バン! と勢いよく音を立ててロッカーの扉が開き、そこから眼鏡をかけた優しそうな男性が現れた。

 

「はじめましての方は初めまして。ヴァールハイトのリック・アルベールと申します」

「リックさん! なんでそんなところにいたんですか?」

「直前まで台本を練っていまして」

 

 星菜さんの質問にリックさんが答えると、俺と満と星菜さん以外が納得の表情。なぜだ? 台本を練ることとロッカーの中にいることに、どんな因果関係がある? もしかして、何か考え事をするときはロッカーの中に入るのが当たり前なのか? 今度から俺もそうしよう。

 

「リックは考え事をするとき、めちゃくちゃせめぇとこに入るのがクセなんだよ」

「あぁ、なるほど。そういうことですか」

 

 妙な勘違いをしてしまった俺を、フレイルさんが正してくれる。そういうことなら納得だ。なんだ、クセか。一般的ではないのなら俺もする必要は……いや、一応今度やってみよう。狭いところに入って集中力が上がるという人がいるのなら、俺もその例に漏れないかもしれない。

 

「なんでも、閉鎖的な空間にいることで世界から切り離された気がして気分がいいんだと」

「あぁ、なるほど。俺もVTuberになる前は同じ感覚でした」

「社会不適合すぎんだろ」

 

 正しくは、俺の周囲の世界が別で存在している感覚だった。そうなってしまうほど社会に出ていなかったからな。ところで自分だけの世界ってカッコよくないか? 実態は社会に出られず引きこもっているだけだが、自分だけの世界と言うとカッコよく聞こえる。今度からそうやって言うことにしよう。なぜか『いい風に言うな』『ただのニートだろ』と視聴者に総攻撃される未来が見えるが、恐らく気のせいだ。

 

「さてみなさん。今日は企画を受けていただいて、更にお集まりいただきありがとうございます。企画の内容は事前にご説明した通り、ランダムに二人組のペアを選出し、僕が書いた短い台本を用いて演技をしていただきます」

「台本の内容って今教えてくれたりするんスか?」

「見てのお楽しみです! 配信の時に新鮮なリアクションをとっていただきたいので」

「嫌な予感すんなぁ」

 

 フレイルさんが眉間に皺を寄せる。もしかして、リックさんの台本は評判が悪いのか? いや、この場合『視聴者からの評判はよくて、フレイルさんは嫌がる』と捉えるべきか。見たところ、フレイルさん以外露骨に嫌がってはいない。それに何より、今回は満と星菜さんがいる。よく知らないが、例え特定の誰かが嫌がる内容だとしても、未成年の二人がいるのであればそこまで飛んだ内容ではないだろう。

 ……不安なのは、『project:eden』であるということか。ヴァールハイトはグレイヴィーさんとサラさんしか関りはないが、二人とも良識のある人だったから、リックさんも良識があると期待したい。むしろ、二人に良識があるからこそ、帳尻合わせでリックさんは良識がない可能性もある。

 

「それと、あまりにも嫌であれば全然断っていただいても構いませんし、その場でセリフの内容を変えていただいても結構です。ただし、台本は後ほど視聴者の方にお見せするので、日和ったことはバレてしまいますが」

「言われてるよ、ニコさん」

「俺が日和る? バカを言うな。俺に唯一と言っていいほど似合わん言葉だ」

「唯一と言っていいほど似合う言葉でしょ」

「ナニィ!? よしわかった、俺は絶対に台本を拒否せず、更にセリフも変えん!」

「言質いただきました!」

 

 リックさんが目を輝かせた。待て、俺は今何か大きな間違いを犯したか? なぜフレイルさんは哀れみの目を俺に向けているんだ。そんなにリックさんの台本はマズいのか? なぜアルは俺の肩を叩く。なぜ茉莉さんは天を仰ぐ?

 

 ……俺をビビらせようとしているだけだ!! 絶対にそうだ!!

 

 

 

 

 

ニッコリ探偵団 視聴者支部 part15

 

321:このライバーがすごい! ID:IgjyepjvU

もうすぐ始まるぞ!

 

322:このライバーがすごい! ID:4GwVsRlHR

アザミん、安定の同時視聴

 

323:このライバーがすごい! ID:7olaHWOBx

優姫ちゃんもいる!

 

324:このライバーがすごい! ID:q3cCA/Nj3

アザミん「今日はニコというより、満を見たいから見る」

優姫ちゃん「満ちゃんなら大丈夫でしょうけど、ちょっと心配ね……」

 

325:このライバーがすごい! ID:v6iro+ITC

>>324

完全に保護者で草

 

326:このライバーがすごい! ID:oOLIzJVKC

ニコに対しても保護者感あるしな

 

327:このライバーがすごい! ID:G6qBo+ime

満ちゃんは中学生だしなぁ

そりゃ心配になる

 

328:このライバーがすごい! ID:DNOH1HnJw

それ以上に期待がある

 

329:このライバーがすごい! ID:52R6ZCpc8

満ちゃん、ソロデビューしてほしい気持ちもありつつ、

ニコと一緒だから満ちゃんっていう気持ちもある

 

330:このライバーがすごい! ID:RnbMhtfLH

満ちゃんと星菜ちゃんだけの雑談とかは普通に見てみたい

 

331:このライバーがすごい! ID:1NhhTAB0/

満ちゃんってニコに引っ張られがちだから、ニコが緊張してるとアウトな気がする

 

332:このライバーがすごい! ID:d1lditYUH

配信始まったぞ!

 

333:このライバーがすごい! ID:Zsfgv4IYn

【悲報】やっぱりリック台本

 

334:このライバーがすごい! ID:ujS/JF5OU

ま、まぁ今回は満ちゃんと星菜ちゃんがいるから、露骨な恋愛系とかはないだろ

 

335:このライバーがすごい! ID:PHEatqUzt

リック「先に言っておきますが、ランダムと言いましたが、ランダムとは言っていません」

 

336:このライバーがすごい! ID:G6a69yu0n

こいつ、恋愛系の台本書いてきてるぞ……!!

 

337:このライバーがすごい! ID:E+PR++csA

まだユニコーンの駆逐が進んでない頃、普通に炎上したのに

 

338:このライバーがすごい! ID:tEQqSQj8b

それで懲りるメンタリティなら、プロエジェ以外でデビューしてるだろうな

 

339:このライバーがすごい! ID:0StQnubeL

フレイル「ふざけんな! ちゃんとランダムにしろ!」

リック「元気ですね、フレイルさん」

フレイル「ご、ごめんなさい」

 

340:このライバーがすごい! ID:8KbAzK7Ms

>>339

脅されてて草

 

341:このライバーがすごい! ID:IP9plnOKq

>>339

ロックオン

 

342:このライバーがすごい! ID:cwtYiVk6q

>>339

リックはスナイパーがうまい

 

343:このライバーがすごい! ID:t9Kcajiyp

 

344:このライバーがすごい! ID:VC7YZxIKq

 

345:このライバーがすごい! ID:QAExAQhrl

お題:告白

役者 する側:ニコ される側:フレイル

 

346:このライバーがすごい! ID:VafIQ8Y1x

フレイルはまずい

 

347:このライバーがすごい! ID:b+Q5n0es4

よりにもよって普通に恥ずかしがる二人が……!!

 

348:このライバーがすごい! ID:OGzHESYEY

恥ずかしがるから余計に質感出そう

 

349:このライバーがすごい! ID:xmhFExoJ1

ニコ、選ばれた瞬間崩れ落ちてて草

 

350:このライバーがすごい! ID:jWi0zDour

伝統芸

 

351:このライバーがすごい! ID:kZekvs2gu

アザミん「なんとしてでもニコを燃やさないと気が済まないのか?」

優姫ちゃん「えらく直接的ね……。ま、ニコなら大丈夫でしょ」

 

352:このライバーがすごい! ID:uGcyLRZ2K

>>351

優姫ちゃんから溢れるニコへの信頼感

 

353:このライバーがすごい! ID:2hCR5/Cfl

>>351

実際、ニコの炎上しにくさを利用して、リックが試験してる感ある

 

354:このライバーがすごい! ID:W7OR9sFhR

く、くる

 

355:このライバーがすごい! ID:4xa+Q07+y

二人とも沈黙

 

356:このライバーがすごい! ID:7sz0HDF8L

沈黙すること1分間

満ちゃん「二人とも喋らないけど、海の中で告白しようとしてるの?」

 

357:このライバーがすごい! ID:6STwd1+7M

>>356

 

358:このライバーがすごい! ID:vxYNkdOWB

>>356

やっぱり満ちゃんなんだよなぁ

 

359:このライバーがすごい! ID:ZH+68DbtK

ニコ「い、いや! すまん! 女性に対し、演技であろうと告白するというのは初めての体験であって、緊張すること自体フレイルさんは気味悪がるだろうと思いながらも、やはりフレイルさんという素晴らしい女性に告白するというのは男として多大な緊張を伴い、更に俺のような人間がそんなことをしてもいいのかという葛藤とともに、だからこそちゃんとした自分の言葉で告白するべきだろうかと悩んでいて」

リック「台本ありますよ」

 

360:このライバーがすごい! ID:QDZQKh3hC

>>359

 

361:このライバーがすごい! ID:msIcpvPBY

>>359

アザミん、拍手

 

362:このライバーがすごい! ID:lftLpixjV

アザミん「ニコらしい」

優姫ちゃん「でもフレイルさん、普通に照れてるわね。かわいい」

 

363:このライバーがすごい! ID:4paDOtHPP

フレイルはこういうときちゃんと照れるからかわいいんだ

 

364:このライバーがすごい! ID:NbZw0mgTQ

朝凪 真理
@mari_506d

は?

 

365:このライバーがすごい! ID:mgXAOsyfB

>>364

あっ

 

366:このライバーがすごい! ID:mXvbVxWZ8

>>364

ニコ過激派、ブチギレ

 

367:このライバーがすごい! ID:dVjzCmLIp

>>364

視聴者より先にキレてる

 

368:このライバーがすごい! ID:fYt6jl/Xz

>>367

先にキレることで炎上を緩和させる手法か

 

369:このライバーがすごい! ID:J6xvS56bV

>>368

普通にキレてるだけだぞ

 

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