稼ぎの少ないオカルト事務所所長、VTuberになる   作:酉柄レイム

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第71話 旅行 (3)

 ホテルの敷地内にある遊歩道。秋にくれば立派な紅葉に囲まれるが、生憎今は10月。少し赤く見えないこともないというレベル。『紅葉の雲』と称される景色も見てみたかったが、それは別の機会でいいだろう。別の機会に恵まれるほど、俺が二人と関係性を保てているかどうかが怪しい話だが、いい人たちだからきっと大丈夫だ。もしもの時は帝斗と透華に慰めてもらって、傷心旅行で訪れよう。いやまて、俺如きの傷心を癒さなければならない紅葉の気持ちを考えろ。だがしかし、紅葉などの一般的に『綺麗』と称される景色は、人の心を癒すことを生業としているのではないか? 植物にも意思が宿ると聞く。ならば植物にも職業があってもおかしくない。なんということだ、少し前までの俺は植物にも社会的地位で負けていたというのか? いや、植物であろうとなかろうと、同じ生命であることに変わりはない。客観的事実として食物連鎖に立っているのが人間であろうと、リスペクトは持つべきだ。ただ、今の俺はVTuberとして狭いコミュニティながらも社会復帰……復帰とは言わないか。社会へと初めて身を投じている。少しすれば俺も紅葉に認められるほどの社会的地位を築きあげているだろう。せいぜいその時を楽しみにしているんだな!!

 

「佐藤さんが木をじっと見て動かなくなってるけど、何考えてんの? アレ」

「少しニヤついているのが絶妙にキモいな」

「佐藤さーん! 何か見つけた?」

「人生の目標だな」

「まだなかったんだ」

 

満はえげつない切れ味のナイフを持っているようだ。これが銃刀法違反で取り締まれないなんて日本の法律はどうかしている。

 

 温泉から出てきた三人と合流し、視聴者にまた夜に会おうと伝え、俺たちは散歩がてらホテルの敷地内を歩くことにした。大型の連休もない10月だが、旅行客は結構見かける。シーズンと比べるとそれほどでもないだろうが、「お、意外に多いな」と感じる程度だ。

 俺が移動すれば、その地域の幽霊が寄ってくる。その例に漏れず、ここに到着した時はじろじろと俺を見てきたが、白菊を見て退散していった。研究対象にされることを恐れたのだろう。

 

 ただ、白菊を恐れない例外もいる。無邪気な子どもの幽霊、性善説を信じている幽霊。そういう幽霊は、今も空をふよふよ浮いて俺のことを見ていたり、時々地面から顔だけ出して俺を驚かせようとしてきている。満が混ざりたそうにしているのが本当に怖い。周りの目もあるから、急に実体化を解くわけにもいかないからな。我慢してくれ。

 

「で、実際どうしたのよ。幽霊でもいた?」

「ん? あぁ、いるぞ。害はまったくないから安心していい」

「……まぁ、旅行中だしな」

 

 白菊が何かを飲み込んだ。何かかはある程度察しはつく。飲み込んでくれてよかった。それを口に出してしまっていたら、幽霊が恐怖のあまり成仏しかねないからな。

 成仏はいいことではある。だが別にしなくてもいいと思っている。満のような存在もいることだし、孤独でもないしな。幽霊同士のコミュニティもある。実体を持てないというのは不便だが、それが気にならない者であれば、生者よりも生き生きしている幽霊もいる。何より自由だからな。

 

 今幽霊の話題を出したからか、小学生くらいの少年の幽霊が《やっぱり見えてる? 見えてる! すっげーガリガリ!》と俺の周りを飛び回って煽ってきている。なぜ俺は初対面の子どもにも煽られなければならないんだ?

 

「ええい鬱陶しい! 俺の周りを飛ぶな!」

《うわ、やっぱり見えるし聞こえてんだ! わー! やった! 生きてる人と喋れんの久しぶりなんだよ! ねーねー、お兄さんなんて名前? 俺は栄人! てか綺麗なお姉さん二人もいるけど、どっちが彼女? あっちのちっちゃいのは妹?》

「誰がちっちゃいって!? そんなこと言うなら君のがちっちゃいじゃん!」

《わ、ちっちゃいのも俺のこと見えるの?》

「ちっちゃいのじゃなくて、赤羽満! こっちは佐藤たけし!」

《おっけー! よろしく、佐藤さん、満姉ちゃん!》

「佐藤さん。栄人くんいい子だね」

「姉ちゃんと呼ばれことに感動するのはいいが、チョロすぎるぞ満」

 

 あまりにも俺の周りを飛んで話しかけてくるから、つい反応してしまった。俺が幽霊と話すと秋月さんと白菊が放置されてしまう。二人は幽霊が見えないし、声も聞こえないからな。せっかく旅行にきているのに放置などあってはならないことだ。

 でも今まで無視してすまない。生きている者と喋る機会などそうそう訪れないというのに。娯楽の少ない幽霊にとって、生きている者と喋るということは数少ない娯楽となる。ここは二人に甘えて、栄人に構ってやることにしよう。

 

「すまない、秋月さん、白菊。少しこの子の相手をする」

「ふふ、珍しいわね。”してもいいか?”じゃなくて”する”なの。いいわよ。その代わり、面倒じゃなければ私にもお話させてくれない? 栄人くん? でいいのよね。私は秋月凛。よろしく」

「私は白菊百合香だ。よろしく、栄人」

《……ヤバい、ごめん佐藤さん。こんなに綺麗で優しい人、子どもの俺でも惚れちまうよ》

「ごめんも何も、俺は二人と付き合っているわけではないぞ」

《あぁ……フラれたのか。ごめん佐藤さん》

「フラれたわけでもない!」

「大体なんて言ってるか想像できるわね」

「初対面の子どもにも煽られるとは、流石だな」

 

 こんなところで流石だと思ってほしくない!

 

 しかし、栄人は口が達者だな。見たところ小学三年生くらいだが、言い回しが年齢不相応だ。死んでから長く、色々な人の会話を聞いて吸収したというところだろうか。幽霊になってから体は成長しないが、知識の吸収は可能だからな。

 ……それにしても、俺は初対面の子どもにも「フラれた」と言われるほど二人とは釣り合っていないのか。いや別に気にしていないし、二人とは友人だから別に気にしていないし、二人も気にしていないだろう。気にしていないばかり言うと気にしていないように見えないが、本当に気にしていない。

 

《あ、なーなー満姉ちゃん。今気づいたけど、満姉ちゃんも幽霊だろ? 佐藤さんに憑りついてんの?》

「うん! しかも佐藤さん、私を実体化できるんだよ!」

《えー! 俺もしてよ佐藤さん!》

「んん、してやりたいが……」

「実体化してってお願いされてるって感じ?」

「あぁ。だが俺も原理はよくわかっていないからな」

「やってやればいいじゃないか。減るとしてもお前の生命力だけだろう」

「俺の生命力を”だけ”で片づけないでもらえるか?」

 

 とはいえ、栄人がめちゃくちゃ期待した目で俺を見ている。これで断れるやつなどいるはずもない。期待されることには慣れていないが、嫌いではなく期待されたすべてには応えたい。しかも、今回は俺が唯一と言っていいほど得意なオカルト方面のことだ。ここで何もできなければ、俺はこの先きっと何もできない。

 周りを確認する。幸い今は誰もこちらを見ていない。というか先に確認しておくべきだったな。一緒にいる人がいるのにも関わらず、知らない誰かと喋っていた危ない人だと思われるところだった。それが原因で「そんなことをするのはニコしかいない」と特定されるかもしれない。迂闊な行動は気を付けよう。

 

「よし、じゃあやってみるか」

《ほんと!? あっ、できなくても気にしないから……》

「俺ができないわけがないだろう!! 見ていろ! ハァッ!!」

「そんな気合い一発みたいなやり方なの……?」

「原理を解明したいと思ったが、やめておこう。無駄そうだ」

 

 満にやっている時と同じように、掌を栄人に向けて気合いを入れる。俺は考えたんだ。原理はわからないと言ったが、実体化は俺の生命力を分け与えているようなもの。つまり、気合いだ! 俺が実体化したい! と思って気合いを入れれば、俺のオカルトセンスが勝手に生命力を分け与え、実体化できる。あれ? 生命力分け与えていたら俺早死にするんじゃないか? じゃあ生命力ではない何かを分け与えている。そういうことにしよう。

 

 そして、満を実体化し続けている俺には感覚でわかる。成功した。

 

「ほら、こっちにこい栄人。飛んだままでは不自然だろう」

「おわっ、えっ? 今触った?」

 

 実体化した栄人の腕を優しく引っ張って、腕の中に収める。きょとんとしている栄人はまだ実感できていないらしい。

 

「秋月さん、白菊。栄人の声は聞こえているか?」

「えぇ、聞こえてるわよ」

「あぁ。お前はオカルト方面なら大体なんでもできるんだな」

「それ以外はできないみたいな言い方やめてくれるか?」

「えっ、うそ。ほんとに実体化してる!! 佐藤さんすげー!!」

「嬉しいのはいいが耳元で叫ぶな! 俺の鼓膜は一つしかないんだぞ!」

「片耳潰れてるじゃん」

 

 余計なことは言うな満! 俺のバカが栄人にバレたらどうする! というかこれでもいい大学は出ているんだ! 今のはそう、動揺しただけだ! つまりいつものだ。そろそろ動揺したらポンコツになるクセをなくしたい。そもそもいつもポンコツだというのはナシだ。

 

 栄人は感触を確かめるように俺の頬を叩き、抓り、鼻を引っ張ってくる。舐めるなよ貴様!! 俺はミッドナイト・サイコナイト、深夜の狂騎士だぞ!! というのは流石に子ども相手には言わない。大人相手にもおかしなやつだと思われるから言わない。

 

「栄人。すまないが、満より繋がりが希薄だからか、長く持ちそうにはない」

「いいよ! 十分嬉しい! ありがとう佐藤さん!」

「ふふ。よかったわね栄人くん」

「子どもと一緒にいるのが本当に似合うな」

「褒め言葉として受け取っておく。栄人、せっかくだ。何かしたいことはないか?」

「ずっとだっこしててほしい」

「栄人くん。私にも抱っこさせてくれない?」

「可愛いのはわかるが、欲望丸出しは見苦しいぞ、凛」

 

 秋月さんが栄人に腕を伸ばすが、「はずいから佐藤さんでいい!」と拒否。おい、抱っこしてやっているのに”でいい”とはどういうことだ。妥協か?

 

 まぁ、大目に見てやろう。俺も子どもだったのなら、同じようなことを言っていたからな。

 

「じゃあじゃあ栄人くん。お姉ちゃんである私が抱っこしてあげよっか? おんぶでもいいよ!」

「うっせ! 余計恥ずかしいからやだ!」

「はー!? やだってことないでしょ!」

「満、勘弁してやれ」

「えー……」

 

 このくらいの歳の子なら、中学生はちょうど意識してしまうお姉さんだ。恥ずかしいどころの騒ぎじゃないだろう。

 ……あのボイスは本当に正解だったのかもしれない。恐ろしいな、リックさん。

 

 

 

 

 

ニッコリ探偵団 視聴者支部 part16

 

658:このライバーがすごい! ID:eW6QzwySn

ニコ、幽霊まみれだったらしい

 

659:このライバーがすごい! ID:iA4rcSz+b

頼む! 会議中で配信見れないから概要教えてくれ!

 

660:このライバーがすごい! ID:8uMhP9bFb

>>659

仕事しろボケ

ニコが男の子の幽霊に絡まれて、実体化してってせがまれて実体化したら、

わらわら幽霊が集まってきたらしい

 

661:このライバーがすごい! ID:OSL0fpG8U

>>660

いいやつ

 

662:このライバーがすごい! ID:qJspBvBs2

>>660

やさしい

 

663:このライバーがすごい! ID:EbMGf9pEt

というか何さらっと実体化させてんだよ

 

664:このライバーがすごい! ID:sRC4mdb02

オカルト方面の才能はほんとすごいな

 

665:このライバーがすごい! ID:Vl6Wes9WM

配信の才能もな

 

666:このライバーがすごい! ID:u8WeTBReN

満ちゃん以外の実体化は長く持たないらしいな

 

667:このライバーがすごい! ID:9I7J2lJWj

優姫ちゃんとアザミんに近づこうとした軽そうな幽霊を追っ払うニコ、流石

 

668:このライバーがすごい! ID:bBN0ESoBc

幽霊に対しては強い

 

669:このライバーがすごい! ID:5M7CqlfKc

>>667

これを聞いた聖麗の反応がこちら

安倍聖麗
@onmyon_seirei

悪い幽霊がいるようですねぇ

 

670:このライバーがすごい! ID:Yp5QXsvYU

>>669

頼もしいけど怖い

 

671:このライバーがすごい! ID:+5OtibEUl

ニコ、聖麗の発言を見て幽霊の更生に向かう

 

672:このライバーがすごい! ID:qDvT72vQ1

図らずもガールズトーク始まったぞ!

 

673:このライバーがすごい! ID:J6OdXPEA+

よいかほりしそう

いや、する

 

674:このライバーがすごい! ID:5nhjT68HE

アザミん「そういえば、チャラい幽霊をニコが追っ払った時、『大事な人たちなんだ、手は出させん』と言ってくれてな」

優姫ちゃん「ふふ。ニコはまっすぐあぁいうこと言ってくれるから嬉しいのよね」

満ちゃん「本人の前で言ってあげればいいのに」

いい

 

675:このライバーがすごい! ID:dlf8TaULK

いい

 

676:このライバーがすごい! ID:FUuhR8u2h

いい

 

677:このライバーがすごい! ID:XeAtR6qBB

ショッカーがでない……?

 

678:このライバーがすごい! ID:yfdFVNcZi

あまりにもよすぎたんだろ

 

679:このライバーがすごい! ID:mFJpX4dAn

一番うきうきだったのはアザミんだと!?

 

680:このライバーがすごい! ID:UO9WI2hHW

写真いっぱい撮るアザミんかわいい

 

681:このライバーがすごい! ID:us+yx9S1H

アザミん「ニコと優姫が恋人に見えるように写真を撮った」

優姫ちゃん「今名前だけで呼んだわね」

満ちゃん「二人だけの時はそう呼んでるんだっけ? 可愛いよねぇ」

アザミん「……」

いい

 

682:このライバーがすごい! ID:PcyP3yHxO

いい

 

683:このライバーがすごい! ID:NitnkRcM0

いい

 

684:このライバーがすごい! ID:UuorvBPLl

本当になんか、アザミんがふわふわしてるな

 

685:このライバーがすごい! ID:wWBdP1IIe

攻撃しようとして返り討ちにされるアザミんかわいい

 

686:このライバーがすごい! ID:WeHUat4Gc

ニコ、酔っぱらって帰宅

 

687:このライバーがすごい! ID:ARib472P2

チャラい幽霊と酒飲んできたって、こいつ本当はコミュ強なんじゃないか?

 

688:このライバーがすごい! ID:I5IuHRLw7

ものすごく仲良くなったってよ

 

689:このライバーがすごい! ID:TGfoGgDgh

ニコ「満ぅーお前は本当に可愛いなぁ」

満ちゃん「うっざ! なんでこんな短時間でそんなべろべろになるの!」

優姫ちゃん「ニコ、お水飲みなさい」

アザミん「甲斐甲斐しく世話をする嫁、か」

優姫ちゃん「だから弟みたいなもんって言ってるでしょ。いらないわよこんな旦那」

ニコ「酔いがさめた」

かわいそうで草

 

690:このライバーがすごい! ID:vAHSyJ/Mb

悲しくて草

いや、涙

 

691:このライバーがすごい! ID:72IUoLMJZ

優姫ちゃん「いらないのは嘘よ。ごめんね」

ニコ「そういうことを言われるとドキドキするからやめてくれ」

優姫ちゃん「いや。言い過ぎたって思ったからこれくらい言わせなさい」

アザミん「満、どう思う」

満ちゃん「真理さんが怖いと思う」

 

692:このライバーがすごい! ID:o1Y97N594

 

693:このライバーがすごい! ID:otGjCXlRt

 

694:このライバーがすごい! ID:o1jN0oqqY

マリーが何の反応もしてないのが怖い

 

695:このライバーがすごい! ID:RgGRdfjJo

マリーが枠立てたぞ!

 

696:このライバーがすごい! ID:+qGN4iFB7

配信タイトル「どう思ってると思う?」

 

697:このライバーがすごい! ID:VCDdm2uRh

 

698:このライバーがすごい! ID:rdMJWJQSd

 

699:このライバーがすごい! ID:qRTJNWIFR

マリーは盛り上げるのがうまい

 

700:このライバーがすごい! ID:3HNNT/68w

【恐怖】マリー、無言

 

701:このライバーがすごい! ID:eN7VArVcy

アザミん「おもしろいな。もっと煽るか」

ニコ「やめてくれ! 宥めるのは俺なんだぞ!」

優姫ちゃん「ちょっとは構ってあげなさいよ。真理さん可愛いじゃない」

ニコ「確かに可愛いが」

 

702:このライバーがすごい! ID:lxXmZwxr4

マリー、配信終了

 

703:このライバーがすごい! ID:or0yWr/Ut

 

704:このライバーがすごい! ID:NQgPnj2iA

配信することで褒め言葉を引き出す女

 

705:このライバーがすごい! ID:OP0jV5XQu

エンターテイナーすぎる

 

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