稼ぎの少ないオカルト事務所所長、VTuberになる   作:酉柄レイム

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第72話 王子様

「……旅行、終わったのか?」

「終わった……」

 

 旅行を終え、二人と別れたのがさっきのこと。今は事務所の前に立っていて、ようやく実感が沸いてきた。

 二人があまり時間を取れないということで二泊三日の日程で行った旅行は、かなり楽しかった。アザミが撮った写真も俺のスマホにデータとして保存されている。信じられない。俺の両親が写真を見たら、俺が犯罪に手を染めて、綺麗な女性二人を騙したと思われても仕方がない。

 

 少し前までの俺では想像もできなかったことだ。あんないい人たちに出会い、旅行に行く仲にまでなるなんて。

 

「俺は恵まれているなぁ」

「だねぇ。西園寺さんと透華にも恵んでもらってるし。今度は二人とどこか行きたいね」

「そうだな。事務所にいると言っていたし、早速提案してみるか」

 

 事務所のドアに手をかけて、ゆっくりと開く。そして帝斗と透華の姿を探せば。

 

「オラ、いいから私の男になりな! あんたほどのいい男そうそういねぇんだ!」

「だから止まってくださいってイレ姉! ほら! 見てくださいあっちのきれーな女性の目! プラスチック見る時でもあんなつめてー目しませんよ!」

「興味ねぇ!」

 

 背の高い筋肉質なお姉さんと、小柄なお兄さん、どちらも海外の方だろうか。お姉さんは髪が赤色で、お兄さんは綺麗な金の色。そして、俺の親友である帝斗がお姉さんに捕獲されていて、透華が事務所の隅で死んだ目をしている。

 帝斗は、俺を見て「助けて」と目で訴えていた。

 

 気づけば体が動いていた。荷物をその場に置いてがむしゃらにお姉さんに突進し、鍛え抜かれた肉体の前にあえなく撃沈。お姉さんが何もしていないのに弾き飛ばされ、倒れかけた瞬間お兄さんに腕を引かれ、衝撃を逃がしながら腕に抱かれ、「大丈夫ですか?」と見下ろされた。

 

「貴様!! 俺の親友である帝斗に何をしている!!」

「や、カッコつかないっスよ、先輩」

 

 仕方がないだろう!! 女性に言うのは失礼だが、壁だぞ! 壁! 全速力で壁に激突した衝撃だ! どれだけ鍛えたらそうなるんだ? 俺にも教えろ! お姉さんは俺と同じくらいの身長なのに、なぜか俺が二回り小さく見えているじゃないか! 情けない……! 俺は帝斗のピンチ一つ救えないのか。これまで色々助けてもらってきたというのに。

 お姉さんは俺を一瞥すると、何を思ったのか帝斗を解放、するかのように見せかけて腕を抱き、ソファにどっかり座り込む。

 

「俺たちも座ります?」

「あ、はい。お願いします」

 

 恐らくお兄さんは巻き込まれた形だろう。さっきも止めてくれていたし、少なくともお兄さんは悪い人ではない。俺はお兄さんに抱かれたままソファに座らせてもらった。あまりスマートな扱いをしないでもらいたい。俺がうっかり惚れてしまったらどうする? 同性愛者ではないが、その偏見はないんだ。何がきっかけで目覚めるかもわからないんだぞ。

 

「先輩。荷物こっちで整理しておきますね」

「ん、あぁすまない透華」

「私も手伝う! あっち地獄みたいな感じするし」

 

 透華と満は荷物を整理するために、別の部屋へと引っ込んでいった。よし、これで守らなければならない二人は安全だ。あと満、なにがきっかけで爆発するか、そもそも爆弾かどうかもわからないような相手に対し「地獄」と評する勇気はたたえるが、本当にやめてくれ。その被害を一番に受けるのは俺か帝斗なんだぞ?

 

「あー……とりあえずおかえり」

「ただいま。どういうことか説明してもらえるか?」

 

 ソファに座って落ち着いたところで、帝斗が絞り出したような声で迎えてくれる。正直俺が事務所を出る前と状況が変わりすぎて「ただいま」かどうかも怪しいところだが、帝斗が「おかえり」と言うのなら「ただいま」だろう。例えその帝斗の腕をがっしりと抱く女性がいようとも、だ。

 

「いや、俺だってわかんねぇよ……」

「わかんねぇって? そりゃあ嘘だぜ帝斗。私を王子サマみたいに助けてくれたクセによ」

「何? 詳しく聞かせてください」

「あぁ、いいよ。その前に自己紹介とでもいこうか。知らねぇ仲じゃないしね」

「……!!?」

 

 何!? 俺はいつの間にか失礼なことをしてしまっていたかもしれないのか!? 知らない仲じゃない!? マズい、まったく覚えがないぞ! ただでさえ交友関係が狭いのに、関係のある人のことを忘れてしまっているのか!? なんということだ……! 

 いや、待てよ。流石の俺でもここまで強烈な人なら、会ったことがあれば覚えている。俺の記憶が確かならば、会ったことがないのではないか? だとすれば、「知らない仲じゃない」という言葉から推測できるのは、『project:eden』に所属しているということなんじゃないか?

 

「もしかして、『project:eden』のライバーですか?」

「正解。バカじゃねぇみたいだね。私はイレイナ・ガーランド。グレイヴィーが世話んなってるみたいだね」

「俺はイオス・エアハルトです。ニコさんですよね?」

「やはり。俺はミッドナイト・サイコナイト、またの名をニコ。よろしくお願いします」

 

 イレイナ・ガーランドさん、イオス・エアハルトさん。『ヴァールハイト』という同期ユニットに所属しており、企画で仲良くなったグレイヴィーさんの同期だ。武闘派集団だと聞いていたが、見た目が武闘派すぎる。初対面だから顔を見れていなかったが、今見てみたらイレイナさんはいかついサングラスをかけていて、イオスさんはめちゃくちゃピアスを空けている。街中で見かけたら「声をかけられませんように」と思わず祈ってしまう見た目だ。

 というかやはり名前がカッコいい。海外の名前はどうしてこうもカッコよく感じてしまうのだろう。フレイルさんもカッコいいし。よかった、俺がミッドナイト・サイコナイトで。並んでも違和感がないから安心だ。

 

「んじゃ、どこから話そうかねぇ」

「王子様みたいに助けてくれたというのは? 帝斗なので当然だとは思いますが」

「あぁ、それね。私ジム通ってんだけど、不躾な頭のワリーサルどもが声かけてきやがってよ。ぶちのめして丸めて撒き餌にして魚でも釣ろうかと思ったんだけどよ、流石にそういうわけにもいかねぇから無視してたんだ」

「そいつらマジで頭ワリーですよね。イレ姉をナンパするって、命知らずにもほどがある」

 

 笑いながら言ったイオスさんはイレイナさんに睨まれ、瞬時に土下座した。日本の文化には詳しいようだ。

 

「ま、一理あるわ。こんなデカくてイカつい女、いくらとびきりの美女でも声はかけねぇよ。周りも自分でどうにかできると思って助けようとは思わねぇ。ただ、帝斗は違った。私とサルの間に割って入って助けてくれたんだよ」

「流石だ帝斗!」

「褒めてくれるのは嬉しいけどよ……」

 

 流石帝斗だ、親友として誇らしい。そうだよな、帝斗は見た目や能力で人を判断するようなやつではない。そんなやつなら、俺の親友なんてやっていない。「おいクソニート。一ミリも社会の役に立たねぇんだから舌で床掃除でもしてろよ。いや、やっぱやめてくれ。床よりお前の舌のが汚ねぇから」と罵倒される毎日だったに違いない。え? その場合でも毎日俺と一緒にいてくれてるのか?

 

「んで、そんないい男滅多にいねぇから猛アタックしてるってわけ。あまりにも断るからこっちもムキになってここまで乗り込んできたんだよ。建物の中に入っちまえばこっちのもんだと思ったけど、あんなに可愛らしい女の子がいるのは誤算だったねぇ」

「イレ姉とは真逆も真逆でしたね。可愛かったなぁ」

「ハッハッハ! ありゃあ女の私でも食っちまいたくなったね。いい彼女さんじゃないか、ニコ」

「あっ、いや、透華は彼女というわけでは」

「なんだ? 結婚してんのかい?」

「友人です! 友人!」

「ほーん。好意は? あんのか? ねぇのか?」

「い、いやぁ、ちょっと勘弁してください」

「おいニコ。なんで俺がこんな目に遭ってんのに恋バナしてんだ」

「あ、すまん。話してみると悪い人ではないなと思って」

 

 物ははっきり言うし口も悪いが、嫌な印象は抱かない。豪快な人だな、と思うくらいだ。イオスさんがナンパ男を「命知らず」と言った時は睨んで、可憐な透華をイレイナさんと真逆と言った時は笑った。恐らく、睨んだのはじゃれ合いみたいなものだろう。仲が良ければ不躾なことも大抵は許してしまうような人だと感じた。あとちょっとどころか大分肉食。

 しかも、強引すぎるのは少しいただけないが、帝斗に相手ができるのなら俺としては万々歳だ。寂しくはなるが、帝斗ほどのいい男が一生独身など世界の法則が乱れてしまう。それが俺のせいともなれば、帝斗の両親に殺されても文句は言えない。

 

 イレイナさんは美人で強くて、豪快でいい人だ。帝斗の相手としても申し分ないだろう。あえて帝斗に足りない点を挙げるとすれば戦力だからな。互いを補い合えるいい関係になる。

 

「帝斗、お前の気持ちはどうなんだ?」

「どうって、正直初対面だから考えられねぇよ。イレイナさんのこと何も知らねぇし」

「互いのことなんて体重ねりゃ一発だろ?」

「男としてはイレイナさんみたいな美人からのお誘いはありがたいですけど、ちょっとアグレッシブすぎるっていうか……」

「ふぅん、そういうもんか。じゃあお友だちからってやつか?」

「できれば」

「よし、わかった。そのうち食ってやるから覚悟しとけよ」

「イレ姉。それ惚れた相手に言うセリフじゃないですよ」

 

 イレイナさんはあっさりと帝斗を解放し、「行くよ」とイオスさんにカッコよく言って立ち上がった。そのまま事務所を出て行こうとした背中に、一言。

 

「イレイナさん。相手が優しい帝斗だからよかったですが、普通にセクハラですよ」

「ん……あぁー、そうだな。ごめん。今度なんか詫びするわ」

「それなら、帝斗を食事にでも誘ってあげてください。ちゃんとした誘いなら、帝斗も受けてくれます」

「お、ニコもいい男じゃないか。イオスも見習いな」

「根っこがよくねぇと無理ですよ」

「じゃああんたもいけんだろ」

「イレ姉……!!」

 

 やっぱり悪い人ではなさそうだ。イレイナさんはウインクを残して、イオスさんは俺たちに向き直って深々と頭を下げてから事務所を出て行った。

 ……この事務所、度々嵐がくるような気がするが、気のせいだろうか。

 

 イレイナさんから解放されて体の力が抜けたのか、珍しく帝斗がだらしくなくソファに体を沈める。……お、怒ってないよな? 俺が勝手に食事にでも誘ってあげてくださいって言っちゃったから怒ってるのか? ど、どうしよう。旅行から帰ってきたその日に大切な友人を一人失うかもしれない。謝罪か? やはり謝罪が必要か? 任せろ、謝罪は慣れている。

 ……が、怒っているかどうか不確定なのに謝られても気分がよくないか。

 

「帝斗、あぁは言ったが、本当に嫌なら断れよ。俺の同僚だとかは気にする必要はない」

「ん? いや、グイグイきて困ってたのは事実だけど、美人でいい人そうだしな。仲良くするのは嫌ってわけじゃねぇよ。ただ……」

「ただ?」

「あぁいう人の可愛いところ見ちまったら、どっぷり沼にはまりそうで怖いんだよな」

「あぁ、確かにな。あのような男勝りと言うべきか、豪快と言うべきか。アグレッシブな人は普段リードする側だろう。というより、そのつもりがなくてもそうなってしまうと言った方が正しいか。女の子扱いをされて照れる、といったようなテンプレートな感じではなさそうでもある。言われたことは文字通り素直に受け止めて、豪快に咀嚼しそうだからな。だからこそふと見せる可愛らしい一面を見てしまえば、帝斗の言う通り沼にはまりそうだな。しかし、その一面は既に片鱗があったと思うぞ? 冗談っぽく”王子様”と言っていたが、あれは本当にそう思っていたんじゃないかと思ってな」

「佐藤さんキモい!!」

 

 満がわざわざ部屋を移動してまで俺がキモいことを伝えにきた。相当キモかったらしい。ちなみに、帝斗は俺の前にいなかった。透華と俺の荷物を整理していたようだ。

 

 悲しい。でもありがたい。

 

 

 

 

 

ニッコリ探偵団 視聴者支部 part16

 

923:このライバーがすごい! ID:FRnO8sXHq

アザミんが旅行のこと話足りないからって雑談するぞ!

 

924:このライバーがすごい! ID:bZdZagZYx

途中で優姫ちゃんも参戦する予定とのこと

 

925:このライバーがすごい! ID:9KhqlCi8v

ニコは?

 

926:このライバーがすごい! ID:zrdmeIHYn

まだ何も反応ないな

 

927:このライバーがすごい! ID:8Z+7/20LG

SNSを頻繁に更新するタイプでもないしな

 

928:このライバーがすごい! ID:xRn47jByy

いつもの友人と一緒にいるんじゃね?

 

929:このライバーがすごい! ID:VkQE61eZ2

旅行から帰ってきたのをそのまま迎えるって、もう家族じゃん

 

930:このライバーがすごい! ID:98kwVgrR/

ニコの日常のこと聞きたいから、デビューしてくれないかな……

 

931:このライバーがすごい! ID:CaOsf6awn

スタッフになって、時々表に顔出してくれるみたいな感じでも

 

932:このライバーがすごい! ID:rRHLexYo1

なんならニコの配信に出てきてくれても

 

933:このライバーがすごい! ID:HxRBzYSju

そのあたりめちゃくちゃ配慮する人たちだってニコが言ってたから、多分ない

 

934:このライバーがすごい! ID:qzXAy1cOX

俺たちはニコが友人の話をしてニコニコしていればそれでいい

 

935:このライバーがすごい! ID:y9XDTY3Nx

ニコを笑顔にしてくれてありがとう

 

936:このライバーがすごい! ID:XlfgRIb3X

しかし、楽園都市まであと二か月か

 

937:このライバーがすごい! ID:Y60q2bj4z

楽しみ

 

938:このライバーがすごい! ID:A8oZ1F2hQ

動くニッコリ探偵団に会える

 

939:このライバーがすごい! ID:cforv4kuO

飛ぶ満ちゃんを見れる

 

940:このライバーがすごい! ID:bBbICiGG/

俺、いつもニコに暴言吐いてるのに応援しちまうよ

 

941:このライバーがすごい! ID:oSOvdW3zD

>>940

いつも応援しろ

 

942:このライバーがすごい! ID:TOqzvz9Bv

『project:talk』あるかな

 

943:このライバーがすごい! ID:VhuneIA18

>>942

アザミんは視聴者とお喋りしたくなさそうだからないとして、

ニコと優姫ちゃんはありそう

 

944:このライバーがすごい! ID:uU+oj5+Io

ニコと一対一で喋るってなったら何喋ったらいいかわかんねぇよ

 

945:このライバーがすごい! ID:/B5dS5NeV

優姫ちゃんとは喋れるってか?

 

946:このライバーがすごい! ID:il+P399fh

かわいいとかキショキショワードは飛び出る

ニコはいつものノリで攻撃しちゃいそうだけど、

対面でそれはマナー違反すぎるから飲み込んで、結局喋れなさそう

 

947:このライバーがすごい! ID:0iEKOt1Ug

コミュ障×コミュ障だからな……

 

948:このライバーがすごい! ID:T+eSWHgdh

満ちゃんがいるからなんとかなる

 

949:このライバーがすごい! ID:1Y5R/1+5V

俺は満ちゃんにブヒるゴミがいないか心配だよ……

 

950:このライバーがすごい! ID:9X2v4HZaJ

流石にリアイベでそんなゴミこないだろ

 

951:このライバーがすごい! ID:SkYgOO7+S

しかもイベリス様がいるしな

 

952:このライバーがすごい! ID:IBC0IzNxE

秒、いや、瞬で駆逐される

 

953:このライバーがすごい! ID:MrvlZ3OHB

本音をいうと、満ちゃんには安全圏にいてほしい

 

954:このライバーがすごい! ID:z7tVQEW/w

悪意に晒したくないからな

 

955:このライバーがすごい! ID:tsXvVrQJi

もしあるとしたら抽選当てないと

 

956:このライバーがすごい! ID:1RCzfTxph

でもこの時点で発表ないってことは、もうないんじゃ……

 

957:このライバーがすごい! ID:v1RrDs+YM

って言ってたらきたぞ!!!

 

958:このライバーがすごい! ID:sEotLSVmF

おい、アザミんもいるぞ???

 

959:このライバーがすごい! ID:/i2g8L/ld

やだよ俺、アザミんにけちょんけちょんにされたく……されたい!!

 

960:このライバーがすごい! ID:8cQFP99GM

されるために行くんだろうが

 

961:このライバーがすごい! ID:bobGH6Bzj

楽しみだなぁ、アザミんに罵倒されるの

 

962:このライバーがすごい! ID:gdOJAHBak

悪意が発見されたな……

 

963:このライバーがすごい! ID:N2VGLgtml

イベリス様に駆逐してもらおう

 

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