稼ぎの少ないオカルト事務所所長、VTuberになる 作:酉柄レイム
「つーいたー!」
満のはしゃぐ声を聞きながら、俺は畳の上に倒れこんだ。い草の香りが強制的に鼻腔を通り、少しばかり体調が落ち着くのを感じる。
ニッコリ探偵団、旅行当日。「やはり男一人は気まずい!! ついてきてくれ!!」と帝斗に懇願したものの、「ニッコリ探偵団で行くから意味あんだろ?」と当然のことを言われて撃沈した。
緊張とともに集合場所へ向かうと、俺が思わずドギマギしてしまうほどのオシャレをしてきた二人に「に、似合っているぞ」となぜか気持ちの悪い言葉が出てきて、しかし「ありがと。あんたもカッコいいわよ」と月宮さんにオシャレに返され、更にガッチガチになっている間に、気づけば飛行機に乗り込んでいた。
飛行機を降りて車で数十分移動。そこから船に乗ってホテルへ向かい、乗り物に次ぐ乗り物で見事体調を崩して今というわけである。
「佐藤さん、大丈夫?」
「あぁ、大丈夫だ。少しゆっくりすれば元に戻る」
「結構移動したもんねー。お水飲む?」
「すまない、ありがとう」
なんて気が利く相棒なんだ……。本来ならはしゃぎまわりたいだろうに、こんな情けない俺の面倒を見てくれるなんて。ちなみに、アザミは体調が悪くなっている俺に構わず、思い出として写真を撮りまくっていた。月宮さんもノリノリだった。
満から水を受け取って、喉に流し込む。むせた。満が背中を擦ってくれる。クソ、なんで俺はこんなにジジイなんだ……!!
俺がジジイであることを悔やんでいると、ノックの音が聞こえてきた。目配せする前に満が飛んで行ってドアを開けると、月宮さんとアザミが部屋に入ってくる。
「佐藤さん、大丈夫?」
「清々しいほど貧弱だな、お前は」
「アザミ……あー、
「既に体がバカになっているからな。大抵のことは何も感じない」
「じゃあまだ佐藤さんは正常ね」
今回旅行するにあたり、流石に他の人の目が多すぎるということで、本名で呼び合うようにしている。
月宮さんは
というか、なんかアレだな。本名を知っているのと知らないのとじゃちょっと意識が違うというか、ものすごく距離が近くなった気がする。この感情を表に出すとキモすぎて絶交されるかもしれないから気を付けよう。
「そういえば、外の景色見た?」
「見たー! 海すっごく綺麗だった! キラキラしてた!」
「ふふ、そうか。船でも大はしゃぎだったが、海が好きなのか?」
「好き! 時々連れて行かれそうになるけど」
「幽霊ジョークやめろ。シャレにならん」
月宮さん……慣れるために頭の中でも本名で呼んでおくか。秋月さんが満の言葉を冗談とわかっていても、連れていかれないように満をぎゅっと抱きしめる。白菊は白菊で「効率的に海を破壊するにはどうすればいいか……癪だが、シゲキの手でも借りるか」と思案し始めた。やめろやめろ。嫌いなやつの手を借りてでも環境破壊をしようとするな。満を大事にしてくれているようで嬉しいが、過剰すぎる。もちろん冗談だろうが……冗談だよな?
「んー、よし。もう大丈夫だ、動ける」
「そ、よかった。無理しちゃだめよ?」
「あぁ。別に、しばらくはこうしてゆっくり喋っているだけでもいいんだ」
「百合香、最近私たちでゆっくり喋ってないって不満そうだったものねー?」
「え、そうなの? じゃあいっぱいお喋りしよ!」
「……うん」
やはりダメかもしれない。白菊が周りに俺たちしかいないから、いつもよりかなり素直になっていて可愛さの破壊力が増している。配信上でならあざといと言われるような反応をするか、理屈を並べてかわすかのどちらかなのに。軽率に可愛いことをすると俺がキモくなるからやめてくれ。
さて、二人はゆっくりしていいと言ってくれたが、そういうわけにもいかない。時間は有限だ。ここは温泉もかなり多いと聞く。満は絶対に制覇したいだろうから、俺がダウンしているがあまりにそれができなくなるというのはあってはならないことだ。
「早速温泉に入るか。飯まで時間もあることだしな」
「そうだな。ところで佐藤たけし。ここには船の形をした温泉があってな」
「ほー。そんなものがあるのか」
「あぁ。混浴だ。水着は着るが」
「入らん! 入らんぞ!!!!!」
「百合香。あんまり佐藤さんをからかわないの」
「別に今更じゃないか? プールで水着は見ただろう」
「百合香さん。混浴って言っちゃダメだよ。佐藤さんが意識しない方が無理だもん」
確かに、プールで水着姿は見た。だが混浴はプールではない。なんか、こう、意識が全然違う。一緒にプールというのはないシチュエーションではない。学校でもプールの授業はあるし、異性とプールはそこまで変なことではない。だが、異性と温泉というのは家族か彼女か、そういった近しい間柄でなければありえない話だ。
そして、俺と秋月さん、白菊は家族ではなく友人だ。そして一緒に温泉へ入る異性は家族か彼女だという前提を考えれば、かなり意識してしまう。この先ずっと意識してうまく会話できなくなる自信がある。それはダメだ。旅行が台無しになってしまう。
「そうか……私たちと一緒に入りたくないのか」
「そっ、その手には乗らんぞ! 俺は誇り高き日本男児だ。混浴などという破廉恥な真似、できるはずもない!」
「ねぇ、だめ?」
「わかっ……そっ、その手には乗らんぞ!」
「ねーえー、おねがい。だめ?」
「わかった!!!!! そっ、その手には乗らんぞ!!」
「踏みとどまったつもりでしょうけど、思いっきりわかったって言ってたわよ」
「佐藤さん、あざといのに弱すぎるよ……」
仕方がないだろう!!? 普段クールで男に興味もなく、知的好奇心でのみ突き動かされる白菊が、上目遣いで首をこてんと傾げながら目をうるうるさせたんだぞ!? これで頷かない男などいない!! だが、俺は頷いてから首を横に振った。並大抵の精神力ではできないことだ。故に、俺は男の中でも最上位の精神力を有していることと同義。
俺が本気で混浴しないことが伝わったのか、白菊はいつもの気だるげな目に戻り、「そうか。配信でネタにしようと思ったんだが」などと言いやがった。上等だ貴様。配信で「アザミに混浴に誘われてー」と暴露してやる。
……紆余曲折もなく俺が変態扱いされる未来が見えた。やめておこう。
「それじゃ、行きましょっか。佐藤さん、一人で寂しいでしょうけど」
「そうだな。満が隣にいないというのは違和感がある」
「えー? 私が隣にいないと寂しいんだ?」
「あぁ。とはいっても俺に気を遣う必要はない。秋月さんと白菊さんと、存分に温泉を楽しんでこい。二人とも、満を頼んだ」
「任せろ。お前を煽るつもりが、まっすぐ肯定されて調子が狂い、恥ずかしくなっている満の保護者としての役目を果たしてみせる」
「なんで全部言うの!! 白菊さんのバカ!!」
顔を赤くした満は走って扉の前まで行き、振り向いて「早く行くよ!!」と言ってから部屋を飛び出した。「本当にお願いだから、満ちゃんを私の妹にしてもいい?」と目で訴えてくる秋月さんに、「戸籍上はそうではないが、満は姉だと思っていると思うぞ」と目で返せば、頬をだらしなく緩ませた後、満を追いかけて行った。
「さて、私たちは混浴に行くか」
「行かんと言っただろう!!」
「そうか。そういえば、二人きりだな」
「おい。どうにかして配信のネタを得ようと俺を攻めてくるのはやめろ」
「ふふ。すまない。どうも旅行で舞い上がっているようだ」
穏やかに笑った白菊は、「またな」とひらひらと手を振って、部屋を出て行った。
……帝斗―!!! 早くきてくれー!!! 俺の精神が粉々にされる!! 今までコミュ障で社会からはみだしていた俺には刺激が強すぎる!!
帝斗が恋しい。あいつが隣にいるだけで大分精神が安定するのに。
あっ、そうだ!
「もしもし、帝斗」
『もしもし、どうした? 旅行中じゃねぇの?』
嵐の守護者かと思ってしまうような白菊からの怒涛の攻撃により精神がぐらついた俺は、安定させるために帝斗へ電話をかけた。コール音が二回繰り返されて出てくれた帝斗の声に精神が落ち着きを取り戻す。やはり帝斗だ。男の友人というのは素晴らしい。
「いや、すまない。少し精神が荒れていてな」
『あー。アザミさんにめちゃくちゃからかわれて、とどめに素のアザミさんの可愛さをくらったとかか?』
「正直に言え。どこから見ている?」
『見てねぇよ。親友舐めんな』
なんだ、めちゃくちゃに嬉しいな。はっきり親友と言ってくれることもそうだが、俺のことを理解してくれているのも嬉しい。旅行中精神が狂いそうになったら帝斗に電話することにしよう。帝斗にも帝斗の予定があるだろうからあまり何度もかけられないが、こうしてすぐに出てくれたということは少々余裕のある日だと思いたい。
『つっても、案外平気だろ?』
「まぁ、からかわれさえしなければ、普通でいられるとは思う」
『ならよかった。余計なこと考えて楽しめねぇんじゃ、満ちゃんも月宮さんもアザミさんも可哀そうだしな。なんかあったら連絡しろよ? 迷惑だとか考えなくていいからさ』
「なんていいやつなんだ……!!」
『お前がいいやつだからだろ。類は友を呼ぶってやつだな』
おい、どこまでいいやつなんだ? 謙遜すると俺が引き下がることを読んで肯定しつつ、俺のことも褒めるなんて。帝斗には幸せになってほしい。俺はもう十分と言っていいほど幸せだから、今度帝斗を幸せにする計画を立てよう。透華にも協力してもらって、手始めに「今幸せですか?」と帝斗に聞いてみるか。いや、詐欺ではなく。
「すまない、ありがとう。また何かあったら連絡する」
『おう。お土産期待してるぜ』
「任せろ!」
『ん。じゃあな』
「あぁ。また」
あー、落ち着いた。温泉に入った後くらい落ち着いた。一度温泉に入ったようなものだ。生き返った。これからもう一度温泉に入るなんて、なんて贅沢なんだ? 最高だな、このホテル。
さて、温泉に向かうか。男湯はこんなのだったぞ! と満に教えなければならんし、すべて制覇しよう。
ニッコリ探偵団 視聴者支部 part16
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旅行に行く日明言されてなかったけど、多分今日からだよな
469:このライバーがすごい! ID:81+KbxAqo
探るなよ、プライベートなんだから
470:このライバーがすごい! ID:DXAf4MB4s
ニコとアザミんはほぼ毎日配信してるから、
二人の配信がないとそう思っちゃうのは無理もない
471:このライバーがすごい! ID:vn7yJyIrA
ニッコリ探偵団で旅行とか絶対かわいい
472:このライバーがすごい! ID:dX5FfoFV8
ニコは男一人か
大丈夫か?
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童貞を拗らせてるかもしれない
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アザミんがニコをからかいすぎて、帰ってくる頃にはおかしくなってるかも
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俺もアザミんにおかしくされてぇなぁ
476:このライバーがすごい! ID:WqhyLDApg
運営さん、アザミんにおかしくしてもらうボイスはどうですか?
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シゲキなら出してるぞ
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>>477
そういうんじゃねぇんだよ
479:このライバーがすごい! ID:KVIxjkW/s
旅行先で配信とかするかな
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声のみとかならありそう
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俺たちが旅行にお邪魔していいのか?
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>>481
よくないけど、よくないけど……!
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それはそれとして、めちゃくちゃ気になる
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旅行できゃっきゃしてるところを見てみたい
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待て、時間帯によっては優姫ちゃんとアザミんは浴衣なんじゃないのか!?
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リアルタイムでアザミんがニコをからかうところが聞けるってことか!?
487:このライバーがすごい! ID:AVcMKcURi
ニコが羨ましくてマジギレするかもしれない
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>>487
今のうちにマジギレしとけ
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満ちゃんが大はしゃぎしてるところを見てほっこりしたい
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満ちゃんは絶対日中大はしゃぎして、早めにおねむになるタイプだぞ
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満ちゃんと一緒にいる時の優姫ちゃんとアザミんの母性が好きです
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ニッコリ探偵団が好きです
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頼むから旅行ボイスを出してくれ
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頼むから 旅行ボイスを 出してくれ
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五七五じゃん
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やったー!!!
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なぁ、ところで俺たちは誰の配信を見ればいいんだ?
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マリーが『羨ましい』ってタイトルで配信してるぞ
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>>498
深淵
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>>498
あまりにも怖すぎる
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>>498
今見てるけど、普通に雑談配信してるぞ
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>>501
逆にこえぇよ
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マリーのニコ推し芸も板についてきたな
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ニコがマリーと聖麗に対してはなんとなく遠慮がなくなるのちょっと好き
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びっくり調査団もまた見たいなぁ
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びっくり調査団で旅行行ったら、色んな意味で帰ってこなさそう
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ニッコリ探偵団はこんなに平和なのに……
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!!
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!??
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配信枠立った!
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生きる糧
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嬉しすぎる
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相変わらずファンの気持ちがわかりすぎてる
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ほんと、ちゅき
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>>514
……すぞ
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>>514
わかってるよな?
517:このライバーがすごい! ID:1IM1JldL2
>>514
お前だけは許さない